コーポレート・ガバナンス・ポリシーの実施 – 実践的な視点
コーポレート・ガバナンス・ポリシーの実施に関するニュースレターを発行いたしました。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。
→コーポレート・ガバナンス・ポリシーの実施 – 実践的な視点
コーポレート・ガバナンス・ポリシーの実施 – 実践的な視点
2024年4月
One Asia Lawyers Group
オブ・カウンセル
カナダ(ケベック州)/米国(カリフォルニア州)弁護士
マシュー・スターンズ
最近の日本の東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コード[1]の改正や変更は、日本企業にとってのコーポレート・ガバナンスの重要性を高めています。この重要性は、北米や欧州で、企業がサプライヤーに倫理基準やガバナンス基準の遵守を義務付けるサプライヤー行動規範を導入する傾向が強まっていることでもこの重要性を際立たせています。
本稿では、コーポレート・ガバナンスが会社の方針を通じてどのように対処・改善されうるかを示すとともに、特に中小企業において、そのような方針をどのように導入しうるかについての実践的な洞察を行います。
1. コーポレート・ガバナンスの重要な要素としての企業方針
コーポレート・ガバナンスとは、企業が指揮・管理されるための規則、慣行、方針の体系です。コーポレート・ガバナンスの最も基本的な要素は、会社の設立管轄法域の法律に定められています。法的に要求されるコーポレート・ガバナンスのこの基本的なレベルは、上場企業の証券取引所の規則や、企業が事業を行う国の法律からも得ることができます。これ以外にも、コーポレート・ガバナンスとは、企業がその行動を統制するために自ら採用する慣行や方針を指すと理解されています。
コーポレート・ガバナンスが導入される主な方法の一つは、企業固有のニーズに合わせた企業方針です。当該方針は、企業の経営陣や従業員に対して強制力を持たせ、その行動を導くだけでなく、企業の価値観や意思を示すものとして公開されることも多くあります。
大まかに言えば、コーポレート・ガバナンスを実現するための企業方針は、法律とその価値観に従って会社が運営されることを保証するために策定された社内向きの方針と、会社が第三者との取引において良き企業市民として行動することを保証するために策定された持続可能性の問題を扱う社外向きの方針の2つに分類することができます。前者には企業倫理、利益相反、多様性に関する方針が含まれ、後者には環境方針や人権方針などが含まれます。
2. 企業方針のメリット
社内向きの方針の目標は、従業員と経営陣が会社の最善の利益のために、会社の目的と価値観に従って行動するようにすることです。これらの方針は、会社に害を及ぼす利益相反を防止するための利益相反方針のような否定的な行動を制限することを目的とするものから、多様性の増大のような望ましい行動を促進することを目的とする方針まであります。この種の方針は、社内で公表され、全従業員に周知されるべきであり、多くの場合、雇用契約の中で言及され、管理職は署名することが求められます。これにより、会社の基準が明確になり、重大な違反があった場合には、懲戒処分や解雇の理由となることもあります。特定の法域では、贈収賄や汚職に対する方針を有することは、従業員が経営陣の知らないところで違法行為を行った場合、会社側の防御のための重要な要素となりえます。
持続可能性の問題に取り組む方針には、複数のメリットもあります。第一に、特に日本企業が製品やサービスを販売する可能性のある欧米諸国では、サプライヤーに一定の倫理基準の遵守を求めるサプライヤー行動規範を制定する企業が増えています。カナダなど一部の国では、児童労働の禁止など、特定の分野ではこうした規範を遵守するよう法的義務さえ課されています。最も一般的なサプライヤー行動規範には、サプライヤーによる奴隷労働や児童労働の禁止に加え、サプライヤーが環境への影響、特に温室効果ガスの削減に取り組んでいることを示す要件が含まれています。このような問題に対処する企業方針を有することは、サプライヤー行動規範を持つバイヤーへの販売において、真の競争優位性となりえます。もう一つの利点は、この種の方針を持つことが、企業の企業価値を明確に示すということです。これは、特に若い世代の従業員を採用する際の助けとなります。
3. 企業方針の制定方法
これらの一部またはすべてについて方針を制定することは、経営陣の時間と集中力を、より差し迫った日々の関心事から奪う、大変な仕事に思えるかもしれません。このような方針に取り組むことのできる人事部や広報部がないような中小企業では、特にそうです。しかし、私は中小企業2社の取締役として、また大企業の上級管理職としての経験から、体系的にアプローチすることで、このプロセスが経営陣の焦点を大きく逸らすことなく管理され、成功裏に適用できることを実感しています。
最初のステップは、このプロセスに参加する社内のキーパーソンを数名特定することです。理想的には、このワーキンググループは企業価値と使命を定めることから始めます。例えば、「東南アジアで最大の生産者になる」、「業界で最もコストの低い生産者のひとつになる」といった、会社の目標を示すものです。バリュー(価値観)とは、企業の指導的精神を4つか5つのシンプルな表現で表したものです。これらは、「誠実さ」や「透明性」といった倫理的な要素と、「最先端技術の使用」や「低コスト生産への注力」といったビジネス的な要素の両方を含むことができます。これらの明確な声明は、制定すべき企業方針の基礎となります。
次のステップは、カバーすべき主要な方針を決めることです。多くの場合、ビジネス倫理方針が良い初期方針となります。この方針は、賄賂の禁止、腐敗行為、利益相反などの主要な問題を幅広くカバーすることができ、また、他の側面から平等と多様性を促進することもできます。
方針には、目的と範囲、社内の誰が方針の責任を負うのか、誰に適用されるのか、方針の対象は何なのか、といった要素が明確に含まれていなければなりません。方針の対象を明確にすることは、長い草案を作成する必要があるということではありません。方針の起草に関しては、ほとんどの企業が自社のウェブサイトに方針を掲載しているため、自由に活用できる例が多数あります。他社の方針をコピーすることはお勧めしませんが、同じ業界や地域の類似企業の方針を見ることは良いヒントになります。方針の初稿を作成したら、それが強制力のある文書となるかどうか、適用される法律に準拠しているかどうかを確認するため、また一般的な起草をチェックするために、法律顧問にレビューしてもらうことをお勧めいたします。
方針がまとまったら、上級管理職または取締役会により正式に採択されるべきです。その後、ウェブサイトに掲載し、雇用契約書で言及することができます。方針は定期的に見直し、更新すべきです。
4. 結論
本稿は、日本企業が企業方針を採用する際に考慮すべき事項を示したものです。ご不明な点があれば、お気軽に弊所までお問い合わせください。より詳細に議論し、貴社に合った適切な方針を導入するための実践的なアドバイスを提供させていただきます。
[1] https://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/tvdivq0000008jdy-att/nlsgeu000005lnul.pdf