• Instgram
  • LinkeIn
  • Lexologoy

フィリピン:強制労働により生産された物品の輸入に関する調査及び禁止規則

2026年10月13日(火)

「フィリピン:強制労働により生産された物品の輸入に関する調査及び禁止規則」に関するニューズレターを発行いたしました。こちらの内容は以下のPDFからご覧いただけます。
→フィリピン:強制労働により生産された物品の輸入に関する調査及び禁止規則

フィリピン:強制労働により生産された物品の輸入に関する調査及び禁止規則

2026年10月
One Asia Lawyers Philippines Team
日本法弁護士 難波 泰明
フィリピン弁護士 Razel Ann P. Esteban

1. 概要

2026年7月23日、フィリピン貿易産業省(Department of Trade and Industry、DTI)、労働雇用省(Department of Labor and Employment、DOLE)及び財務省(Department of Finance、DOF)は、共同行政命令(Joint Administrative Order)2026年第26-01号(以下「本JAO」)を発出し、強制労働により全部又は一部が生産された疑いがある、又はそのように判断された輸入品の調査及び規制に関する規則を定めました。

本JAOは、強制労働により全部又は一部が生産された物品のフィリピンへの輸入を防止すること、関係政府機関間の連携と執行を強化すること、輸入実務がフィリピン国内の労働法令並びに適用される国際労働条約・基準に基づくフィリピンの責務と整合するよう確保すること、及び強制労働により生産された物品の悪影響から消費者、労働者及び正当な事業者を保護することを目的としています。

2. 適用範囲

(1) 強制労働の定義

本JAOにおいて、「強制労働(Forced Labor)」は、「処罰の脅威の下に強要され、かつ、本人が任意に申し出たものではない一切の労働又は役務(all work or service which is exacted from any person under the threat of a penalty and for which the person has not offered himself or herself voluntarily)」と定義され、国際労働機関(International Labour Organization、ILO)の定義によるものとされています(第3条(b))。この定義は、フィリピンが批准しているILO強制労働条約(第29号)第2条1項の定義に概ね沿ったものです。したがって、①処罰の脅威と②任意性の欠如が重要な要素となり、その判断にあたっては、ILOの「強制労働の指標(ILO Indicators of Forced Labour)」等の解釈指針が参考になると考えられます。

(2) 適用対象製品

本JAOは、原材料、中間財、部品及び完成品を含むすべての輸入品に、セクターや原産国を問わず適用されます。ただし、対象となるのは、当該物品の採掘、抽出、生産、製造、収穫、加工、組立、包装、取扱い又は輸送の全部又は一部が強制労働によるものであると信じるに足りる合理的な根拠(reasonable ground to believe)がある場合です(第2条)。
なお、本JAOが規制するのはフィリピンへの輸入のみです。輸出も対象とするEUの強制労働製品禁止規則(Forced Labour Regulation)等の海外の制度とは異なり、本JAOはフィリピンからの輸出を禁止するものではなく、また、フィリピン国内で生産・販売される物品にも適用されません。

(3) 適用対象事業者

本JAOの適用対象は以下のとおりです。
a) フィリピンへの物品の輸入に関与するすべての輸入者、荷受人、通関業者その他の者
b) 消費、保管、加工、流通、再販売その他の商業目的のいずれであるかを問わず、法令上の特別区・経済区を含め、フィリピンに輸入されるすべての物品

ただし、本JAOの施行日(官報又は一般紙への掲載から15日後)より前に船積みされた物品については、船荷証券(Bill of Lading)、航空運送状(Airway Bill)又はこれらに相当する運送書類により証明される限り、本JAOは適用されません(第8条)。

3. 省庁間委員会とその権限

本JAOにより、「強制労働により生産された輸入品の調査に関する省庁間委員会(Inter-Agency Committee for the Investigation of Imports Produced by Forced Labor、以下「委員会」)」が設置されました。委員会は、DTIが委員長、DOLEが副委員長を務め、DOF、関税局(Bureau of Customs、BOC)、投資委員会(Board of Investments、BOI)及びフィリピン経済区庁(Philippine Economic Zone Authority、PEZA)が委員となります。
委員会は、主に以下の権限を有します(第4.1条)。

a) 強制労働による生産が疑われる輸入品に関する申立て、付託及び情報を受理・評価し、これに対応すること
b) 調査を実施又は調整し、関係当事者及び政府機関に対して関連情報・書類の提出を求め、証拠を評価すること
c) 調査結果及び勧告をBOCその他の権限ある当局に送付すること

