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オーストラリア:電子的方法による署名・オンライン決議の有効性について

2021年09月15日(水)

オーストラリアにおける電子的方法による署名・オンライン決議の有効性についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

電子的方法による署名・オンライン決議の有効性

 

One Asia Lawyers Group

オーストラリア・ニュージーランド事務所

1.はじめに

 オーストラリアの会社による署名および決議は、Corporations Act 2001 (以下「会社法」という)の第127条および第2G章にそれぞれ規定されています。

 コロナ禍となる前は、電子署名やデジタル署名の有効性は明確に規定されておらず、株主総会についても完全にオンラインで実施することは許可されないという解釈がされていましたが、コロナ禍で2020年3月に制定された臨時改正法(Corporations (Coronavirus Economic Response) Determination (No.3) 2020)により、これらが初めて明確に許可されました。

 しかしながら、2021年3月にこの臨時改正法の有効期間が終了し、その後は法令において明確に許可されていない中で、規制当局であるオーストラリア証券投資委員会(ASIC:Australian Securities and Investments Commission)により摘発をしない「No Action」の姿勢をとることが発表される等の配慮があったものの、第三者からの訴訟のリスクおよび決議等の有効性について疑義・懸念が残る状態が続いていました。

 今回、2021年8月14日に新たな臨時改正法(Treasury Laws Amendment (2021 Measures No. 1) Act 2021)が施行されたことで、2022年3月末までは、電子的方法による署名およびオンラインでの会社決議が明確に可能となっています。以下に、その詳細を解説いたします。

2.電子署名

 会社法第127条は、署名方法について、コモンシールを使用する場合と使用しない場合とに分けて規定しています。コモンシールを使用しない場合は、定款に別途規定がない限り、一般的に、①取締役2名、または②取締役1名および秘書役1名が署名することで書面を締結できるとされています。コモンシールを使用する場合は、(定款に別途規定がない限り)上述①または②が証人となることで締結されます。

 今回の臨時改正法により、上述の署名方法において、(1)コモンシールを使用する場合の証人立会をビデオ会議等の電子的方法で実施すること、および(2)コモンシールを使用しない場合に同じ原本ではなく個別の書面に署名し(Split Execution)、または電子的方法により署名することが許可されたことになります。

 なお、いずれの場合も一定の要件を満たす必要があります。具体的には、(1)の場合は書面に電子的方法による証人立会であったことを記述し証人の署名(原本でなくてもよい)をすること、(2)の場合は電子的な署名方法が、個人を特定し当該個人の署名の意思を示すものであり、信頼性があり適切な方法であること等が要件となります。また、いずれの場合も、署名ページのみを切り離して署名・送付することはできず、必ず署名ページが全書面に付随していなければなりません。

 会社法では電子署名やデジタル署名といった署名方法の区別や定義はされていませんが、世界的に使用されているデジタル署名ソフトは暗号化技術等を使用しており、個人の特定や信頼性について証明しやすいと考えられますし、オーストラリアの企業でも一般的に使用されています。この他に政府はPDFに署名を行いメール送付にて交換することも可能であると説明しています[1]

 電子的方法による署名については、この他に電子取引法(Electronic Transactions Act 1999)およびその下位規則(Electronic Transactions Regulations 2000)、州・準州の法令等が適用される可能性があり、電子的方法による署名が許可されない例外規定も存在するため注意が必要です。

3.オンライン決議

 2022年3月末まで、所定の要件を満たすことで、年次総会を含む株主決議および取締役会を完全にオンラインで(または対面とのハイブリッド方式で)行うことが可能です。

 招集通知や決議書面等も電磁的方法で送付が可能ですが、株主は書面をハードコピーでの受領を選択でき、企業はその要請に応じなければなりません。株主への招集通知には電磁的方法にて参加するための十分な情報を記載する等の要件を満たす必要があります。

 また、株主決議は、定款に別途の規定がない限り、挙手ではなく投票で行うことが求められます。更に、オンラインで出席する株主には合理的な質疑の機会(Reasonable Opportunity)を与えなければならず、これを怠った場合は決議の有効性に疑義が生じますので、当日の進め方、および採用するソフトウェアの設定・機能を確認しておくことが推奨されます。

 なお、上記は主な要件ですが、この他にも詳細の規則が存在します。

4.おわりに

 上述の規制は2022年3月末まで有効ですが、その後は新たに改正法の施行が予定されています。その内容は上述と類似することが予想されるものの、会社の定款に規定がない限りオンライン決議を取ることができない等の制限が盛り込まれる可能性があるため、その場合に企業によっては定款の見直しを求められることが想定されます。コロナ禍での行動制限がいつまで続くか予測できない中で、企業としては、次回の法改正前にオンライン特別決議にて定款を見直しておくことも推奨されます。

以 上

 

[1] Explanatory Memorandum, Treasury Laws Amendment (2021 Measures No.1) Bill 2021