日本:オンライン開催の株主総会の現状と今後 「バーチャルオンリー株主総会」導入に関する中間試案をふまえて
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オンライン開催の株主総会の現状と今後
「バーチャルオンリー株主総会」導入に関する中間試案をふまえて
2026年6月吉日
One Asia Lawyers 東京オフィス
第1 はじめに
本年2月のニュースレターでも一部紹介いたしましたが、法務省法制審議会の部会において会社法の諸規定の見直しに向けた審議が進められています。翌3月に「中間試案」を取りまとめられ、4月には法務省民事局参事官室からその「補足説明」が公表されました[1]。その重要な審議事項の一つとして、会場を全く設けずにインターネット上だけで開催する株主総会(いわゆる「バーチャルオンリー株主総会」[2])を、会社法そのもののルールとして設ける案が提示されています。
本稿では、まず、現時点のオンライン株主総会がどのように規定されているか改めて見返し、中間試案を通じてどのような枠組みが議論されているのか、とりわけ非上場会社や中小規模の企業の総会実務にもどのような影響があり得るのかという観点も含めてご紹介いたします。
第2 株主総会の開催手段についての現状
1 現在の株主総会の開催形式の概要
現行法のもとでは、株主が出席して意思決定を行う株主総会の開催形式として、おおよそ下記のパターンに整理できます。 
①は従来から行われてきた、物理的な会場のみで開催する株主総会です。②以降との区別は法令等の定めによるものではなく、例えば会場において出席者の携帯端末等により簡易アンケートを行ったり、事後に当日の模様を動画提供する等②に接近する例も考えられます。
②は、現在における一般的なオンライン方式の株主総会を指すものですが、会社が物理的な会場も用意し、株主がその会場での参加を選ぶこともできる点で「ハイブリッド」と呼ばれています。そして更に、オンライン上での株主の扱いの違いにより次の二つに分かれます。
②-1 ハイブリッド参加型バーチャル株主総会
オンライン参加の株主が、審議の様子を確認・傍聴できるものとして「参加型」と呼ばれています。ウェビナーや動画配信のように一方向の共有が中心で、コメント機能等で意見や質問を投げかける機会を設けられている場合も含まれますが、採決の場面でオンライン越しに議決権を行使したり修正動議を提出することはできません。オンラインでの参加に備え、事前の議決権行使を行うことが原則となり、現在の実務において、特に上場会社を中心に活用が広がっています。
②-2 ハイブリッド出席型バーチャル株主総会
会場にいない株主も、インターネット等の手段により株主総会に会社法上の「出席」ができる形式です。こちらは、議決権の行使や質疑、動議といった株主の権利をオンライン越しに行使することができるものですが、質問はチャットやメッセージ送信等テキスト形式での提出が主流であり、動議についても会社側の議事進行の都合により会日に先立つ事前申告や会場出席での提出を要件として定めることも考えられます。
③は、全面的にオンライン形式(電話会議等も含む)とするなど、物理的な会場を設けないものを指し、「バーチャルオンリー株主総会」とも呼ばれ、産業競争力強化法(以下「産競法」といいます。)所定の要件を満たした上場会社にのみ認められています。
具体的な要件としては、株主の数が100名以上の上場会社において、通信の方法に関する事務の責任者の設置や通信障害に対する対策方針を定めること等の要件を充足し、経済産業大臣及び法務大臣の「確認」を得た上で、全面オンライン開催を可能とする旨の定款の定めを設けること等が定められています(産競法66条1項等)[3]。
2 現在のオンライン株主総会の特徴と注意点
⑴ 物理的な「場所」を定める必要
現在の会社法では、オンライン方式での株主総会の開催について直接規律する定めはなく、オンライン形式を採用する場合であっても、あくまでハイブリッド方式として物理的な会場を用意することが原則必須とされます[4]。株主総会の招集決定事項及び招集通知の記載事項、また議事録においても、それぞれ物理的な開催会場として定める「株主総会の場所」を明記することが義務付けられている点変わりありません(会社法298条1項1号、299条4項等)。
招集通知や議事録において会場を指定していない場合には、招集通知や議事録として違法となり、登記に供されるものであれば、そのままでは登記官から受理を拒まれることが見込まれます。また、開催会場を定めたにもかかわらず、実際に会社として物理的な会場を用意していなかったり実体が伴っていない場合には、行われたはずの決議自体が取消しの対象となりうることや、議事録の虚偽記載として過料(会社法976条7号)の対象となります。
