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インド:EPF強制加入の賃金上限、月額25,000ルピーに引上げ

2026年10月13日(火)

インドのEPF強制加入の賃金上限、月額25,000ルピーに引上げに関するニュースレターを発行いたしました。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。

→インド:EPF強制加入の賃金上限、月額25,000ルピーに引上げ

インド:EPF強制加入の賃金上限、月額25,000ルピーに引上げ

2026年10月12日
One Asia Lawyersインドプラクティスチーム
吉田 重規(弁護士・日本法)、山田 薫

従業員数が20人以上の事業所においては、雇用主には従業員を従業員積立基金(Employees’ Provident Fund:EPF)に加入させる義務があります。加入が義務付けられる対象となる賃金には上限額が設定されており、この上限額を超える従業員は新規加入義務の対象外となります。2026年9月17日、労働雇用省通知S.O. 5109(E)は、従業員の賃金上限を従来の月額INR15,000からINR25,000に引き上げるものとし、同日から施行されています[1]。

本改正により、月額INR15,000超INR25,000以下の従業員が新たに加入義務の対象となるほか、既加入者の拠出額も増加する場合があります[2]。該当する従業員を雇用する企業では、加入手続と給与計算の見直しが必須となります。

本稿では、改正の概要と実務上の留意点を、よくご相談いただく事例も交えて解説します。

【ご注意】9月分の拠出の申告・納付期限は10月15日です。当事務所が確認した限り、本稿発信時点で期限の延長は公表されていません。期限を過ぎた場合でも、利息、損害金および遅延手数料は遅延の期間に応じて増えるため、速やかに申告・納付を行うことが重要です(詳細は4・5をご参照ください)。

1. 改正の概要

インドでは、2025年11月21日に社会保障法(Code on Social Security, 2020)を含む4つの労働法典が施行されました。EPFについても、同法に基づく「EPF Scheme, 2026」[3]が導入されていますが、同スキームの下での賃金上限は、従来と同じINR15,000と定められていました[4]。

今回、9月17日付の官報通知により、賃金上限はINR25,000に改定されました。賃金上限は2014年以来、約12年ぶりの見直しとなります[5]。

施行日は官報掲載日の9月17日であり、遡及適用はありません。また、EPF当局(従業員積立基金機構:EPFO)は、施行日を10月1日に延期するとの見方を明示的に否定しています[6]。

重要な事項としては、加入義務の有無の判定および拠出額の算定基礎となる「賃金(wages)」は、総支給額ではありません。すべての報酬から法が列挙する一定の手当等を除いたものであり、基本給、物価調整手当(DA)および留保手当がこれに含まれます。ただし、賃金から除外される手当等の合計が報酬総額の50%を超える場合は、その超過分も賃金に算入されます[7]。このため、例えば月額総支給額がINR50,000であっても、仮に上記の定義に基づく賃金がINR25,000となるような場合であれば、EPFへの加入義務が生じます。賃金の新定義については、2026年6月12日付ニューズレターもご参照ください。

また、拠出率は雇用主・従業員ともに原則として12%であり、従前から変更はありません[8]。雇用主負担分12%のうち、8.33%は年金(Employees’ Pension Scheme:EPS)に、3.67%は積立基金(EPF)に充当されます[9]。

2. 企業への影響

(1) 新たに加入義務が生じる従業員

従業員20人以上の事業所[10]では、上記の法令上の賃金が月額INR15,000を超えINR25,000以下の従業員も、新たに加入義務の対象となりました[11]。これまで賃金がINR15,000を超えることを理由に加入させていなかった従業員は、9月17日付で加入させる必要があります。この加入手続は雇用主の責任で行うものとされ、従業員からの申請は要しません[12]。

例えば月額賃金INR20,000の従業員であれば、雇用主・従業員それぞれに月INR2,400の拠出負担が新たに生じます(管理手数料等を除きます。以下同じ)[13]。

