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(第6回)イギリスでアフリカ社会と法を学ぶ
エチオピア(2)「エチオピアの首都で昔ながらの結婚が流行らない理由」

2025年02月14日(金)

現在、ロンドン大学東洋アフリカ研究学院に在籍している原口 侑子弁護士によるニュースレターシリーズの第6回を発行いたしました。今後も引き続き連載の予定となります。
こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。

(第6回)イギリスでアフリカ社会と法を学ぶ エチオピア(2)「エチオピアの首都で昔ながらの結婚が流行らない理由」

 

(第6回)イギリスでアフリカ社会と法を学ぶ
エチオピア(2)「エチオピアの首都で昔ながらの結婚が流行らない理由」

2025年 2月
One Asia Lawyers Group
原口 侑子(日本法)

ロンドンを拠点にアフリカの法と人類学の研究をしている私は、エチオピアの首都アディスアベバに住む20代の若い女性に話を聞きながら、アムハラ族(エチオピア第二の民族)の結婚を例に、アディスアベバの現代の結婚がどのように実施されているかどうかを探っていた。エチオピアでは結婚の選択肢は、市役所でサインをする民事婚、民族のしきたりにのっとって結婚する慣習婚、エチオピア正教の教会であげる宗教婚、さらに事実婚と、4タイプある。彼女らの答えは「アディスアベバでは慣習婚は流行っていない」ということだった。

なぜ「慣習婚」で結婚をしないか

第一の理由は、アディスアベバではアムハラ族の人口比率が高いにもかかわらず、民族を超えた結婚が多いからということだった。「アディスアベバでは民族をまたいだ結婚は一般的。つまり、1)私たちの両親自身がほかの民族と結婚しているわけなので、私たちに慣習的な結婚を強制しないし、2)私たちも他の民族のパートナーと結婚する。そのため、特定の民族のやり方に従うという社会的圧力はあまりありません」と彼女は説明した。
確かに、当初話を聞いた4人の女性は(20代半ば)は、全員がアムハラ族のハーフであり、母親か父親のどちらかがアムハラ族で、もう一方がティグライ族、オロモ族、またはグアラゲ族だった。
「アムハラ族としてのアイデンティティは重要ですが、私にとってはそれは数ある民族アイデンティティのひとつにすぎません」
「私たちにとって、慣習的な結婚は画一的な規律を意味するものではありません。それは、祖父母の世代が田舎でしていたやり方の一つに過ぎないからです」ともう一人の女性は言った。「私たちは昔ながらの結婚式を挙げることも考えますが、それは祖母に喜んでもらうためだけ。完全に形式通りにやるのは都会的なやり方ではないんです。ましてや持参金などありません。女性を商品化しているようなものだから」。

数日後、別の女性弁護士に会った際にも、彼女もこの国際的な首都における多民族性が慣習結婚の不人気さの一因だと認めた。「でも最近では、北部ティグライ戦争後のアムハラ地域での民族紛争による不安定な情勢のため、アディスでも同じ民族同士の結婚に戻ろうとする傾向があります」と、父親がアムハラ人、母親がグルゲ人、婚約者がアムハラ人の彼女は指摘しました。「ですから、おそらくそのうち、結果として慣習婚が再び流行するかもしれません。でも、まだその傾向は見られません」。

―――

世代が問題

「なぜ慣習婚で結婚しないか」の2番目の理由は世代間の問題だ。最初の世代から遠ざかるほど、慣習婚は人気がなくなるという。
最初の4人のインタビュー対象者はみな、彼女ら自身がアディスアベバに移り住んできた最初の世代ではない。うち二人は祖父母がアディスアベバに移住した3世であり、あとの二人はアディスアベバの2世だった。
「私たちにとって、慣習婚やそれを司る年長者には権威がない。故郷以外で生まれた若者たちに影響力はないんです」と、4人目に話を聞いたNGO職員は言った。
「では、あなたはどの結婚を選びますか?」と私は尋ねた。
「私は信仰心のある人間なので、パートナーも信仰心のある人を選びたいし、エチオピア正教にのっとったやり方で結婚式を挙げたい」と一人は言った。
「宗教婚は、民族を越えて他の結婚と同じくらい人気があります」、宗教は権威の欠如を埋め合わせることができると彼女は説明した。
一方で、離婚を経験した一人は便宜性を重視すると話した。
「エチオピア正教のやり方だと、例外的なケースを除いて簡単に離婚できない。私たちを含め、みんながそれを恐れていたから、私たちは最初の結婚で事実婚を選んだの」
「それが手っ取り早くて簡単だから、そのタイプを選んだ。結婚を決めたとき、私は妊娠していた。非正規婚でも、娘を養うためのパートナーシップを主張するには十分だった」

別の弁護士は、自分は市役所に行って民事婚の証明書は取るけれど、結婚式としては宗教的な結婚式を挙げると、中間的な立場を主張した。
「アディスでキャリアを持つ女性はより意識が高く、最近では結婚や出産のタイミングについて、人生のコースをより自律的に決められるようになってきています。しかし、それでも20代半ばまでに結婚しなければならないという社会的プレッシャーはあります」と彼女は言った。
離婚率やシングルマザー率が高まり、若い女性が自立しつつあるとはいえ、「20代半ばまでに結婚しなければならない」という強い社会規範がある、と社会状況を問題視する4人は声をそろえる。「年齢は非常に重要です。都市部でも、私たちは20代半ばまでに結婚するという規範の中で育てられてきた。教育を受けた女性の場合、22歳で卒業すると、親やまわりの社会が精神的に追い詰めてきます」。結婚に適した年齢は25歳から26歳くらいだと、弁護士らは声を揃えて言った。結局、慣習婚を選ばないにしても、何かしらの形で結婚を要求されるのは同じらしい。

次回はこうした話を聞く中で見えてきたフィールドワークの掟について書く。