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地球温暖化対策計画から見える各業界の動向

2022年02月14日(月)

地球温暖化対策計画から見える各業界の動向についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

地球温暖化対策計画から見える各業界の動向

 

日本:地球温暖化対策計画から見える各業界の動向

 

2022年2月7日

                 One Asia Lawyers Group
弁護士法人One Asia大阪オフィス
弁護士 難 波  泰 明

. はじめに

  昨年(2021年)10月22日、地球温暖化対策計画(以下、「本計画」といいます。)が、5年ぶり[1]に改訂され、閣議決定されました。本計画は、地球温暖化対策推進法(以下、「温対法」といいます。)第8条第1項に基づいて定められる計画で、本計画の実施の推進等を担う地球温暖化対策推進本部の本部長を内閣総理大臣、副本部長を環境大臣及び経済産業大臣が務め、そのほか全ての国務大臣が本部員に加わるという、まさに政府一丸となって取り組む計画となっています。

  政府が計画している実施施策のあり方を紐解いていくと、各業界の今後の動向が透けて見えます。

  本稿では、本計画のうち事業者に関する計画の内容をご報告します。

. 地球温暖化対策の推進に関する事業者の基本的役割

  まず、本計画は、事業者全般の基本的な役割を以下のとおりとしています(本計画26頁)。

 ①事業内容等に照らして適切で効果的・効率的な対策の実施

   中長期の削減目標を設定したうえで、省エネルギーの推進、再生可能エネルギーの積極的な導入・利用等の自社の排出削減、サプライチェーン全体の排出削減を推進すること。省CO2型製品の開発、サーキュラーエコノミーへの移行等。

 ②社会的存在であることを踏まえた取組

   単独又は共同で自主的な計画の策定、実施状況の点検。従業員への環境教育、他団体と連携した温室効果ガス排出削減、温室効果ガス吸収源対策、国及び地方公共団体の施策への協力。

 ③製品・サービスの提供に当たってのライフサイクルを通じた環境負荷の低減

   製品・サービスのサプライチェーン及びライフサイクルを通じた温室効果ガス排出量等の把握、カーボン・オフセットを含めた環境負荷の低減に寄与する製品・サービスの提供等。

  これらの事業者の基本的役割においては、「自主的に」取り組むことがうたわれているところではありますが、他方で、国は自主的手法だけでなく、「規制的手法、経済的手法、情報的手法、環境影響評価を含む多様な政策手法を動員して、対策を推進する。」(本計画23頁)としています。このような文脈を踏まえると、自主的手法だけでなく、規制的手法や経済的手法を含めた国のあらゆる施策の動向を注視し、対応していく必要があるといえそうです。

. 産業界における自主的取組の推進

 ⑴ 低炭素社会実行計画[2]の実施と評価・検証

 本計画では、産業界の自主的な取組みを評価し、次のような観点に留意して計画を策定・実施することを推進する一方で、定期的な評価・検証等を踏まえて随時見直しを行うこととしています。

 ①目標策定業種数の引上げ(中小企業を含めた業界内カバー率の引上げ)

 ②経済的に利用可能な最善の技術(BAT:Best Available Technology)の最大限の導入

  ・自ら行い得る最大限の目標水準

  ・BATの普及が可能となった場合には、柔軟に数値目標を引き上げる

 ③PDCAサイクルの推進

 ④サプライチェーン全体の二酸化炭素排出量の削減

 ⑤海外展開、国際的な連携活動の強化

 ⑥2050年カーボンニュートラル実現に向けた革新的技術開発・実用化

 ⑦情報発信

 ⑧実効性・有効性の検証

 国としては、産業界の自主的な取組みを基本としつつも、各業界の動向を注視しつつ、対話的な手法などによりながら適宜介入していく意向と思われます。

 ⑵ 脱炭素経営の促進

   脱炭素経営をより一層促進するため、以下の、環境整備が促進されます。

  ・企業の情報開示やサプライチェーン全体での削減目標設定・計画策定等の促進

  ・中小企業の脱炭素化に対する地域の支援体制の強化

  ・製品・サービスのライフサイクルにおける温室効果ガス排出量の見える化の促進

  ・消費者からも脱炭素経営が評価される環境整備

   サプライチェーン全体や中小企業に対する言及がされていることから、現時点で報告義務の対象となっているスコープ1、2だけでなく、スコープ3も意識したものとなっており、企業規模にかかわらず、脱炭素化の流れが促進されると思われます。

