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オーストラリア:オーストラリアにおける新たな不公正取引慣行規制の導入について

2026年09月14日(月)

「オーストラリアにおける新たな不公正取引慣行規制の導入について」に関するニューズレターを発行いたしました。こちらの内容は以下のPDFからもご覧いただけます。
オーストラリアにおける新たな不公正取引慣行規制の導入について

オーストラリアにおける新たな不公正取引慣行規制の導入について

2026年9月吉日
One Asia Lawyers Group
オーストラリア・ニュージーランドチーム

1. はじめに

オーストラリアでは、2026年7月6日、Competition and Consumer Amendment (Unfair Trading Practices) Act 2026 (Cth)(以下「本改正法」といいます。)が国王裁可(Royal Assent)を受けました。本改正法は、Competition and Consumer Act 2010 (Cth)(以下「競争・消費者法」といいます。)別表2に規定されるオーストラリア消費者法(Australian Consumer Law。以下「ACL」といいます。)を改正し、消費者保護に関する3つの新たな規制を導入するものです。

本改正法は、その全体が2027年7月1日に施行されます(本改正法第2条)。すなわち、企業には約1年間の準備期間が与えられていることになります。
導入される規制は、①不公正取引慣行の禁止、②ドリップ・プライシング(段階的な料金表示)の規制、および③サブスクリプション契約に関する規制の3つです。本稿では、オーストラリアの消費者に商品またはサービスを提供する日系企業の実務に影響し得る点を中心に、その概要を解説します。

2. 不公正取引慣行の禁止(ACL新第28B条)

本改正法は、ACL第2章に新たに第2-4部を設け、事業者が取引または商業において不公正取引慣行(unfair trading practices)を行うことを禁止しました(ACL新第28B条第1項)。
不公正取引慣行とは、消費者に対する商品またはサービスの供給またはその申出に関連して、以下の①および②の双方を満たす行為をいうと定義されています(同条第2項)。

  • ・消費者を操作し、または消費者が意思決定を行う環境を不当に歪めること、あるいはそのおそれがあること
  • ・消費者に対し損害(財産的か否かを問いません。)を生じさせ、またはそのおそれがあること

同条第6項は、不公正取引慣行に該当し得る行為の例として、以下を列挙しています。

  • ・消費者による法的権利の行使または救済の申立てを妨げること
  • ・消費者に対し重要な情報を開示しないこと
  • ・重要な情報を、複雑、非効果的、不明瞭、不可解、多義的、不適時または過剰な方法で開示すること
  • ・デジタル・インターフェースにおける設計要素の使用を含め、消費者に不当な圧力を加え、または消費者の意思決定もしくはその実行を妨げる環境を作出すること

第4号は、いわゆる「ダークパターン」を正面から規制対象とするものです。従来のACLは、誤認惹起行為(misleading or deceptive conduct)と非良心的行為(unconscionable conduct)の間に規制の空白があると指摘されてきましたが、本規定はこれを埋めるものと位置付けられます。

(参考)ダークパターンとは
ダークパターン(dark patterns。欺瞞的パターン(deceptive patterns)とも呼ばれます。)とは、ウェブサイトやアプリ等の消費者向けインターフェースおよび選択肢の設計(choice architecture)において用いられる、主としてデザインに関する要素であって、消費者の意思決定や行動を歪め、損ない、または操作し、消費者の自律性を損なうものをいいます。人の認知的・行動的バイアスを利用して、消費者が本来であればしなかったであろう行動をとらせる「トリック」と説明されることもあります(財務省(Treasury)「Unfair trading practices – Consultation on the design of proposed general and specific prohibitions」(2024年11月)9頁)。
同ペーパーは、OECDの分類に従い、ダークパターンを以下の7類型に整理しています(同29頁)。

