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タイ:外国人事業法改正に向けた近時の動向

2025年11月07日(金)

タイにおける外国人事業法改正に向けた近時の動向に関するニュースレターを発行いたしました。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。

外国人事業法改正に向けた近時の動向

 

外国人事業法改正に向けた近時の動向

2025年11月7日
One Asia Lawyersタイ事務所
藤原 正樹(弁護士・日本法)
布井 千博(弁護士・日本法)
マーシュ 美穂

2025年4月23日、内閣は法律改正委員会(国家法制委員会事務局)による「1999年外国人事業法」(以下「FBA」)の改正提案を原則承認しました。これは、FBAが施行後25年以上を経ていて、タイのビジネス・投資環境に適していないとの認識に基づくものです。提案された改正は、民間セクターに適用される規制障壁の緩和、外資規制の保護主義的枠組みから国家競争力強化を重視する政策転換、そしてスタートアップ企業や新興産業の成長支援を目的としており、これによりタイ企業の事業能力や国際的な競争力が一層強化されることが期待されています。所管省庁である商務省はFBA改正を推進するため、現在関係機関からの意見聴取を行っています。

1. FBAの概要

FBAは、外国人による事業活動を規制する初の法令である革命評議会告示第281号(1972年)に代わるものとして、1999年に制定されました。その主な目的は、外国人がタイ国内で事業を行う範囲と条件を規制し、国内産業保護と外国投資促進の均衡を図ることでした。本法は商務省傘下の事業開発局(DBD)によって施行されています。
FBAにおいて、国家利益上重要とされる特定事業は、同法付属リストに定める3つのカテゴリーに分類されます。これらの事業への外国資本の参入は、そのカテゴリーに応じて、厳格に禁止されるか、商務省または事業開発局長による事前承認(FBL)が必要となります。

カテゴリー 対象事業 具体例 規制内容
リスト1 特別な国益上の理由により外国人に厳格に禁止されている事業
  • 報道、ラジオ、テレビ放送
  • タイ領海または排他的経済水域(EEZ)における漁業
  • 米・農作物・畜産農業
  • 土地取引
外国人の参加が禁止されている
リスト2 国家安全保障、文化遺産、手工芸品、天然資源、環境に関連する事業
  • 銃器または弾薬の製造、販売、および保守
  • タイの工芸品である骨董品の取引
  • 国内輸送
  • 鉱業
商務省の事前承認が必要
リスト3 タイ人起業家が外国人と競争する準備が整っていない事業
  • 食品・飲料の販売
  • 小売・卸売業
  • 仲介・代理店業務
  • ホテル、法律、会計、エンジニアリングサービス
  • その他サービス
事業開発局長による事前承認が必要


FBAの付属リストに含まれない事業(一般的な製造業や輸出入業など)については事前の承認は不要とされています。もっとも、サービス提供を伴う事業は全てリスト3の「その他サービス」に該当すると解されており、受託製造をはじめ付属リストにて明記されていない多くの事業についても「その他サービス」に該当する可能性があるため、留意しておくことが重要です。

2. 事業環境の変化と改正の理由

2.1     現在の課題

法律改正委員会によれば、FBA制定以降、タイの貿易・投資・技術環境は大きく変化したため、過去の規制を受け継いだFBAの保護主義的枠組みは現代の経済実態と整合しておらず、こうした保護主義的な条件がタイ企業の能力強化と競争力向上を妨げていると指摘されています。加えて、現行のFBAは「未来のビジネス」をタイに誘致するうえで障壁となっており、他国で成長を遂げているスタートアップなどの特定分野は、タイにおいて依然として十分に発展していません。

2.2     関連政府機関からの改正提案

FBA改正に向けた提案に対して、様々な政府機関が意見や提言を提出しています。その主な提案の内容は以下の通りです。

政府機関 主な提案・意見
法律改正委員会
(主提案者)
  • 外国人の定義を改定する。
    ※現行のFBAでは外国資本が49%を超える企業は外国人(外国企業)とみなされていますが、改正後の基準はまだ確立されていません。
  • スタートアップ企業の拡大を支援するため、FBAの付属リストを見直す。
  • デジタル経済、先端技術産業、国内研究開発を含む新たな経済セクターの発展を促進し、経済成長と国家競争力の向上を図る。
タイ国家経済社会開発評議会(NESDC)
  • 国家重点政策と整合する分野を中心に技術移転を促進するため、専門的知識または高度な技術を要する事業を付属リストから除外する。
  • FBAに規定されている外国人事業委員会のメンバーに、公正取引委員会(Trade Competition Commission)の代表者を加える。
  • 外国企業の参入支援および規制緩和に重点を置き、ライセンス手続きの効率化、手数料の電子決済の導入、政府のワンストップサービスプラットフォームとのシステム連携、事業者による書類進捗状況の直接確認を可能とする措置を推進する。
財務省
  • 法律改正委員会及びNESDCの提案に対し異議なし。
  • 改正にあたっては、事業区分、適切な投資比率、各事業分野の発展段階、関連規制を考慮すべきである。
  • 特定の事業分野における外資参入に関する法令や基準との整合性を確保することが求められる。

3. 企業への影響

上記の提案が採用された場合、特にスタートアップ企業やハイテク企業、さらには明確で支援的な規制枠組みを求める外国企業にとって、タイでの事業展開に大きなメリットが生まれると期待されます。

また、付属リストの見直しや外国資本規制の緩和および外国企業の定義変更を通じて、革新的かつ成長性の高い分野への外国投資がより進む見込みです。これにより、先端分野でのさらなる外国資本の流入が期待されるほか、技術移転の促進や新技術導入も加速すると考えられます。その結果、スタートアップやハイテク企業の成長が促され、タイの地域的・世界的な競争力強化につながるでしょう。
加えて、一般事業者にとっても、ライセンス取得や手数料の支払い、書類の進捗確認など、各種行政手続の大幅な改善が期待されています。これにより、コンプライアンス負担が軽減され、事業運営の利便性向上が予想されます。
これらの改革により、経済成長の促進、タイ企業の国際競争力の強化、および国民の生活の質の向上に寄与することが期待されます。

4. 結論

これらの提案内容は、タイ政府が推進する外資規制の近代化という取り組みを反映するものです。保護主義的な外資規制の緩和、FBA付属リストの見直し、スタートアップ企業やハイテク企業の成長促進、行政手続きの改善を通じて、国家競争力の強化、外国投資の誘致、ビジネス環境全体の強化が期待されています。本提案は現在も商務省による審議段階にあり、事業者は法令遵守および予想される制度変更への対応を進めるため、今後の動向を注視することが推奨されます。

外国投資またはFBAに関してご質問や詳細な説明をご希望の場合は、One Asia Lawyersタイ事務所までお気軽にお問い合わせください。

以上

〈注記〉
本資料に関し、以下の点につきご了解ください。

  • 本資料は2025年11月7日時点の情報に基づき作成しています。
  • 今後の政府発表や解釈の明確化にともない、本資料は変更となる可能性がございます。
  • 本資料の使用によって生じたいかなる損害についても当社は責任を負いません。


One Asia Lawyersタイ事務所においては、常駐日本人専門家4名を含む合計20名の体制で対応を行っております。コーポレート、労務、倒産、訴訟等、現地に根付いたサービスを提供しております。
各種フォーマットの提供や各種動画配信(例:「タイにおける解雇のポイント(日本語、英語)」、「タイにおける個人情報保護法のポイント(英語、タイ語、日本語)」、「タイにおける駐在員が知っておくべきコンプライアンスのポイント(日本語)」)を行っております。