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ベトナム2025年改正企業法の細則整備と実務対応のポイント

2026年02月13日(金)

ベトナム2025年改正企業法の細則整備と実務対応のポイントについてのニュースレターを発行いたしました。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。

ベトナム2025年改正企業法の細則整備と実務対応のポイント

<ベトナム2025年改正企業法の細則整備と実務対応のポイント>

2026年2月12日
One Asia Lawyers ベトナム事務所

I.  はじめに

 2025年7月1日に施行された「企業法の一部改正・補充に関する法律(Law No.76/2026/QH15)」は、実質的支配者(Beneficial Owner:BO)制度の導入をはじめ、企業管理および情報開示の枠組みに重要な変更をもたらしています[1]。これを受けて、ベトナム政府は以下のような企業法の細則を整備しました。

1. Decree No.168/2025/ND-CP(以下「Decree 168」といいます。)
2Circular No.68/2025/TT-BTC(以下「Circular 68」といいます。)
3Decision No.36/2025/QD-TTg(以下「Decision 36」といいます。)

 本稿では、これらを「改正企業法の実施細則」として整理し、特に日系企業にとって確認しておくべきポイントを概説します。

II.  Decree 168およびCircular 68 ― 手続制度の再設計

1.企業登録・変更手続の合理化

 Decree 168およびCircular 68は、改正企業法の下で企業登録・変更届出手続の運用が具体化されました。主には、提出書類の簡素化、申請について統一様式の導入、公証義務の廃止(一部書類のみ)、電子申請制度の整備、およびBO情報の登録様式の明確化を行っています。

2.日系企業への影響

 上記について、日系企業を含む外資企業にとっては、遅延が課題となっているベトナムの行政手続の迅速化が期待されること、書類整備・手続申請コストの削減といったポジティブな側面が期待されます。

 他方で、登録情報の正確性に対する当局の監督は強化される方向にあり、コンプライアンス体制の再点検が求められるのではないかと思われます。

III.  Decision 36 ― 事業分類(VSIC)の全面再編

 Decision 36は、企業の登録事業内容の基盤となるベトナム標準産業分類(VSIC)体系を全面的に再整理しています。以下、主な改正内容を紹介します。

1.主な改正内容

(1) 貿易分野の再編
 貿易分野においては、従来の小売分類の一部が削除されるとともに、車両卸売活動がより広範な卸売カテゴリーへ統合されました。また、多数の事業分類について名称変更が行われており、事業内容の実態により即した整理がなされています。これにより、従来の細分化された小売分類の一部は統合・再構成され、分類体系がより簡潔化されました。

(2) 運輸・物流分野の整理
 運輸・倉庫業分野では、複合輸送、物流サービス、サプライチェーン関連業務をより適切に反映するための新たな事業分類が設けられました。これにより、従来は単一の輸送分類に含まれていた多様な物流業務が、より実態に即した形で区分されることとなりました。特に国際物流や統合型サプライチェーンサービスを展開する企業にとっては、登録事業内容の見直しが必要となる可能性があります。

(3) 宿泊・飲食サービス分野の細分化
 宿泊業においては、ミニホテル、コンドテル、ホームステイといった新しい宿泊形態が従来型ホテルとは区別され、独立した分類として整理されました。これにより、不動産投資型宿泊事業や短期滞在型施設の法的位置付けがより明確になっています。

 また、飲食サービス業の分野では、飲食仲介サービスが新たに分類として追加されました。これには、オンラインプラットフォームを通じた飲食注文仲介など、近年拡大しているビジネスモデルが含まれます。

(4) 情報通信分野の再構成
 情報通信分野は大きく再編され、従来の広範なIT分類が二つの部門に整理されました。すなわち、出版・ライブ配信・デジタルコンテンツ制作などを含む「コンテンツ制作関連部門」と、電気通信、ソフトウェア開発、プログラミング、ITサービスを含む「IT・通信部門」に分割されています。

 この再編により、デジタルコンテンツ事業と純粋な技術サービス事業との区別が制度上明確化されました。

(5) コンサルティング分野の拡張
 コンサルティング業においては、従来の経営コンサルティングに加え、広報(PR)サービスなども含まれる形で対象範囲が拡大されました。これにより、企業ブランディングや戦略的コミュニケーション支援を行う事業も、より明確に分類体系の中に位置付けられることとなっています。