なお、委員会自体が輸入を禁止するわけではありません。委員会の機能は調査・調整・勧告であり、実際の輸入禁止は、委員会の調査結果に基づき、BOCその他の権限ある当局が実施することになります。

4. 調査手続

(1) 調査の開始
委員会は、以下のいずれかが委員長に提出された場合、調査を開始することができます(第5条)。

  • (a) 自然人又は法人による申立て
  • (b) 政府機関からの付託
  • (c) 外国政府、国際機関、労働団体、市民社会組織(civil society organizations)その他の信頼できる情報源からの情報
  • (d) 委員会自身のモニタリング・情報収集活動により得られた情報

このように、政府機関だけでなく、競合企業やNGO等の民間主体、さらには外国政府からの情報提供も調査の端緒となり得ます。ただし、委員会に提出される申立て等には、「調査の実施について合理的な根拠を立証するに足りる裏付け情報、書類又は証拠」を添付しなければならないとされており、裏付けのない申立てのみによって調査が開始されることは、原則として想定されていないと考えられます。

(2) 通知及び反論の機会
調査対象となった輸入者は、委員会から通知を受け、通知の受領日から15営業日以内に、「輸入品の全部又は一部が強制労働により生産されたものではないことを示す書面による説明及び裏付け書類」を提出する機会が与えられます(第6条)。

実務上、輸入者は、比較的短期間のうちに、自らのサプライチェーンに強制労働が存在しないことを積極的に示すことが求められることになります。通知を受けてから海外の仕入先に資料を求めるのでは、期限内の対応が困難となるおそれがあります。

(3) 調査結果及び税関による執行
調査終了後、委員会は調査結果及び勧告に関する報告書を作成します。「輸入品の全部又は一部が強制労働により生産されたことを示す実質的な証拠(substantial evidence)が存在する」場合、委員会は、関税法令その他適用される規則に従い、「当該物品の輸入禁止のため」、調査結果をBOCその他の権限ある当局に送付します(第7条)。

なお、本JAOは段階に応じて異なる基準を用いており、実際の実務上の運用が不明瞭な点がある点には留意が必要です。すなわり、本JAOの適用範囲(第2条)及び調査の開始(第5条)は「合理的な根拠(reasonable ground(s))」を基準としている一方、輸入禁止のための送付には「強制労働により生産されたことを示す実質的な証拠」が求められ、合理的な根拠を基準としていません。これらの基準が実務上どのように運用されるのか、また、どのような種類・程度の証拠があれば足りるのかについて、本JAOは明らかにしておらず、施行ガイドラインで明確化されるかが注目されます。

5. 企業が取るべき対応

本JAOが直接適用されるのは、経済区に所在する企業(原材料・部品を輸入するPEZA登録企業等)を含め、フィリピンへの物品の輸入に関与する輸入者、荷受人、通関業者等です。フィリピンに物品を輸出する海外企業も、フィリピンの輸入者からサプライチェーンに関する資料の提出を求められる可能性があるため、間接的に影響を受け得ます。

フィリピンに物品を輸入する企業及びその海外の仕入先は、輸入禁止の対象とならないよう、原材料・部品を含むサプライチェーン全体において強制労働が用いられていないことを確認する必要があります。特に、委員会からの通知に対する回答期限が15営業日と短いことを踏まえ、仕入先リスト、仕入先からの誓約書、監査報告書等、物品の調達・加工・製造に関する記録・資料をあらかじめ整備し、調査の際に速やかに提出できるようにしておくことをお勧めします。

また、DTI、DOLE、DOF及びBOCは、本JAOの施行日から90日以内に、簡素化された手続を定める施行ガイドラインを共同で発出することとされています。今後発出される施行ガイドラインの内容を注視していくことが必要となります。