ハイブリッド出席型における議決権の行使も、厳密にはオンライン上で行われるのではなく、インターネット等を介して、定められた物理的な会場に届くことで議決権を行使したものと捉えられます。そのため、会社側がその「場所」において各株主の議決権行使を適切に認識できる状態にあるか、という点が一つの基準となるように思われます。
⑵ オンライン形式による株主の権利の取扱いへの影響
ハイブリッド参加型では、当日オンライン参加の株主は議決権を行使できないことになり、定足数にもカウントできないため、事前に書面または電子投票により議決権を行使しておくことが基本となります。株主の実質的な参加の機会の向上という点では効果は限定的ともいえますが、傍聴のハードルを下げ、広く株主への情報開示を多角化する一歩としての期待が寄せられています。
これに対し、ハイブリッド出席型は、当日の議決権行使や動議等の権利行使の機会を充実させる点に意義があります。他方、実際には、上場企業のように株主の数が多い企業においてハイブリッド形式を採用している内の9割以上が参加型とされ[5]、出席型が普及しているとは言い難い状況です。オンライン出席者への対応負担、出席機会を保障するための設備面の要求も小さくなく、技術トラブルのリスクも考えると却って運用が硬直的となったり制限が設けられ、期待どおりの株主の権利行使の充実につながりにくいジレンマもあります。
また、議事運営の透明性との関係では、出席型の環境はマイナスに働く面もあります。会社によるオンライン出席者の対応は、会社側の操作画面上で処理され、株主からは見えにくく、賛否の拮抗する議題で質問が多い場合に、会社が質問を恣意的に選別していないかといった疑念を招きやすい構造があります。
⑶ 通信技術上の問題点とその決議への影響
運用上の具体的な留意点については、実務書や公的機関を始めとした各種ウェブページにおいても取り上げられていますが[6]、特にハイブリッド出席型及びバーチャルオンリー株主総会の設営において注意すべきオンライン方式特有の懸念点として、次の二点が挙げられます。
ア 通信障害のリスクと通信の即時性・双方向性
オンライン方式を採る旨定めた以上、その実質に疑いを抱かせるような通信の乱れ、障害が続けば問題となります。特に、ハイブリッド出席型では、議事録において、出席の方法として開催場所と株主との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保されている旨記載することが実務上求められています。出席株主としての権利が妨げられたと評価されうる程、通信状況に問題が生じていた場合には、決議について取消しの訴えが認められたり、程度によっては決議が法的に存在しないものとされ得るリスクも排除できません。
この点、仮に個別の株主の側の通信状況の問題であっても、当然に自己責任の問題として無視してよいものとは限りません。とりわけ、保有する株式比率の大きい株主について、通信状況に障害を生じていたため決議に参加していたと認定できないような場合や、途中で退席していることに会社が気づかずに決議を進めてしまっていた場合には、後になって定足数を満たしていなかったとの疑義が生じたり、会社側の確認懈怠が問われるおそれも残ります。
イ 本人確認
現時点の産競法に基づくバーチャルオンリー株主総会の実務として、招集通知に株主ごとのID・パスワードを発行することで本人確認とすることが一般的とされています[7]。例えば一定数以上の株主数の規模の会社において一律のURL又はID・パスワードを用いるとすると、株主のなりすましや、いわゆるサクラを呼び込んで決議の採決に際して票数の水増しを図るといったリスク、また参加型の場合であっても機微な内容を含む報告に際してURL等の流出により不特定多数が出入りしたり、安易な録音録画のリスクが生じることも考えられ、留意が必要です[8]。
また、ハイブリッド出席型や全面オンライン方式での株主総会において、事前の議決権行使を経て総会当日の採決においても賛否が拮抗したような場合には、事前の議決権行使分から、当日採決の参加者分を差し引いて集計する必要があります。会社側として当日採決に加わった株主につきそれぞれ確実かつ容易に照合できるよう、予め出席者を紐づけて把握していることが前提となります。普段からそのような管理を行っていない場合には、仮に株主から集計の正確性について疑義を呈されて決議の有効性が争われた際に不利に働きます。
