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(第4回)イギリスでアフリカ社会と法を学ぶ
「インフォーマル」の強み?ザンビアのパラリーガル制度化の帰結

2024年12月05日(木)

現在、ロンドン大学東洋アフリカ研究学院に在籍している原口 侑子弁護士によるニュースレターシリーズの第4回を発行いたしました。今後も引き続き連載の予定となります。
こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。

(第4回)イギリスでアフリカ社会と法を学ぶ 「インフォーマル」の強み?ザンビアのパラリーガル制度化の帰結

 

(第4回)イギリスでアフリカ社会と法を学ぶ
「インフォーマル」の強み?ザンビアのパラリーガル制度化の帰結

2024年 12月
One Asia Lawyers Group
原口 侑子(日本法)

(第3回)では、ザンビアで司法アクセス促進の担い手になっているパラリーガルを紹介した。もう一歩進めて、パラリーガルは「インフォーマル・ワーク」の一種であるという法人類学の議論に絡めて紹介したい。
「インフォーマル」という言葉を和訳すると「非公式」。ネガティブに聞こえるが、「インフォーマルな仕事」はアフリカ各地では必ずしもネガティブな意味を持つわけではない。「インフォーマル経済」は経済の中心という文脈がある。中には、「サハラ以南のアフリカ人の多くは、日々の糧、幸福、人間関係のために、『12の職業を持つスキル』に依存している。[1]」などという論文もある。

ザンビアその他コモンウェルス(英連邦)アフリカの国々では、パラリーガルの持つ「インフォーマルで創造的な村の仕事」という側面に着目しようとする動きがある。日本でいう「非正規雇用」のとらえ方とはだいぶ異なっている。

パラリーガルの仕事

パラリーガルの仕事は法的支援だ。アフリカ各国に共通しているのは弁護士不足だが、「正規に認定された法律専門家」はここザンビアでも不足している。日本では法テラスや司法制度改革で「お上から」取り組んできた課題だが、ザンビアではこの司法過疎の課題に、2000年以前から市民社会としてパラリーガルたちが取り組んできた。ザンビアのパラリーガル機関は20年以上、法律扶助サービスを提供する東・南部アフリカ各地のNGOで構成されるパラリーガル・アライアンス・ネットワークに参加していて草の根活動をつづけてきた。
こうした民間主導のパラリーガルの取り組みが国家資格制度として法制化されたのは2018年のことだ。法律扶助委員会が中心となり、国際機関やドイツの開発援助機関などが援助して制度化が進んだ。
パラリーガルの仕事は今、専門的な訓練の程度に応じて3つのカテゴリーに分類され、その役割は幅広い。前稿で紹介したように、「地域社会における法教育から、個別案件における法的情報提供、助言、調停に至るまで」の「法律扶助サービス」と規定されている[2]

インフォーマルであることと創造的であること – 地域主導

パラリーガルの仕事がいわゆる「賃金労働」ではなく、草の根のプロジェクトとして始まったことを考えると、国家が承認した仕事になった今でもその定義が曖昧であるのもうなずける。
インフォーマルな仕事にはローカル地域の知恵やネットワークを生かした「創造性」がともなうことが多い。アフリカのコワーキングスペースについて書いた論文では、「独立した仕事に関連する非正規性、不確実性、リスクに対処し、それを克服する可能性のある集団の自助と自己組織化の実践として」[3]コワーキングが出現してきたともいわれている。

「もちろん正規化されるとありがたいけど」、コミュニティで働くパラリーガルの一人は言った。「非正規でも続けるよ。単なる資格だし薄給だけど、就職活動には有利だからね」
彼は、「資格ができた後も仕事は以前と同じで、被害者に付き添って警察や裁判所に行ったり、書類作成を手伝ったり、弁護士を支援したりしている」という。彼らは自分たちの職務が「お上」から与えられたものでなく「地域社会に近い」ものであることを誇りに思っているようにも見えた。
パラリーガルとして国家資格を取得したからといって、法律事務所やNGO、司法部門や自治体での賃金労働が保証されるわけではない。しかし、彼らの中でもコミュニティに最も近いところにいるレベル3のパラリーガルは、村や「Chiefdom」(首長によって統治されている地域)で、首長とその地域の判事の仲介役として、より活発に活動している。

