• Instgram
  • LinkeIn
  • Lexologoy

マレーシア:マレーシアにおける不動産取得の概要

2026年01月16日(金)

「マレーシアにおける不動産取得の概要」についてニューズレターを発行いたしました。

こちらの内容は、以下のPDFでもご覧いただけます。
マレーシアにおける不動産取得の概要

マレーシアにおける不動産取得の概要

2025年8月
One Asia Lawyers Group
マレーシア担当 日本法弁護士  橋本 有輝
マレーシア法弁護士 Aalaa’ Mohd Esa

1. はじめに

観光地や投資先としてマレーシアが世界的に注目される中、不動産市場にも地元・外国を問わず多くの投資家から関心が集まっている。マレーシアの不動産市場は、住宅から商業用ユニットまで多様な選択肢があり、幅広いニーズに応える魅力を備える。
ただし、購入手続きは、特に初めての購入者にとっては複雑に感じられるかもしれない。適切な判断を行い、スムーズな取引を進めるためには、マレーシアにおける不動産購入にまつわる法的枠組みや取引手順、関係者の関与について理解しておく必要がある。
そこで、本稿では、購入時の調査(デューデリジェンス)、名義移転の仕組み、関連費用、想定される期間など、不動産取得における全体的な流れを解説する。なお、外国資本による不動産購入に関しては、別稿にて説明を行っているので、そちらを参照されたい。

2. 関連する主要な法令

マレーシアにおける土地取引は、主に国家土地法(National Land Code 1965)に基づいて規定されている。この法律は以下を規律している:

・連邦政府と州政府間の土地管理
・所有権及びその他不動産に関する権利
・売買・賃貸・抵当権設定などの不動産関連取引及び登記
・土地利用と開発
・土地収用と補償
・土地紛争とその執行

加えて、取得の性質に応じて印紙税法1949年(Stamp Act 1949)や住宅開発(規制及び免許)法(Housing Development (Control and Licensing) Act 1966)などの関連法令も適用される。

3. 不動産取引に関与する主な当事者

(1)一覧

当事者名

役割

売主・買主

売買契約の主要当事者

不動産業者

物件の選定、オファーレターの交渉支援

売買当事者の選任する弁護士

SPAの作成、土地調査、印紙税・移転書類の手続き、登記完了までの全体管理

銀行側弁護士

銀行融資に伴う書類作成、抵当権設定、銀行との連携

不動産鑑定士

物件の価値と状態を評価

税務当局(LHDN)

CKHT書類(不動産譲渡益税に関する書類)および印紙税の処理・徴収

銀行

融資の提供および支払い管理

土地局

所有権・抵当権に関する登記手続の管理

(2)売買当事者の選任する弁護士(以下、当事者弁護士)

当事者弁護士は、買主又は売主の代理人として売買契約書(Sales and Purchase Agreementの頭文字を合わせて「SPA」と呼ばれる)を作成し、すべての条件が契約書に正確に盛り込まれていることを確認し、また相手方の弁護士と交渉を行う。
また、当事者弁護士は、売買契約書の作成に加え、以下の関連文書も作成する:

・不動産譲渡益税(Real Property Gains Tax/CKHT)の申告書
・所有権移転の覚書(Memorandum of Transfer/Form 14A)
・破産していないことの法定宣誓書
・印紙税の免除に関する宣誓書(該当する場合)など

さらに、当事者弁護士は、取引の進捗状況を全体的に管理し、期限通りに手続きが完了するように調整を行う責務を有する。最終的には、物件が抵当権等の制限のない状態で買主名義に登記されるよう確実に処理を行う。そのため、買主側の当事者弁護士は買主の登録可能な権利を保護すべく、買主名義で物件に対する予告登記(caveat)を申請し、第三者への譲渡を防止し、さらに、売主側弁護士、銀行、税務当局(LHDN)、土地局などすべての関係当事者と連携を取る。
なお、売買の両当事者が1人の当事者弁護士を一緒に選任することもできる。この場合、この当事者弁護士は、買主に対して弁護士費用を請求することが一般的である。

(3)融資契約に関与する弁護士(以下、融資弁護士)

買主が銀行融資を利用する場合、銀行から融資に関与する弁護士を選任することを求められる。通常、銀行が指定するパネル弁護士の中から選任することが求められる。費用は買主が負担する。
融資弁護士は以下の業務を担当する:

・銀行所定の融資契約書の作成
・法定宣誓書(非破産証明、印紙税免除等)の作成
・抵当権設定登記(Form 16A)の準備
・予告登記(caveat)の登録(銀行の利益保護のため)
・売主銀行への残債返済額の請求および支払い調整?所有権移転後の抵当権登記完了までの一連の調整

3. 不動産取得手続きの流れ

(1)不動産の選定、デューデリジェンス

不動産を購入する際の第一歩は、購入対象となる不動産の選定である。オンラインの物件ポータルサイトを閲覧したり、不動産業者と連絡を取ったりするなどして、希望条件と予算に合致する物件を探すのが一般的である。
物件を絞り込んだ後は、売主または代理人に連絡を取り、内見の手配を行う。内見では、オンライン上の情報と実際の状態が一致しているかを確認し、提示されている価格が妥当であるかを判断する。
この段階で、物件の権利形態も確認すべきである。対象が住宅用か商業用か工業用か、または、フリーホールド(永年所有権)かリースホールド(借地権)か、土地に対して何らかの制限や抵当権、差押え(ケイベアット)が存在するか否かなどである。土地の状態を調査するためには、土地の権利証番号(タイトルナンバー)が必要となる。通常、代理人または売主は、権利証の表紙を提供し、そこにタイトルナンバーが記載されている。

タイトルナンバーが分かれば土地局又はオンラインにて、当該物件の詳細がわかる。

(2)オファーレターおよび手付金

物件の状況に納得した場合、次のステップは、売主との間で「オファーレター(申込書)」を取り交わし、購入意思を正式に表明することである。通常は、売主代理人がオファーレターを作成し、そこに提示価格が記載されている。物件に対して行った調査内容に基づき、価格交渉を行うことが可能である。また、内見時に確認した不具合については、価格交渉の材料とするか、または修繕条件としてオファーレターに明記すべきである。
オファーレター署名時には、買主は「アーネスト・デポジット」と呼ばれる手付金を支払うことが求められる。これは通常、購入価格の約3%であり、買主の購入意思を示すものである。この手付金は、代理人が保管し、後に売買契約書(SPA)が締結された際に正式に処理される。代理人が関与していない場合は、当事者間の合意により、弁護士または売主本人が手付金を保管することになる。
オファーレターには、購入価格、手付金額、条件付事項、引渡期限、修繕すべき事項その他の当事者間で合意された重要な条件が記載される。

(3)売買契約書(Sale and Purchase Agreement/SPA)

次に進むべき重要な段階が、弁護士を通じて売買契約書(SPA)を作成することである。この契約書は、オファーレターで合意された条件を基に、最終的な権利譲渡(名義変更)および物件の引渡しに至るまでの内容を規定する。SPAは法的拘束力を持つ文書であるため、当事者間で交わされたすべての重要事項を明確に記載しなければならない。
SPAには、以下のような項目が含まれるのが通例である:

・不動産の詳細(権利証、所在地、面積等)
・購入価格および支払方法
・履行期限および条件付事項(条件成就)
・当事者の義務、表明および保証
・違約時の対応、損害賠償条項、契約解除条項 等

両当事者がSPAに合意した後、署名を行い、買主は残額の頭金(通常は当初の手付金と合わせて購入価格の10%)を支払う。これにより、買主の物件に対する正式な取得権が確保される。SPAの締結後、印紙税の手続きが行われ、契約書の写しが双方に交付される。

(4)銀行からの借入に関する手続き

① 銀行からの融資
多くの場合、不動産購入に際しては銀行等の金融機関からの融資を必要とする。申請者の信用スコアが良好であることが、融資承認に不可欠である。

融資申請を行うにあたり、以下の書類の提出が一般的に求められる:
・収入証明(給与明細)
・銀行口座取引明細書
・身分証明書
・EPF(従業員積立基金)明細書
・所有している物件を賃貸中である場合は賃貸契約書
売買契約書(SPA)の写し(署名済またはドラフト)

② 物件評価
融資申請においては、申請者の信用力のほかに、対象物件の評価額が重要な要素となる。評価は、銀行が選任するライセンス登録済の不動産鑑定士(バリュエーター)によって行われる。評価基準には、物件の立地、面積、状態、及び市場動向が含まれる。