. エネルギーの合理化に関する取組

  エネルギーの使用の合理化等に関する法律(以下、「省エネ法」といいます。)に基づき、エネルギー効率の高い設備・機器の導入促進が掲げられる一方で、エネルギー管理の徹底や、誘導的手法を用いた省エネ基準の引上げが見込まれます。

 ⑴ 省エネルギー性能の高い設備・機器の導入促進

   省エネ法に基づき、各産業部門において、主要なエネルギー消費機器について、エネルギー効率の高い設備・機器の導入促進が掲げられ(本計画33頁以下、38、44、49頁)、今後もこれらを促進する補助金等の施策が継続、拡大することが予測されます。

分野

設備・機器

業種横断

エネルギー効率の高い空調、照明、給湯、工業炉、ボイラー、コージェネレーション設備等の導入促進。

鉄鋼業

電力需要設備、廃熱回収設備、発電設備、コークス炉の効率改善。廃プラスチックの利用拡大。省エネ・低炭素化のための技術開発。

化学工業

排出エネルギーの回収、プロセス合理化等。省エネ技術の開発。

窯業・土石製品製造業

セメント及びガラス製造プロセスの省エネルギー化。

パルプ・紙・紙加工品製造業

古紙パルプ工程を効率的に進めるパルパーの導入。

建設施工・特殊自動車使用分野

燃費性能の優れた建設機械の普及。軽油を燃料とする動力源を抜本的に見直した革新的建設機械の認定制度の創設。ICT施工の普及(i-Construction)。

施設園芸・農業機械・漁業分野

施設園芸における効率的・低コストなエネルギー利用技術(ヒートポンプ、木質バイオマス利用加温設備等)の開発・普及。農業機械の省CO2化、LED集魚灯、省エネ船外機等の導入。農林業機械・漁船の電化・水素化等に関する技術確立。

石油製品製造分野

熱の有効利用、高度制御・高効率機器の導入、動力系の運転改善、プロセスの大規模な改良・高度化等によるBAUから原油換算100万kL分のエネルギー削減の達成。

デジタル機器関係

超高効率の次世代パワー半導体の実用化に向けた研究開発支援、設備投資支援。2030年までに省エネルギー50%以上の次世代パワー半導体の実用化・普及拡大。データセンターの省エネルギー化に向けた研究開発、実証(2030年までに全ての新設データセンターの30%以上の省エネルギー化)。(本計画38頁)

業務その他部門

省エネ技術の開発、高効率な省エネ機器の普及。LED等の高効率照明の2030年ストック100%普及。エネルギー効率の高い業務用給湯器の導入促進、冷凍空調機器の冷媒管理技術の向上、先導的脱炭素化技術(LD-Tech)等による情報発信。

運輸部門

エコドライブ管理システム(EMS)の普及、グリーン経営認証制度の普及。燃料電池鉄道車両の開発、太陽光発電の導入。ゼロエミッション船の商業運航の前倒し。燃料電池トラックの開発・普及、電動車活用の取組。

家庭部門

省エネ技術の開発、高効率な省エネ機器の普及。LED等の高効率照明の2030年ストック100%普及。白熱電球をトップランナー制度の対象化。給湯器のトップランナー基準の引上げ。家庭用燃料電池の導入促進。省エネルギー型家庭用浄化槽の普及。LD-Tech等による情報発信。

 

 ⑵ エネルギー管理の徹底

   省エネ法に基づくエネルギー管理義務によるエネルギー管理の推進と合わせて、FEMS(Factory Energy Management System)、BEMS[3](Building and Energy Management System)、ESCO[4](Energy Service Company)、HEMS[5](Home Energy Management System)、スマートメーターの導入促進により、エネルギー消費量の見える化、省エネルギーの取組が促進されます。特に、BEMS、HEMSについては、2030年までに約半数の建築物に導入するという目標が掲げられています(本計画35、39、44頁)。

 ⑶ 建築物の省エネルギー化に向けた規制強化

   建築関係に関しては、規制強化が明確にうたわれています。すなわち、今後、早期に建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(以下、「建築物省エネ法」といいます。)における規制措置を強化するとされており、具体的には、省エネルギー基準適合義務の対象外である小規模建築物、住宅の省エネルギー基準への適合を2025年度までに義務化、2030年度以降新築される建築物についてZEB[6]基準、ZEH[7]基準の水準の省エネルギー性能の確保を目指して、整合的な誘導基準、住宅トップランナー基準、省エネ基準の引上げが打ち出されています(本計画37、43頁)。

