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中国:「横領・収賄刑事案件司法解釈(二)」の施行と日系企業への実務的影響 ―民営・外資企業への「緩い基準」が消滅、法人自体の刑事責任が拡大―

2026年06月16日(火)

『中国「横領・収賄刑事案件司法解釈(二)」の施行と日系企業への実務的影響―民営・外資企業への「緩い基準」が消滅、法人自体の刑事責任が拡大―』についてニューズレターを発行いたしました。こちらの内容は以下のPDFからもご覧いただけます。
中国「横領・収賄刑事案件司法解釈(二)」の施行と日系企業への実務的影響―民営・外資企業への「緩い基準」が消滅、法人自体の刑事責任が拡大―

中国「横領・収賄刑事案件司法解釈(二)」の施行と日系企業への実務的影響
民営・外資企業への「緩い基準」が消滅、法人自体の刑事責任が拡大

2026年6月
One Asia Lawyers Group
中国大湾区プラクティスチーム
森 仁司(日本法)
馮 逸倫(中国法)

はじめに

2026年4月10日、最高人民法院・最高人民検察院は、「横領・収賄刑事案件の処理における法律適用の若干問題に関する解釈(二)」(法釈〔2026〕6号、以下「本解釈」といいます。)を発布し、同年5月1日より施行されました。2016年の「横領・収賄刑事案件の処理における法律適用の若干問題に関する解釈(二)」(以下「旧解釈」といいます。)から約10年ぶりとなる本格改正です。
日系企業にとって特に重要な変更点は三つです。第一に、非国家工作人員(民営・外資企業の役員・社員のほか、国有企業の一般従業員(管理職でない者)を指します。)への刑事基準が国家工作人員(国家機関の公務員のほか、国有企業・国有事業単位の管理職・幹部を含みます。)と完全に統一されたこと。第二に、単位(会社・企業・事業単位・機関・団体等の法人・組織の総称)による贈収賄犯罪の基準が初めて体系的に整備されたこと。第三に、医療・食品薬品等の特定分野では更に低い追訴基準ラインが設けられたことです。

一、民営・外資企業への基準統一——「グレーゾーンの消滅」

何が変わったか

本解釈第8条は、非国家工作人員(民営・外資企業の役員・社員、及び国有企業の一般従業員)が関与する収賄罪・贈賄罪・職務横領罪・資金流用罪の定罪量刑基準について、国家工作人員に適用される基準と完全に統一することを明文化しました。
これまで日本本社の間では「公務員への贈賄や国有企業幹部の横領は厳しく罰せられるが、純粋な民間取引における社員の不正は刑事事件化しにくい」という認識が一般的でした。本解釈施行後、この認識は通用しなくなります。

実務上の「グレーゾーン」の解消

2022年、最高人民検察院と公安部(警察機関)が共同で制定した立案追訴基準により、実務上は既に賄賂金額3万元から立件・捜査・逮捕・起訴が可能でした。しかし、裁判所の量刑基準は依然として旧解釈の6万元のままであったため、3万元〜6万元未満の金額については、検察・公安機関は立件・起訴できるものの、裁判所の量刑基準上は必ずしも犯罪として認定されないというねじれが生じていました。拘束・口座凍結・風評被害といった実質的ダメージは、立件・捜査から起訴・審理に至る各段階で生じうるため、最終的に法院が6万元の基準により有罪と認定しなかった場合であっても避けられませんでした。
本解釈の施行により、このねじれは完全に解消されました。3万元以上は、公安・検察・裁判所の三機関が一貫して刑事責任の対象とします。

新旧基準対照表(非国家工作人員関連主要罪名)

罪名

量刑情状

旧基準(2026430日以前)

新基準(202651以降

非国家工作人員収賄罪

金額が比較的大きい(3年以下)

裁判所:6万元 / 公安・検察:3万元(※ねじれ)

3万元(統一)

金額が巨大

(3〜10年)

100万元

20万元(大幅引下)

金額が特に巨大

(10年〜無期)

規定なし

300万元(新設)

対非国家工作人員贈賄罪

(個人)

金額が比較的大きい(3年以下)

裁判所:6万元 / 公安・検察:3万元(※ねじれ)

3万元(統一)

金額が巨大

(3〜10年)

200万元

100万元(引下)

対非国家工作人員贈賄罪

(法人)

金額が比較的大きい(3年以下)

20万元(公安・検察・裁判所一致)

20万元(維持)

金額が巨大

(3〜10年)

規定なし

200万元(実務上の見解が分かれており、単位への適用には異論がある)

