(第10回)イギリスでアフリカ社会と法を学ぶ
アフリカの若者と法人類学(1)
現在、ロンドン大学東洋アフリカ研究学院に在籍している原口 侑子弁護士によるニュースレターシリーズの第10回を発行いたしました。今後も引き続き連載の予定となります。
こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。
→(第10回)イギリスでアフリカ社会と法を学ぶ アフリカの若者と法人類学(1)
(第10回)イギリスでアフリカ社会と法を学ぶ
アフリカの若者と法人類学(1)
2025年 7月
One Asia Lawyers Group
原口 侑子(日本法)
ロンドンで東・南部アフリカの法人類学の研究をしている。アフリカ大陸の国々の法と社会を(54か国を十把一絡げにはできない中で)考えるにあたって2つの視点が欠かせないことを以前書いた。法と社会開発が密接に絡み合っていることと、国家法と併存する慣習法の存在である。今回はそこにさらに「世代」という軸が絡み合っていることについて書きたい。
アフリカは若い大陸である。サハラ以南アフリカ地域は人口の70%が30歳に満たないと言われる(https://www.un.org/ohrlls/news/young-people%E2%80%99s-potential-key-africa%E2%80%99s-sustainable-development)。
国連では、若者の平和と安全保障に関する枠組み(YPS:Youth, Peace and Security)というアジェンダが2015年に設けられ、5本の柱―参加、保護、予防、パートナーシップ、引き離しと再統合―がうたわれている。それに基づいて2020年、アフリカ連合(AU) は、アフリカ大陸 YPS枠組(Continental Framework for YPS)や、アフリカ大陸YPS枠組10カ年実施計画(10-Year Implementation Plan for the Continental Framework on YPS 2020-2029)を策定している。
「世代間正義」という概念が社会課題になって久しい。既得権益から除外されているという問題意識は日本と似通っているものの、シルバーデモクラシー対策とは違う形で若い世代が声を上げたり、ときに「脆弱層」として直接の開発支援対象になったりしているのがアフリカ各地で見られる特徴である。「若者省」といった省庁が設けられている国も多い。同時に、国によっては政界や財界に若い指導者がいたり、Gen Zの主導するデモが行われていたりと、若者が重要な役割を果たしているところもある。
今回は、慣習法といういかにも年功序列で長老の力が強そうな政治分野(ゲロントクラシー:gerontocracy)の中で、どのように若者が声を上げ、「参加」に関わっているかということについて話す。ここで留意するべきなのが、「若者」という用語は、よく連想される「やんちゃな男性若年層」だけでなく、より声がかき消されがちな「若年女性層」も指しているということである。
家族を重要な社会単位と考えるアフリカ社会において、慣習にもとづく婚姻のあり方を変容させているのが若者たちだという話を前回までエチオピアの首都アディスアベバを題材として書いてきた。これは、結婚適齢期が社会的に若く設定されている―結婚や家族の形成は生殖と結びついて考えられていることが今も多い―という理由にもよる。
エチオピアでの慣習法は民族のルールに根差すため、異なる民族間での結婚が増えてきている現代の都市部では、慣習に基づく婚姻がメジャーではなくなってきていること、民族ルールよりももっと多くの若者が共有しているルールとしての宗教―主にエチオピア正教―に基づく婚姻は今もメジャーな選択肢であり続けていること、その決断の担い手は20代からアラサーの若年女性であること。しかし昨今の民族紛争を経て、同じ民族同士の婚姻に安心感を抱く若者も増え、今後、民族ルールに基づく慣習婚がふたたび増える可能性があるということ。こういった傾向を参与観察やインタビューといった人類学の手法で見出したことについて書いた。法と人類学を架橋するのは、こうしたインタビュー対象者の法規範に対する意識であるということも。家族の在り方は古今東西、こうした「法意識」に下支えされている。
隣の国ケニアに目を向けると、ケニアでも慣習婚の継続いかんを担うのは若者である。ただし、ケニアの最大民族のひとつであるキクユ族では、世代を越えてルールが引き継がれるように―下の世代を縛るように―設定されている仕組みがある。そのひとつとして婚資の世代ルールを紹介する。