(2) 既加入者の拠出額

既加入者のうち、拠出額の算定基準額が従前の上限額のINR15,000であった従業員は、算定基準額が実際の賃金額とINR25,000のいずれか低い額に引き上げられます[14]。月額賃金INR25,000の従業員であれば、雇用主・従業員の拠出はそれぞれ月INR1,800からINR3,000に増加します[15]。

3. 実務FAQ

Q1.インド国内に本社オフィスのほか、店舗や営業拠点を複数有していますが、各拠点の従業員はいずれも20人未満です。EPFの適用対象となりますか。

A.拠点ごとではなく、会社全体の従業員数で判断されることがあります。

社会保障法は、EPFの適用に関し、特則を置いており、部門(departments)や支店(branches)からなる事業所(establishment)については、所在地が同じかどうかを問わず、すべての部門・支店を同一の事業所の一部として扱うと定めています[16]。ここにおいて、事業所は会社・法人と同一の意味ではありませんが、必ずしも拠点単位ではなく、より広い範囲を含むことが明らかです。旧EPF法にも同じ趣旨の規定があり、同一事業所に該当するかは、経営・管理体制、財務、従業員の雇用管理、業務の一体性等を総合的に考慮して判断するとされています(旧EPF法に関する 2025年7月15付け最高裁判決 M/s Torino Laboratories Pvt. Ltd. v. Union of India(2025 INSC 849))[17]。

Q2.短時間・パート勤務の従業員や、請負業者を通じて就業する者も、従業員数に含まれますか。

A.いずれも含まれます。

社会保障法上の「従業員(employee)」は、見習い(Apprentices Act, 1961に基づく”apprentice”)を除き、事業所に雇用されて賃金を受ける者を広く含み、直接雇用か請負業者(contractor)を通じた雇用かを問いません[18]。勤務時間の長短や雇用形態によって除外する規定もありません。また、EPFの適用を判断するために従業員数を数える際には、賃金が上限を超える従業員も算入されます[19]。

なお、これらの者は人数の算定対象であるのみでなく、賃金が上限以下であれば、加入義務の対象となります[20]。

Q3.すでに加入している従業員の賃金が、昇給によりINR25,000を超えた場合はどうなりますか。

A.加入は継続します。

賃金が上限を超えるかどうかは、加入資格を得る時点の賃金で判定されます[21]。また、加入者の資格は、積立金残高の払戻しを受けるか適用除外の対象となるまで継続するとされ、賃金額は終了事由とされていません[22]。したがって、昇給によって賃金が上限を超えても、加入者でなくなるわけではありません。

この場合の拠出は、労使が上限を超える賃金を基準とすることに書面で合意していない限り、上限額(INR25,000)を基準として計算されます[23]。EPF当局も、法令上の賃金がINR35,000の従業員について、INR25,000を基準として拠出額(従業員・雇用主とも各INR3,000)を算出する例を示しています[24]。

4. 9月分の拠出の取扱い

賃金上限が月の途中で切り替わったため、9月分の拠出を次の2つの期間に分けて計算すると示されています[25]。

  • 9月1日〜16日:旧上限(INR15,000)を適用
  • 9月17日〜30日:新上限(INR25,000)を適用


EPF当局の設例では、各期間の賃金を日数で按分しています(9月1日〜16日は30分の16、17日〜30日は30分の14)。例えば、月額賃金INR20,000で9月17日から新たに加入する従業員の場合、9月分の拠出の算定基準額は、INR20,000の30分の14に当たるINR9,333.33となります。

9月分は、2つの期間を通じて1件の電子申告(ECR)で報告し、10月15日までに申告・納付を行う必要があります[26]。

新たに加入対象となった従業員について、9月分の給与から本人負担分を控除できなかった場合は、EPF当局の事前承認なしに10月の給与から控除することが認められています。ただし、これは社内の取扱い(従業員の給与から控除する時期)にとどまり、9月分の申告と、雇用主負担・従業員負担を合わせた全額の納付は、10月15日までに行う必要があります。遅れた場合は利息等が課されるとされています[27]。