評価の結果が売買価格を下回る場合には、買主はその差額を自己資金で補填する必要がある。これは、借入者の返済不能時に備えて、銀行が担保物件から融資額を回収できるようにするための措置である。
この評価業務に対する費用は、融資申請者である買主が負担し、銀行の融資承諾書(Letter of Offer)に記載される。

③ 融資承認及び融資契約
銀行が融資を承認すると、買主宛てに「融資承諾書(Letter of Offer)」が発行され、これに署名することが求められる。承諾書には以下の内容が記載される:

・融資条件
・利率または利益率(イスラム金融の場合)
・返済方法および月額返済額
・履行条件(条件成就事項)
・銀行が求める担保書類
・遅延・不履行に対する制裁条項など

(5)所有権移転および抵当権設定に対する州政府同意(リースホールド物件)

リースホールド(借地権)物件の多くは、所有権の移転や抵当権の設定に対して州政府の同意を必要とする。この「譲渡及び抵当権設定の同意」は、通常、売買契約(SPA)における前提条件(Condition Precedent)とみなされ、州政府の同意が得られた後に、3か月の契約履行期間が開始される。
この同意申請は、対象物件の所在する州政府に対して行われる。承認までの期間は州ごとに異なり、概ね2~3週間を要する。万が一、同意が拒否された場合、売主はその正当性を記載した陳情書を提出し、州政府に再審査を求めることができる。
この申請義務は、原則として売主に課される。再申請を行っても承認が得られず、履行期間内に同意が取得できなかった場合に備え、SPA上において、当事者間で取得期限の延長もしくは契約解除に合意する条項を設けるべきである。その際、いずれの当事者にも帰責性がないことから、買主に支払われた手付金は返還される旨合意するのが一般的である。

(6)売主の既存ローンの清算(redemption)

州政府の同意が得られた後、当該物件に売主の銀行による抵当権が設定されている場合、売主側弁護士は売主銀行に対し、3か月以内の返済予定額(リダンプションステートメント)を請求する。この文書は、買主側の銀行(または現金購入の場合は買主本人及び弁護士)宛てに発行される。
買主側銀行の弁護士は、これに基づき、売主銀行への残債清算額の送金を依頼し、対価として以下の書類を受領する:

・原本の権利証
・抵当権解除証書(Form 16N)

これらを受領後、買主の弁護士は、Form 14A(所有権移転覚書)を税務当局で評価(Adjudication)に付し、印紙税を支払う。

(7)所有権の移転手続き

税務当局(LHDN)より印紙税支払証明書を取得した後、譲渡証書(Form 14A)はその他の必要書類とともに土地局に提出され、正式な所有権移転登記が行われる。これにより、売主から買主への名義変更が法的に完了する。

(8)抵当権の設定

所有権の移転が完了した後、買主が融資を受けている場合は、物件に対し買主の銀行を抵当権者としてForm 16Aにより抵当権設定登記が行われる。登記完了後、新たな権利証が発行され、銀行の弁護士は売主に対して残代金の支払いを指示する。

(9)残代金の支払いおよび鍵の引渡し

買主が残代金を売主に支払った時点で、売主は買主に対し、抵当権等の負担のない状態で物件の明渡し(空室引渡し)を行う。売買契約上、この段階で鍵の引渡しが行われ、買主は正式に物件を占有する権利を得る。

この手続は通常、当事者弁護士が管理し、鍵やアクセスカードの引渡しを取り仕切る。

5. 弁護士費用及びその他諸経費

(1)売買契約に関する弁護士費用

上記の法的業務に対して、弁護士は買主に対し報酬見積書を提示し、買主がその条件に合意する形で費用が確定される。見積書には以下が含まれる:

・弁護士報酬(Legal Fees)
・関係当局への支払を含む立替費用(Disbursement)
・税務当局(LHDN)への印紙税
・土地局への登記費用
・交通費、印刷費、通信費などの諸費用

弁護士報酬の金額は、2023年弁護士報酬命令(Solicitors’ Remuneration Order 2023)により規定されており、以下のとおりである:

【第一表/第2項(a)売買および譲渡】

価格区分

スケールフィー(報酬率)

最初のRM500,000まで

1.25%(最低RM500)

