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マレーシア競争法の改正案について

2022年05月13日(金)

マレーシア競争法の改正案についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

マレーシア競争法の改正案

 

マレーシア競争法の改正案

2022年5月
One Asia Lawyers Group
コンプライアンス・ニューズレター(日本語版)

 

 マレーシア競争委員会(「Malaysia Competition Commission」、以下「MyCC」[1])は、2010年競争法の改正に着手しています。2022年4月25日、MyCCは競争法改正案を協議ペーパー(consultation paper)及び改正案の要点(salient points of the proposed amendments)を示す別文書の形で発表しました。現在、これらは公開されており、MyCCは2022年5月27日まで、すべての利害関係者および一般市民からの改正案に対する書面提出を募集しています。以下にて説明するように、改正案は、新しい合併規制制度、MyCCの調査・執行権限、及び新しい手続きに関連するものです。

新しい合併規制制度の提案

 現在、競争法は反競争的合意・支配的地位の濫用の禁止のみ定めています。マレーシアでは、それぞれ2015年マレーシア航空委員会法(Malaysian Aviation Commission Act 2015)及び1998 年通信・マルチメディア委員会法(Communications and Multimedia Act 1998)の下で、航空分野と通信分野に関してのみ、合併規制制度が存在します。MyCCは、競争法に基づく合併規制制度の導入を提案しており、商品やサービスの市場における競争を実質的に低下させる(「substantial lessening of competition」)可能性のある合併・予想される合併を禁止することを提案しています[2]

ハイブリッド届出制度

 提案されている合併規制制度では、予想される合併に対し、義務的な届出と任意的な届出の両方を含むハイブリッド届出制度が採用されています。本制度の下、所定の閾値を超える合併はMyCCに届出しなければならず(義務的届出)[3]、一方、所定の閾値を超えない合併・予想される合併の場合、企業は合併・予想される合併の完了前または後に自主的にMyCCに通知することが出来ます(任意的届出)[4]。 届出基準額は、競争法の改正が成立した後、官公報(Gazette)に掲載される命令によりMyCCが定めることになっております[5]。また、MyCCは、義務的届出要件の対象となる予想される合併を、MyCCの承認を受ける前に完了させないという要件を企業に課すことを求めています[6]

合併違反に対する罰則

 所定の閾値を超える合併の場合、MyCCにその届出がない場合は合併違反となります。また、MyCCの承認を得ることなく合併を行った場合、合併違反となり、その合併は無効となります[7]。 これらの違反に対して、MyCCは合併取引または予想される合併取引の価値の10%を上限とする罰金を提案しています[8]

届出の審査期間

 義務的届出要件の対象となる予想される合併を評価するための審査期間に関して、MyCCは予想される合併に関する決定を下すため、完全な届出を受領した日から120営業日[9]の期間を有することになっております。本期限は義務的届出にのみ適用され、任意的に届け出た合併・予定されている合併には適用されないとのことです。MyCCが(義務的に)合併の届出を受けたにもかかわらず、何の決定も下さなかった場合、120営業日の検討期間が経過した時点で、予定されていた合併は承認されたものとみなされ、当事者は合併を完了するために手続きを進めることができます。ただし、以下の場合には、MyCCは合併の審査を中止又は中断することができます。

 (a) MyCCが企業に対して更なる情報を要求する場合
 (b) 企業が書面による表明のための提出期間の延長を求める場合
 (c) 企業が口頭での表明を希望する場合
 (d) 企業がコミットメント・オファー(commitment offer)を提出した場合[10]

 合併する企業は、合併・予想される合併が競争法に違反しないと判断するMyCCの承認決定(clearance decision)を得るため、MyCCに対してコミットメント・オファーを提供することが出来ます。コミットメント・オファーとは、合併・予想される合併による競争の実質的な低下を是正、緩和、防止するためのコミットメントです。コミットメントの申し出は、届出された合併・予想される合併に関するMyCCの決定前、あるいはMyCCが実施する調査の完了前であれば、MyCCはいつでも受け入れることができます。

合併規制制度からの除外

 以下の種類の合併及び予想される合併は、合併規制制度から除外されることが提案されています。

 (a) 1998 年通信・マルチメディア委員会法(Communications and Multimedia Act 1998)、2015年マレーシア航空委員会法(Malaysian Aviation Commission Act 2015)、1993年ガス供給法(Gas Supply Act 1993)、2001年エネルギー委員会法(Energy Commission Act 2001)、2012年郵便サービス法(Postal Services Act 2012)、1974年石油開発法(Petroleum Development Act 1974)(上流事業のみ)により規制されている商業・経済活動に関わる合併
 (b) マレーシア国立銀行(Bank Negara Malaysia)、証券委員会(Securities Commission)、ラブアン金融サービス局(Labuan Financial Services Authority)、国家水サービス委員会(Suruhanjaya Perkhidmatan Air)にライセンス付与された、承認された、もしくは登録された企業間の合併
 (c) 法律上の要件を満たすために行われた合併
 (d) 競争法10A条[11]による禁止が企業に割り当てられた任務の遂行を妨害する限りにおいて、連邦政府または州政府から一般的な経済的利益をもたらすサービスの運営を委託された企業、または収益独占の性格を持つ企業が行う合併[12]