3 なぜ全面オンラインの導入が問題となりうるのか
以上、物理的な会場のみで開催する場合との区別という観点で、オンライン形式の特徴と注意点を取り上げました。
それでは、なぜ、ハイブリッドとしてオンライン形式が許されているにもかかわらず、株主総会の度に「場所」について定めて物理的な会場を設けなければならないのでしょうか。なぜ、場所を設けずに全面的にオンラインとするバーチャルオンリー株主総会を行うことが違法となり得るのでしょうか。理由として、物理的な会場の意義に関し大きく二つの面が考えられます。
① 株主の出席方法の保障としての面
株主総会がオンラインのみの出席形式に指定されることで、株主としては物理的会場を通じた出席という参加の選択肢が減ることになります。インターネット等通信技術について相対的に不慣れな株主は、株主としての権利の行使、極端な例では会社による恣意的な操作に対する抵抗に際して、不利な立場に立たされることとなります。また、対面での質問や直接のコミュニケーションを取る機会が減少する点、株主によっては会社に対する関心やコミットメントを薄める方向に働くことも否定できません。
② 透明性担保としての面
物理的な会場があれば、通信障害等、株主総会の運営が妨げられた場合も、会場で議事を見守る株主の存在(又は途中から現れる潜在的可能性)により、会社の議事進行に一定の監視と抑止力が働く余地があります。また、個々の株主にとって、通信障害が自分側の原因か会社側の原因か即座に判断したり、記録を残して株主間で検証することも必ずしも容易でなく、会場からの視点という基準点があること自体、検証に資するものです。
バーチャルオンリー株主総会の導入の議論では、ハイブリッド形式にも共通するオンライン化一般のメリットが強調されがちです。しかし、株主としての利益の観点では「なぜハイブリッドでは足りず、全面オンライン化が必要なのか」という問いに対する答えが必ずしも力強いものではありません。株主側としては、オンラインか現地かという選択の幅が狭まる一方で(その意義の程度は場合によるものの)、直接的な利益が見出しにくいためです。
他方、会社にとっては、利点は明確です。まず第一に、会場設営費用をカットできること、第二に、議事進行におけるアクティビスト等による不規則行動について、物理的な対応を迫られるリスクや負担が避けられ、客観的な必要性が認められればボタン一つで発言をミュートしたり、メッセージでの質問に定型文の回答のみで済ませる等、少ない負担で効果的に対処できる点に大きな魅力があります。しかし、株主に対して権利制約と見られるおそれや技術的な抜け道により悪用される懸念が拭えなければ、設備準備や対応上の負担と相まって、導入に二の足を踏む企業も出てくることとなり、制度としての信頼を欠いて本末転倒と言わざるを得ません。
そのため、効果的でわかりやすい法整備が求められてきたところですが、これまでは産競法により、厳しいコンプライアンスの課される一部の上場会社に限り、様々な角度から要件を課した上で、経済産業大臣及び法務大臣の「確認」を要する設計とされ、試験的に導入の検討が積み重ねられてきたものともうかがわれます。
第3 中間試案における構成と今後の議論の方向性
1 「バーチャルオンリー株主総会」導入の議論
今般の会社法改正の中間試案は、バーチャルオンリー株主総会につき、おおよそ2、3か月程度要すると言われる経産省及び法務省の上記確認手続を不要とし、通信設備(ウェブ会議等)設営の責任者の設置や通信障害の対策方針の策定等の産競法上の要件も緩和した上で、上場会社だけでなく、非上場会社、非公開会社についても対象とする選択肢を提案しています。具体的な要件としては、概ね次の方向で検討されています。
⑴ 実施要件等
まず前提として、次の三つの基本的な実施条件が提示されています(試案第1の1)。
ア 定款において、株主総会の場所を定めずに開催できる旨定めること
全面オンラインの開催も可能とする定款規定を設けるもので、会場開催によらないことについて株主の意思を問う趣旨とされます。なお、これに対しては、少数株主に対し会場での開催を求める請求権を付与する場合には定款規定不要とする案も検討されています。これに関しては、原則として株主において会社に会場での総会開催を当然に求めることはできないものとする規定が別途提示されています(試案第1の5)。
イ 即時・双方向の通信手段を用いること
ウェブ会議システムや電話会議システムの他、ライブ配信とメールなど複数の媒体を組み合わせることも含まれます。「合理的に必要と認められる範囲で」との留保が付され、議事に大きな影響のない通信遅延等を問題視する趣旨ではないことが示されています。
