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マレーシアにおける取締役の職務について

2022年04月14日(木)

マレーシアにおける取締役の職務についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

マレーシアにおける取締役の職務

 

マレーシアにおける取締役の職務

2022年4月
One Asia Lawyers Group
マレーシア担当
日本法弁護士 橋本有輝
マレーシア法弁護士 Najad Zulkipli

1.はじめに

 マレーシアの法制度では、会社は役員、取締役、株主とは別の法人格として認められています。この分離により、ある種の訴訟は、取締役に対してではなく、会社に対してのみ行われるようになりました。

 上記の原則は、別法人の原則と呼ばれ、一つの法人である会社と、別の法人である取締役を区別することを意味します。この原則は、一見すると会社の取締役を保護する盾のように聞こえるかもしれませんが、特定の状況においては、会社というベールを取り除き、またはそれを突き破って、取締役が会社内で犯した不履行に対する責任を追及することができるのです。

 上記のような例外がある以上、取締役はその基本的な義務と責任を理解することが適切です。本ニュースレターでは、マレーシアにおける取締役の義務について、法律上の規定に基づき解説します。

2.取締役の職務の源泉

 取締役は、その能力および知識を活用して、会社の業務を管理することが期待されています。取締役の義務は、コモンロー、会社法、会社の定款、および取締役と会社の間で締結された契約など、多くの源泉に由来しています。

 取締役の職務の源泉は、以下のとおりです。

 (a) コモンローと衡平法 – 取締役には、受託者としての義務や忠誠心だけでなく、注意義務や技能も求められます。
 (b) 会社法[1] – 取締役の法定義務を定め、違反した場合には一定の罰則を科す。
 (c) 会社の定款/契約 – 取締役の個別の職務に対応するために特定の義務等が規定されます。
 (d) その他の関連法令 – 例:2009年マレーシア汚職防止委員会法(Malaysian Anti-Corruption Commission Act)など。

 上記のような法律((c)を除く)は、取締役の義務を定めているだけでなく、法律に違反した取締役には重い罰則を課しています。最も重要な点の一つは、取締役がその知識をもって合理的な注意、技能および勤勉さを行使する義務である。これらの要件に違反した取締役は犯罪を犯すものとし、有罪判決を受けた場合、懲役もしくは300万リンギット以下の罰金、またはその両方が課される可能性があります。[2] 

3.取締役の職務は何か?

 取締役の法定任務は、以下のとおりですが、これらに限られるものではありません。

 (1) 会社の課題を解決するための会議を招集する[3]
 (2) 必要な法定書類の作成および提出(例:財務諸表、株式に関する事項、等)[4]
 (3) 会社が締結した、または締結する予定の契約またはその可能性のある契約と利害関係を持たず、持つ場合にはその利益を開示すること[5]
 (4) 会社の法定帳簿、登記簿、その他の法的文書の更新を確実に行うこと。

 上記以外にも、取締役の職務は、会社の定款に記載されているほか、会社、株主および関係者が合意したその他の取り決め(例えば、取締役会規則や雇用契約など)にも記載されている場合があります。この中には、会社を代表して契約内容を執行する責任、特定の問題を解決するために取締役会で決議すること、決議内容を決定するために取締役に与えられた議決権を行使することなどが含まれる場合があります。

 取締役が法定義務を果たさない場合、刑事犯罪として告発され、上記の義務違反で有罪となった場合、50万リンギ以上300万リンギ以下の罰金または1年以上5年以下の禁固刑、あるいはその両方が科せられる場合があります。[6]

4.取締役がやってはいけないことは何か?

 取締役には、会社の事業や運営を方向付ける権限が与えられていますが、この権限が濫用されないようにするための制限も法律で定められています。最もよく知られている制限は以下の通りです。

 (1)会社による取締役に対する貸付[7]
 (2) 会社による取締役に対する企業保証(一定の例外を除く)。[8]
 (3) 会社の利益と対立するおそれのある取引を行うこと。 

 この制限に違反した場合は、上記と同様に重い罰則が科せられます。

 上記のほか、例えば、汚職防止委員会法の2018年改正法第17条Aに基づく企業責任では、取締役が汚職を防止する適切な手続きを実施していることを証明できない場合、会社に関連する人物が犯した汚職に対して有罪とみなされ責任を負う可能性があるとされています。

5.結論

 取締役は、大きな責任を負っていますが、報酬体系、ビジネスアドバイザー、弁護士、会計士、監査役などからの助言を得ることができるなどなど、一定の権利と便益を享受しています。

 包括的かつ正確に作成された明確な取締役規則または会社定款があれば、取締役はその役割、義務および責任についてより深く理解することができます。このような包括的な文書は、取締役がその職務に従って行動し、優れた経営を確立するための指針として不可欠なものです。

 そのためにも、専門業者に依頼して、貴社の取締役規程の作成し、役割の理解促進を支援することをお勧めします。私たちのサービスに関するご質問は、こちらまでお寄せください。

[1] The Companies Act 2016

[2] 会社法213条3項

[3] 会社法第311条2項

[4] 会社法248条

[5] 会社法第221条6項

[6] 会社法248条3項、221条12項

[7] 会社法第224条

[8] 会社法第225条