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オーストラリアにおける労働者の分類に関する最近の判例と改正法について

2022年03月14日(月)

オーストラリアにおける労働者の分類に関する最近の判例と改正法についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

オーストラリア雇用法:労働者の分類に関する最近の判例と改正法

 

オーストラリア雇用法:労働者の分類に関する最近の判例と改正法

2022年3月吉日
One Asia Lawyers
オーストラリア・ニュージーランド事務所

1.はじめに

 オーストラリアの高等裁判所は、昨年から今年にかけて労働者の分類に関連した重要な判決を下しています。オーストラリアの雇用法上、労働者が正規の従業員(フルタイムまたはパートタイムのEmployee)か、臨時労働者(Casual Employee)か、または請負人(Independent Contractor)かによって、その権利および雇用主の義務に大きな違いがあり、労働者が雇用法上の権利を主張する際にその分類に関して度々問題となってきました。オーストラリアはコモン・ローの法域であるため、裁判所による法令に記載のこれらの定義(または定義のない事項)の解釈が重視されます。

 本稿では、オーストラリアの労働者の分類について最近の判例を基に解説いたします。

2.臨時労働者(Casual Employee)

 2021年8月4日、Workpac v Rossato事件[1]において、連邦最高裁判所(High Court of Australia)は、臨時労働者(Casual Employee)の分類に関するWorkPacの上訴に対し判決を下しました。この事件は、オーストラリアの主要な雇用法であるフェアワーク法(Fair Work Act 2009)における臨時労働者(Casual Employee)の定義について2021年3月に施行された改正前後を跨ぐ判決として注目が集まりました。事件の背景は、WorkPacの顧客に派遣され製造業務を行うためにWorkPacと複数の臨時労働契約を締結し従事したRossato氏が、年休や祝日等の正規社員(Permanent Employee)としての権利を主張したというものです。連邦最高裁判所は、Rossato氏は契約に合意された内容に基づいて臨時労働者であるとし、(契約内容のみでなく)全ての状況を総合的に勘案して判断しなければならないという最高裁の従来の見解を覆しました。この判決により、従業員が臨時労働者か否かの判断は、(1)無期限労働を継続するという確固たる事前の約束(a firm advance commitment to continuing an indefinite work)があるか否かが基準となり、(2)契約締結時に合意された契約条件が焦点であって、その後の当事者間の行為は焦点ではないことが明確にされました。

 2021年3月27日に施行されたフェアワーク法の新条項第15A条は、「合意された業務パターンにて継続的な仕事をするという確固たる事前のコミットメントがないこと(no firm advance commitment to ongoing work with an agreed pattern of work)を知りながら仕事のオファーを受け入れた者は臨時労働者である。」と規定しており、その判断には以下の4つの要素のみを考慮することが許可されます

・雇用主が仕事を提供することを選択でき、労働者が仕事を受け入れるか拒否するかを選択できるか否か。
・当該労働者が、雇用主のニーズに従って求められる仕事をするか否か。
・雇用が臨時労働として記述されているか否か。
・募集条件またはフェアワーク規制に基づき、臨時労働手当または臨時労働者向けの特定の賃金率の適用を受ける権利を有するか否か。

 以上から、現時点では、臨時労働が長期的かつ定期的なものであったとしても、契約締結時に当事者間で合意された契約条件に基づいて継続的に働くことを事前にコミットしない限り、必ずしも正規雇用であると解される可能性は高くないと言えます。

 他方、同改正法により、正規雇用に転換する臨時労働者の権利が追加されました。具体的には、雇用主のもとで少なくとも12ヶ月間働き、そのうちの最後の6ヶ月間は継続的に規則的な時間パターンで働いていた臨時労働者は、正規雇用(フルタイム雇用またはパートタイム雇用)への転換を申し受ける権利を有します。雇用主は、当該要件を満たす従業員が12か月間勤務した後21日以内に、雇用形態転換を申し出る義務を負います(ただし、オファーをしない合理的な事業上の理由がある場合はその旨を書面にて伝えることで拒否することができます)。従業員数15人未満の企業は、雇用形態転換の要件が免除される場合があります。更に雇用主は、臨時労働者の雇用時に、上記の雇用形態転換要件を含む臨時雇用情報説明書(Casual Employment Information Statement)を労働者へ提供しなければなりません。

3.独立請負人(Independent Contractor)

 2022年2月に、Personnel Contracting事件およびJamsek事件という2件について連邦最高裁判所の判決が下され、労働者が従業員(Employee)か独立した請負人(Independent Contractor)かを判断する上で、契約条件が主要な要素の一つであるという豪州裁判所の明確な見解が示されました。

 なお、オーストラリアでは、従業員に対しフェアワーク法に基づく様々な保護と権利が与えられているのに対し、独立請負人には与えられていません。

 まず、Personnel Contracting事件では、原告は雇用主との契約において独立した請負人と明記され、雇用主の顧客のために働いていました。連邦最高裁は、雇用主が原告の報酬を決定する権限を有しており、原告が雇用主の指示に従わない場合は雇用を終了させ、請求者が誰のために働くか、およびどのように仕事を行うかについて支配する権利を有する等の契約条件を総合的に鑑みて、雇用関係があったと判断しました。特筆すべきは、上述のWorkPac v Rossato事件と同様に、連邦最高裁は、その後の当事者の行為は重要でないとし、契約内容そのものに焦点を当てたことです。ここで注意したいのは、単に独立した請負人と表示するだけではその関係性を構成せず、契約条件の全体が独立した請負人としての関係であること(つまり、通常雇用者に与えられるような支配・管理権を伴うなどの雇用の関係が暗示されていないこと)が重要です。

 Jemasek事件は、それぞれの配偶者との事業パートナーシップ制度を利用して雇用主のトラック運転手として働いていた2人の原告が雇用関係の存在を主張し、雇用主に対し雇用法上の権利を主張した事件です。連邦最高裁は、雇用主のブランドを着用することが期待されていたことや雇用主との経済的依存関係等があったにも関わらず、これらの事実は、書面による契約を締結した後に生じた事実、あるいは契約外の事実であり、契約上の権利や義務を変更するものではないとして、雇用関係はなかったという判決を下しました。

4.おわりに

 雇用主としては、後に想定外の雇用法上の権利が主張されることを防ぐため、労働関係の明確な分類(従業員、臨時労働者、独立請負人)を含む雇用/請負契約条件を書面で記録しておくことが推奨されます。臨時労働者または請負人を雇う場合には、その分類名を記載するだけでなく、契約内容が実際に当該関係を反映するものであることが重要となります。一方で、契約外の事実は焦点とならないという上記の判決にもかかわらず、契約外で契約内容とは異なる意図を反映する表現をする場合に契約の変更があったとみなされるリスクもゼロではありませんので、あくまで契約の合意内容に則った雇用/契約関係を維持するよう注意が必要です。

 なお、雇用主は別途、フェアワーク法に基づく偽装請負(Sham Contracting)の規定にも留意する必要があります。この規定は、実際には雇用関係に通常与えられるような支配力、権利および義務を伴うにもかかわらず、労働者を独立請負人として偽装することを禁じる法令です。

以 上

[1] Workpac v Rossato & Ors [2021] HCA 23