  • ・強制的行為(forced action:特定の機能を利用するために、会員登録や必要以上の個人情報の提供を強いるもの。
  • ・インターフェースの干渉(interface interference:情報の見せ方(フレーミング)や初期設定(デフォルト)を利用して、事業者に有利な選択肢に誘導するもの。事前にチェックされたオプション欄などが典型です。
  • ・ナギング(nagging:通知や位置情報の許可など、事業者に有利な行為を繰り返し求めるもの。
  • ・妨害(obstruction:加入や設定変更は容易である一方、解約やプライバシー保護的な設定への変更を意図的に困難にするもの(いわゆる「サブスクリプション・トラップ」)。
  • ・こっそり型(sneaking:費用などの意思決定に関わる情報を隠し、偽装し、または開示を遅らせるもの。チェックアウトの後半で初めて手数料を表示するドリップ・プライシングはこの類型に当たります。
  • ・社会的証明(social proof:「他の消費者が今購入しました」といった通知や体験談により、他者の行動に基づく判断を誘発するもの。
  • ・緊急性(urgency:「残りわずか」「あと○分で終了」といった在庫僅少表示やカウントダウン・タイマーにより、時間的・数量的な制限(真実か否かを問いません。)を課して購入を急がせるもの。辞退の選択肢に「いいえ、割引はいりません」等の表現を用いて罪悪感を抱かせる「コンファームシェイミング(confirmshaming)」も、不当な圧力の例として挙げられています。

同ペーパーは、個々のダークパターンは単独では消費者の選択を不当に歪めるものとはいえない場合があるものの、複数の手法が組み合わされることにより、消費者がこれを認識し回避することが著しく困難になると指摘しています(同10頁)。新第28B条第6項(d)が「デジタル・インターフェースにおける設計要素の使用を含め」と明記しているのは、こうした議論を受けたものです。

もっとも、本規制の適用対象は個人の消費者に限られており、消費者が法人である場合、および供給が消費者の事業の遂行の過程で行われる場合には適用されません(同条第3項および第4項)。これらの除外に依拠する当事者は、当該事項について立証の負担を負います(同条第5項)。

 3. ドリップ・プライシング規制(ACL新第48A条)

本改正法は、ACL第3-1部第4節に新第48A条を追加し、通常、個人、家庭または世帯での使用または消費のために取得される商品またはサービスについて、基本価格(base price)を表示する事業者に対し、取引ベース手数料(transaction based charge)に関する情報の併記を義務付けました(同条第1項および第2項)。
開示が必要となる情報は、①当該手数料の額(算定できない場合はその算定方法)、②取引ごとに課される手数料である旨、③当該手数料が支払われるべきものか否か、および④表示された基本価格に当該手数料が含まれているか否かです(同条第2項)。
これらの情報は、基本価格が表示されている間、判読可能かつ目立つ形で、明確に、基本価格に近接した位置に表示しなければなりません(同条第3項)。同条には、この義務が基本価格を表示するたびに適用され、購入手続の段階ごとに基本価格および表示すべき情報が異なり得る旨の注記が付されています。したがって、チェックアウトの全工程が規制の対象となります。
取引ベース手数料とは、購入者が支払うべきものであって、商品またはサービス自体の対価ではなく、かつ商品またはサービス自体の対価と同時に支払われる手数料をいいます(同条第7項)。他方、①購入者の任意による手数料、②競争・消費者法第IVC部にいう決済サーチャージ、および③供給者に課される租税、関税、手数料または賦課金は、取引ベース手数料に該当しません(同条第8項)。なお、申出が法人のみに対して行われる場合には、本条は適用されません(同条第4項)。

 4. サブスクリプション契約に関する規制(ACL新第3-1部第4A節)

本改正法は、ACL第3-1部に新たに第4A節を設け、サブスクリプション契約に関する規制を導入しました。
サブスクリプション契約とは、除外契約に該当しないもので、以下のいずれかの類型に当たる契約をいいます(ACL新第48B条)。

  • ・無期限型:期間の定めなく継続的に供給が行われ、自動的に支払義務が発生し、かつ相手方に契約終了権があるもの(同条第2項)
  • ・固定期間型:一定期間の供給後、当事者が供給を停止しまたは契約を終了しない限り供給が継続し、自動的に支払義務が発生するもの(同条第3項)
  • ・無料期間型:当初の一定期間は無償で供給され、その経過後に自動的に支払義務が発生するもの(同条第5項)
  • ・割引期間型:当初の一定期間は低い料率で、その経過後に自動的に高い料率での支払義務が発生するもの(同条第6項)

