フィリピン:政府調達に関する新施行規則
フィリピンの政府調達に関する新施行規則についてのニュースレターを発行いたしました。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。
政府調達に関する新施行規則
2025年4月
One Asia Lawyers Philippines Team
日本法弁護士 難波 泰明
フィリピン弁護士 大場 正巳
1.はじめに
2024年7月20日に成立した共和国法第12009号(以下「新政府調達法」といいます。)は、政府調達政策委員会(GPPB)に対し、新政府調達法の公布日から180日以内に施行規則(以下「IRR」といいます。)を策定するよう義務付けています。これを受けて、GPPBは2025年2月10日付でIRRを公布しました。
フィリピンにおける物品の政府調達においては、従来からフィリピン製品および国内入札者に対する優先権および優遇措置が制度的に設けられています。政府調達への参加を検討している外国企業は、新政府調達法が定める物品調達に関する現行政策を把握することが重要となります。
2.外国入札者の資格に関するIRRの規定
IRR第79条では、外国入札者の資格に関する規定が以下のとおり定められています。
(1) Tatak Pinoy(誇り高きフィリピン製)法(共和国法第11981号)の施行日から起算して10年間、かつTatak Pinoy戦略(以下「TPS」といいます。)により特定された対象セクターまたは経済活動におけるフィリピン製品およびサービスについては、調達機関は国内入札者を落札者に選定しなければなりません。
「国内入札者」とは、未加工の物品、原材料、供給品であってフィリピンにおいて生産されたもの、または主としてフィリピンにおいて生産もしくは製造された物品、原材料、供給品を提供する自然人または法人を指します。
(2) 上記の10年間の経過後は、国内製品に対する優遇措置としてTatak Pinoy評議会が定める優遇率が適用され、当該優遇率は15%を下回らないこととされています。
(3) 仮に外国入札者による最低価格の入札があった場合でも、国内入札者の入札価格が当該外国入札価格を25%以内で上回るにとどまる場合には、調達機関は国内入札者を落札者としなければなりません。この優遇率は、必要に応じてGPPBが定期的に見直しおよび調整を行うこととされています。
なお、国内入札者は、自らの入札に係る物品が主としてフィリピンにおいて生産、製造、または加工されたものであることを証する証明書を所轄行政機関から取得した場合に限り、優遇措置の適用を主張することができます。
前述の優遇措置は、以下のいずれかの事情が認められる場合には、適用が免除される可能性があります。
(a) 国内における当該物品の生産量が不足している場合、または商業的数量において供給不能である場合
(b) 要求される特定の品質を満たさない場合
(c) 優先権または優遇措置の適用が、フィリピンの条約、国際協定等における義務と抵触する結果を招く場合
(d) その他これに類する事情がある場合
さらに、IRR第VIII章では、外国入札者が物品の調達に参加するための資格要件として、以下のいずれかに該当することが求められています。
(a) 条約、国際協定、または国際行政協定により明示的に認められている場合
(b) 当該外国供給者が、その本国の法令により、フィリピンの自然人、法人または団体に対し、相互的に同様の権利または特権を認めている国の自然人、法人または団体である場合
(c) 調達の対象となる物品が、国内供給業者から調達不能である場合
(d) 公正な競争の阻害または取引制限を回避する必要がある場合
外国入札者が、フィリピン人に対して自国の政府調達における参加を認めていることを理由として適格性を主張する場合には、フィリピン国民が当該外国の政府調達活動に参加できることを示す、当該外国の所轄官庁の証明書を提出しなければなりません。
3.Tatak Pinoy(誇り高きフィリピン製)法について
Tatak Pinoy法は2024年2月26日に署名され、公布から15日後に施行されました。したがって、政府調達契約を国内入札者に授与するという10年間の期間は、おおむね2034年の第2四半期まで継続する見込みです。
TPSとは、Tatak Pinoy評議会により策定され、大統領によって承認される計画であり、国内企業の生産能力の拡大および多様化などを目的としています。TPSは、短期および長期の目標に基づいて、対象となるセクターまたは経済活動を特定した上で策定されます。
なお、前述の第2項で言及された優遇率は、調達プロセスの全段階において、原材料、成分、供給品、付属品などを含むフィリピン製品に対して適用されるものです。Tatak Pinoy法のIRRにおいては、上記10年間の終了後にTatak Pinoy評議会が優遇率を決定し、TPSにより特定されたフィリピン製品およびサービスに関する「優遇証明書」の発行に関する詳細な指針を策定することとされています。
Tatak Pinoy評議会の作業部会は、2025年3月28日に初の合同会議を開催し、複数年にわたるTPSの策定作業を開始したとされています。2025年を通じて議論が継続される見込みであり、今後の進展が期待されます。
4.企業が取るべき対応
NGPAのIRRに基づく限り、物品の政府調達については、少なくとも2034年まで国内入札者に対する厳格な優遇措置が維持されると考えられます。この間、外国入札者が物品の政府調達に参加できるのは、国内入札者または供給者が存在しない場合などに限られる可能性があるため、フィリピンにおける政府調達への参加を検討している外国供給業者は、この点を十分に考慮する必要があります。