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欧州ビジネス法務通信 2026年9月号 EUの最新法務トピック2選 ― 外国補助金規則(FSR)による投資・入札審査/新・製造物責任指令(PLD)で変わる製品責任

2026年09月14日(月)

「欧州ビジネス法務通信 2026年9月号 EUの最新法務トピック2選 ― 外国補助金規則(FSR)による投資・入札審査/新・製造物責任指令(PLD)で変わる製品責任」についてニューズレターを発行いたしました。こちらの内容は以下のPDFからもご覧いただけます。
欧州ビジネス法務通信 2026年9月号 EUの最新法務トピック2選 ― 外国補助金規則(FSR)による投資・入札審査/新・製造物責任指令(PLD)で変わる製品責任

欧州ビジネス法務通信
20269月号 EUの最新法務トピック2外国補助金規則(FSR)による投資・入札審査/新・製造物責任指令(PLD)で変わる製品責任

2026年9月
One Asia Lawyers Group
弁護士(日本・フランス)・弁理士
広瀬 元康

今号では、欧州で事業投資・公共調達を行い、また製品を販売する日本企業の経営・法務・事業部門の皆様向けに、いま欧州で関心が高まっている2つのテーマをお届けします。1つはM&Aや大型入札に新たな関門を設ける「外国補助金規則(FSR)」、もう1つは2026年12月の適用が迫る「新・製造物責任指令(PLD)」です。いずれも中国企業や大企業だけの話ではなく、日本企業が実際に直面し始めている論点です。

1. 外国補助金規則(FSR― EUでのM&A・大型入札に新たな審査。日本企業も「補助金」を届け出る時代に

外国補助金規則(FSR、規則(EU)2022/2560)は、EU域外の国から受けた財政的貢献(補助金・出資・税の優遇・政府保証・低利融資など)がEU域内の競争をゆがめていないかを、欧州委員会が審査する制度です。2023年10月に本格運用が始まり、2026年に入って執行と実務指針が急速に整備されています。主な内容は次のとおりです。

  • ・広い「財政的貢献」:中国企業向けの制度と誤解されがちですが、日本を含む非EU政府からの助成金・税優遇・政府系金融機関の融資なども対象で、日本企業も普通に基準額に達し得ます。
  • ・事前届出とクロージング禁止:基準に該当するM&Aは、実行前に欧州委員会へ届け出て承認を得るまでクロージングできません。審査には数か月を要します。
  • ・強力な調査権限:欧州委員会は抜き打ちの立入検査(ドーンレイド)や職権調査を行い、届出の要らない規模の取引でも「呼び出し(call-in)」で調べることができます。
  • ・広範な是正措置:政府保証の解消、事業の分離、知的財産の強制ライセンスなどが命じられ得ます。2026年1月には運用の考え方を示す指針も公表されました。

届出・申告が必要となる主な基準は、次のとおりです。

場面

届出・申告が必要となる主な基準(いずれも満たす場合)

M&A(買収・合併・合弁)

買収対象等のEU域内売上が5億ユーロ超 + 過去3年間に非EU政府から受けた財政的貢献の合計が5,000万ユーロ超

大型の公共調達入札

契約の推定額が2.5億ユーロ以上 + 1か国あたりの財政的貢献が400万ユーロ以上

実務ポイント:EUでのM&A・合弁・大型入札を検討する際は、案件の初期段階で「過去3年間に非EU政府(日本を含む)から受け取った財政的貢献」を洗い出し、届出の要否を判定しましょう。届出が必要な場合は、数か月の審査期間を取引スケジュールに織り込む必要があります。基準に満たなくても職権調査・呼び出しのリスクがあるため、日頃から関連記録を整えておくことが有効です。

2. 新・製造物責任指令(PLD― 202612月から、ソフトウェア・AIも「製品」に。立証のハードルも変化

EUの製造物責任のルールが約40年ぶりに刷新されます。新・製造物責任指令(PLD、指令(EU)2024/2853)は2024年12月に発効し、加盟国は2026年12月9日までに国内法化します。同日以降にEU市場へ出す製品に適用され、被害者が救済を受けやすくなる方向の大きな見直しです。主な変更点は次のとおりです。

  • ・「製品」の範囲拡大:従来の有体物に加え、ソフトウェア、ファームウェア、AIシステム、デジタル製造ファイルも、無過失責任(strict liability)の対象になります。
  • ・責任主体の拡大:製造者に加え、輸入者・EU域内代理人・フルフィルメント事業者、場合によっては販売者やオンラインプラットフォームも責任を負い得ます。EU域外の製造者には、責任を負うEU域内の主体が必要です。
  • ・立証負担の軽減:立証が著しく困難な場合などに「欠陥」や「因果関係」が推定されます。裁判所は企業に技術文書の開示を命じることができ、応じなければ欠陥が推定され得ます。
  • ・ライフサイクル責任:販売後のソフトウェア更新やセキュリティ・パッチ、機械学習による変化に起因する欠陥にも責任が及び得ます。賠償の対象には、データの消失・破損や、医学的に認められる精神的損害も加わります。

実務ポイント:2026年12月9日以降にEUへ出す製品(ソフトウェア・AIを含む)について、設計・製造の技術文書を後日の開示・立証に耐えられる形で保存し、販売後の更新・脆弱性対応の体制を整えましょう。EU域内に責任主体(輸入者・代理人)を置く必要があるかの確認も重要です。なお完全調和(最大限の統一)指令ですが、国内法化の内容には加盟国ごとの差異が生じており、進出先ごとの確認が有効です。

3. おわりに

今号は、EUでの「投資・入札」の入口に立つFSRと、EUで製品を売る「出口」の責任を定めるPLDという、対をなす2つのテーマを取り上げました。いずれも、EUでM&Aや入札を行い、または製品・ソフトウェアを供給する日本企業に直接関わります。まずは自社の取引・製品が対象になり得るかを、早めに棚卸しされることをお勧めします。個別のご相談やセミナーのご依頼など、お気軽にお問い合わせください。

※本稿は2026年9月時点の公開情報に基づく一般的な情報提供であり、個別の法的助言ではありません。FSRの運用指針やPLDの国内法化には、なお流動的・確定前の事項が含まれます。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を一部省略している場合があります。