• Instgram
  • LinkeIn
  • Lexologoy

シンガポールにおける競争法ガイドラインの改訂について

2022年02月13日(日)

シンガポールにおける競争法ガイドラインの改訂についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

シンガポールにおける競争法ガイドラインの改訂

 

シンガポールにおける競争法ガイドラインの改訂

2022年2月
One Asia Lawyers Group
コンプライアンス・ニューズレター(日本語版)

 シンガポール競争・消費者委員会(「Competition and Consumer Commission of Singapore」、以下「CCCS」)は、2004年競争法(以下「競争法」)に関するガイドラインを改訂し、2022年2月1日より発効しました。これらの改訂は、2018年に行われた同法の改正、CCCSの電子商取引プラットフォームに関する市場調査(「E-commerce Platforms Market Study」)からの知見と提言、前回のガイドライン改訂以降のCCCSの同法の適用経験、世界的ベストプラクティス、そして2020年と2021年に行われた2度の公開協議から得られた回答に基づくものです[1]。 改訂されたガイドラインは、CCCSが競争法を適用する際に用いる分析的・手続き的な枠組みについて、企業や競争実務家に対してより明確なガイダンスを提供するものです。

47条(市場支配的地位の濫用を禁止する規定)に関するCCCSガイドライン

 シンガポール法第47条は、シンガポール国内のあらゆる市場において、1社または複数の事業者による支配的地位の濫用となる行為を禁止とする規定です。本改定ガイドラインは、デジタル時代における市場支配力の評価や濫用可能性のある行為の種類に関する問題をより明確にするために改訂されました。

 例えば、CCCSは市場支配力の優先的活用(「Preferential Leveraging of Market Power」)に基づく項を追加し[2]、ある市場において支配的な事業者がその市場支配力を行使し、自社や他の事業者に有利な扱いをすることで他の市場の競争に害を及ぼすような、濫用的自己優遇が起こる可能性に着目しています。本改定ガイドラインにて、支配的な電子商取引事業者が上流レベルで市場支配力を行使し、下流市場で競争を阻害する事例を挙げ、このような市場支配的地位の濫用を例示しています[3]

合併の実質的評価に関するCCCSガイドライン

 本改定ガイドラインは、複合企業の合併や、参入や拡大の障害となる所有権やデータの関連性など、CCCSによる合併の評価に関する問題について、企業・消費者・競争実務家をより良く導くために改訂されたものです。

 CCCSは、参入に対する構造的な障壁の例を示す非網羅的なリストに修正を加えました[4]。 本改定ガイドラインは、「主要な生産または供給インプットへのアクセスの困難さ」は、物的資産、所有権またはデータへのアクセスを含むことを明確にしています[5]

 また、本改定ガイドラインには、合併当事者間の競争が失われ、合併された企業が価格の引き上げや生産量、品質や技術革新の削減を行うことが有益であると判断される場合に生じる「潜在的な非協調効果」の例も含まれています。このような効果の一例は、合併企業が製品を抱き合わせ(tying)・バンドリング(bundling)することにより、ある市場から別の市場へとその強力な市場地位を活用し、ライバルの競争能力やインセンティブを低下させる場合です[6]

合併手続きに関するCCCSガイドライン

 本改定ガイドラインは、CCCS への合併を届け出るための手続きを強化および明確化し、合併の届出に関する CCCS の実務を明確化するために改訂されたものです。これらの改正は、CCCSが既に導入している実務を確実に反映させ、合併当事者がCCCSに情報を提出する際のビジネスコストを削減し、CCCSと他の競争当局との情報共有を促進し、シンガポールの合併制度の特定の手続き的側面について明確にすることを意図したものです[7]

 例えば、本改正にて、合併の届出プロセスにおいてCCCSに提出する資料の書式要件が明確化されました[8]。 様式M1・M2及びそれらの添付書類は、CCCSのウェブサイトで指定されているフォーマットに従って電子的に提供されることになっています[9]。 また、様式M1にて、合併当事者間で商品・サービスの重複がある場合、シンガポール及び世界(該当する場合)の各合併当事者の上位10社(今までは上位5社)[10] の顧客に関する情報を提供することが求められるようになりました。

市場定義に関するCCCSガイドライン

 本改定ガイドラインは、デジタル時代に関連しうる市場の定義に関する問題をより明確にするために改訂されました。特に、本改訂では、CCCSの電子商取引プラットフォームに関する市場調査の結果を反映し、デジタル・プラットフォームの共通の特徴である多面的プラットフォームの概念を導入しています。また、本改定ガイドラインは、多面的プラットフォームを含む場合の市場の定義に関する実務上の複雑さを認識し[11]、CCCSが多面的プラットフォームを評価する際に考慮しうる様々な種類の外部性について説明しています。例えば、間接的なネットワーク効果や利用外部性は、多面的プラットフォームの一般的な特徴です[12]

指令及び是正措置に関するCCCSガイドライン

 本改定ガイドラインは、以前「執行に関するCCCS ガイドライン」(CCCS Guidelines on Enforcement)と呼ばれていました。本改定ガイドラインは、確約制(commitments)及び是正措置に関する競争法の法改正に対応し、確約と是正措置の評価における実質的・手続き的事項に関するCCCSの実務を明確にするために改名されました。

