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アフガニスタン、スリランカ、ネパール、パキスタン、バングラデシュ、 ブータン、モルディブにおける汚職関連規制について

2021年03月04日(木)

アフガニスタン、スリランカ、ネパール、パキスタン、バングラデシュ、

ブータン、モルディブにおける汚職関連規制についてニュースレターを発行しました。

PDF版は以下からご確認下さい。

南アジアにおける汚職関連規制について

 

 

アフガニスタン、スリランカ、ネパール、パキスタン、バングラデシュ、

ブータン、モルディブにおける汚職関連規制について

2021年3月4日

One Asia Lawyers

南アジアプラクティスチーム

南アジアにおいても、近年、汚職に関する法規制が整備されつつあります。そのような状況を踏まえて、今回、アフガニスタン、スリランカ、ネパール、パキスタン、バングラデシュ、ブータン、モルディブにおける汚職関連規制について共有します。

 1.アフガニスタンにおける汚職関連規制について

  アフガニスタンは、2020年のトランスペアレンシー・インターナショナルの腐敗認識指数において、180か国中165位であり、汚職が日常的に行われていると言える。外国企業にとって汚職の問題は、許認可、政府調達、規制要件、税務等について、事業を行う上での大きな障害として指摘されている。アフガニスタンに関する多くの報告書では、汚職が社会全体に蔓延していることを示しており、市場経済の発展を阻害する要因の一つとされている。その一例として、国境横断における組織的な汚職が挙げられる。アフガニスタンの役人は、貨物を過小評価したり、適切に通関処理しなかったりすることと引き換えに賄賂を受けており、これが違法品の密輸や合法品の違法取引の温床となっている。

 アフガニスタンは、国連の汚職防止条約に署名(2004年)し、批准(2008年)しており、ガーニ大統領は、汚職防止の取り組みに力を注力している。特に、調達や税関の改革などで一定の成果を上げているといわれている。2016年には、政府は汚職事件を調査・裁判するための「反汚職司法センター(Anti-Corruption Justice Center、以下、「ACJC」)」を開設している。ACJCは、軍事事件と民事事件を扱っており、その中には、都市開発省の財務顧問が20年の禁固および8,600万アフガニ(約1.2億円)の罰金で有罪判決を受けるなど、大規模な汚職事件も挙げられる。アフガニスタンにおける汚職は依然として大きな問題ではあるが、ACJCによる汚職事件の追求を始めとして、徐々に改善することが期待されている。

2.スリランカにおける汚職関連規制について

  スリランカは、2020年のトランスペアレンシー・インターナショナルの腐敗認識指数において、180か国中94位に位置しており 、汚職リスクは中程度に高い状態である。

スリランカの主要な汚職に関する法令は、刑法(Panel Code)と贈収賄法(Bribery Act) である。これら法律は、職権乱用行為、贈収賄またはその未遂行為を犯罪類型化している。

また、1994年の贈収賄・汚職疑惑調査委員会法(The Commission to Investigate Allegations of Bribery or Corruption Act, 1994) は、贈収賄法の下において、贈収賄や汚職の疑惑を調査し、汚職防止に対する監視・執行機関としての常設委員会の設置を規定しており、実際に設立がなされ執行を担っている 。

 贈収賄法においては、贈収賄の防止と処罰が明記されており、同法第70条では、公務員の贈収賄について、10年未満の懲役または10万ルピー未満の罰金、またはその併科が課されると規定されている。いわゆるファシリティペイメントと贈収賄の間には明確な区別がなく、何かしらの便益を得ることを目的に贈答品等を提供することも贈賄にあたるため、留意が必要である。なお、商業賄賂については、規定はなされていない。

3.ネパールにおける汚職関連規制について

  ネパールは、2020年のトランスペアレンシー・インターナショナルの腐敗認識指数において、180か国中、117位となっており 、ある程度の汚職が存在している。

 ネパールにおける主要な汚職に関する法律は、2002年の汚職防止法(Prevention of Corruption Act)である 。 同法では、公共部門と民間部門の両方で、汚職、贈収賄、職権乱用等を禁止し、 犯罪類型化している。いわゆるファシリティペイメントと贈収賄の間には明確な区別がないため、何かしらの便益を得る意思をもって行われる贈答等も全て贈収賄に含まれる点について、留意が必要である。