賃貸借、不動産に関するライセンス、割賦購入契約、分割払契約、保育サービス契約および就学前・初等・中等教育に係る授業契約等は、除外契約とされています(ACL新第48C条第1項)。

事業者が負う義務は、以下の3つに整理されます。

  • ・事前開示義務:締結されればサブスクリプション契約となる契約の申出を行う際、その旨および支払義務、契約期間、更新・延長、終了に要する通知、終了の方法に関する情報を開示しなければなりません(ACL新第48D条)。開示は、契約締結の合理的期間前に理解可能かつ聴取可能で明確な方法により行うか、または契約締結の意思表示を行う箇所の近接した位置に判読可能かつ目立つ明確な形で行う必要があります。
  • ・継続的情報提供義務:下位規則で指定されたサブスクリプション契約について、契約期間中、指定された時期に、指定された情報を判読可能かつ目立つ明確な方法により加入者に提供しなければなりません(ACL新第48E条)。具体的な内容は今後の下位規則に委ねられています。
  • ・容易な解約手段の提供義務:加入者が契約を終了する手段を提供し、当該手段が容易に発見でき、簡明であり、契約終了および加入者の利益保護のために合理的に必要な手続のみを求めるものとしなければなりません。また、加入者がオンラインで契約を締結した場合、または事業者が同種の契約についてオンラインでの締結手段を提供している場合には、終了手段の一つをオンラインで提供しなければなりません(ACL新第48F条)。

特筆すべきは、継続的情報提供義務および容易な解約手段の提供義務が、個人消費者に加え、小規模事業者である加入者にも及ぶ点です。ここでいう小規模事業者とは、標準契約書式による契約において、従業員数100名未満、または直前の所得年度の売上高が1,000万豪ドル未満のいずれかを満たす加入者をいいます(ACL新第48G条第2項)。なお、標準契約書式に該当する旨の主張がなされた場合、相手方が反証しない限り、これに該当するものと推定されます(ACL新第48H条第1項)。
また、本改正法は、第4A節の施行後2年間の運用について、担当大臣が見直しを行い、当該2年経過後6か月以内に報告書を作成し、国会に提出しなければならない旨を定めています(本改正法別表1第3部第21項)。

5. 罰則

新第2-4部(不公正取引慣行)違反に対する民事制裁金の上限は、法人については、①5,000万豪ドル、②違反により得られた利益の額が算定できる場合には当該利益の額の3倍、③当該利益の額が算定できない場合には違反期間における調整後売上高(adjusted turnover)の30%のうち、最も高い額とされています(ACL第224条第3項の表の第2B項および同条第3A項)。法人以外の者については250万豪ドルが上限です。
これは、非良心的行為や誤認惹起行為など、ACL上最も重大な違反類型と同水準の制裁金であり、③の算定基準がグループ全体の売上高を基礎とし得ることから、グローバルな売上規模が制裁金額を押し上げる可能性がある点に留意が必要です。
また、第2-4部違反については違反通告(infringement notice)の対象ともされ、その額は、上場法人については600ペナルティ・ユニット、上場法人以外の法人については60ペナルティ・ユニット、法人以外の者については12ペナルティ・ユニットとされています(競争・消費者法第134C条の表の第1A項)。ペナルティ・ユニットの額はCrimes Act 1914 (Cth) 第4AA条により定められており、2026年7月1日以後の違反については1ペナルティ・ユニット=364豪ドルです(ASIC「Fines and penalties」による。2026年6月30日以前は330豪ドル)。これを当てはめると、違反通告の額は以下のとおりとなります。

  • ・上場法人:600ペナルティ・ユニット=218,400豪ドル
  • ・上場法人以外の法人:60ペナルティ・ユニット=21,840豪ドル
  • ・法人以外の者(個人事業者等):12ペナルティ・ユニット=4,368豪ドル