2.新興分野の明確化

 Decision 36のもう一つの重要な意義は、これまで法制度上の位置付けが曖昧であった新興ビジネス分野について、明確な事業分類が与えられた点にあります。

 具体的には、人工知能(AI)、ブロックチェーン、クラウドサービスといった先端技術分野に加え、ポッドキャスト制作やオンライン動画出演などのデジタルコンテンツ関連活動、さらに暗号資産ウォレットや仮想資産管理といったフィンテック分野が、正式な事業分類として整理されました。

 従来、これらの活動は既存のITサービスや一般コンサルティング等の広範な分類の中で登録されることが多く、実務上、「どのライセンスに該当するのか」「登録事業内容としてどの分類を選択すべきか」が明確でないケースが少なくありませんでした。その結果、新規事業の開始時に当局との解釈調整が必要となり、投資許可申請段階で追加説明を求められるなど、不確実性が存在していました。

 今回のDecision 36による整理により、これらの新規ビジネス領域が制度上明確に位置付けられたことで、登録事業内容の選択やライセンス申請の方向性がより分かりやすくなっています。これは、税務・監査対応の観点からの法的安定性向上にとどまらず、新規事業立上げ時の予見可能性を高めると考えられます。

 特に、AI、デジタルコンテンツ、フィンテック等の分野でベトナム市場への進出を検討する日系企業にとっては、事業分類上の不明確さが一定程度解消されたことはポジティブな要素といえます。

3.実務上想定されるリスク

 Decision 36は、既存企業に対して直ちに事業分類の更新登録を義務付けるものではありません。したがって、Decision 36の施行後も旧事業分類を継続して使用すること自体は直ちに違法となるものではありません。

 しかしながら、登録事業内容と実際の事業活動との間に乖離が生じた場合、実務上いくつかのリスクが想定されます。

 まず、税務調査の場面において、登録分類と収益内容との整合性が確認されることがあります。事業分類と実際の売上構造に不一致がある場合、収益区分の妥当性や税務申告の適切性について追加説明を求められる可能性があります。

 また、特定の事業について個別のサブライセンスや追加許認可が必要な場合、登録済み事業範囲との不整合が問題となることがあります。登録上カバーされていない活動を実施していると評価されれば、形式的には無登録営業と指摘されるリスクも否定できません。

 さらに、M&Aや資金調達のデューデリジェンスにおいては、事業内容と登録情報の整合性が必ず確認されます。分類不一致がある場合、法的リスクとして指摘され、即座に対応する必要性が生じると考えられます。

 AI、デジタルコンテンツ、フィンテックといった新興分野では、規制環境自体が発展途上にあるため、事業分類の不整合が単なる形式的問題にとどまらず、直接的な規制リスクや監督当局との解釈問題に発展する可能性があります。そのため、これらの分野で事業展開を行う企業にとっては、登録分類の適切性を改めて確認することが重要となります。

 上記のような問題があると指摘されるリスクを予防する観点から、登録内容の変更対応をできるだけ早いタイミングで実施しておくことが推奨されます。

4.行政再編との関係

 改正企業法の施行と並行して、行政区画の統合や省庁再編が進行しています。これに伴い、企業の登録実務においては、登録住所の表示方法、所管当局、申請窓口が変更となるケースが増えています。登録住所の更新自体は必須ではないものの、税務ポータル等の各種システム上の情報との整合性を確保する観点から、実務上は住所表示の更新を行うことが推奨されます。

IV.  まとめ

 日系企業が対応すべき事項として、まずはBO情報の登録状況を確認し、必要に応じて登録・更新を行うことが推奨されます。あわせて、現行のVSIC分類について棚卸しを実施し、事業実態や今後の事業展開に照らして、新分類への更新が必要かどうかを検討することが推奨されます。

 弊所では、改正企業法に基づく各種登録・更新手続、BO登録、VSIC再整理等について包括的にサポートしております。

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[1] BO制度については、「ベトナム:企業法の改正—企業の実質的支配者に関する新たな規制」https://oneasia.legal/16006をご参照ください。


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