ラオスにおける民事訴訟法の改正について(Part2)
ラオスにおける民事訴訟法の改正について(Part2)のニューズレターを発行しました。
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→民事訴訟法改正(Part2)
ラオスにおける民事訴訟法の改正について(Part2)
2025 年11月3日
One Asia Lawyers Groupラオス事務所
1.背景
2025年1月30日より「民事訴訟法(No.67)」の改正法が施行されています。前回(Part1)では、裁判制度および事件における証拠に関する改正点を中心に紹介しました。
今回は、召喚状および訴状に関する改正点を中心に解説いたします。
2. 訴訟手続きについて
(1)召喚状について
ラオスでは、正当な理由なく3回続けて召喚状に従って裁判所に出頭しない場合、裁判所は原告が出頭しない場合は訴えを却下するか、または被告が欠席のまま裁判を進めることができます(民事訴訟法第158条)。実務上は、被告があえて2回まで召喚に応じないケースが多く見られます。
召喚状の送付方法については、郵便事情が不安定なため(各戸配達制度がないため)、当事者に直接送付できないことが少なくありません。そのため、当事者が最後に居住していた村の村長を通じて手渡す方法が、最も一般的に利用されています。今回の改正により、この方法が具体的に条文で明確に規定されました(民事訴訟法第153条)。
民事訴訟法第153条 郵便、運送又は電信による送付
訴訟手続に参加する者が遠隔地にいる場合,裁判所は書類を郵便、運送又は電信によって送付することができる。
召喚状を地方のへき地に居住している被召喚者に送付する場合は、村長を通じて、手渡さなくてはならない。被召喚者が受取った後に、被召喚者の署名又は拇印を取得する。もし、被召喚者が署名等を拒否し召喚状を受け取らなかった場合は、村長がその旨を記録にとり、召喚状を裁判所へ返送すること。
当該書類を被召喚者が受け取った日をその者が召喚状受領日とみなす。
※下線部分が新しく規定されました。
(2)裁判所への預入金
改正前は、召喚状や各種書類の送付費用、事件記録ファイルの購入費用などの実費として、預入金の上限額を200,000キープ(約1,400円)と定めていました。
しかし、改正後はこの上限規定が削除されました。さらに、民事訴訟法第153条に関連し、村長が召喚状を裁判所へ返送する際の送金費用が、新たに預入金の使用対象として追加されています(民事訴訟法第161条)。
3.第一審における裁判手続き
(1)訴状について
ラオスでは、請求の趣旨が不明確であったり、法的根拠に基づかない請求が多く見られます。今回の改正により、訴状に記載すべき項目として「請求内容に加え、その基礎となる事実および法的根拠となる条文」を明記することが新たに義務づけられました(民事訴訟法第172条)。
(2)訴状の提出方法と受理について
訴状の提出方法として、次の3つが新たに規定されました(民事訴訟法第173条)。
① 原告本人による直接提出
② 書留郵便による提出
③ 裁判所が定める電子媒体による提出
もっとも、②および③についてはラオスの現状では制度が十分に整っておらず、現実的には本人または代理人が直接提出する方法が最も確実と考えられます。
本人が提出できない場合には、委任状を作成して代理人が提出することが可能です。
また、上記3つの方法で訴状を提出した後、裁判所が受理印を押すまでの手続きについても、新たに第174条で規定されました。
(3)訴訟手続きの一時停止について
訴訟手続きを一時的に停止できる要件が新たに規定されました。以下の事由が生じた場合には手続きが一時停止され、原因が解消されれば再開されます(民事訴訟法第197条)。
① 他の民事事件と関連があり、その判決が当該事件の審理や判決に影響を及ぼす場合
② 原告または被告が死亡し、訴訟手続きの承継人がいない場合
③ 原告または被告が法的責任能力を失い、後見人がまだ選任されていない場合
④ 組織または会社が合併・解散し、その代表者や承継者が特定されていない場合
(4)証拠書類の認証について
民事訴訟法第204条において、証拠書類の当事者の承認に関する規定が新たに設けられました。ポイントは以下のとおりです。
① 原告・被告が提出した証拠、または裁判所が収集した証拠は、各当事者が承認または拒否を確認しなければならない。
② 承認された証拠は、法的に信頼できるものとみなされる。
③ 拒否する場合は理由を説明し、必要に応じて証拠を提出した側が他の証拠で補強する。
④ 当事者間で証拠の承認・許否について意見が一致しない場合は、専門家や鑑定人を選任して解決を図る。
⑤ 専門家や鑑定人の結果は、法的証拠として扱われる。
さらに、第206条は、裁判所による証拠採用に関する規定であり、裁判官が証拠として採用する予定のリストを作成し、当事者にてこれを承認させ、その後に審理・判決に用いることが新たに規定されました。
以 上
yuto.yabumoto@oneasia.legal(藪本 雄登)
satomi.uchino@oneasia.legal (内野 里美)