ペナルティ・ユニットの額は2026年7月1日を起点として3年ごとに消費者物価指数に連動して改定されるため(同法第4AA条第3項)、本改正法の施行日である2027年7月1日時点では、法改正がない限り上記の額が適用される見込みです。なお、違反通告は、ACCCが裁判手続を経ずに発することができる制度であり、上記の額を支払えば当該違反について裁判所での手続は行われませんが、支払は違反の認定や自認を意味するものではありません(競争・消費者法第134F条)。裁判手続による民事制裁金の上限は前述のとおりであり、違反通告の額とは桁が異なる点にご留意ください。

6. 適用関係

不公正取引慣行の禁止(ACL新第28B条)は、施行後に行われた行為に適用されます。供給またはその申出が施行前に行われたものであっても、行為が施行後であれば適用対象となります(ACL新第311条)。
サブスクリプション契約に関する規定のうち第48B条、第48E条および第48F条は、施行後に締結された契約に適用されます。施行前に締結された契約には適用されませんが、施行後に更新、延長もしくはその他の方法で継続された場合、または(更新等がされていない場合において)変更された場合には、その効力発生日以降、当該契約に適用されます(ACL新第312条)。したがって、既存の継続的契約についても、更新時期の到来により順次規制の対象となることになります。

7. 日系企業における実務上の留意点

ACLは、オーストラリアに関連する取引または商業上の行為に適用されるため、ウェブサイト、アプリケーションまたは越境Eコマースを通じてオーストラリアの消費者に販売を行う外国企業も規制の対象となります。2027年7月1日の施行までに、以下の対応を行うことが推奨されます。

  • ・デジタル・インターフェースおよびユーザー導線の監査:サインアップフロー、チェックアウトプロセスおよびアプリケーションの設計を見直し、操作、不当な圧力または妨害と評価され得る要素がないかを確認することが必要です。他の法域では許容されている設計であっても、新第28B条に違反する可能性があります。
  • ・価格表示の全面的な見直し:価格が表示されるすべての箇所において、回避不可能な手数料を基本価格に近接して開示する必要があります。購入手続の後半段階で初めて手数料を提示する運用は、ドリップ・プライシング規制が特に対象とするところです。
  • ・サブスクリプション契約のライフサイクルの再設計:自社の商品またはサービスが4類型のいずれかに該当するかを評価したうえで、事前開示、継続的な情報提供、および真に容易な解約手段(オンライン申込みに対応したオンライン解約経路を含みます。)を整備することが必要です。
  • ・小規模事業者顧客への対応の拡大:オーストラリアの小規模事業者と標準契約書式によるサブスクリプション契約を締結している場合には、個人消費者と同様の保護を当該事業者にも及ぼす必要があります。BtoB取引であることのみを理由に対象外と判断することはできません。
  • ・制裁金リスクの認識:制裁金はACL上最も重大な違反類型と同水準であり、調整後売上高を基礎として算定され得ます。取締役会レベルでのリスク管理の対象とすることが望まれます。
  • ・他法域の枠組みへの依拠の回避:EU、英国または米国の消費者法制度への準拠は、ACLへの準拠を保証するものではありません。「操作」および「意思決定環境の不当な歪曲」という基準は意図的に広範であり、かつオーストラリア固有のものであるため、既存のグローバル・コンプライアンス枠組みに依拠するのではなく、ACLに特化した見直しを行うことが推奨されます。
  • ・下位規則の動向の注視:継続的情報提供義務の具体的内容、開示の方法、除外される契約類型等は下位規則に委ねられています。施行までに公表される規則の内容を確認することが必要です。

 8. おわりに

本改正法は、デジタル環境における消費者保護を正面から規律するものであり、オーストラリアの消費者向けに事業を行う企業にとって、商品設計およびプラットフォーム設計そのものの見直しを迫るものです。施行までに約1年の期間がありますが、対象範囲が広く、既存の契約についても更新時に順次適用されることを踏まえると、施行間際に後付けで対応するのではなく、この期間を、製品およびプラットフォームの設計にコンプライアンスを組み込む機会として活用することが推奨されます。