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日本:令和7年度「建設業法令遵守推進本部」の活動結果及び令和8年度の活動方針を踏まえた建設事業者における留意点

2026年08月12日(水)

「令和7年度「建設業法令遵守推進本部」の活動結果及び令和8年度の活動方針を踏まえた建設事業者における留意点」に関するニューズレターを発行いたしました。こちらの内容は以下のリンクからもご覧いただけます。
令和7年度「建設業法令遵守推進本部」の活動結果及び令和8年度の活動方針を踏まえた建設事業者における留意点

令和7年度「建設業法令遵守推進本部」の活動結果及び
令和8年度の活動方針を踏まえた建設事業者における留意点

2026年8月
One Asia Lawyers 大阪オフィス

第1 「建設業法令遵守推進本部」の概要及び活動報告について

国土交通省は、平成19年4月1日より各地方整備局等に「建設業法令遵守推進本部」(以下「推進本部」といいます。)を設置し、建設業の法令遵守体制の充実を図っています。推進本部の主な任務は、①建設業者の法令違反疑義情報等の収集、②報告徴収及び立入検査の実施、③関係機関(都道府県の建設業許可部局、厚生労働省、公正取引委員会等)との連絡調整の3点にあり、推進本部の取組みの一端を担う実働部隊(「建設Gメン」)が、建設工事の請負契約について、主に見積り・契約・支払いなどに関する建設業法の遵守状況を調査し、不適正な取引が確認された場合には改善指導等を行う体制となっており、第三次・担い手3法の趣旨に沿い、担い手の確保に向けた労働者の処遇改善や働き方改革の推進を最重要目的として活動しています。

国土交通省は毎年、前年度における推進本部の活動結果(法令違反疑義情報の受付件数、立入検査等の実施件数、監督処分等の実施状況等の統計)と、当年度における活動方針(建設Gメンの重点調査事項等)を公表しており、建設業者の法務・コンプライアンス担当者にとっては、活動結果から行政の指導傾向を把握し、活動方針から当年度の重点調査分野を予測して社内体制を整備するための、いわば「行政の年次事業報告書・事業計画書」として活用する視点が重要となります。

本稿では、令和8年5月に公表された「令和7年度『建設業法令遵守推進本部』の活動結果及び令和8年度の活動方針」(以下「令和8年度資料」)を中心に、その活動方針の内容や実務上の留意点を整理します。

第2 令和7年度の活動結果及び特質点

1 令和7年度の活動結果

まず、令和8年度資料に示された令和7年度の活動結果は次の通りです。

項目

令和7年度実績

法令違反疑義情報等の受付件数

3,558件(うちホットライン1,946件) ※このほか、元下調査(下請取引等実態調査)等の端緒情報を基に違反疑義として抽出した件数:612件

建設Gメン調査等(立入検査等を含む)

1,152業者・1,318件

講習会等の開催回数

252回

監督処分等:許可取消

1業者(欠格要件に該当)

監督処分等:営業停止

14業者(無許可業者との下請契約2業者、主任技術者の配置不備1業者、公契約関係競売等妨害等3業者、独占禁止法違反5業者、労働安全衛生法違反2業者、労働基準法違反1業者)

監督処分等:指示

4業者(主任技術者の配置不備1業者、労働安全衛生法違反3業者)

監督処分等:勧告・文書指導等

768業者(見積関係641件、契約書の記載関係516件、価格転嫁関係193件、工期設定関係60件など)

2 過去年度と比較した特質点

上記の令和7年度実績を、過去実績と比較すると、以下のような点が特徴的です。

⑴ 講習会等の開催回数が82回(令和6年度)から252回へ、約3.1倍という伸びを見せています。過去5年間で見ても、37回→45回→72回→82回→252回と、令和7年度の伸び幅は突出しており、行政による普及啓発の急速な強化が推察されます。

⑵ 勧告・文書指導等の対象業者数は、令和5年度456業者→令和6年度649業者→令和7年度768業者と、順調に増加しています。特に「価格転嫁に関すること」の指摘件数は令和6年度87件から令和7年度193件へ倍以上に増加しており、資材価格・労務費の転嫁協議に関する行政の関心の高さがうかがえる結果とも言えます。

⑶ 営業停止処分の対象業者14業者のうち、5業者について独占禁止法違反での処分が下されています。少なくとも直近数年において同法違反を理由とした営業停止処分は認められておらず、建設Gメンによる調査を契機として労働法・競争法分野にまで調査が波及するリスクがある点は留意する必要があります。

なお、上記数値の変化は令和7年度における偶発的な事情による可能性もあるため、今後の変遷については、後述する活動方針の内容や今後の処分状況も踏まえて、処分トレンドの変化と評価できるものなのか、注視する必要はあろうかと存じます。