パラリーガルたちがコミュニティで活躍しているのはなぜだろう。ひとつには、国家が中央集権的でないことから、「市民社会が国家に取って代わる」または「国家の役割を弱体化させる」という現象が起こっている可能性が挙げられる[4]。イギリスでは司法部門が法律業務を民間にアウトソースしているのと対照的である[5]
もうひとつの理由は、ザンビアに国家制度と首長(チーフ)制という二重の政治・司法制度があるためだ。ザンビアでは首長制が憲法上も規定されていて、村社会の小さな紛争は、裁判によらずに首長によって調停される。こうしたフォーマルな司法制度(裁判)とインフォーマルな司法制度(首長)の組み合わせが、法律専門家と彼らを支援する人々との付き合い方にも影響を与えている。

パラリーガルの制度化の結果

「でも、副次的な効果として、国の研修制度による研修を受けなかったかつての同僚がパラリーガルを名乗れなくなっている」、また別のパラリーガルが話してくれた。
インフォーマルな制度が「統制の実践[6]」に吸収され、システムとして機能し始める第一歩は、「国家資格」を形式化することでより厳しい統制がかかり始めることだ。日本の資格を見るとよく分かる。
パラリーガルが国家資格になったことの帰結はそれだけではない。パラリーガルたちの活動や数、その「影響」が公になって可視化され始めた。一般論として「インフォーマルな仕事」[7]は、「正式に登録されていない」貢献や、「正式な機関との関係が希薄/弱い」[8]ため、過小評価されていると言われることがあるが、今では少なくとも正式に、法律扶助局の統計上で認められている。
草の根から「お上」へ働く逆方向の影響もある。パラリーガルの仕事は「国家権力」に影響を与えていて、法務省の公務員は現在、アフリカ全土に出張に行ってパラリーガル認定制度について講演を行うようになった。
パラリーガルの仕事は今や「偉く」なったのだ。

「インフォーマルな仕事」は多様である。国家によってインフォーマルな立場に置かれることもあれば、国家が機能していないためにインフォーマルな立場から仕事が始まることもある。ザンビアのパラリーガルは後者のケースだったが、今やどこまでパラリーガルを「インフォーマル」ととらえるのが良いかは判断が難しい。
少し北上して東アフリカに目を向けるとウガンダでは司法部門から「弁護士だって就職難なんだからパラリーガルに仕事はないわよ」なんていう話も聞いた。パラリーガル協会は国のバックアップがないから資金不足で活動が制限されているらしい。こちらの国ではまだパラリーガルの「インフォーマル」性は継続しそうだ。

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[1] Ferguson 2015; Simon 2021, cited in Cassimen et al, 2022
[2] ザンビア法律扶助委員会資料RATIONAL (2.0)
[3] Merkel, Janet. 2019. ‘Freelance Isn’t Free’: Coworking as a Critical Urban Practice to Cope with Informality in Creative Labour Markets. Urban Studies 56 (3).
[4] Nega, Berhanu and Schneider, Geoffrey. 2014. NGOs, the State, and Development in Africa, Review of Social Economy, 72:4, 485-503.
[5] Forbess, Alice and James, Deborah. 2018. Chapter 4, Acts of Assistance: Navigating the Interstices of the British State with the Help of Non-profit Legal Advisers. Stategraphy: Toward a Relational Anthropology of the State. Berghahn Books.
[6] Dubois, Vincent. 2018. Chapter 2, The State, Legal Rigor, and the Poor: The Daily Practice of Welfare Control. Stategraphy: Toward a Relational Anthropology of the State. Berghahn Books.
[7] Hart, Keith. 1973. Informal Income Opportunities and Urban Employment in Ghana. The Journal of Modern African Studies 11 (1).
[8] Cassiman et al, 2022. Precarity in Africa. RAI, August 2022, vol 38 (4)