 職権濫用調査委員会法(The Commission for the Investigation of Abuse of Authority Act, 1991)と合わせて、汚職防止法は、政府職員、大臣、国会議員、公務員等に対して、自身と家族の収入と資産を申告することを義務づけている。 ただし、申告書を提出しなかった場合の制裁は存在しておらず、執行は十分になされていない状態である。

 また、執行機関として、職権濫用調査委員会(The Commission for the Investigation of Abuse of Authority、CIAA) が存在しており、汚職を抑制するための最高機関である。CIAAは、ネパール憲法第238条および239条に基づき、公職者を調査する権限を与えられている。

 なお、汚職防止法の対象者は、公務員のみであり、商業賄賂に関する規定は存在していない。贈収賄者に対する罰則は、贈収賄額に応じて、公務員である場合は以下のとおり、公務員以外であればその半分と定められている。

a) 2万5,000ルピー未満の場合: 3か月を超えない期間の禁固刑

b) 2万5,000以上、5万ルピー未満の場合: 3か月以上、4か月未満の禁固刑

c) 5万以上、10万ルピー未満の場合: 4か月以上、6か月未満の禁固刑

d) 10万以上、50万未満の場合: 6か月以上、1年6か月未満の禁固刑

e) 50万以上、100万ルピー未満の場合:1年6か月以上、2年6ヶ月未満の禁固刑

f) 100万以上、250万ルピー未満の場合:2年6か月以上、4年未満の禁固刑

g) 250万以上、500万ルピー未満の場合:4年以上、6年未満の禁固刑

h) 500万ルピー以上、1000万ルピー未満の場合:6年以上、8年以下の禁固刑

i) 1000万ルピー以上の場合:8年以上、10年以下の禁固刑

 4.パキスタンにおける汚職関連規制について

  パキスタンは、2020年のトランスペアレンシー・インターナショナル腐敗認識指数において、180か国中124位となっており 、 あらゆる部門や機関で汚職が横行している状態である。汚職防止に関する法律は、パキスタン刑法(Panel Code)、汚職防止法(The Prevention of Corruption Act)、国家説明責任条例(National Accountability Ordinance, NAO)となっている。

 パキスタンの反汚職のための組織である国家説明責任局(The National Accountability Bureau(NAB)は、NAOの下に設立され、パキスタン国内の汚職問題を調査し、監督している。しかしながら、資金不足と人員不足に悩まされており、その機能は限定的と評価されている。

 パキスタン刑法では、贈収賄は違法とされており 、同法の下では、贈収賄行為は、1年以上の懲役、罰金、またはその併科が課される。また、汚職防止法 は、2017年に改正されており、パキスタンにおける贈収賄と汚職の防止のために制定されている。同法は、パキスタン全土に適用され、パキスタンのすべての市民および公務員に適用される 。国家説明責任条例 (NAO)は、汚職や腐敗行為の撲滅を目的とし、汚職行為や他の関連事項で告発を受ける等の機能を有すると規定されている。NAOは、公共部門と民間部門の両方の汚職を犯罪類型化し、汚職に関する最高刑を14年の懲役と罰金、資産の没収を伴う厳罰を規定している。

 なお、ファシリティテーションペイメントや少額の贈答等の例外規定等は存在しておらず、また、バングラデシュにおいて商業賄賂に関する規定については存在していない。

5.バングラデシュにおける汚職関連規制について

  バングラデシュは、2020年のトランスペアレンシー・インターナショナルの腐敗認識指数においては、180か国中146位であり 、南アジアにおいてはアフガニスタンに次ぐ最低ランクである。

バングラデシュの汚職を規定する主な法律は、刑事法(Panel Code)、刑事訴訟法(Code of Criminal Procedure)、汚職防止法(The Prevention of Corruption Act)、汚職防止委員会法(Anti-Corruption Commission Act)等となっている 。

 刑法 においては、恐喝、職権乱用、贈収賄等を犯罪類型化しており、 刑法第161、162条では、贈贈収賄について、3年以上の懲役、または罰金、またはその併科が課されると規定されている。また、汚職防止法 では、贈収賄や汚職を効果的に防止するための規定を設定しており、公務員の汚職行為に対する犯罪行為をより詳細に規定している 。さらに、刑事訴訟法 では、汚職に関する刑事犯罪に関する手続きを規定している。なお、ファシリティテーションペイメントや少額の贈答等の例外規定等は存在しておらず、また、バングラデシュにおいて商業賄賂に関する規定については存在していない。