参考:過去5年間の推移

項目

令和3年度

令和4年度

令和5年度

令和6年度

令和7年度

受付件数

1,335件

3,492件

3,834件

3,811件

3,558件

立入検査等・Gメン調査等

778件

884件

806件

1,143件

1,152業者 1,318件

講習会等開催回数

37回

45回

72回

82回

252回

許可取消

0業者

0業者

1業者

1業者

1業者

営業停止

9業者

16業者

14業者

16業者

14業者

指示

6業者

9業者

12業者

18業者

4業者

勧告・文書指導等

78業者

36業者 (+口頭190業者)

68業者 (+文書388業者)

649業者

768業者

第3 令和8年度の活動方針の概要及び留意点

1 令和8年度活動方針の概要

令和8年度活動方針としては以下の5点に整理されています。

 法令違反疑義情報の収集

駆け込みホットラインや建設業フォローアップ相談ダイヤルなど相談通報窓口の周知を図るとともに、通報者が秘匿を希望した場合には、被通報者に特定されて不利益な取扱いを受けることがないよう、秘密保持を徹底したうえで調査方法を工夫するなど、通報者を保護するための取組みを行う。

 報告徴収及び立入検査の実施

相談通報窓口への通報や関係機関からの情報提供により法令違反が疑われる建設業者、建設Gメンの調査等により法令違反のおそれが把握された建設業者、営業所の実態や技術者配置に疑義のある建設業者、過去に指導監督を受けた建設業者等を中心に、報告徴収及び立入検査を機動的に実施する。

 関係機関との連携

適正な工期設定による働き方改革推進のため都道府県労働局・労働基準監督署と連携した周知啓発を行うほか、公共発注者からの労務費ダンピング調査情報の活用、労働関係法令・独占禁止法違反の疑いが確認された場合の労働基準監督署・公正取引委員会との情報共有、都道府県の建設業許可部局との情報共有・合同立入検査等の連携を図る。

 建設業取引適正化推進月間

11月を「建設業取引適正化推進月間」と位置付け、講習会の開催をはじめとする取引適正化に向けた普及啓発活動を重点的に実施する。建設Gメンについても同月間を「集中月間」と位置付け、より重点的な取組みを行う。

 その他

・元下請負間のトラブルの相談窓口である「建設業取引適正化センター」の周知・建設関係団体との情報交換、研修会等を活用した建設業法の周知啓発 
・建設キャリアアップシステムや建設業退職金共済制度の普及・周知
・建設工事の施工等に係る建設業法以外の法令における制度改正等の周知
・規制逃れを目的とした一人親方対策として、適切な施工体制台帳の作成等の法令遵守徹底に向けた周知
・免税事業者である受注者や下請負人との取引における消費税相当額の取扱いに関する啓発

2 建設Gメンによる主たる調査内容

建設Gメンは、上記活動方針を踏まえて必要な調査や立入検査の実施、その結果に基づく指導等を行っていますが、その調査内容としては主に以下の項目が挙げられています。

調査分野

主な調査内容

適正な請負代金・労務費の確保

当初見積書と最終見積書の額を比較し、減額が生じている場合はその乖離状況・理由を確認(「通常必要と認められる労務費を著しく下回るおそれのある取引事例集」も参照)。「労務費に関する基準」を踏まえ労務費が適正な労務費の額を著しく下回る、又はそのおそれがある場合は乖離状況・注文者の協議状況を確認するとともに、コミットメント条項を含む契約において適正な労務費による見積りとなっているかの履行状況を確認。

適正な契約締結

建設業法第19条の契約書記載事項を満たした書面の取り交わしの指導を徹底し、材料費等の著しい下回りが確認された場合は同法第19条の3の通常必要と認められる原価に満たない金額による契約となっていないかを確認。あわせて、資材価格の高騰を踏まえた転嫁協議を円滑にするために必要な契約変更方法の条項が記載されているかを確認。

適正な工期設定

「工期に関する基準」を踏まえた休日の確保・猛暑日の不稼働等の考慮状況を確認(4週8休を前提とした工期設定、労働基準法に抵触する長時間労働とならない工期設定であることを含む)。著しく短い工期が疑われる長時間労働事案については労働基準監督署へ必要な情報共有。

適切な価格転嫁

契約変更方法の条項を含む契約書面の取り交わしの指導徹底に加え、受注者による契約締結前における資材価格高騰等の「おそれ情報」の通知状況、受注者から注文者への変更協議の申出状況及び注文者の対応状況を確認。「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」に示された、注文者・受注者双方が採るべき12の行動指針の周知・遵守状況を確認。

適正な下請代金の支払い

労務費相当部分の現金払いへの配慮、手形払いの場合は手形期間が60日を超える「割引困難な手形」となっていないか・割引料等を一方的に下請負人の負担としていないかを確認。銀行振込手数料についても下請負人に負担させていないか、受託中小企業振興法に基づく振興基準を踏まえて改善を促す。

このほか、令和8年度活動方針では、建設Gメンによる活動内容として、下請取引等実態調査等から得られた情報を端緒とした建設業法第40条の4に関連した調査の実施等、及び許可行政庁との情報共有及び協力連携(違反疑いが確認された場合の許可行政庁への情報提供、知事許可業者に関する合同立入検査等)が明記されています。