ウ オンライン参加に支障のある株主への配慮
インターネット利用等に支障のある株主(いわゆる「デジタルデバイド」の問題[9])について、下記のいずれか1つを採用することが義務付けられるとされます。
| 措置 | 対応株主数との適性 |
| ① 出席に必要な通信機器の貸出し | 株主が多くない会社 |
| ② 通信障害発生時等含め代替手段(電話等)も設けること | 株主が多くない会社 |
| ③ 書面による事前の議決権行使を可能とすること | 株主が多い会社 |
| ④ 上記①~③を採らないことについての株主全員の同意 | 株主が少ない会社 |
⑵ 手続上の義務
これに伴い、必要手続として、概ね次のような対応が求められます(試案第1の2)。
・招集決定及び招集通知に際して、全面オンラインを行う旨や通信方法等所定の事項を加え、議事録にもその一部を記載すること
・当該株主総会の議事における通信履歴、通信内容についての「通信記録等」を残し、総会開催後も会社が一定期間保存し、株主に閲覧又は謄写の機会を与えること
特に通信記録の内容については、中間試案の注において、会社側の運営について株主が争う場合の事後検証に資するよう、株主の出退席状況や質問・動議の対応状況、議決権行使状況等が例示されています。
産競法において求められている責任者の設置や対策方針の策定等は要求されていないため、いわば一般的な企業においても、対応できる程度の通信履歴、内容等の保存が求められるものであり、部会では、会社側の議事進行にかかるウェブ会議画面を録画して保存することが例として言及されています。また、通信記録等の保存がたまたま失敗したり何かの拍子に削除されてしまった場合については、過料が課され得ることで抑止が図られているようですが(会社法976条8号。補足説明36頁)、それ自体で決議の効力には影響しないものと想定されており、会社側の負担としてそれほど大きいものとならないよう見込まれています。
⑶ 通信障害による決議への影響
ア セーフハーバールールによる一定条件下での決議取消事由の限定付け
ハイブリッド出席型では、会場での出席が保証されている以上、株主が自らの選択でオンライン参加を選んだという面があり、通信障害も一定程度は甘受すべきという要素がありました。これに対しバーチャルオンリー形式の場合は参加方法がオンラインに限定されるため、総会運営体制としての通信基盤について相対的に会社側の責任が重くなると見る余地があります。特に、株主が会社に対する訴訟を通じて、当該総会で行われた決議について、会社の責任違反による違法等により取消しを求めて争う場合の、裁判所の判断基準や考慮事情に影響がある可能性があります。
この点で、中間試案においては、産競法の場合のように通信障害の対策方針の策定や事前の対応措置を必須とするといったことまでは求めず、ハードルを下げながらも、適切な措置を講じるよう誘導する形に設計しています。その中心が、「セーフハーバールール」と呼ばれる、通信障害対策の担保による決議の取消事由の限定について定めた特則です。
基本的な考え方としては、会社が合理的に必要な範囲で通信障害への備え(対策措置)を行っていれば、通信障害で決議の方法に法令・定款違反が生じても、①同社の故意又は重大な過失で通信障害が生じた場合か、又は②その違反が決議の結果に影響を及ぼすようなものである場合に、決議の取消事由が限定される形となります[10]。
ここで前提とされる対策措置とは、例えば、多くの株主が同時に接続しても十分な通信速度を保てるよう余裕をもった回線を確保すること、回線やシステムを二重化しておくこと、障害時の代替手段として複数回線・Wi-Fi・電話などを用意し、実際に障害が起きたときにそれを使うこと等が想定されています。あくまで「合理的に必要と認められる範囲」での備えが求められ、具体的な線引きは引き続き検討を要するものとされています[11]。
イ 通信障害が生じた場合の議長判断による総会の延期・続行処理
なお、議事に著しい支障となる通信障害が生じた場合には、議長判断において、当該総会の延期又は続行とし、招集手続を省略して、後日総会を開き直すことができるよう、事前に決議を行うことができる旨も定められています(中間試案第1の4)。仮に各株主総会に際しての事前の議決権行使書面においても記載し、投票しておくことができるのであれば、毎回の招集決定事項や議決権書面の必須記載議案として一般化し、株主総会の冒頭においても決議が行われる定例事項となることが予想されます[12]。
2 既存のハイブリッド形式における規制強化の有無
