インドネシアにおける税務裁判所に対する管理権限移管に関する憲法裁判所判決
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税務裁判所に対する管理権限移管に関する憲法裁判所判決(インドネシア)
2023年7月
One Asia Lawyers Indonesia Office
日本法弁護士 馬居 光二
NY州法弁護士 友藤 雄介
インドネシア法弁護士 プリシリア・シトンプル
1. はじめに
インドネシアの憲法裁判所は、憲法裁判所判決番号26/PUU-XXI/2023を下しました。この判決によれば、遅くとも2026年12月31日までに、税務裁判所の組織、行政、財務面を管理する権限を最高裁判所に移管する必要があります。
本訴訟は、弁護士1名と学者2名の計3名が、税務裁判所に対する財務省の関与は税務裁判所の独立性を損なうものであるとして提起したものであり、本判決は裁判所の独立性の保護を重視したものと言えます。
2. 訴訟の概要
税務裁判所に関する2002年法律第14号(以下「税務裁判所法」)の第5条2項では、「税務裁判所の組織、行政、財政に関する管理は財政省が行う」と定められており、このため税務裁判所の組織、行政、財政に関しては財政省が管理権限を持っています。原告は、これらの管理権限を最高裁判所に移管するよう本訴訟を提起し、具体的には、前述の条文を以下のように修正することを求めました。
「税務裁判所の組織的、行政的、財政的発展は最高裁判所が行う。」
原告は、仮に財務省による税務裁判所の管理が、組織的、行政的、財政的な問題に限定されているとしても、税務裁判所に対して二つの組織(最高裁判所及び財務省)が管理する権限を有すること(特に財務省が関与すること)は司法の独立性を損なう可能性がある(つまり財務省が税務裁判所の機能と責任に対して支配力を行使する可能性がある)として懸念を示しています。
このため原告は、当該条項は1945年憲法第24条第1項に規定された「司法権は、法と正義を維持するために司法を行う独立の権能である」という法の支配と司法権の独立の原則と両立せず、矛盾し、抵触するものと見なされると主張しました。
3. 憲法裁判所が考慮した内容
憲法裁判所は、本判決に当たり以下を検討いたしました。
1)憲法裁判所は、税務裁判所が司法権の一つであり、これは1945年憲法第24条に明記されているとし、このため税務裁判所法第5条第2項は、憲法に反するものとされるとしています。
2) また憲法裁判所は、司法権の独立性と法の支配の確保のため、司法権に責任を持つ機関は一つであるべきであり、税務裁判所における監督権の二元性は司法制度の発展を複雑にしており、行政権や他の権力から厳然と分離されるべきでとしています。
3)さらに、憲法裁判所は、法の支配には、司法権の独立は不可欠な要素であり、これは、司法が公平かつ中立的であり外部からの干渉を受けないことを保証するとしています。また更に、司法権の独立が確保されない場合には、司法が歪められ、権力の乱用、国家権力による人権の軽視などの危険性が生じる可能性があるため、司法権の独立は、インドネシアにおいて法の支配を維持する上で極めて重要な要素であると述べています。
4. 判決
憲法裁判所は本判決にて、税務裁判所の管理を2026年12月31日までに財務省から最高裁判所に移行させることを決定しました。
具体的には、憲法裁判所は、2002年法律第14号第5条第2項における「財務省」という表現は1945年憲法と矛盾していると判断し、このため、当該文言について「最高裁判所(但し、2026年12月31日までに徐々に引き継がれるものとする)」という解釈をしない限り、この条文には拘束力がないと解釈されると判断いたしました。したがって、2002年法律第14号第5条第2項は以下のように解釈されると判断しております。
「税務裁判所の組織的、行政的、財政的管理は、最高裁判所が段階的に実施し、2026年12月31日までに完全に実施されるものとされる」。
本判決は司法機関の一つである税務裁判所の組織、管理体制に影響を及ぼすものであると考えられるところ、今後の動向に注目する必要がございます。