ベトナム:消費者権利保護法とデジタル・プラットフォーム規制
ベトナムにおける消費者権利保護法とデジタル・プラットフォーム規制に関するニュースレターを発行いたしました。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。
<消費者権利保護法とデジタル・プラットフォーム規制>
2025年2月10日
One Asia Lawyers ベトナム事務所
Ⅰ.はじめに
近年、ベトナムでは電子商取引や電子決済などのデジタル経済が急速に拡大しています。その反面で、情報管理トラブルや詐欺などデジタル経済の普及に伴う弊害も顕著になってきました。
これらの新たな問題に対処し、消費者保護を強化するため、2023年に消費者権利保護法を改正、その施行令である政令第55/2024/ND-CP号(以下、新政令55号という)が制定されました。これらの法令は、2024年7月1日から施行されています。
これらの新しい規制は、透明性、説明責任、コンプライアンスを重視し、デジタル・プラットフォームと企業に対する明確な責任を定めています。ベトナムで事業を営む企業にとって、これらの規制を理解することは、消費者との信頼を築き、コンプライアンスを確保し、進化する市場で競争力を維持するために不可欠といえます。
Ⅱ.標準契約および一般取引条件に関する新規制
〔標準契約および一般取引条件に関する一般要件〕
2011年に公布された政令第99/2011/ND-CP号(以下、旧政令99号という)は、標準契約と一般取引条件についての一般的な要件だけを定めていました(旧政令99号7条では2つの基準を規定)。
これに対して、新政令55号は、言語、書式、内容などに関してより具体的な要件を定めています。また、従来の紙書面だけでなく、電子書面の特性にも対応しているため、より柔軟性が増しています(新政令55号6条では5つの基準を規定)。
具体的には、以下通りです。相違点はイタリック(斜体)に下線をつけて表示しています:
旧政令99号
第7条 |
新政令55号
第6条 |
備考
|
1. 言語はベトナム語。内容が明確で理解しやすい。文字サイズは12ポイント以上。 | 1. 言語はベトナム語。消費者権利保護法23条2項に従い、契約により他の言語を使用することができる。 *2023年消費者権利保護法23条2項:消費者との間で交わされる契約、標準契約、一般取引条件で使用される言語はベトナム語とする。当事者は、ベトナム少数民族言語または外国語を使用することに同意することができる。ベトナム語版とベトナム少数民族言語または外国語版との間に相違がある場合、消費者にとってより有利な版が優先される。 |
政令第55号は、旧政令99号のようにベトナム語だけでなく、他の言語も追加した。この要件は、2023年消費者権利保護法の新規定に沿ったものである。 |
2. 紙の契約書を締結する場合、フォントサイズはTimes New Roman 12ポイント、または同等のフォントサイズを用いる。 | フォントサイズに関する要件は、紙媒体の契約書にのみ適用され、電子媒体の契約書を使用する場合には、これらの要件は適用されない。 | |
2. 標準契約や一般取引条件で使用される用紙の背景とインクの色は対照的でなければならない。 | 3. 文字の色と背景の色は対照的でなければならない。 | 新政令55号は、この条項の文言を変更し、紙の契約と電子契約の両方に適用できるようにした。 |
4. 本文のレイアウトとデザインは、明確で分かりやすいものとする。 | 旧政令99号にはなかった新しい要件。 | |
5. 内容は明確で理解しやすく、消費者権利保護法の規定に準拠していなければならない。 | 新政令55号は、「明確」で「理解しやすい」内容という要件に加え、「消費者の権利の保護に関する法律の規定に準拠している」という要件を追加している。 |
〔標準契約および一般取引条件の所轄〕
旧政令99号では、標準契約と一般取引条件の登録を管轄するのは、商工省と商工局でした。
新政令55号の公布により、この権限は商工省の消費者権利保護当局(VCC:ベトナム競争委員会)と、省人民委員会の消費者権利保護当局に移ります。今のところ、この消費者権利保護当局に関する新しい情報はまだなく、商工局である可能性があります。
〔標準契約および一般取引条件の登録義務〕
消費者と取引を行う業者は、消費者との取引の前に標準契約および一般取引条件の登録を完了しなければなりません。
