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日本における再エネ特措法の改正に関する概要について

2022年03月11日(金)

日本における再エネ特措法の改正に関する概要についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

再エネ特措法の改正に関する概要

 

再エネ特措法の改正に関する概要

2022年3月11日
One Asia Lawyers 東京事務所
弁護士 松宮浩典

 2022年4月1日より「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」(以下「再エネ特措法」といいます。)が改正され、「再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法」(以下「改正法」といいます。)が施行されます。

1 背景

 現行の再エネ特措法によって導入された固定価格買取制度(FIT(Feed-in Tariff)制度)は、時限的な制度であり、また、FIT制度を支える国民負担の増大、地域社会との共生、系統制約の顕在化といった課題への対処が必要となっていました。このような課題を踏まえつつ、今回の改正は、抜本的な見直しとして行われるものです。

2 概要

 再エネ特措法の改正は、主に次の3つの観点から行われます。

 ①新たに市場価格をふまえて一定のプレミアムを交付するFIP(Feed-in Premium)制度の創設
 ②太陽光発電設備の廃棄等費用の外部積立制度の導入
 ③未稼働案件の認定失効制度の導入

 以下、それぞれの制度に関して解説します。

3 ①FIP制度の創設

 (1) FIP制度について

 FIP制度は、現行のFIT制度のように電気事業者が再生可能エネルギー電気の全量を固定価格で買い取るのではなく、再エネ発電事業者が、発電した電気を卸電力取引市場や相対取引で自由に売電させ、そこで得られる市場売電収入に加えて一定の補助額(「プレミアム」)による収入を得る制度です。

 現行のFIT制度では、電力会社が再エネ電気を買い取る際の1kWhあたりの単価(「調達価格」)が定められており、FIP制度においても「基準価格(FIP価格)」が定められます。この「基準価格」は、再エネ電気が効率的に供給される場合に必要な費用の見込み額をベースに、さまざまな事情を考慮して、あらかじめ設定されます。FIP制度の開始当初は、この基準価格をFIT制度の調達価格と同じ水準にすることとなっています(調達価格等算定委員会「令和3年度以降の調達価格等に関する意見」11ページ)。

 また、「参照価格」も定められます。参照価格は市場取引などで発電事業者が期待できる収入のことで、市場価格に連動し、1ヶ月単位で見直しが行われます。

 再エネ発電事業者は、この「基準価格」と「参照価格」の差を「補助額(プレミアム)」として受け取り、市場売電収入にプレミアムを上乗せされた合計分が収入となります。なお、プレミアムは、参照価格の変動等によって変わるため、同様に1ヵ月ごとに更新されます。

 FIP制度において、再エネ発電事業者はプレミアムを得ることにより、再生可能エネルギーへ投資するインセンティブを確保することが可能となります。電力の需要と供給のバランスに応じて変動する市場価格を意識しながら発電し、蓄電池の活用等により市場価格が高いときは売電する工夫をすることで、さらに収益を拡大できることが期待されています。

 (2) FIP制度の対象

 太陽光や風力などの電源の種別によって一定規模以上については、新規認定でFIP制度のみが認められます。新規認定でFIT制度が認められる事業に関しても、50kW以上は事業者が希望する場合にFIP制度による新規認定を選択することができます。また、既にFIT認定を受けている電源に関しても、50kW以上は事業者が希望する場合はFIP制度に移行することが可能となります。

4 ②太陽光発電設備の廃棄等費用の外部積立制度  

 廃棄物の処理及び清掃に関する法律等により、太陽光発電設備の廃棄処理の責任は太陽光発電事業者等にあります。しかし、太陽光発電事業は、参入障壁が低く様々な事業者が取り組むだけでなく、事業主体の変更が行われやすい状況にあるため、有害物質を含むものもある太陽光パネル等が、発電事業の終了後に放置や不法投棄されるのではないかという懸念が顕在化してきています。