次のRM7,000,000まで

1.00%

RM7,500,000超過分

協議による。ただし最大でも1%を超えないこと

(2)印紙税

所有権移転覚書(Form 14A)に課される印紙税については、印紙法(Stamp Act 1949)に基づき、以下の税率が適用される:

価格帯

印紙税率(不動産価格または市場価値に対する%

最初のRM100,000まで

1%

次のRM400,000

(RM101,000~500,000)

2%

RM500,001~1,000,000

3%

RM1,000,000超

4%

印紙税の算出に際しては、LHDNが対象物件の市場価格を、周辺の最近の取引事例や現地調査に基づいて評価する。印紙税の課税対象額は、購入価格と市場価格のいずれか高い方となる。印紙税は、印紙局(LHDN)に支払う。

(3)融資に関する諸費用

融資に関連するすべての弁護士報酬および諸費用は、融資の借入者(買主)が負担することになる。融資弁護士から提示される費用見積書には以下が含まれる融資契約に関する法的報酬

・印紙税(LHDN)
・土地局への登録費用
・交通費、印刷費、通信費等

費用水準は、2023年弁護士報酬命令(Solicitors’ Remuneration Order 2023)第三表/第2項(c)に基づき、以下のとおりである:

【第三表/第2項(c)担保契約・融資契約等】

担保額または融資額

スケールフィー(報酬率)

最初のRM500,000まで

1.25%(最低RM500)

次のRM7,000,000まで

1.00%

RM7,500,000超過分

協議による(上限1%)

(4)融資に関する印紙税

譲渡に対する印紙税とは異なり、融資契約に対する印紙税率は固定で0.5%である。
融資契約が銀行と締結された後、契約書には印紙が貼付され、その写しが買主に交付される。

(5)譲渡益税

 印紙税および弁護士報酬のほかに、不動産譲渡益税(RPGT: Real Property Gains Tax)が課される点に注意が必要である。RPGTとは、不動産を売却して得た利益に対して課されるキャピタルゲイン課税であり、売主・買主の双方に関連する。
税率は、譲渡によって得られた利益額に対して5%〜30%の範囲で課される。ただし、売却価格が取得価格を下回る場合(損失が出た場合)には課税されない。なお、RPGTの税率は過去に何度か変更されており、常に最新の税率を確認する必要がある。
なお、実務上の留意点としては、留保金(Retention Sum)の存在があげられる。
RPGT法第21B条によれば、購入者(実務上はその弁護士)が、購入価格の3%〜5%(マレーシア国民の場合)、または7%(非マレーシア国民の場合)に相当する金額を留保金として保有する責任を負う。
この留保金は、売主に代わってRPGTの支払いとして、売買契約(SPA)の締結日から60日以内にLHDNへ納付しなければならない。LHDNによる課税評価が完了した後に余剰があれば、その余剰分は売主に返還される。一方、算定されたRPGTが預託された金額を上回る場合には、売主がその差額をLHDNに納付する義務を負う。

通常の実務では、この留保金は、売買契約署名時に買主が売主へ支払う手付金から差し引かれる。

いずれにせよ、本来譲渡によって利益を得る売主ではなく、買主が納税を代行する義務を負うという点は、特殊であるため、留意が必要である。
なお、この留保金のLHDNへの納付義務は、個人が保有期間5年未満の不動産を譲渡する場合、または会社や団体が不動産を譲渡する場合にのみ適用される。

6. スケジュール感

SPA締結から所有権移転までに要する期間は、物件の種類(フリーホールド/リースホールド)や取引の複雑さにより異なる。以下は一般的なスケジュールである:

項目

期間(目安)

デューデリジェンス・登記調査

2〜4週間

オファーレターと手付金支払い

1〜2週間

SPA署名と印紙処理

2〜4週間

州政府の同意申請(譲渡・抵当)

2〜3週間(州により異なる)

売主ローンの残債通知請求

2〜3週間

Form 14Aの印紙評価

1〜2週間

ローン残債の清算処理

2〜3週間

土地局での所有権登記

3〜5週間

SPA締結日または州政府の同意取得日から起算して、約3〜6か月を想定する。

なお、外国資本による購入は、さらに、州政府の同意が要求され、これにも数か月を要することに留意が必要である。