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日本において訴訟上の和解により定めたマンションの規約共用部分の収去義務の間接強制の可否について

2023年01月17日(火)

日本において訴訟上の和解により定めたマンションの規約共用部分の収去義務の間接強制の可否についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

日本:訴訟上の和解により定めたマンションの規約共用部分の収去義務の間接強制の可否

 

日本:訴訟上の和解により定めたマンションの規約共用部分の収去義務の間接強制の可否

2023年1月
One Asia Lawyers Group
弁護士法人One Asia大阪オフィス
弁護士 難波 泰明
弁護士 川島 明紘

1.事案の概要

  本事案は、債務者が区分所有建物(以下、「本件マンション」といいます。)の管理組合法人(以下、「債権者」といいます。)との間で、本件マンションの規約共用部分を収去する旨の訴訟上の和解をしたものの、当該収去に当たっては区分所有者全員の承諾が必要であるとして、当該承諾を得ていないことを理由として収去義務の履行に応じなかったところ、債権者が収去義務の間接強制を申し立てた事案です。

  本件は、債権者が、本件マンション1階に存在する専有部分(以下、「本件専有部分」または「本件規約共用部分」といいます。)は、設計段階ではピロティであった部分に違法に建築されたとして、当該1階の専有部分を競売により取得した債務者に対して、その土地部分の明け渡しを求めた訴訟における和解(以下、「本件和解」といいます。)を発端とする事案です。本件和解においては、債務者が本件専有部分の来歴を認識せずに競売により取得したという事情も考慮して、債権者が本件専有部分を売買により取得し、一定期間、同部分を債務者に賃貸借する一方、同契約期間の満了に当たって、賃借人である債務者が本件専有部分の一部を収去する旨を合意していました(同合意は、裁判上の和解調書において給付条項として定められていました。)。本件専有部分は、債権者が同部分を取得後、管理規約上、共用部分として規定されています。

  債務者は、契約期間満了に伴い、本件規約共用部分の明け渡しは行いました。しかし、本件規約共用部分は、本件マンションの管理規約において共用部分とされていたことや、本件規約共用部分の撤去に当たっては、必然的に共用部分の破壊を伴うことから、本件規約共用部分の収去は共用部分の一部を廃止(処分)することになるため、当該収去に当たっては、区分所有者全員の承諾が必要となるとして、債権者が区分所有者全員の承諾を得ていない時点で収去義務を履行することはできないとして、その履行を拒みました。

  債権者はこれに対し、訴訟上の和解における給付義務の履行を求めるため、間接強制を申し立てました。

2.争点

  本件は、区分所有法及び民事執行法に関する重要な論点についての判断を含んでいます。

 (1) 規約共用部分の収去の要件

 (2) 第三者承認が必要な場合における間接強制の可否

3.決定要旨(申立て却下、執行抗告却下、執行抗告却下決定に対する執行抗告棄却)

  裁判所は、以下のとおり判示し、間接強制の申立を却下しました(一部抜粋、下線追記)。

 (1) 規約共用部分の収去の要件について

  「本件の間接強制によって強制される収去義務は、本件マンションの規約共用部分である1-B号と、同じく規約共用部分である1-A号との間の境界壁を取壊すこと等を内容とする。このように共用部分の一部を取り壊して収去することは、共用部分の一部を廃止(処分)することに当たるから、区分所有者全員の承諾を得て行う必要がある(建物の区分所有等に関する法律17条に規定する決議や承諾を得るだけでは足りない。)。

   したがって、本件の間接強制によって強制される収去義務の履行には本件マンションの区分所有者全員の承諾が必要である。」

 (2) 第三者承認が必要な場合における間接強制の可否

  ①「間接強制によって強制される債務の履行に第三者の承諾が必要である場合には、その承諾を得ること自体が当該債務の内容として債務者に期待されている場合を除き、間接強制を実施することはできない。

  「本件和解調書には、1-B号と1-A号との間の境界壁を取壊すこと等を内容とする収去義務に関する記載がある一方で、その収去義務の履行に必要な区分所有者の承諾に関する記載はない。また、本件和解調書の一方当事者である債権者は、そもそも上記収去義務の履行に区分所有者の承諾は不要であるとの認識を有している。これらの事情に照らせば、本件和解調書に記載された上記収去義務の内容は、その履行に必要な区分所有者の承諾を得ること自体を債務者に期待するものとはいい難い。

  ②「また、債権者は、本件マンションの区分所有者全員の承諾が仮に必要であるとしても、これは管理組合の内部の問題にすぎず、管理組合法人である債権者が本件和解調書に基づいて上記収去義務の履行を求めている以上、債務者はそのとおりに履行すれば足りる旨を主張する。しかし、管理組合法人と各区分所有者はそれぞれ独立の地位を有するから、管理組合法人が本件和解調書に基づいて上記収去義務の履行を求めているからといって、各区分所有者の承諾が不要となるものではない。

4.実務の影響

  本決定は、上記(1)について、これまで裁判例等において明確ではなかった規約共用部分の収去の適法要件について、区分所有者全員の承諾が必要であり、建物の区分所有等に関する法律17条に規定する決議では足りないことを明確にした点に意義があります。本件は、本件規約共用部分の収去が境界壁の取り壊しを伴うことを理由として、共用部分の廃止(処分)に当たり、区分所有者全員の承諾を得て行う必要があるとしており、規約共用部分だけでなく、専有部分の収去、廃止を行う場合一般にも射程が及ぶ可能性があります。

  また、上記(2)の要点については、①間接強制によって強制される債務の履行に第三者の承諾が必要な場合、当該承諾を得ること自体が債務者に期待されていない限り、間接強制を実施できないこと、②管理組合法人の意思表示をもって、区分所有者の承諾を不要とはできないこと、の2点にあります[1]

  ①については、ここでの「第三者の承諾」として想定されている内容(法令上要請される手続のみか、約定で合意される手続も含むのか。)の射程は明らかではないものの、本決定は、訴訟上の和解条項上明記されていなかった「第三者の承諾」が法令上要請されることを前提に、和解をした当時に検討されていなかった障害事由を理由に間接強制を認めませんでした。当事者間の合意等の締結に際しては、当該義務履行の障害となり得る事項の解消を誰が、どのように行うか、併せて検討しておく必要があります。

  ②については、債権者は、区分所有者の承諾はあくまで内部的な問題であると主張しましたが、管理組合(管理組合法人)による和解によって、区分所有者の承諾が不要となるものではないとしています。この点は、管理組合(管理組合法人)の代理権限、処分権限の範囲(管理組合による和解権限と当該和解の各区分所有者に対する拘束力)に絡む問題であり、区分所有法が関係する和解と各区分所有者の意思決定、拘束力との関係を考えるうえで、参考となる事案といえます。

以上

[1] 本事案で収去義務の履行が問題となった部分は専有部分との評価もありえたところで、その場合、専有部分の収去において他の区分所有者の承諾が必要かという問題が生じる事案でもあった(本判決では共用部分と認定したため争点として顕在化していない)。