 ⑷ 自動車の次世代自動車普及目標等

   自動車関連については、次世代自動車(EV、FCV、PHEV、HV等)の普及促進(補助制度、税制上の優遇等)が打ち出されています。特に、乗用新車販売に占める次世代自動車の割合を2030年までに5~7割、電動車の割合を2035年までに100%にするという明確な目標が定められたことは注目すべき点です。

   このほか、水素ステーションの整備、大規模充填能力を有するステーションの開発・導入などのインフラ面の拡充だけでなく、電動車の高速道路利用時のインセンティブ付与と、2030年度を目標年度とする乗用車の新たな燃費基準の設定がされ、規制的手法とインセンティブ措置の両輪で取り組む方針が打ち出されています(本計画46頁)。

 ⑸ 物流の脱炭素化

   物流関係については、省エネ法による荷主・輸送事業者のエネルギー管理の推進と合わせて、トラック営業所の併設やトラック予約受付システムの導入、モーダルシフトの推進、共同輸配送の取組み推進、倉庫のゼロエネルギーモデルの普及、カーボンニュートラルポートの形成などによる物流の脱炭素化の推進が掲げられています(本計画50頁以下)。

 ⑹ 誘導的手法を用いた省エネ基準の引上げ

   建築物に導入される機器・建材、照明器具及び電球、白熱電球、給湯器について、トップランナー制度の強化、ベンチマーク制度の対象分野の拡大が打ち出されており、今後省エネ基準が引き上げられることが見込まれます(本計画33、37頁)。また、目標年度に到達した対象機器については基準の見直しに向けた検討等も行われます。

   このほか、省エネ法に基づき提出される定期報告書を踏まえ、省エネルギー状況が停滞している事業者には集中的に指導・助言等を行い、優良事業者は公表して称揚するという方針も打ち出されています(本計画33頁)。

5.まとめ

  以上、広範囲にわたる地球温暖化対策計画の概略を一部割愛しつつご報告いたしました。計画期間は閣議決定日から2030年度末までとされています[8]

  各項目を見ていくと、今後10年程度の期間で各業界において脱炭素に向けた取組みがどのように展開されるかをご確認いただけたと思います。自主的な対策の推進を基本としつつも、各所において実質的な規制や基準の引き上げが予定されており、導入促進のための支援策と合わせて、これらにいかに対策し、組み込んでいくかが重要になります。これらの取組への展望がビジネスチャンスをつかむきっかけや経営方針を検討する際の一助になれば幸いです。

 

以上

【参考】

・地球温暖化対策計画(環境省ホームページ)

 http://www.env.go.jp/earth/ondanka/keikaku/211022.html

[1] 前回の計画は2016年5月13日に閣議決定されています。

[2] 低炭素社会実行計画とは、2013年度以降の取組みとして産業界の各業種が策定する温室効果ガス排出削減計画のことで、経団連低炭素社会実行計画(現、経団連カーボンニュートラル行動計画) など、各個別業種で策定されています。

[3] エネルギーの使用状況を表示し、照明や空調等の機器・設備について、最適な運転の支援を行うビルのエネルギー管理システム。

[4] 省エネルギーに関する包括的なサービスを提供し、省エネルギー効果までを保証するビジネス。

[5] エネルギーの使用状況を表示し、空調や照明等の機器が最適な運転となることを促す住宅のエネルギー管理システム

[6]  ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル):省エネルギー化と再生可能エネルギーの導入により、削減量に応じて、①ZEB(100%以上削減)、②Nearly ZEB(75%以上 100%未満削減)、③ZEB Ready(再生可能エネルギー導入なし)、④ZEB Orientedと定義されている。

[7]  ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス):省エネルギー化と再生可能エネルギーの導入により、削減量に応じて、①ZEH(100%以上削減)、②Nearly ZEH(75%以上100%未満削減)、③ZEH Oriented(再生可能エネルギー導入なし)と定義されている。

[8] なお、本計画は、少なくとも3年ごとに目標及び施策について検討が加えられることとなっており(同法第9条第1項)、今後の動向にも注視が必要です。