 腐敗防止委員会法 は、国やその他による腐敗行為を防止し、他の特定の犯罪のための調査を行うことを目的とした、独立した腐敗防止委員会(Anti-Corruption Commission、ACC)の設置が規定されている。本法施行後、実際にACCが設置されている。ACCの主な機能は、汚職防止法に基づき、違反行為に対する調査や執行を行うこと、また、汚職防止措置、施策を見直し、その効果的な実施について通達を発布する等の権限が与えられている。

 しかしながら、前述のとおり、実際にはバングラデシュにおいて汚職は一般的に行われており、社会のあらゆるレベルで蔓延しているといわれている。

6.ブータンにおける汚職関連規制について

 ブータンでの汚職状況は、南アジア諸国との比較では低く押さえられている他、2020年のトランスペアレンシー・インターナショナルの腐敗認識指数においても、世界180か国中24位にランクされる 。公務員が国家と国王に奉仕するという思想は、公務員の不可欠な要素であり、腐敗の抑制に寄与してきた。しかしながら、公共調達部門において汚職の存在が囁かれたことがあり、ブータンは、包括的な法的汚職防止枠組みを整備し、会計監査の基準を国際的なレベルに引き上げることに重点を置くなど、汚職を制限する努力が見られる。2006年の汚職防止法は、公共分・民間部門ともに適用され、公職の濫用、マネーロンダリング、横領、贈収賄、外国公務員の贈賄を犯罪として規律しており、また、公務員に強制的な資産申告を義務付けている。汚職防止委員会(ACC)は、汚職防止に関する意識を高め、汚職担当官を調査し、訴追するために効果的に活動を行っていると評価されている。ACCはオンライン・インテグリティ・コースを提供しており、1000人以上の公務員がこれを修了している(Transparency International, 2015)。ACCが調査した汚職事件の有罪率は92%となっている 。

7.モルディブにおける汚職関連規制について

 モルディブでの腐敗行為は社会のあらゆるレベルに存在し、経済成長を脅かしている。しかしながら、トランスペアレンシー・インターナショナルの腐敗認識指数においては、2019年に180カ国中130位であった順位が、2020年にはスコアを29から14ポイント伸ばし、75位にランクしている。

汚職防止のために制定された最初の法律は、2000年8月31日に制定された「汚職防止・禁止法(Prevention and Prohibition of Corruption Act)」[1]である。この法律は、公職における汚職行為を防止・禁止するための法的規定と国家機関のガイドラインを規定するもので、贈収賄と不当な金銭的利益を定義し、処罰を規定している。同法では、贈収賄の申し出・受諾、職権を利用した不当な利益の獲得等の違反行為を防止・禁止し、それら違反行為によって得た財産や資金を没収するための手続きを概説している。罰則は、違反した行為に応じ、6ヶ月から10年の禁固刑、流刑(banishment)、または自宅禁固(House arrest)となっている。

 また、2008年憲法第199条~208条に基づき、汚職防止委員会(Anti-Corruption Commission)が設立され、2008年9月24日に「汚職防止委員会法」(ACCA)[2]が制定されている。ACCAは、汚職防止・禁止のための独立した機関であり、汚職防止・禁止法の執行、汚職疑惑の調査、関係当局への改善勧告等の機能を有する。

 なお、モルディブはOECD贈収賄防止条約の締結国ではないものの、国連贈収賄防止条約の締約国である。

 このように役人の汚職に対する刑事罰を規定しているものの、その執行力は弱いものであったが、前述のとおり、最新の腐敗認識指数では腐敗の度合いが低くなるなど、徐々に状況は改善されていると見られる。

8.各国の腐敗認識指数について

 上記7カ国およびインドの腐敗認識指数について、過去3年間の推移は以下のとおりである[3]。180カ国中のランキングであり、数字が大きいほど、腐敗の度合いが高いことを示す。

 

 

アフガニスタン

スリランカ

ネパール

パキスタン

バングラデシュ

ブータン

モルディブ

インド

2020年

165位

94位

117位

124位

146位

24位

75位

86位

2019年

173位

93位

113位

120位

146位

25位

130位

80位

2018年

172位

89位

124位

117位

149位

25位

124位

78位

 

[1] http://acc.gov.mv/en/wp-content/uploads/2015/08/PPC-Act2000.pdf

[2] http://acc.gov.mv/en/wp-content/uploads/2015/08/ACC-Act2008.pdf

[3] https://www.transparency.org/en/cpi/2020/index/nzl

以 上

 

 

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