タイ:汚職防止法の改正と企業に求められる対応
タイにおける汚職防止法の改正と企業に求められる対応についてニュースレターを発行いたしました。
こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。
汚職防止法の改正と企業に求められる対応
2025年8月19日
One Asia Lawyersタイ事務所
藤原 正樹(弁護士・日本法)
布井 千博(弁護士・日本法)
千葉 広康(弁護士・日本法)
マーシュ 美穂
はじめに
2025年6月5日、汚職防止法の改正が公布され、施行されました。この改正は、汚職を告発した者の保護を大幅に強化するもので、タイで事業を展開するすべての企業にとって重要な意味を持ちます。
以下、この法改正の主要なポイントと、企業に求められる対応策について概説します。
1.法改正の背景
タイでは、汚職は依然として深刻な社会問題であり、その根絶は国家の最優先課題です。しかし、汚職を告発しようとしても、解雇や配置転換などの不利な取扱いを受けたり名誉毀損で訴えられるなど、報復を恐れて躊躇するケースが数多く存在しています。今回の改正は、汚職の告発を促進して汚職根絶につなげるため、告発者に対する法的保護を強化することを目的としています。
2.改正の主なポイント
この改正の最も重要な点は、汚職防止法第132条が追加され、善意の内部告発者に対する包括的な保護が明確に規定されたことです。
(1) 内部告発者の免責(刑事、民事、懲戒処分)
国家汚職防止委員会(NACC)の決定に基づき、善意で(すなわち、個人的な敵意や悪意なく、公共の利益のために)NACCや管轄当局に情報を提供した個人は、そのような告発から生じる刑事、民事、または懲戒上の責任から明示的に免除されます。刑事、民事上の責任の免除は公務員と民間人の双方に適用されますが、懲戒上の責任の免除は公務員にのみ適用されます。
(2) 報復訴訟の防止
告発者に対して訴訟などの法的措置が取られた場合、NACCは関連当局に対し、当該告発者が無罪である旨の意見を表明することができます。この意見表明は、警察・検察官・裁判所が捜査/裁判などを行う際に考慮されなければなりません。これにより、告発者が不当な訴訟の対象となるリスクが大幅に軽減されます。
(3) NACCの保護措置の強化
NACCは、告発者の保護のため、以下の広範な措置を講じることができます
- 警察・検察・裁判所その他の関連機関に対し、告発者の保護を要請すること
- 告発者が訴訟に巻き込まれた場合、弁護士の選任や訴訟費用の負担を含む法的支援を提供すること
- 告発者である公務員が被った不利益(解雇など)を是正するよう、組織に命じること
3.企業への影響と推奨措置
この改正により、従業員やビジネスパートナーは、企業による不正行為(例:企業による賄賂[1])をNACCなどの外部当局に直接報告するための安全な環境が整いました。これにより、企業内の潜在的なリスクが開示され、捜査される可能性が高まります。
ただし、汚職防止法は企業内部の不正には適用されず、企業に同じレベルの告発者保護を法的義務として課していません。そのため、企業は以下の措置を講じることを強く推奨します。
(1) 内部告発システムの再検討と強化
従業員が外部当局に通報する前に、内部の相談窓口に相談できるシステムを整備することが不可欠です。内部通報システムが信頼されていない場合、従業員は直接NACCに報告する可能性が高まります。このため、各企業には以下の措置を講じることが推奨されます。
- 通報チャネルの独立性と機密性の確保
- 内部規程において、通報者に対する不利益な取り扱いを一切認めないことを明確に定め、これらの規則を厳格に遵守すること
- 調査プロセスの公平性と透明性の確保
(2) コンプライアンス体制の見直し
内部のポリシーや行動規範が、贈収賄・汚職防止に関する最新の法的要請に完全に準拠しているかどうかを確認する必要があります。
(3) 従業員の意識向上と教育
この法的改正の内容と貴社のコンプライアンスへのコミットメントについて、適切なトレーニングを通じて全従業員に教育することを推奨します。
4.結論
この改正は、タイのコンプライアンス環境における重大な変更です。単なるリスクとして捉えるのではなく、この機会を捉えてガバナンスと透明性を強化し、積極的な対応を取ることを推奨します。
この改正に関するご質問や、内部通報システムの構築・見直しに関するご相談がございましたら、お気軽に当事務所までご連絡ください。
以上
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[1] 汚職防止法に基づき、国内外の公務員に対し、職務の不正な履行、遅延、または怠慢を誘引する意図で賄賂を贈与、提供、または約束した者は、5年以下の懲役、100,000バーツ以下の罰金、またはその両方に処せられます。また、贈賄者が法人の関係者で法人のために贈賄を行った場合、法人も贈賄罪に問われ、損害額または利益額の2倍までの罰金に処せられます(同法176条)。
〈注記〉
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