職務横領罪

金額が比較的大きい(3年以下)

裁判所:6万元 / 公安・検察:3万元(※ねじれ)

3万元(統一)

金額が巨大(3〜10年)

100万元

20万元(大幅引下)

金額が特に巨大(10年〜無期)

規定なし

300万元(新設)

資金流用罪

(不法活動目的)

金額が比較的大きい(3年以下)

裁判所:6万元 / 公安・検察:3万元(※ねじれ)

3万元(統一)

金額が巨大(3〜7年)

200万元

100万元(引下)

金額が特に巨大(7年以上)

規定なし

明文規定なし・実務上未確定

資金流用罪

(営利目的等)

金額が比較的大きい(3年以下)

裁判所:10万元 / 公安・検察:5万元(※ねじれ)

5万元(統一)

金額が巨大(3〜7年)

400万元

200万元(引下)

金額が特に巨大(7年以上)

規定なし

明文規定なし・実務上未確定

二、「単位贈賄罪」——在中日系子会社が法人として問われるリスク

「単位」贈賄の「単位」は贈賄側を指す

中国刑法には「単位」(会社・企業・事業単位・機関・団体等の法人・組織)を含む類似した罪名が複数存在し、混同されやすい点です。最も重要な点を明確にします。
「単位贈賄罪」(刑法第393条)の「単位」とは、収賄側ではなく、贈賄を行う側のことです。
つまり、国有企業・民営企業・外資企業を問わず、あらゆる単位が贈賄主体として単位贈賄罪を構成しうるということです。在中日系子会社も完全にその射程内にあります。

罪名

「単位」は誰か

行為主体

単位贈賄罪

(刑法第393条)

贈賄側が単位

(受贈側:国家工作人員)

あらゆる単位(民営・外資含む)

対非国家工作人員贈賄罪(刑法第164条第3項単位犯罪)

贈賄側が単位

(受贈側:非国家工作人員)

あらゆる単位(民営・外資含む)

対単位贈賄罪

(刑法第391条)

収賄側が国有単位

個人または単位が主体となり、国有単位に贈賄

単位収賄罪

(刑法第387条)

収賄側が国有単位

国有単位のみが主体となれる

単位贈収賄関連罪名の新旧基準対照表

罪名

量刑情状

旧基準

新基準

(本解釈第14条)

単位収賄罪

(刑法第387条) ※国有単位のみ

追訴基準・情状が重大(3年以下)

金額基準なし

(情状による)

20万元以上

情状が特に重大

(3〜10年)

規定なし

200万元以上(新設)

対単位贈賄罪

(刑法第391条)

追訴基準(3年以下)

個人:10万元 / 単位:20万元

個人:20万元 / 単位:40万元

情状が重大(3〜7年)

規定なし

個人:200万元 / 単位:400万元(新設)

単位贈賄罪

(刑法第393条)

追訴基準・情状が重大(3年以下)

20万元

20万元(維持)

情状が特に重大

(3年〜10年)

規定なし

200万元以上(新設)

贈賄仲介罪

(刑法第392条)

追訴基準・情状が重大(3年以下)

規定なし

個人への仲介:10万元 / 単位への仲介:50万元(新設)

※ 本稿に記載の金額・量刑区分は、いずれも原則的な基準を示すものです。実際の事案では、行為の回数、被害結果、不正に得た資金の使途、自首・弁償の有無等の法定の事由により、金額が上記基準に達していない場合でも、より重い量刑区分(「情状が重大」「情状が特に重大」等)に認定されることがあります。個別の事案への適用については、別途確認する必要があります。

