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中国:商事調停(商事調解)制度が本格始動― 中国現地法人の紛争解決戦略に影響も

2026年08月14日(金)

「中国:商事調停(商事調解)制度が本格始動― 中国現地法人の紛争解決戦略に影響も」についてニューズレターを発行いたしました。こちらの内容は以下のPDFからもご覧いただけます。
「中国:商事調停(商事調解)制度が本格始動― 中国現地法人の紛争解決戦略に影響も」

中国:商事調停(商事調解)制度が本格始動
中国現地法人の紛争解決戦略に影響も

2026年8月
One Asia Lawyers Group
中国大湾区プラクティスチーム
森 仁司(日本法)
馮 逸倫(中国法) 

はじめに

2025年12月、中国国務院は、商事分野における調停(Mediation)制度を初めて全国統一で法制化する《商事調解条例》(以下「条例」といいます。)を公布し、2026年5月1日から施行しました。これを受けて2026年7月、中国司法部は、運用の詳細を定める《商事調解組織管理弁法》(以下「弁法」といいます。)を公布し、即日施行しました。これにより、中国では訴訟・仲裁に次ぐ「第三の紛争解決手段」としての商事調停が、初めて法的な設立・運営の枠組みを持つ制度として整備されたことになります。中国に現地法人を持つ日系企業にとっては、①取引先との紛争解決オプションが広がる一方、②相手方から調停を持ちかけられる場面が増える可能性があり、③自社が商事調停組織を利用・提携する際のデューデリジェンス基準にもなる重要な法令です。

1 「商事調停」の対象範囲

条例第2条により、商事調停の対象は貿易・投資・金融・運輸・不動産・建設工事・知的財産権等の商事紛争です。
一方で、婚姻家庭・相続・後見・労働人事・消費者紛争等は対象外と明記されており、いわゆる家事調停や労働紛争調停とは別制度である点に注意が必要です。中国現地法人が現地従業員との間で直面しやすい労務紛争は、本制度ではなく従来の労働仲裁・訴訟により解決する必要があります。

2 商事調停組織の設立要件(条例第8条・弁法第817条)

商事調停組織(非営利法人)の設立には以下の要件を満たす必要があります。

項目

内容

発起人

非営利法人であること

名称

「所在地の市級以上行政区画名+字号+商事調解+中心/院」の順で構成、「商事調解」の文字を含む

資産

30万元以上

調停員

5名以上(うち専職スタッフは2名以上、地方司法行政機関がさらに具体化可)

手続

設区の市級司法行政機関に申請 → 省・自治区・直轄市司法行政機関が20営業日(最大10営業日延長可)で設立許否を審査

弁法ではさらに、名称に使用できない文字(政党・軍機関名、行政区画名、外国名、数字のみの名称等)や、定款に記載すべき事項(党組織の関与体制を含む)が細かく規定されています。党組織の意思決定・管理への関与を章程に明記することが義務付けられている点は、日系企業が現地の商事調停組織と提携・利用を検討する際に留意すべきポイントです。

3 調停員の資格(条例第12条)

調停員として選任されるには、以下のいずれかを満たす必要があります。
・法律職業資格を取得し、調停業務に3年以上従事したこと
・弁護士・仲裁・公証業務、または裁判官・検察官の経験3年以上
・法律・経済・技術等の専門知識を有し、中級以上の職称または同等の専門水準
・条例施行前から商事調停業務に3年以上従事し、大卒以上の学歴
注目すべき点としては、海外人材も調停員として選任可能であるという点です。弁法第23条により、選任後10日以内に地方司法行政機関への届出(国際的な公信力を示す資料の提出を含む)が求められますが、国際商事紛争を多く抱える日系企業にとっては、将来的に日本語対応可能な調停員が確保される可能性がある制度設計がなされているといえます。

