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オーストラリアにおける従業員の株式所有計画(ESOP)に関する法改正について

2022年09月15日(木)

オーストラリアにおける従業員の株式所有計画(ESOP)に関する法改正についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

オーストラリア:従業員の株式所有計画(ESOP)に関する法改正

 

オーストラリア:従業員の株式所有計画(ESOP)に関する法改正

2022年9月吉日
One Asia Lawyers
オーストラリア・ニュージーランド事務所

1.はじめに

 オーストラリアの会社法(Corporations Act 2001 (Cth))は、原則として、有価証券の募集に際し商品情報の開示を義務付けています。これに対し当局オーストラリア証券投資委員会(ASIC:Australian Securities and Investments Commissioner)は様々な規制緩和策を講じてきたものの、オーストラリアにおける従業員の株式所有の募集(いわゆるESOP:Employee Share Option Plan)に支障をきたしてきました。

 これに対応すべく、2022年10月1日に施行される会社法改正により、既存の規制緩和措置が一定の調整を加えられて会社法に成文化され、主に非上場会社が様々な形態のESOPを提供しやすくなることが期待されています。

 本稿では、当該改正法の概要について、特にオーストラリアの非上場会社(公開・非公開かを問わないが信託を除く)がESOPを設定する場合に焦点を当てて、ご紹介いたします。

2.非上場会社の場合

 2022年10月1日以降、ESOPの参加に従業員の支払いを必要としない場合は、原則として、会社法に基づく金融商品の開示および金融ライセンス保有要件に準拠する必要がなくなることが成文化されます。ただし、この場合も、ESOPを従業員へオファーする際に一般的に提供されるオプション行使期間や行使価格等を記載した書面の提供は必要です。

 一方で、ESOPの参加に従業員の支払いを必要とする場合は、所定の緩和された条件を満たすことで、各種規制の免除を受けてESOPを運用することが可能となります。以下に、規制免除を受けるための現行の条件と2022年10月1日以降に適用される新条件[1]との比較の概要(全ての条件ではありません)を記載します。

2022年9月30日まで

2022年10月1日以降

ž   ESOPに参加するために支払いが必要な場合において、規制免除を受けるためには、以下の全てを充足しなければならない。

(i)               過去3年間に行われたESOPのオファーに基づき計算された株式発行上限が20%以下であること。

(ii)             金額上限が従業員一人当たり年間5,000豪ドルであること。

(iii)            対価が極めて少額(nominal amount)である、または所定のオファー文書が提供されること。

(iv)            規制免除の適用を受ける意向についてASICに通知すること。

ž   左記に代わり、以下の条件が適用される。

(i)               株式発行上限(20%以下)は、会社の定款により修正が可能。

(ii)             金額上限は30,000豪ドル(ただし未行使の場合は5年間累計可能(つまり150,000豪ドル))+その年に当該ESOPにおいて参加者に支払われたキャッシュボーナスおよび配当金の70%。

※更に、ESOPに基づく株式発行後すぐにLiquidity Event(会社売却、IPO等)が発生した場合は、金額上限の適用を受けない。

(iii)            主に以下から構成されるオファー文書を提供すること:募集要項、留意事項、オファーの受諾期間、財務報告書、評価額、会社が支払能力を満たすことの取締役による宣言書。

(iv)            14日間のクーリングオフ期間の設定。

ž   ESOPに参加するために従業員の給与から定期的に拠出する必要がある場合は、上級職に対するオファーや特定の開示書類の下で行われた場合に規制免除が受けられる。

ž   左記に代わり、以下の条件が適用される。

(i)               従業員が ESOP の条件に書面で同意していること。

(ii)             拠出金は、拠出金の保管のみを目的としたオーストラリアの預金取扱機関の口座に預託されること。

(iii)            従業員はいつでも定期拠出を停止することができ、停止した場合に会社は全ての拠出金を返済しなければならないこと。

ž   ESOPに参加するために従業員にローンが提供される場合は、規制免除が受けられない。

ž   以下の条件を満たせば、規制免除を受けることができる。

(i)               金利や手数料のないローンであること。

(ii)             従業員がローンの返済を怠った場合の会社の唯一の救済は、ESOPに基づく権利の没収であること。

3.税法改正

 2022年6月30日までは、、ESOPに基づく権利を有する従業員は、雇用終了時に未行使のオプションを保有している場合に、雇用終了時に当該オプションに関する税金の支払いが求められる場合がありました。しかし、2022年7月1日以降は、雇用の終了は課税時点ではなくなり、ESOPに基づく権利を有する従業員は、主に、権利確定時またはオプションの行使時に課税されるため、従業員が実際の利益を受け取る際に課税を受けることができます。

 4.おわりに

 上記はオーストラリアにおけるESOPに関する規制緩和の概要であり、その他にも個々のESOPに適用される規則や免除規定が存在します。例えば、取締役や上級職のESOPには、会社の開示義務の免除を受ける例外が存在し、また、私募が出資者数や金額など一定の上限を超えない場合の小規模募集の場合の規制免除など、様々なルールが存在します。しかしながら今回のESOP関連規制の合理化を図る法改正により、オーストラリアで設立された法人にとって、様々な規制緩和を利用したESOPの設定をすることが比較的容易になったと言えます。

以 上

[1] Division 1A of Part 7.12 of the Corporations Act 2001 (Cth).