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第12回 イギリスでアフリカ社会と法を学ぶ
法人類学と「法意識」(1)

2025年09月24日(水)

現在、ロンドン大学東洋アフリカ研究学院に在籍している原口 侑子弁護士によるニュースレターシリーズの第12回を発行いたしました。今後も引き続き連載の予定となります。
こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。

第12回 イギリスでアフリカ社会と法を学ぶ 法人類学と「法意識」(1)

(第12回)イギリスでアフリカ社会と法を学ぶ
法人類学と「法意識」(1)

2025年 9月
One Asia Lawyers Group
原口 侑子(日本法)

前回、アフリカの若年層の法や社会規範に対する考え方を、慣習的な結婚の在り方を変革するケニアの若年女性を例に挙げて紹介した。「法や社会規範に対する考え方」とは、法人類学において「法意識」と分類される分野のひとつであり、日本では裁判例における社会通念などを通じて現れているが、今回はこの「法意識」の学問的変遷について少し紹介したい。

「法意識」とは何か? あまり日本ではメジャーではないが、長らく「法意識」は、「人々が法とどのように関わるか(法をどう回避するか、やどう抵抗するかも含む)」という、人々の法体験を分類する観点から議論されてきた[1]。1990年代以降、法人類学者たちはこの概念を理論的に発展させ、「人々が法律に関連して経験し、理解し、行動する方法」と定義した[2]。その中には明示的な行動だけでなく、暗黙の理解といった表に出ないものも含まれる。

さらに人々が経験したり理解したりする「法」の概念の中は、ただの成文法としての法律だけではなく、「法的適合性」[3]とか、「社会的行動の構造」[4]や「法的な意味」[5]などといった、より社会規範に近いものが含まれるようになった。

たとえばブラジルにおける反汚職イニシアチブ(LJ)を「法意識」の生産の場として分析したサ・エ・シルヴァ[6]は、その論文「検察官と『人々』がLJについて語ったとき、彼らは何について語っていたのか?」で、法の支配と反汚職努力の対立という文脈における検察官とFacebookフォロワーの対話に焦点を当て、法と汚職に関するコミュニケーションを検証している。

こうして、「法意識」概念を拡張することで、法人類学者は法意識の「構築的」なプロセスに光を当てるようになった[7]

そもそも、世界観、知覚、意思決定といった主観の要素は、特定の行動や経験に対して個人の意識レベルで反映される[8]。世界観とは、個人が社会における自らの位置をどう捉えるかであり、法との関わり方に影響を与える。知覚は自分の身の回りに起こった事象を解釈する過程であり、他者(弁護士や活動家などを含む)との相互作用によって形成されることもある。こうした世界観と知覚に基づいて個人は意思決定するが、個人の意思決定もまた、時間の経過とともに世界観と知覚を再形成する。このような法規範にまつわる主観のサイクルを研究するのが「法意識」研究の一端である。
では実際にどのように法意識は研究されているのか。次回以降紹介する。

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[1] Silbey 2001: 8626(Silbey, S. S. 2001. Legal Culture and Consciousness. International Encyclopedia of the Social and Behavioral Sciences. Elsevier. pp. 8623-29.)   
[2] Chua and Engel (2019:336)(Chua, L. and Engel, D. 2019. Legal consciousness reconsidered. The Annual Review of Law and Social Science. 2019.15:335–53.)
[3] Ewick and Silbey, 1998:35(Ewick, P and Silbey, S. S. 1998. The common place of law : stories from everyday life. Chicago : University of Chicago Press.)
[4] Silbey, 2001:8627 (Silbey, S. S. 2001. Legal Culture and Consciousness. International Encyclopedia of the Social and Behavioral Sciences. Elsevier. pp. 8623-29.) 
[5] Silbey 2001: 8626(Silbey, S. S. 2001. Legal Culture and Consciousness. International Encyclopedia of the Social and Behavioral Sciences. Elsevier. pp. 8623-29.) 
[6] 2022: 344(Sa e Silva, F. 2022. Relational legal consciousness and anticorruption: Lava Jato, social media interactions, and the co production of law’s detraction in Brazil (2017 2019). 56 Law & Society Review, 344 (2022) )
[7] Ewick and Silbey, 1998:45(Ewick, P and Silbey, S. S. 1998. The common place of law : stories from everyday life. Chicago : University of Chicago Press.)
[8] Chua and Engels(2019: 336-337)(Chua, L. and Engel, D. 2019. Legal consciousness reconsidered. The Annual Review of Law and Social Science. 2019.15:335–53.)