フィリピン:集団的労使紛争に関する自主的仲裁手続に関する改正ガイドライン
フィリピンの集団的労使紛争の自主的仲裁手続に関する改正ガイドラインについてのニュースレターを発行いたしました。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。
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集団的労使紛争に関する自主的仲裁手続に関する改正ガイドライン
2025年11月
One Asia Lawyers Philippines Team
日本法弁護士 難波 泰明
フィリピン弁護士 Razel Ann P. Esteban
I. 概要
2025年8月15日、フィリピン労働雇用省(DOLE)は、「自主的仲裁手続に関する改正ガイドライン」(Department Order No. 255, s.2025)を公布しました。本改正ガイドラインは、2021年版ガイドラインに一部新たな制度を導入したものであり、自主的仲裁を、より負担が少なく、対立的でない紛争解決手段として促進することを目的としています。
主な改正点は以下のとおりです。
- 仲裁人の管轄範囲の明確化
- 自主的仲裁の申立手続の簡素化
- フィリピン船員の権利章典(Magna Carta for Filipino Seafarers)の改正点の反映
- デジタル化手続の導入
- ウォークイン和解(任意持込みによる和解)の枠組みの明確化
II. 管轄と申立て手続
使用者と労働者の間の労使間におけるCBA(労働協約)、就業規則、人事ポリシー、既存慣行の解釈または運用から生じる対立、問題、不満に関する苦情申立ては、単独の自主的仲裁人(Arbitrator)または仲裁パネル(Panel)のいずれかに行うことができます。
本ガイドラインでは、以下の新しい仲裁申立ての方法が追加されています。
- 直接付託(Direct Submission)
苦情処理手続で未解決となった場合、当事者が合意した選任手続に従い、自動的に仲裁へ付託される。 - NCMB(国家調停仲裁委員会)からの移管
実際のストライキまたはロックアウトの通知、予防的調停、RA(支援要請)における未解決の問題について、当事者の合意がある場合。 - NLRC(労働関係委員会)またはDOLEからの移管
本来は仲裁人の専属的管轄に属する案件が、誤ってNLRCやDOLEに提出された場合。 - 支援要請
調停・仲裁手続が早期終了し、当事者が合意して仲裁へ付託する場合。 - 仲裁通知(Notice to Arbitrate)
苦情処理手続を尽くしたにもかかわらず、相手方が仲裁への付託を拒否した場合。
fc 仲裁人またはパネルは、当事者が署名した付託合意書、CBAに仲裁人が指定されている場合の仲裁通知、または仲裁人が指定されていない場合の選任通知を受領・受理した時点で管轄権を取得します。
III. 手続および和解
A. デジタル化
改正ガイドラインでは、手続のデジタル化が明確に認められました。
会議通知の電子メール送付、対面またはオンラインでの会議開催が可能となっています。
B. 手続外和解
本ガイドラインの大きな追加点として、手続外和解(ウォークイン和解)の枠組みが整備されました。
当事者が仲裁手続外で紛争の全部または一部について和解した場合、書面にまとめ、仲裁人またはパネルの面前で署名を行います。仲裁人は、面談や資料確認などにより、和解の内容が有効であるかを審査します。和解が有効と判断された場合、仲裁人は和解内容を採用する命令を発行し、終局的かつ即時執行可能な、判決と同一の効力を有する命令となります。
署名済みの和解合意書は、調停・仲裁の結果の一部となり、当事者の上訴権の放棄および履行義務の合意となります。
一方、和解内容が法律、モラル、慣習、公共政策に反する場合、仲裁人は和解を無効とし、提出された証拠と記録に基づいて判断します。
IV. 決定または裁定
仲裁人またはパネルの最終的・執行力のある決定(award)は、裁判所への申立があっても停止されないと規定されており、停止されるのは、裁判所から一時停止命令または差止命令が出た場合のみとされています。
本ガイドラインは、当事者による裁定の遵守を特に強調しており、当事者に対して、履行または満足の意思表示(joint manifestation)を提出するよう求めています。当事者が履行しない場合、仲裁人に対して執行申立(Motion to Execute)が可能であり、仲裁人は裁定執行のための令状(writ of execution)を発行することができることは従前のとおりです。
V. 企業が取るべき対応
外国企業、とくに労使協約や苦情処理制度を持つ企業は、今回の自主的仲裁手続の簡素化に留意する必要があります。手続のデジタル化、和解手続の明確化、仲裁付託の機会拡大により、自主的仲裁手続きがより利用しやすくなったといえます。