三、医療・食品薬品等の特定分野——行業別の低い追訴基準ライン

本解釈第2条・第4条は、対単位贈賄罪(刑法第391条)及び単位贈賄罪(刑法第393条)について、①三者以上への贈賄、②違法所得の贈賄への流用、③医療・食品薬品・財政金融・安全生産・教育・生態環境等の特定分野における違法犯罪活動の実施、④悪質な影響(①~④は対単位贈賄罪と単位贈賄罪共通)、⑤公職・職位昇進等のための贈賄(対単位贈賄罪のみ)、⑥監察・司法人員・行政執法人員への贈賄(単位贈賄罪のみ)のいずれかの事由が認められる場合に、通常より低い金額(通常基準のおおむね半額)でも「情状が重大」と認定できる規定を新たに設けました。特定分野は上記事由の一つにすぎず、他の事由も同様の効果を有します。
なお、個人が国家工作人員に対し贈賄する場合(贈賄罪・刑法第390条)については、旧解釈及び刑法修正案(十二)(2024年)において既に医療・食品薬品等の分野を加重事由・低基準の対象とする規定が存在していました。本解釈が新たに追加したのは、対単位贈賄罪・単位贈賄罪という単位に関する犯罪について、これらの特定分野を含む事由に基づく低基準を初めて設けた点です。
従来、医療分野における贈賄の加重・低基準は個人贈賄罪(刑法第390条)にのみ適用されており、企業としては行為を担当者個人の問題として整理することで、単位(法人)自体の刑事責任を相対的に軽減できる余地がありました。本解釈第2条・第4条は、対単位贈賄罪・単位贈賄罪という単位に関する犯罪自体について、医療等の特定分野における低基準(半額)を初めて設けました。これにより、医療分野における贈賄が「担当者個人の問題」として処理される構造はより限定され、法人自体が低い金額基準で刑事責任を問われるリスクが明確化されたといえます。
なお、単位贈賄罪・対単位贈賄罪は双罰制が適用され、法人が罰金を科されるだけでなく、当該行為を決定・承認した直接責任者個人にも懲役刑が科されます。日系企業の現地法人幹部にとっても、自身が刑事責任の主体となりうる点に留意が必要です。

罪名

量刑区分

通常基準

特定分野基準

対単位贈賄罪(刑法第391条)

追訴基準

(3年以下)

個人20万元 / 単位40万元

個人10万元 / 単位20万元

情状重大

(3〜7年)

個人200万元 / 単位400万元

個人100万元 / 単位200万元

単位贈賄罪(刑法第393条)

追訴基準・情状重大(3年以下)

20万元

10万元

情状特別重大

(3〜10年)

200万元

100万元

医薬品・医療機器・食品薬品等の販売活動に従事する日系企業、及び医療機関・公的教育機関と取引のある企業は、この低い追訴基準ラインに特に注意が必要です。

四、その他の主要改正点

株式・持分・高価物品による賄賂の評価基準明確化

株式・持分の形による賄賂の金額は、実現済み収益は実際の取得利益、未実現は事件発覚時点の市場価格と支払価格の差額で算定することが明確化されました。高級時計・書画・宝石等は原則として真贋鑑定・価格認定が義務付けられます(本解釈第11、12条)。

贈賄仲介者(贈賄仲介罪)の基準明文化

仲介した贈賄額が個人贈賄である場合は10万元以上、単位贈賄である場合は50万元以上が「情状重大」の基準となります(本解釈第3条)。

違法所得の追徴範囲拡大

賄賂財物の追徴について、原物→転化財産→等価財産という追徴の連鎖が確立されました。また、贈賄した財物がまだ受贈側に渡っていない場合、または受贈側から既に返還されている場合に限り、贈賄側(贈賄した企業・個人)からの直接追徴が認められることが明文化されました(本解釈第23条)。

五、商業賄賂と反不正当競争法の責任

刑事責任(刑法上の贈賄罪、訴追基準は3万元以上)とは別に、反不正当競争法(2025年10月15日改正施行)上の商業賄賂は金額を問わず行政処罰の対象となります。2025年10月15日施行の法改正により罰金上限が引き上げられ、法定代表人・直接責任者への最高100万元の個人処罰規定が新設されました。実際の事例として、169元相当の財物提供に対して10万元の行政罰金が科されたケースがあります。金額にかかわらず商業賄賂に該当しうる点に留意が必要です。

六、日系企業に求められる対応

社内規程の見直し
贈答・接待基準が新基準(3万元ライン)に対応しているかを精査し、改訂する必要があります。
コンプライアンス研修
「民営・外資も公務員と同じ基準で追及される」「法人自体が単位贈賄罪に問われうる」という事実を現地法人幹部・営業担当者に周知徹底する必要があります。
外部仲介業者の管理強化
政府機関・国有企業向け営業に関与する代理店・コンサルタントの報酬体系・業務実態を精査し、透明性を確保する必要があります。
高価物品・株式の取扱いルール整備
贈答品の価格上限の明文化、取引先から受領した株式・高価物品の社内報告ルールを整備する必要があります。
内部通報制度の整備
自主申告・積極的な弁償が量刑上企業に有利に評価される規定を踏まえ(本解釈第21条、第22条)、早期発見・是正体制を構築することをお勧めします。

※本ニュースレターは中国法に関する一般的な法令情報を提供するものであり、具体的なアドバイスや法的意見を提供するものではありません。