マレーシア:印紙税の自己申告制度及び監査の枠組みについて
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印紙税の自己申告制度及び監査の枠組みについて
2026年3月
One Asia Lawyers Group
マレーシア担当
日本法弁護士 橋本 有輝
マレーシア法弁護士 Najad Zulkipli
1. はじめに
マレーシアの印紙税制度に関する最近の変更を受け、多くの企業が社内のコンプライアンス体制を強化しています。特に、マレーシア内国歳入庁(Inland Revenue Board of Malaysia:LHDNM)による印紙税監査の可能性を見据えた対応が進められています。
印紙税は、各種の商業取引および法的取引から生じる書面の文書(instrument)に課される直接税の一種です。これには、契約書、合意書、不動産の譲渡、株式取引、不動産賃貸借、貸付契約およびその他類似の取引が含まれます。
これらの文書に対する印紙税の課税は、マレーシアのStamp Act 1949(以下「印紙税法」)の規定に従って正確に評価される必要があります。印紙税に関する以前の記事については、別稿をご参照ください。
2. 印紙税制度に関する最近の主な変更
(1) 印紙税自己申告制度(Self-Assessment System)の導入
ア 自己申告制度概要
自己申告制度=Self-Assessment Stamp Duty System(SASDS)は、LHDNMにより導入された制度であり、文書の押印手続を近代化し迅速化することを目的としています。
本制度は文書または契約の種類に応じて段階的に導入されており、2026年1月1日から既に開始されています。
イ この制度を利用できる者
自己申告制度の下では、個人、法律事務所、または指定された代理人などの印紙税納税者が、特定の文書について支払うべき印紙税額を自ら評価・計算することが可能です。
ウ 支払い方法
自己申告制度導入以前は、すべての申請はLHDNMが文書を確認し、その裁量により印紙税を決定し、評価通知(assessment notice)を発行していました。
自己申告制度の下では、企業は会社に代わって申告手続きを行う代理人を指定することができます。指定された代理人は、印紙税対象文書とともに所定のフォームを提出する必要があります。各文書の申告は、提出時点でLHDNMにより評価されたものとして扱われます。
代理人は、対象文書をアップロードし、システム上の所定フォームを入力します。提供された情報に基づき、システムが自動的に印紙税額を計算します。
金額が確定しフォームが提出されると、納税者は支払いを行うことができ、その後システムが発行するスタンプ証明書を印刷します。当該証明書は、紙の文書に添付する必要があります。
エ 自己申告制度の導入のスケジュール
自己申告制度は、既に一部が開始されていますが、文書の類型に応じて、以下の通りのスケジュールで完全実施に至ることが予定されています。
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フェーズ |
導入日 |
対象文書の類型 |
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フェーズ1 |
2026年1月1日 |
賃貸借/抵当、担保および一般的文書 |
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フェーズ 2 |
2027年1月1日 |
不動産の譲渡 |
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フェーズ 3 |
2028年1月1日 |
上記以外の全文書 |
(2) 印紙税監査の枠組み
ア 監査の概要
上記の印紙税の自己申告制度の導入に合わせ、同制度の実効性を高めるため、LHDNMは2025年1月から納税者の印紙税額の正確さを検証及び確認するための監査を開始している。この制度の下、LHDNMの担当官は監査を実施し、必要があれば企業の施設を訪問して印紙税対象文書の検査をすることができます。この監査の主な特徴は以下の通りです。
(ア)監査の種類。
・一般監査
