インドの取締役会運営規制改正について ― 年次財務報告書承認等の取締役会のテレビ会議での開催が恒久的に可能に―
インドの取締役会運営規制改正について― 年次財務報告書承認等の取締役会のテレビ会議での開催が恒久的に可能に―ニュースレターを発行しました。
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インドの取締役会運営規制改正について
― 年次財務報告書承認等の取締役会のテレビ会議での開催が恒久的に可能に―
2021年6月17日
One Asia Lawyers
南アジアプラクティスチーム
インドに駐在しない日本人取締役にとって、インド法人をリモート環境でどのように管理するかという点は、多くの日系企業が課題として抱えています。
とりわけ取締役会の運営は、会社法によりテレビ会議でも開催が認められているものの、年次財務諸表の承認といった一定の重要事項については、テレビ会議では決議することが制限されていました。
この制限に関し、インド企業省は2021年6月15日、当該規定を削除する旨の通知を発表しました。
これにより、これまで対面方式での開催が義務付けられていた年次財務報告書等の重要事項の承認についても、今後はテレビ会議やその他の視聴覚手段によって取締役会を実施することが可能となりました。
- 取締役会運営に関する規則
インドにおける取締役会運営に関しては、「2013年会社法」(Companies Act, 2013、以下「法」)および、その下位規則である「2014年会社(取締役会および権限)規則」(Companies (Meetings of Board and its Powers) Rules, 2014、以下「規則」)に、具体的な規定が定められています。
テレビ会議(video conferencing or other audio visual means)については、取締役の参加が確認でき、日時および手続の様子を録画したデータを保存する等の手続を履践すれば、その開催が認められていました(法第173条2項、規則第3条)。
ただし、規則4条において、テレビ会議では決議できない事項が以下のとおり指定されていました。
(1) 年次財務報告書の承認 (2) 取締役会報告書の承認 (3) 目論見書の承認 (4) 監査委員会会議の実施 (5) 合併、統合、分割、買収等組織再編の実施の承認 |
- コロナ禍における規制緩和措置
上記のように、テレビ会議で決議できる事項には制限がありましたが、インド政府は、新型コロナウィルスの影響下、物理的な対面形式での会合開催が困難であることを考慮し、規則4条で制限される事項についても、テレビ会議での決議を認める緩和措置を講じました。
当該緩和措置は、2020年12月31日付で発出され、その後2021年6月30日まで措置が延長されていたため、今後も緩和措置の延長がなされるのかについては、その動向が注目されていました。
- テレビ会議による取締役会開催の恒久的緩和
このような状況の中、上記緩和措置の期限となる6月30日を前に、インド企業省は、6月15日付通知[1]において、規則4条を削除するとの発表をしました。
これにより、これまで禁止されていた以下の事項についても、テレビ会議で取り扱うことができることとなります。
(1) 年次財務報告書の承認 (2) 取締役会報告書の承認 (3) 目論見書の承認 (4) 監査委員会会議の実施 (5) 合併、統合、分割、買収等組織再編の実施の承認 |
今般の改正は、日系企業、特に今般のコロナ禍において日本人取締役が退避・再退避している企業や、取締役が遠隔地に駐在する企業にとって、大きな規制緩和と言えます。
なお、テレビ会議による取締役会に際する手続、すなわち、セキュリティ対策や本人確認、議事録や録画データの保管等については、規制緩和後も遵守が必要です。
ただし、取締役のうち1名はインド居住者(前年にインドに182日以上滞在)である必要があるとする規定(法149条3項)については、恒久的な撤廃はなされていない点に留意が必要です。すなわち、コロナ禍において、期間限定で居住要件が緩和(2019年度、2020年の期間においては罰則を科さない)されているものの、続く2021年度における緩和措置が現時点では公表されていないため、緩和措置の延長や規制撤廃が行われない限り居住要件があると解されます。
[1] 企業省2021年6月15日付通知https://www.mca.gov.in/bin/dms/getdocument?mds=zwpAcIfQhKOgB8vwf%252FztbA%253D%253D&type=open
同規則は、「2021年会社(取締役会および権限)規則」(Companies (Meetings of Board and its Powers) Amendment Rules, 2021)と改正されています。
以 上
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