中国:「2023年中国会社法改正が日系企業に与える影響」その4-株主の権利保護の拡大に関する改正点
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「2023年中国会社法改正が日系企業に与える影響」
その4-株主の権利保護の拡大に関する改正点
2026年1月
One Asia Lawyers Group
中国大湾区プラクティスチーム
森 仁司(日本法)
第1 はじめに
前回の記事では、新会社法のもとで、中国現地法人の株主である日本本社(親会社)が、株主有限責任の原則にもかかわらず、会社や第三者に対し義務ないし責任を負う場面が相当拡大したことに留意する必要があることをお伝えしました。
その反面、新会社法においては、株主の権利保護の観点での改正点も目立ちます。今回は、株主の権利保護の拡大に関する主な改正点を取り上げます。
第2 株主の「知る権利」の拡大
従前より、株主は、会社定款、株主会議事録、董事会決議、監事会決議、財務会計報告を閲覧、謄写する権利を有し、さらに会社の会計帳簿の閲覧を請求することができるとされています。[1]
新会社法においては、閲覧謄写できる対象に株主名簿が追加され、閲覧請求できる対象に会計証憑が追加されました。[2]
さらに、親会社が、中国現地法人(子会社)が全額出資する子会社(孫会社)に関し保有する上記各資料を閲覧謄写することも可能であるとの規定が追加されました[3]。親会社が中国現地法人を通じて再投資を行う場合も、親会社から直接再投資先の会社の財務状況等の確認ができ、子(孫)会社の管理に資する規定であるといえます。
第3 少数株主の持分買取請求権
新会社法においては、会社の支配株主が株主の権利を濫用し、会社または少数株主の利益を著しく損なった場合、当該少数株主は、会社に適正な価格でその持分を買い取るよう請求することができる旨の規定が追加されました。[4]
中国企業との合弁会社の運営において、日本側がマイノリティ出資者であった場合、合弁契約ないし定款にデッドロックに陥った場合の持分譲渡に関する規定が整備されていないケースも少なくありませんでしたが、今後は、この条項を根拠に、デッドロックの解消ないし撤退という方策を検討できるものと思われます。
もっとも、「株主の権利を濫用し」「利益を著しく損なった」「適正な価格」といった抽象的文言にとどまっており、今後、実務の蓄積、最高人民法院による司法解釈の提示が待たれるところです。
第4 第三者への持分譲渡手続の変更
旧会社法においては、株主が第三者に対して持分譲渡を行う際、他の株主の過半数の同意を必要とし、過半数の同意が得られなかった場合、同意しなかった株主は譲渡持分の買取義務を負い、買い取らなかった場合は譲渡に同意したものとみなす、という構造になっていました。[5]
これに対し新会社法においては、持分譲渡の際に他の株主の同意を得る必要はなくなり、他の株主に対して、譲渡する持分の数量、譲渡価格、支払方法、期限等を書面により通知すれば足り、他の株主は同等の条件で優先買取権を有するとされました。また、他の株主が上記通知書面を受領した日から30日以内に回答しない場合、優先買取権を放棄したものとみなすとされました。[6]
新旧制度の大きな違いは、他の株主の同意なく譲渡できるようになった点、他の株主の立場が買取義務を負う者から優先買取権を有する者に変更された点ですが、結局、他の株主(例えば合弁パートナー)が優先買取に応じなければ第三者へ譲渡できるという結論は変わりありません。
新会社法においては、さらに、会社が株主による持分譲渡に伴う株主名簿の変更及び登記変更手続の要求を拒絶した場合、譲渡人または譲受人は、人民法院に訴訟と提起できることが明記されました[7]。これまで、合弁会社のデッドロック状況下において、マジョリティ出資者が登記手続等に協力せず、マイノリティ出資者がいつまでもイグジットできないという事態が散見されましたが、今後は、最終手段として、訴訟提起の方法によりイグジットすることが期待されます。
なお、従前どおり、会社は、定款において持分譲渡についてのルールを別途規定することができます[8]。よって、デッドロック解消のための持分譲渡のルールを、定款において定めておくことが得策であろうと思われます。
第5 株主による直接訴訟の充実
2023年会社法施行後、司法解釈の整備も進んでおります。直近では、2025年9月30日から10月20日にかけて、司法解釈の意見募集が行われ[9]、株主の権利拡大に関する司法解釈も示されております。
たとえば、新会社法190条は、董事、高級管理職が法律、行政法規又は会社定款の規定に違反し、株主の利益を損なった場合、株主は、人民法院に対して訴訟を提起することができると規定しています。本意見募集稿は、さらにこの規定を具体化し、董事、高級管理職が株主の利益配分請求権、新株の優先購入権、残余財産配分請求権、会社の経営管理への参加等の合法的権益を直接侵害した場合、株主は、董事、高級管理職に対して侵害の停止、原状回復、損害賠償等の民事責任を追及できるとされています(53条)。もっとも、本制度のほか、会社に損害が発生した場合、株主による代表訴訟の制度もありますので、本制度が機能する場面は限定的ではないかとの指摘もあります。
[1] 旧会社法第33条。
[2] 新会社法第57条第1項2項。
[3] 新会社法第57条第5項。
[4] 新会社法第89条第3項。
[5] 旧会社法第71条第2項。
[6] 新会社法第84条第2項。
[7] 新会社法第86条第1項
[8] 新会社法第84条第3項。
[9] 最高人民法院「会社法適用の若干問題に関する解釈(意見募集稿)」(2025年9月30日公布)。