4 調停手続と執行力

商事紛争が生じた場合、当事者は商事調停組織に調停を申し立てることができます。当事者の一方が明確に調停を拒否した場合には、調停を行うことはできません(条例第15条)。
調停は原則非公開で行われます(条例第19条)。商事調停員が当事者と協議の上でオンライン方式により調停を行う場合、オフラインでの調停活動と同等の法的効力を有します(条例第18条)。国際商事紛争を抱える日系企業にとって、オンライン調停は出張時間及び関連コストの削減に資すると考えられます。
守秘義務は調停組織・調停員双方に課され、当事者の書面による同意がある場合、又は法令上開示が義務付けられるその他の事由がある場合を除き、情報を開示してはなりません。
調停により合意に至った場合は、「商事調停協議」が作成され、調停員の署名・組織の印章がなされます。商事調停協議は法的拘束力を有します。(条例第22条)。当事者は《民事訴訟法》に基づき人民法院に司法確認を申請し(条例第23条)、司法確認を得れば、「商事調停協議」は強制執行力を有することになります。
渉外案件については、国際条約に基づき外国の管轄機関への執行申請も可能です(条例第23条第2項)。これは、シンガポール条約(調停による国際的な和解合意に関する国連条約)との連続性を意識した規定と考えられます。もっとも、中国は2019年8月7日、同条約の最初の署名国の一つとして署名したものの、現時点で国内承認手続を完了しておらず、同条約は中国においては未発効です(ちなみに、日本は2023年10月に加入し、2024年4月1日から同条約が発効しています)。実務における連携の在り方については、今後の運用を注視する必要があります。
商事調停により合意に至らない場合、当事者が調停の継続に同意しない場合、又は当事者が調停を利用して違法な目的を達成しようとする意図があると認められる場合等には、調停を終了しなければなりません(条例第21条)。 

5 自由貿易試験区・海南自貿港・大湾区での特則

自由貿易試験区・海南自由貿易港では、海外の商事調停組織が業務機構を設立し渉外商事調停を行うことが許容されています(条例第24条)。これらの区域では、調停員が単独で渉外調停を行う制度の試行も可能とされました(条例第24条第3項、弁法第37条)。また、粤港澳大湾区(広東省、香港、マカオ)における調停ルールの連続性・接続を国が支援する方針も明記されました(条例第26条)。
このように、これらの地域に拠点を持つ日系企業グループにとっては、渉外調停の利用環境が今後整備されていく可能性があると言えそうです。

6 罰則(違反時のリスク)

以下の通り、罰則が定められているため、留意が必要です。

違反行為

罰則(条例第2830条)

無許可で商事調停組織を名乗り業務を行う

10万元以上30万元以下の過料+違法所得没収

変更・抹消手続や情報公開の不履行

警告、是正拒否の場合は業務停止整頓+1万元以上5万元以下の過料

不正な手段による業務獲得等

警告+5万〜10万元の過料、情節が重い場合は許可証取消+10万〜30万元の過料、責任者にも過料

調停員の守秘義務違反・虚偽調停への加担

警告+1万〜10万元の過料、情節が重い場合は13年の業務停止

弁法第33条では「情節が重い」の具体的な判断基準(国家・社会利益への重大な損害、証拠の偽造・隠匿、虚偽調停への関与、1年以内の再犯等)も明示されており、実務上の予見可能性が高められています。

7 経過措置とスケジュール

条例施行日(2026年5月1日)前から活動していた既存の商事調停組織は、施行日から1年以内(2027年4月30日まで)に条例に基づく開業手続を完了する必要があります(条例第31条第2項、弁法第36条)。期限までに要件を満たせない組織は、名称・業務範囲の変更または抹消登記を行い、以後は商事調停業務を行うことができません。

最後に日系企業はいかに対応すべきか

① 取引契約の紛争解決条項の見直し検討
訴訟・仲裁に加え、商事調停(特に司法確認による執行力付与)を選択肢として検討する余地が生まれています。

② 相手方から調停組織の利用を打診された場合の対応
当該組織が司法行政機関発行の執業証書を有しているか、名簿(省・自治区・直轄市司法行政機関が公表)に掲載されているかを確認する必要があります。

③ 守秘義務の実効性
調停は非公開が原則ですが、国家秘密・商業秘密・個人情報が関わる場合の公開ルールも規定されているため、機密性の高い紛争では事前に取扱いを調停組織と確認する必要があります。

④ 渉外紛争での活用可能性
自貿区・海南自貿港・大湾区での特則を踏まえ、渉外案件を多く扱うグループ会社では、調停による解決というオプションがあることを、法務部門として認識し、注視する必要があります。

本件に関しさらにご質問等ございましたら、当事務所までお気軽にお問い合わせください。
※本ニュースレターは中国法に関する一般的な法令情報を提供するものであり、具体的なアドバイスや法的意見を提供するものではありません。