5. 企業に求められる対応

本改正は9月17日からすでに適用されており、9月分の拠出の申告・納付期限(10月15日)も目前に迫っています。期限までに納付しなかった場合は、未納の拠出金に加えて利息が課されるほか[28]、遅延期間に応じて未納額の月0.25%〜1%の損害金(未納額が上限)を課されることがあります[29]。また、申告が遅れた場合には、1日INR500の遅延手数料(その月の管理手数料の額が上限)が課されるとされています[30]。これらはいずれも遅延が長引くほど増えるため、期限を過ぎてしまった場合も、直ちに申告・納付を行うことが推奨されます。インドで事業を行う企業におかれては、次の点を早期にご確認いただくことをお勧めします。

(1) 同一事業所を構成する拠点の従業員数を、短時間勤務者や請負業者を通じて就業する者も含めて合算し、EPFの適用対象であるかを確認する( Q1、Q2参照)。

(2) インド人従業員について、総支給額ではなく法上の賃金がINR25,000以下であるかを判定し、新たに対象となる従業員の加入手続を行う。

(3) 上限額INR15,000を基準に拠出していた既加入者について、拠出の基準額を見直し、給与システムの設定を変更する。

(4) 9月分の拠出を9月16日以前と17日以降に分けて計算し、10月15日までに申告・納付する。期限を過ぎた場合は直ちに申告・納付する(本人負担分の控除は10月分の給与で行うことも可能)。

(5) 日本人駐在員について、派遣期間と適用証明書の取得状況を確認する。あわせて、現地採用の日本人などInternational Worker(後記(参考)参照)について、加入状況と、上限なく法上の賃金の全額を基準額として拠出しているかを確認する。

(6) 控除額が増えて手取り額が減る従業員に事情を説明し、雇用契約書や給与明細等の記載を見直す。

(参考) 日本人駐在員の取扱い

EPFの適用対象事業所で就労する日本人従業員は、International Workerに該当し、賃金上限にかかわらず、原則としてEPFへの加入義務があります[31]。また、拠出金の算定についても上限基準額INR25,000の適用がなく、法令上の賃金の全額が基準額となるため、雇用主・従業員双方の拠出負担は高額になりえます。

しかしながら、日印社会保障協定に基づく派遣者として適用証明書の交付を受けている駐在員は、EPFへの加入は免除されています。同協定は、次の要件をすべて満たす者について、日本の制度のみを適用すると定めています[32] 。

  • 日本の制度に加入している
  • 日本国内に事業所を有する雇用主に日本国内で雇用されている
  • その雇用主のためにインドに派遣される
  • 派遣期間が5年を超えないと見込まれる


インド側で協定の対象となる制度は、EPFおよびEPSです[33]。ただし、この免除を受けるには、日本の事業主が年金事務所に申請し、日本の制度に加入していることを証明する「適用証明書」の交付を受ける必要があり、原則として派遣前までの申請が求められます[34]。

次のいずれかに当たる場合には、原則としてEPF・EPSが適用されることとなります[35]。

  • 当初から派遣期間が5年を超えると見込まれる場合
  • 派遣が5年を超えて継続し、両国当局の延長合意が得られない場合。加入義務の対象外となる要件を満たさなくなった時点で、直ちにEPFの加入者となります[36]。