新政令55号は、これに加えて、消費者が契約締結前に前払金や保証金を支払う場合について、前払金や保証金の支払い前に標準契約および一般取引条件を登録する義務を追加しました。さらに、消費者と取引を行う業者は、標準契約や一般取引条件を開示し、消費者がその内容を確認できるようにしなければなりません(これは旧政令99号では規定されていませんでした)。
登録機関における書類の審査期間が変更され、旧政令99号では「有効な書類を受領した日から20営業日以内」とされていたところ、新政令55号では「本政令第9条に定める有効な書類を受領した日から30日以内、複雑な場合は最大30日延長可能」に変更されました。
〔消費者権利保護当局による標準契約・一般取引条件の削除・変更の要請〕
この部分は、従前の規定と比べ最も大きく変更されました:
- 標準契約・一般取引条件の削除・変更を業者に要請できる場合と時期の変更:
2010年消費者権利保護法および旧政令99号は、標準契約または一般取引条件が消費者の権利を侵害していることを発見した場合、国家行政機関は自己または消費者の申請により、標準契約・一般取引条件の削除や変更を業者に要請することができると定めていました。
新政令55号は、これに加えて「消費者権利保護に携わる社会団体の申請」に基づく削除・変更を認める規定を新たに導入しました。 - 消費者と取引を行う業者による削除・変更の期限は、消費者権利保護当局からの要請があった日から10営業日であったところ、30営業日に延長されました。複雑な場合は、消費者権利保護当局の決定により、90日まで延長することができます。
- 削除・変更後の情報開示について、消費者と取引を行う業者の義務を追加しました。
旧政令99号は、削除・変更を消費者に通知することを取引業者に義務付けていました。新政令55号は、取引業者に対する追加的な義務を導入しています。第一に、違反内容の修正・削除の完了後5営業日以内に、改廃された標準契約・一般取引条件を本社や事業所の告知しやすい位置に掲示し、ホームページやアプリで開示すること。第二に、契約を締結した消費者に対し、修正された一般取引条件を適用することを通知し、消費者から要請があれば標準契約書を再交付することが義務付けられます。
Ⅲ. 大手デジタル・プラットフォームの責任
電子商取引の急速な発展は、消費者保護に新たな課題をもたらしました。これを承けて、2023年改正「消費者権利保護法」および新政令55号は、新たな状況における消費者の権利の保護の効率性と有効性を高めるための実践的な規制を導入しました。
特に、新政令55号には、旧政令99号では規定されていなかった、大手デジタル・プラットフォームを設立・運営する組織の責任を規定する独立した規定を設けました(新政令55号23条)。
具体的には、大手デジタル・プラットフォームが検索機能を持つ場合、商品・製品・サービスの表示の優先順位を決定する基準を開示しなければなりません。また、表示されるコンテンツが有料コンテンツやスポンサー付コンテンツの場合は、商品・製品・サービスの検索結果を開示しなければなりません。
大手デジタル・プラットフォームは、オンライン報告システムを維持し、アルゴリズムに基づく広告、コンテンツの検閲、ユーザー認証の詳細を含む最新の情報を検査のために国家管理当局に提供しなければなりません。また、運営方針の更新を開示し、消費者からの苦情に対応し、広告の透明性を確保し、国内外の販売者を管理することが求められます。大手デジタル・プラットフォームはまた、法律違反に対処し、脆弱な消費者グループを保護し、消費者の権利保護のための政令を遵守するための措置を講じなければなりません。
新政令55号23条3項によると、大手デジタル・プラットフォームは、商工省の消費者権利保護当局のウェブ・ポータルを経由して、上記に規定された情報およびデータを提供するための新たな手続きが必要になります。ただし、今のところ、この手続きに関する通知はありません。
これに関するもう一つの新規定は、消費者の権利保護に関する法律に違反する行為を行ったサイバー空間の取引業者のリストをマスメディアに公開し、各省庁、省人民委員会の本部やウェブ・ポータルに30日間掲示することで、消費者に周知し、そのような業者を避けるようにすることです。
Ⅳ.まとめ
新政令55号は、電子商取引が拡大するベトナムにおいて、消費者保護の枠組みを電子商取引にまで広げる試みであると評価できます。これらの規制に沿うことで、企業は消費者の権利を守るだけでなく、ベトナムのデジタル経済における評判と競争力を高めることができると考えられます。