MyCCの調査・執行権限の強化に関する提案

 MyCCは、競争法に基づく調査及び執行の権限を強化するため、いくつかの新規定及び改正を提案しています。主な提案は以下の通りとなります。

 ・MyCCが実施する調査に関連する情報や支援の共有を促進するため、MyCCに内部通報制度を運営する権限を与えること。内部通報制度は、告発者への報酬の支払いを含むことが可能となり、ガイドラインの発行を通じてMyCCに管理されるものとする[13]
 ・市場調査を行うために、MyCC があらゆる者に対して情報・書類を要求する権限を与えること。また、政府機関が市場調査の対象に関連する情報・書類を所有しているとMyCCが考える場合、 MyCC が政府機関に支援を要求する権限を与えること[14]
 ・マレーシアが加盟している国際協定に基づき、MyCC に機密情報の開示を行う権限を与えること[15]
 ・合併違反が発生したと疑うべき理由がある場合、MyCCに合併違反の調査を行う権限を与えること[16]

新たな和解手続き及び既存のリニエンシー制度の改正に関する提案

 MyCCは、競争法上の反競争的合意禁止または支配的地位の濫用禁止を侵害した責任を認めた企業に対する新たな和解手続きを提案しています。本和解手続きを選択することで、これらの企業は、リニエンシー制度の下で受けることができる罰金の軽減に加え、最大20%の罰金の軽減を受けることができるようになります[17]

 現行のリニエンシー制度にて、一定の状況下で罰金を軽減することができます。MyCCは、本制度を明確かつ強化することを目的として、企業がリニエンシーの申請を行った時期やその他の要因(例えば、企業が侵害の調査や捜査に著しく役立つ情報やその他の協力を提供したかどうか)により、企業に対して異なる割合の減刑を認める権限を与えようと提案しています。また、MyCCは、リニエンシー制度の適用を反競争的合意に関連するすべての侵害(すなわち、水平的及び垂直的協定の両方を含む)に拡大することを提案しています[18]。現在、リニエンシー制度は、競争法4条2項に規定される反競争的目的を持つ水平的協定(すなわち、カルテル行為)の侵害にのみ適用されています。

「企業」(Enterprise )の定義の改正案

 MyCC は、競争法に規定される様々な定義の改正を提案しています。重要な提案の一つは、現行の「企業」の定義を明確にし、現行の定義の技術的な抜け穴により反競争的行為が法的監視の目を逃れることを防ぐために、「企業」の定義を修正することです。現行の定義の下、「企業」とは「商品またはサービスに関する商業活動を行うあらゆる事業体を意味し、本法律の適用上、親会社及び子会社は、その法人格が別個であるにもかかわらず、両者が単一の経済単位を形成し、その中で子会社は市場での行動を決定する上で実質的自治権を享受しない場合には、単一の企業とみなされるものとする」とされています。

 現行の「企業」の定義について、以下の修正が提案されています。

 a) 「entity」(事業体)を 「person」(人)に置き換えること。これは、競争法の適用を受けるか否かを決定する上で、個人の法的地位は関係ないことを明確にする。
 b) 「enterprise」(企業)の定義に「economic activities」(経済活動)を挿入すること。
 c) 企業の定義に「法的地位や資金調達の方法に関係なく」という文言を挿入する。
 d) 親会社と子会社を単一の企業と見なす状況を削除すること。本改正の目的は、企業が現行の規定を悪用して反競争的行為に従事した場合の責任を免れることを防ぐこと。それにもかかわらず、MyCCは、事実と状況に応じてケースバイケースに「単一の経済的実体」(single economic entity)の原則を適用することができます[19]

以上

 

[1] 2010年競争法の執行を担当するマレーシアの独立機関。

[2]提案されている新規競争法10A条。

[3]提案されている新規競争法10F条。

[4]提案されている新規競争法10H条及び10I条。

[5] 提案されている新規競争法10J条。本条はまた、MyCCに対して、官公報(Gazette)に掲載される命令を通じて、基準値の十分性を見直し、基準値を修正する権限を与えています。

[6] 提案されている新規競争法10G条。

[7] 提案されている新規競争法10F条及び10G条。

[8] 提案されている新規競争法43L条。

[9] 120 営業日は、40 営業日の Phase 1 レビュー期間及び80 営業日の Phase 2 レビュー期間を含みます。Phase 2は詳細な審査からなり、必要な場合のみ適用されます(2010年競争法改正案に関する協議ペーパー、ページ 23)。

[10] 提案されている新規競争法10F条。

[11] 商品やサービスの市場における競争を実質的に低下させる(「substantial lessening of competition」)可能性のある合併・予想される合併を禁止する、提案されている新規条項。

[12] 競争法改正案の要点を示す文書、第67。

[13] 提案されている新規競争法41A条。

[14] 提案されている新規競争法11A条。

[15]提案されている競争法21条2項の新規サブセクション。

[16] 提案されている新規競争法34E条。

[17]提案されている新規競争法40A条。

[18] 競争法改正案の要点を示す文書、第43。

[19] 競争法改正案の要点を示す文書、第1(ページ5−6)。