なお、協定上は、本人と雇用主の申請に基づき、両国当局が個別に例外を合意する余地もあります[37]。

以上

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[1] https://www.labour.gov.in/static/uploads/2026/09/2b0f1dbbd3769fc388416186ec145328.pdf
[2] EPFO「Frequently Asked Questions (FAQs): Revision of EPFO Statutory Wage Ceiling From ₹15,000 per month to ₹25,000 per month」(以下「EPFO FAQ」。EPFO雇用主ポータル掲載)Q6 https://unifiedportal-emp.epfindia.gov.in/epfo/
[3] Employees’ Provident Funds Scheme, 2026(G.S.R. 525(E)、2026年6月29日) https://egazette.gov.in/WriteReadData/2026/273957.pdf/2026年8月4日付訂正通知 G.S.R. 703(E) https://egazette.gov.in/WriteReadData/2026/275186.pdf(以下、同スキームの引用は訂正後のもの)
[4] 労働雇用省官報通知 S.O. 2702(E)(2026年5月29日)https://www.labour.gov.in/static/uploads/2026/06/1dbfa6f5ef9510c30fa6c32008d1f816.pdf
[5] PIB Delhi(労働雇用省)2026年9月16日https://www.labour.gov.in/static/uploads/2026/09/4f607a88c5342aeb980c6b999997caab.pdf
[6] EPFO FAQ Q45
[7] 社会保障法2条88号、EPFO FAQ Q24〜Q26
[8] 社会保障法16条1項(a)、労働雇用省官報通知 S.O. 3582(E)(2026年7月1日) https://egazette.gov.in/WriteReadData/2026/274112.pdf
[9] EPFO FAQ Q12、Q13
なお、EPS加入対象でない場合については雇用主負担分の全額がEPFに充当されます。
[10] 社会保障法1条4項・第1附則(前掲注7)、労働雇用省「Compliance Handbook for Employers Under the Four Labour Codes」24頁・37頁 https://www.labour.gov.in/static/uploads/2026/02/83978455025732b99b0165def80ab171.pdf
[11] EPF Scheme, 2026 2(1)(f)(i)、9(2)、9(3)
[12] EPFO FAQ Q29、Q30
[13] EPFO FAQ Q12
[14] EPF Scheme, 2026 9(4)、18(3)第1但書
[15] EPFO FAQ Q13、Q17
[16] 社会保障法2条29号Explanation
[17] https://api.sci.gov.in/supremecourt/2016/34060/34060_2016_5_1501_62323_Judgement_15-Jul-2025.pdf#page=42
[18] 社会保障法2条26号
[19] 社会保障法2条26号第2但書
[20] EPF Scheme, 2026 9(2)、2(1)(f)(i)
[21] EPF Scheme, 2026 2(1)(f)(i)
[22] EPF Scheme, 2026 10(1)
[23] EPF Scheme, 2026 18(3)第1但書、9(4)
[24] EPFO FAQ Q13、Q21
[25] EPFO FAQ Q7、Q9、Q46
[26] EPFO FAQ Q8、EPF Scheme, 2026 20(1)
[27] EPFO FAQ Q10、Q11
[28] 社会保障法127条、EPFO FAQ Q10
[29] EPF Scheme, 2026 23(1)
[30] EPF Scheme, 2026 29(2)
[31] EPF Scheme, 2026 2(f)(i)(ii)参照
[32] 社会保障に関する日本国とインド共和国との間の協定 7条1項
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000018402.pdf
[33] 日本年金機構「協定相手国別の注意事項(インド)」https://www.nenkin.go.jp/service/shaho-kyotei/kunibetsu/notice/india.html
[34] 日本年金機構「日本から協定を結んでいる国で働く場合の手続き」 https://www.nenkin.go.jp/service/shaho-kyotei/shikumi/nijukanyuboshi/sweden08.html、日本年金機構「日・インド社会保障協定 申請書一覧(加入免除手続き)」https://www.nenkin.go.jp/shinsei/kyotei/India/India-kanyu.html
[35] 日本年金機構「日本から協定を結んでいる国で働く場合の加入すべき制度」https://www.nenkin.go.jp/service/shaho-kyotei/shikumi/nijukanyuboshi/fromjapan01.html
[36] EPF Scheme, 2026 9(5)(iii)
[37] 社会保障に関する日本国とインド共和国との間の協定10条