 こうした状況を踏まえて、適切なタイミングで必要な資金を確保するために、太陽光発電設備の廃棄等に関する費用について原則源泉徴収的な外部積立て制度が創設されました。

 当該制度の対象、積立方式、金額、時期、取戻条件、施行時期は以下の通りです。

 (1) 対象

 10kW以上すべての太陽光発電のFIT・FIP認定事業(複数太陽光発電設備も対象)

 (2) 積立方式

 ・原則として、推進機関への源泉徴収的な外部積立て
 ・FIT制度の案件では特定契約の相手方である電気事業者を経由する形で、FIP制度の案件では推進機関から支払われるべき供給促進交付金から控除する形で、毎月の電気供給の対価から解体等積立金相当額が差し引かれ、推進機関に積み立てられる。
 ・長期安定発電の責任・能力を有し、かつ確実な資金確保がされている等、一定の要件を満たす案件では例外的に内部積立てが認められる

 (3) 積立金額

 ・調達価格又は基準価格の算定において想定されている廃棄等費用の水準(入札案件は最低落札価格を基準に調整)
 ・解体等積立金額は、「各認定事業に適用される解体等積立基準額(円/kWh)」に、「供給電気量(kWh)」を乗じた額として計算される

 (4) 積立時期

 ・調達期間又は交付期間の終了前10年間

 (5) 取戻条件

 ・廃棄処理が確実に見込まれる資料等の提出等
 ・調達期間又は交付期間終了後は、事業終了・縮小のほか、パネルを交換して事業継続する際も、パネルが一定値(認定上の太陽光パネル出力の15%以上かつ50kW以上)を超える場合に取戻しが認められる
 ・調達期間又は交付期間中は、事業終了・縮小のみ取戻しが認められる

 (6) 施行時期

 ・最も早い事業が積立てを開始する時期は2022年7月1日(事業ごとの調達期間/交付期間終了時期に応じて、順次積立てが開始される)

5 ③未稼働案件の認定失効制度の導入

 認定を受けた事業計画の中には、系統の接続契約を締結して系統容量を確保したまま長時間稼働開始に至っていない案件が少なからず存在しています。これらの未稼働案件が長時間放置された場合、新規参入を目指す事業者の系統利用が阻害され、新規案件の開発に支障をきたしていました。現行の再エネ特措法においても、運転開始期限が設定されていますが、運転開始期限を経過しても超過期間分だけ調達期間が月単位で短縮されるだけで、FIT認定は維持され、調達価格と系統容量は確保され続けることから、国民負担の増大や系統容量の圧迫という問題が残っているとの指摘がなされていました。

 このような問題に対処するため、改正法では、再生可能エネルギー発電事業計画の認定を受けた日から起算して、経済産業省令で定める期間内に、認定計画に係わる再生可能エネルギー発電事業を開始しなかった場合、認定が失効するという制度が設けられました。運転開始期限とは別に失効期限を設定し、失効した未稼働案件の系統容量を開放し新規事業者による活用を促すことを目的としています。

 失効となる期限について、運転開始期限の1年後の時点の進捗状況で適用の判断がなされ、具体的な進捗状況ごとに、以下のような規律が適用されます。

 ①系統連系工事着工申込みを行っていない案件は、運転開始期限の1年後の時点で認定が失効する。
 ②系統連系工事着工申込みを行った案件は、進捗を評価できる一方、一定期間内に運転開始まで至る可能性が高いと考えられることから、運転開始期限に、猶予期間として、運転開始期間に当たる年数を加えることとし、その到来をもって認定が失効する。
 ③大規模案件に係るファイナンスの特性を踏まえた例外的措置として、運転開始に向けた準備が十分に進捗し、確実に事業実施に至るものとして、環境影響評価の準備書に対する経済産業大臣勧告等の通知や工事計画届という開発工事への準備・着手が公的手続によって確認された一定規模以上の案件については、運転開始期限に、猶予期間として調達期間に当たる年数を加えることとし、失効のリスクを取り除く。

以上