中間試案の提案として上記各点のうち、定款規定義務やインターネット利用に支障のある株主への配慮措置等はバーチャルオンリー方式特有のものとしつつ、招集決定や通知の要記載事項や議事録への記載事項の追加については、既存のハイブリッド出席型にも適用するものとして提案されています。こうした手続事務上の規制が付加される限りでは、既存のハイブリッド形式への影響もそれほど大きいものとは思われません。ただ、上記のとおりセーフハーバールールの導入により、却って会社側が通信障害に備えた措置を採っていない場合の過失判定につき相対的に厳しく見られる可能性も考えられます。
この中間試案の提示やそれに至るまでの部会の議論等により、既存のハイブリッド形式との関係でも、会社側により通信障害が発生して議決権行使に支障が生じた場合に決議取消を求められるリスクについて幾分コンセンサスとして提示されたものとも見えます。決議の取消しを求める株主の側としては、立証のハードルは相当高いものと思われますが、会社側としては、故意又は重過失により通信障害を生じさせないことは勿論、その過失評価の関係でも、現時点で可能な限り通信障害への対策措置を講じておくことが望ましいと言えます。
なお、通信記録等の作成、保存、謄写の機会等は既存のハイブリッド形式の関係では求めない方向で提示されていますが、部会ではこれらを対象とすべきとする意見もあり、特に中小企業の関係でどこまで求めるか今後の議論次第となります。そもそも非上場会社の関係では中間試案の段階で具体的な今後の検討事項が示されていない面が大きく、議論の展開によっては不透明ともいえ、引き続き注意を要します。
3 その他の実務への影響
中間試案では、社債権者集会についても、株主総会との性質の違いを踏まえ、基本的に同様の規律をベースとしつつ、より緩和した形でバーチャルオンリー形式での開催を可能とすることを提案しています(試案第1の7)。
この他、中間試案において別途検討されている株主総会資料の電子提供措置の書面交付請求制度の見直し(廃止)なども、バーチャルオンリー株主総会の規定ぶりの検討に影響があるとの指摘もあり、インターネットやデジタル形式の媒体の活用が株主の権利保障との関係で法整備されるに従い、その規定ぶりについて相互に一定の影響が認められたり、参照されることも少なくないものと思われます。
他方で、バーチャルオンリー株主総会の規定の議論は、あくまで株主としての経済的利害及び権利関係に基づく意思決定機関としての総会設計という土台の上に成り立つもので、例えば個人として委任される役員らによる取締役会におけるオンライン方式の利用を直接参照したり、各種組合や一般法人等異なる組織構成の機関への影響については、それぞれの性質や要素に基づいて個別的に検討を要するものといえ、当然に影響が及ぶものということはできません[13]。
4 今後の議論の方向性
中間試案の中でも、特にこのバーチャルオンリー株主総会の事項においては、なお引き続き検討するとされている点が少なくありません。中でも、作成・保存等の義務として求められる総会の通信記録の内容、決議取消事由の限定のために求められる通信障害の事前対策措置の基準とその効果、そして既存のハイブリッド出席型への規律の有無とその範囲について、重要な議論でありつつ容易に答えが出ないようにも思われます。
この他留保の置かれていない事項についても、規定ぶりとして曖昧さが残るものも少なからずあり、今後の部会審議を通じて、中間試案の設定から大きく異なる規定ぶりに変更されることや、今回の審議会では採用を見送るか要件を更に狭めて対象範囲を絞って導入するといった可能性も残っています。
特に、非上場会社や中小規模の会社にも適用を考えた場合には、特有の異なる事情について十分な検討と適した手当が求められるところ、中間試案や同補足説明ではそのような具体的な言及や場合分けの規定は殆ど表れず、今後の議論の展開次第とはいえ、産競法上の積み重ねもないため、容易ではないように思われます。
第4 おわりに
中間試案は、全面オンライン形式の株主総会について、産競法上の要件から大きく緩和する方向で、また上場会社以外にも広げる方向を示すものですが、本稿で見たとおり、物理的な会場が不要となることについて、株主、会社双方から見ても、必ずしも楽観視できるものとは言えません。株主の出席方法の保障や運営の透明性という観点からの検討には、なお詰めるべき点が残され、会社法上の制度として信頼を備えたものとなるか、今後の法制審議会の部会審議にかかる点もなお大きいものと考えます。特に上場企業関係者には早期の導入を求める声も強く、上場規則等関係規制によるコンプライアンスを支えとしてこのまま上場会社のみを対象とし、中間試案の規定ぶりから大きな変更なく法整備へ進む可能性もありますが、その場合にも会社法の改正として行う必要がどこまであるのかといった根本的な疑問も出てくるのではないでしょうか。