 2018年に競争法が改正され、CCCS(当時の名称はシンガポール競争委員会、「CCS」)は、競争制限的協定規制(第34条)及び市場支配的地位の濫用規制(第47条)に関する案件について拘束力及び強制力を有する確約を受け入れることができるようになりました。CCCSは、提案された確約を受け入れ次第、調査を中止することが出来ます。本改定ガイドラインは、確約提案の要件として、期間、提案に際して提出すべき情報、CCCSによる提案の評価プロセスなどを定めています[13]。 また、本改定ガイドラインにて、CCCSによる確約の受諾またはCCCSの指示により実施される是正措置の項目が導入されています[14]

競争法違反事件における適切な罰金額に関するCCCS ガイドライン

 本改定ガイドラインは、競争法第34条(競争制限的協定規制)の違反に対する金銭的罰則の算定における軽減要因のリストを明確にするために改訂されました。CCCSが、緩和要因があると判断した場合、金銭的罰則が減額されることがあります。

 事業者の役割に関連する緩和要因の非網羅的なリストに、追加の例が含まれるようになりました。すなわち、第34条の侵害との関連で、事業者が、(a)侵害への関与が実質的に限定されていたという証拠を提供し、(b)侵害の当事者であった期間中、市場において競争的行為を採用することにより反競争的合意の適用を実際に回避したことを証明する場合[15]です。

 また、侵害行為においてリーダー、扇動者、積極的参加者の役割を果たさなかった事業者の扱いに関するCCCSの政策的立場を明確にする項が追加されました。本事実自体は、軽減要因とはみなされないとのことです[16]

知的財産権の扱いに関するCCCSガイドライン

 本改定ガイドラインは、知的財産権の法的状況の変化に伴い、知的財産権と競争法の接点をより明確にするために改訂されました。

 まず、特許権、著作権、商標権、登録意匠権など、様々な種類の知的財産権の定義が示されています。また、新しい法的概念を導入し、競争法の観点からの意味合いを説明しています。例えば、ガイドラインは、標準必須特許(standard essential patent、「SEP」)の保有者が、公平・合理的・非差別的(Fair, Reasonable and Non-Discriminatory、「FRAND」)な条件でその技術のライセンスを拒否することは、第47条(市場支配的地位の濫用規制)に関連して競争の懸念を生じさせる可能性があると主張します[17]。 さらに、本改定ガイドラインは、知的財産権に関する和解契約が第34条(競争制限的協定規制)に抵触する可能性がある状況について説明しています[18]

主要な競争規定に関するCCCSガイドライン・第34条(競争制限的協定規制)に関するCCCSガイドライン

 この2つのガイドラインは、一貫性を保つため、上記の他のガイドラインと同様の変更を反映させるよう改訂されました。

以上

 

[1] 第1回目の公開協議は、2020年9月10日から2020年10月23日にかけて、6つのガイドラインの変更案について行われ、第2回目の公開協議は、2021年7月16日から2021年8月12日にかけて、競争法違反事件における適切な罰金額に関するCCCS ガイドラインの変更案について行われました。

[2] 第47条(市場支配的地位の濫用を禁止する規定)に関するCCCSガイドライン、11.33項。

[3] 本改正は、CCCSの電子商取引プラットフォームに関する市場調査で示された「自己優遇」(self-preferencing)に関する提言を反映するものです。自己優遇とは、自社の製品・サービスが、自社のプラットフォームを利用して供給される他の製品・サービスと競合する場合に、自社製品を優遇することです。CCCSは、公開協議への回答にて、自己紹介行為を市場支配力の活用の一例として認識しています。

[4] 構造的障壁は参入障壁の一種です。参入障壁とは、事業者が潜在的なライバルよりも効率的でなくても、長期的に超競争的な価格を利益的に維持できるようにするための要因のことです。

[5] 合併の実質的評価に関するCCCSガイドライン、6.36項。

[6] 合併の実質的評価に関するCCCSガイドライン、7.26項。

[7] 競争法ガイドラインの変更案に関する公開協議の付属書E。

[8] シンガポールでは任意の合併届出制度があり、届出が適切であるか否かは合併当事者の責任で独自に評価することとなっております(合併手続きに関するCCCSガイドライン、2.3 – 2.5項)。

[9]合併手続きに関するCCCSガイドライン、4.28項。

[10] 様式M1、31項。

[11] 市場定義に関するCCCSガイドライン、5.14項。

[12] 市場定義に関するCCCSガイドライン、5.15項。

[13] 指令及び是正措置に関するCCCSガイドライン、第3項。

[14] 指令及び是正措置に関するCCCSガイドライン、第2項。

[15] 競争法違反事件における適切な罰金額に関するCCCS ガイドライン、2.15項。

[16] 競争法違反事件における適切な罰金額に関するCCCS ガイドライン、2.16項。

[17] 知的財産権の扱いに関するCCCSガイドライン、4.9 – 4.11項。

[18] 知的財産権の扱いに関するCCCSガイドライン、3.39 – 3.42項。