3 従来の活動方針と比較して主に留意すべき点

 調査事項の整理軸の変化

令和7年度以前の活動方針は、建設Gメンの調査項目として①適正な請負代金・労務費の確保、②適切な価格転嫁 、③適正な工期の設定、④適正な下請代金の支払いの4項目で整理されていたのに対し、令和8年度活動方針では「適正な契約締結」が独立項目として新設され、5項目に再編されています。契約書の記載に関する指導が令和6年度283件から令和7年度516件へ増加した実績を踏まえると、契約書の法定記載事項(建設業法第19条)の点検が今後の調査でより重視される可能性があります。

なお、この再編は単なる項目数の変更(4→5)にとどまらず、各項目の内容面でも実質的な変化を伴っています。例えば「適正な請負代金・労務費の確保」の項目では、見積額の乖離状況・ダンピングの有無を確認するという基本的な内容は維持されていますが、「労務費に関する基準」及び「通常必要と認められる労務費を著しく下回るおそれのある取引事例集」(令和8年1月5日付国不建推第76号)に基づく確認や、複数年契約等における「コミットメント条項」を含む契約の履行状況確認が新たに盛り込まれ、内容が具体化・拡充されていますし、「適正な下請代金の支払い」では、手形・現金払いに関する確認に加え、銀行振込手数料の負担状況の確認が新たな調査事項として追加されています。

以上のとおり、4分野から5分野への再編は、「適正な契約締結」という新区分の新設に伴う調査項目の再配置に加え、「適正な請負代金・労務費の確保」における労務費基準・事例集に基づく確認の具体化、「適正な下請代金の支払い」における銀行振込手数料の確認の追加など、複数の実質的な変化を伴っていると考えられ、名称変更にとどまらない調査の深掘りが行われている点に留意が必要です。

 建設業取引適正化推進期間の運用変更

令和2年度以降、毎年10~12月の3か月間を「建設業取引適正化推進期間」としてきましたが、令和8年度活動方針では「11月」の単月を「建設業取引適正化推進月間」とする運用に変更されています(令和元年度以前と同様の方式への回帰)。これに伴い、社内研修・自主点検のスケジュールを11月を見据えたものに見直す必要があります。

 消費税相当額に係る取扱に係る事項が新たに明記

令和8年度活動方針においては、以下の2点について周知啓発等を行うことが新たに明記されたことから、本年度の調査において着目される可能性があります。

・免税事業者である受注者との取引において、消費税相当額を一方的に減額する等した場合に、建設業法や独占禁止法上問題となりうること

・下請負人との取引にあたって、消費税相当額の取引価格への反映の必要性等について十分に協議を行うこと

 労務費基準の運用が具体化

令和6年6月に公布された改正建設業法による「労務費の基準」を著しく下回る見積り・変更依頼・契約締結の禁止等の新ルールは令和7年12月までに全面施行されているところ、令和8年度活動方針では「通常必要と認められる労務費を著しく下回るおそれのある取引事例集」(令和8年1月5日付国不建推第76号)に基づく確認プロセスが明記され、基準遵守の呼びかけにとどまらない具体的な調査手法へと進化しています。

 許可行政庁との情報共有・協力連携が項目化

建設Gメンの調査等で違反疑いが確認された場合の許可行政庁への情報提供、都道府県知事許可業者に関する合同立入検査の実施等が新たに明記されました。複数の許可行政庁が関与する広域展開企業は、一の地方整備局での指導が他の許可行政庁にも共有される可能性を踏まえた対応が必要となります。

第4 おわりに

本稿で見てきたとおり、推進本部及び建設Gメンの活動は、受付件数や処分件数といった量的な側面にとどまらず、契約書の記載事項、労務費の算定根拠、価格転嫁の協議過程といった、個々の契約実務の中身にまで踏み込む形で年々深化しています。「自社は行政指導の対象にはならないだろう」という前提は楽観的に過ぎるといえ、貴社が日常的に取り交わしている見積書・契約書・支払条件こそが、次の調査の対象となり得ることを念頭に置いていただく必要があります。特に令和8年度活動方針で新設された「適正な契約締結」の区分は、契約書の法定記載事項という是正が比較的容易な論点に焦点を当てたものです。本稿でご紹介した建設Gメンにおける調査内容となる5項目を踏まえて、貴社における契約書・見積書の自主点検を行うことが今後の調査に備える第一歩として有効と考えられます。

【参考資料一覧】
1.国土交通省「令和6年度『建設業法令遵守推進本部』の活動結果及び令和7年度の活動方針」(令和7年6月)
2.国土交通省「令和7年度『建設業法令遵守推進本部』の活動結果及び令和8年度の活動方針」(令和8年5月)
3.国土交通省「令和7年度建設業法令遵守推進本部の活動結果概要」