当事務所では引き続き、中間試案に対するパブリックコメントの結果、そして法制審議会での今後の審議の動向を注視し、会社法改正に向けて変化があり次第続報をお届けしてまいります。
[1] 「会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する中間試案」(https://www.moj.go.jp/content/001460088.pdf)、「会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する中間試案の補足説明」(https://www.moj.go.jp/content/001460089.pdf)。
[2] 「バーチャル」株主総会としては、インターネット以外にも電話会議形式が考えられるとされ他の媒体も排除しないこと、またインターネットにおいてもウェブ会議方式の他、メールやチャット、動画配信等多様な方法を組み合わせることが考えられることなどから、単に「オンライン」株主総会という呼称を避けているようにも思われますが、本稿では原則として、バーチャル、オンラインいずれも相互互換的な形で使用しております。
[3] 要件の詳細については、経済産業省ウェブページ「場所の定めのない株主総会(バーチャルオンリー株主総会)に関する制度」
(https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/keizaihousei/corporategovernance/virtual-only-shareholders-meeting.html)、特に図的にまとめられたものとして、同省「制度説明資料」(令和8年5月1日改訂)
(https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/keizaihousei/pdf/260501_explanatory-material_vset.pdf)、また「確認」にあたっての基準については「産業競争力強化法第66条第1項に規定する経済産業大臣及び法務大臣の確認に係る審査基
(https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/keizaihousei/pdf/virtual-only-shareholders-meeting_review-standard.pdf)。
[4] 会社法施行規則72条3項1号括弧書きにおいて、総会議事録の記載事項として、開催場所の記載が義務付けられているものの、当該総会が開催された「場所に存しない取締役」や「株主が株主総会に出席した場合における当該出席の方法を含む」といった記載から、オンライン方式による出席を許容する趣旨として解されています。
[5] 全国株懇連合会「2025年度全株懇調査報告書~株主総会等に関する実態調査集計表~」(https://www.kabukon.tokyo/data/data/research/research_2025.pdf)によれば、1000人以上の株主を抱える上場企業が殆どとなる国内1446社の内、ライブ配信を含むバーチャル株主総会を実施した会社は23.5%、そのうち殆どがハイブリッド参加型による開催とされ、ハイブリッド出席型の開催は、産競法の確認を得たものと思われるバーチャルオンリー総会を実施した会社の数を下回り、全体の1%程度(それぞれ16社、18社)とされています。電子投票等議決権行使の活用もあり、この比率を直ちにオンライン方式の株主総会の需要の程度として見るべきとは言えませんが、ハイブリッド参加型と同出席型の比率の大きな差については、引き続き検討を要するものといえます。
[6] 例として、経済産業省「ハイブリッド型バーチャル株主総会実施ガイド」(令和2年2月26日付)(https://warp.ndl.go.jp/web/20240106051233/www.meti.go.jp/press/2020/02/20210203002/20210203002-1.pdf)、また同「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド(別冊)実施事例集」(令和3年2月3日付)については内閣府のウェブページに現在も掲載されています(https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/seicho/20210212/210212seicho09.pdf)。