一般監査とは、監査対象者が自己申告制度又は孤児申告制度開始前に行った印紙税申請に関連して提出した書類を確認する一般的な監査をいいます。
一般監査はLHDNMの職員によって実施され、追加情報が必要な場合には、監査対象者がLHDNMの事務所に呼び出されてインタビューを受けることがあります。
・包括監査
包括監査とは、監査対象者が保有するすべての締結済み文書を対象とする監査です。
包括監査は、監査対象者の事業所、LHDNMの事務所、又はLHDNMと監査対象者の間で合意された場所において実施されます。
(イ)監査対象企業の選定
ランダムに選定されるとされています。監査予定日に、会社/監査対象者に対して通知書又は訪問通知書が発行され、検査対象となる文書のリストが提示されます。
(ウ)監査対象期間となる文書
通常の監査対象期間は3年間です。例えば、2025年に実施された監査では、会社が支払うべき印紙税の対象となる文書のうち、2022年、2023年及び2024年に締結された文書が検証対象となります。
(エ)監査事項
監査では、適切な印紙貼付、正しい税額、及び期限内の順守状況が確保されているかを確認することに重点が置かれます。
イ 監査結果
納税者(監査対象者)は、まず監査結果及びその理由を説明した監査結果通知を受領します。
納税者には、当該指摘事項についてフィードバック又は説明を提出する機会が与えられます。
結果に同意しない場合、納税者は14営業日以内に追加情報又は証拠を提出することにより正式に異議を申し立てることができます。
LHDNMは当該異議を再検討し、最終査定通知又は修正査定を監査完了通知とともに発行します。14営業日以内に異議申立てがなされない場合、当該結果は受諾されたものとみなされ、LHDNMはペナルティを伴う修正査定を発行します。
ウ 監査完了までの期間
(ア)一般監査:監査訪問通知書の日付から7営業日以内
(イ)包括監査:監査訪問通知書の日付から60営業日以内
(3) その他重要な変更点
ア ペナルティの引き上げ
文書は、マレーシア国内で締結された場合には締結日から30日以内、又はマレーシア国外で締結された場合にはマレーシアに持ち込まれてから30日以内に印紙貼付を行う必要があります。
この期間内に印紙貼付が行われない場合、遅延期間に応じてペナルティが課されます。今般の変更により、従来よりも高いペナルティが導入されました。
(ア) 印紙貼付期限から3か月以内に貼付された場合
→ RM50.00又は不足税額の10%のいずれか高い額
(イ) 印紙貼付期限から3か月を経過した後に貼付された場合
→ RM100.00又は不足税額の20%のいずれか高い額
※上記の料率は2025年1月1日から適用されます。従前のペナルティ率については、当社の過去の記事をご参照ください。
イ 外国主体に関する印紙税の変更
従来、印紙税法第一スケジュール Item 27(a)(ii)では、外国通貨建てローンに関する文書(ローン契約及び関連担保文書を含みます)に対する印紙税は0.5%とされ、かつ、RM2,000の上限が設けられていました。
2024年1月1日から、この上限は撤廃され、ローン金額の0.5%を上限なく課税する方式となりました。その結果、ローン金額によっては支払うべき印紙税が大幅に増加する可能性があります。
ウ 財産の売却に関する印紙税の変更
株式、市場性証券、又は段落(c)に言及される売掛債権/帳簿債権を除く財産について、外国会社又は市民でも永住者でもない者に譲渡する場合には、RM100又はその端数ごとにRM4.00の印紙税が課されます。
当該税額は、文書に記載された対価額と当該財産の市場価値のいずれか高い額を基準として算定されます。
3. 最後に
上記につき、ご質問がある場合、またはこれらの変更に際しサポートが必要な場合は、当社の専門家チームがお手伝いいたします。
また、当事務所は、顧客の代理人として、顧客に代わり印紙税の自己申告を実施し、適切な印紙税率が適用されるよう対応する訓練を受けています。
LHDNMによる正式な監査手続やペナルティの引き上げを含むより厳格なコンプライアンス措置の導入に伴い、多くの企業は印紙税義務をより慎重に管理するため、社内プロセスの強化を進めています。
印紙税コンプライアンスに関してご質問がある場合、又は評価及び印紙貼付手続の代理人として当事務所の支援をご希望される場合には、どうぞお気軽にご連絡ください。