[7] 田中亘、森・濱田松本法律事務所編「株主総会の理論と実務」(有斐閣,2025)464頁〔河島勇太=白岩直樹〕。この他にもブロックチェーン技術の活用や、事前登録制の利用も用いられており、各企業の裁量によって工夫が凝らされています。
[8] こういった比較的漠然とした情報技術の潜脱的な悪用に対する不安や担当責任者の負担感も、オンライン形式の利用を妨げている要素となっている節があります。極端な例としては、顔見知りの少人数の株主の会社において、カメラ映像をオンにすることで本人確認を不要としている会社など、ディープフェイク技術の悪用といった余地が残ったり、逆に会社側が自らに賛同するサイレントマジョリティとしての株主らの存在を偽装するなど、猜疑心が膨らめばキリがないとも言えます。
[9] 株主の参加する権利を保障するためのものと見られますが、このオンライン形式での参加に支障のある株主の権利、より正確には、「株主総会の議事における情報の送受信に用いる通信の方法としてインターネットを使用することに支障のある株主の利益を確保する」としていますが、このデジタルデバイドは、恒常的にインターネットの使用を苦手と言える方や、自宅のインターネット環境の問題等により、事前に申告できる方を想定されたものといえます。例えば、当日に至って瞬間的にトラブルが発生した場合の対処を想定しているとは捉えにくく、程度問題や状況次第というよりも、属性として二者択一的に設定している形となり、限られたグループを想定されている点で注意を要します。各株主が自身のデジタルリテラシーをどこまで客観的に捉えられるものと期待されているのかという点で単に自己申告すべき責任として基礎づけられるのか、また、会社側の視点では、株主総会参加にあたって通信上のトラブルが発生した株主から会社側窓口に相談があった場合に、会社としてどこまで対応しなければならないか、当日の対応は一律に不可と断ることも(例えば単にキリがないからという理由で)許されるかいった点も議論の余地があるものと思われます。
[10] 元々の案では、①と②の両方を充足することが決議の取消請求に求められる設計になっていたところ、①又は②だけでも、取消事由に該当するよう拡大された経緯があります。②の要件充足は実質的には既存の決議の取消判断において求められているものと大きく変わらないように捉えられる余地もあり、セーフハーバールールの規定を設けたとしてどれほど実質的な意義を持つことになるか、今後の更なる議論や規定ぶりの検討が待たれるところです。
[11] 中間試案第1の3(注1)では、通信障害対策措置につき、セーフハーバールール適用の要件ではなく、バーチャルオンリー方式導入自体の実施要件とする可能性も留保されていますが、具体的な線引きを行うことが容易でないことを考えると、裁判所において会社側の責任や過失評価との兼ね合いで個別的な実体判断を行う方が親和性が高いようにも思われます。
[12] 前述のとおり、通信障害の発生について、株主の側で会社による故意又は重大な過失の立証のハードルが高いため、会社側において議事進行上都合が悪くなったと判断した場合に延期とすべく悪用するようなおそれを排除できるのか、特に非上場会社、中小規模の会社において若干不安が残ります。
[13] 例えば、取締役会や法人の理事会においては、即時かつ双方向で議論できる環境であることを前提として全面的にオンラインで開催することも広く許容され(2002年12月18日付法務省民商第3044号民事局商事課長回答等参照)、議事録の開催場所についても、実務上、議長の所在場所を記載することで足りるとされています。また、商工組合や協業組合については、産競法改正と同時期の2021年5月14日に中小企業等共同組合法施行規則、中小企業団体の組織に関する法律施行規則が改正されたことで、バーチャルオンリー型の総会が開催可能となりました。これに対し、一般法人法の関係では、詳細は不明であるものの、一般財団法人の評議員会の決議につき、物理的な会場を設けずにバーチャルオンリー形式で行われたとされ、一般法人法に反する違法な決議として取消しを認めた裁判例があります(東京地判令和8年4月7日未公刊。同日付共同通信(https://www.47news.jp/14117598.html))。
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