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オーストラリアにおける通報者保護法制に対応するガバナンス体制の構築について

2023年04月10日(月)

オーストラリアにおける通報者保護法制に対応するガバナンス体制の構築についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

オーストラリア:通報者保護法制に対応するガバナンス体制の構築

 

オーストラリア:通報者保護法制に対応するガバナンス体制の構築

2023年4月吉日
One Asia Lawyers
オーストラリア・ニュージーランド事務所

1.はじめに

 オーストラリアにおける公益通報者保護に関する法令は、会社法(Corporations Act 2001 (Cth))のPart 9.4AAA(以下、「本法令」)に定められています。本法令の適用要件等については、弊所ニューズレターにてご紹介しています(https://oneasia.legal/7138、https://oneasia.legal/7258)。

 2023年3月2日に、管轄当局であるオーストラリア証券投資委員会(ASIC:Australian Securities &Investments Commission)は、オーストラリア企業による本法令の遵守状況を調査し、内部通報を管理するための手本ととなるガバナンス体制の事例についてまとめた報告書を発表しました(https://download.asic.gov.au/media/wsjegua5/rep758-published-2-march-2023.pdf)。

本稿では、ASICの報告書において推奨される各企業が本法令を遵守するために構築すべきガバナンス体制について解説します。

2.推奨されるガバナンス体制

 オーストラリア企業が実際に取り入れているガバナンス体制の事例として、具体的には、以下のような対策が取られています。

 ①責任者の任命

 公益通報者保護の社内通報窓口および責任者を設置することは多くの企業で取り入れられている対策の一つです。通報者保護制度の総責任者のほかに、通報者の身元等の保護対象となる機密情報の取り扱いの責任者、報復行為とみなされる行為が行われないように監督する責任者といった役割ごとの任命も見受けられます。また、利益相反の疑いのある場合の代替の責任者・窓口を設けている企業も見受けられます。

 ②社内規則・手順の策定

 通報者とのコミュニケーション、事実調査および決定判断の方法について詳細に規定したワークフローを作成し、有事の際の社内手順をストリームライン化することは、通報の処理、調査および評価について、人的ミスを低減し、個人のスキルや経験に依拠することなく一貫性のある対応をとるために重要といえます。

 具体的には、以下を含む規則・雛形の作成が挙げられます。

 ・社内ポリシーの作成(対象となる通報の範囲、通報を受けた場合の対応、社内での報告手順、その他本法令の特にポイントとなる情報を記載)

 ・理解しやすい図を使った通報受信から解決までのフローチャート
 ・機密情報の取り扱いに関するガイドライン
 ・報復行為とみなされるリスクのある行為の事例一覧
 ・報告書テンプレート
 ・同意書
 ・通報を受けた場合の受け答えの雛形

 ③外部サービスプロバイダーの活用

 大多数の企業において、社内窓口の設置のみでなく、外部窓口が設置されています。一般的に、法律事務所等の本法令に精通した専門家をが外部窓口として利用する企業が多く見受けられます。また、保護の対象となる機密情報の管理について、第三者サービスプロバイダーの提供するソフトウェアを利用した管理システムを使用している場合も少なくありません。

 ④社内での窓口の周知

 社内・社外窓口の存在を社内のすべての従業員に対して周知することは、適切な人物へ通報がなされ、本法令に則った情報の取り扱い、調査・評価といった対応をとるために必要不可欠といえます。社内での周知は、すべての従業員に対して、メール、イントラネット、社内ポスター、Eラーニング、セミナー等のあらゆる手段を用いて、定期的に行うことが推奨されます。また、質問票を使い定期的な周知度調査を行うことも、コンプライアンスリスクを低減するうえで役立つツールの一つとして用いられています。

 ⑤通報を受ける立場の役職へのトレーニング

社内窓口として決められた者以外にも、本法令において適格受領者(Eligible Recipients)に該当する人物が通報を受けた場合には、本法令に基づく通報があったとみなされ、本法令に基づく各種義務の適用対象となります。具体的には、取締役・秘書役・その他オフィサー(会社の決定の過程に参加する者や会社の決定に影響力を持つ者)、上級管理職(事業の全部または重大な部分に影響する決定に参加する者)を含みます。そのため、取締役や経営管理層が、本法令における義務および通報を受けた場合の対応方法について理解しておくことは非常に重要といえます。

 ⑥通報について調査する立場のスタッフへのトレーニング

 上記⑤い記述する役職の他に、会社が受領した通報に関する調査、情報管理およびその他社内ワークフローの実務を行うスタッフに対し、情報管理、法令上の義務等のトレーニングを行うことも重要といえます。

 ⑦定期的な手順の見直し

 上記の通り策定した社内手順が効率的かつ効果的に運用されているか否かをモニタリングし、必要に応じて定期的に見直しを行うことは、本法令の違反リスクを低減するうえで重要です。また、従業員の通報者保護制度に対する満足度を調査し、その結果に基づいた改善策を講じて窓口の利用を促すことで、あらゆる法令のコンプライアンス違反の摘発を未然に防ぎ、または重度な違反となる前に対処することが可能となります。

 ⑧取締役会での情報共有

 通報された情報、解決までの期間、頻度、質等の傾向を匿名化した情報として集計し、会社のガバナンス体制を強化するためのツールとして取締役会や委員会等で利用する企業が多く見受けられます。

3.おわりに

 公益通報者保護のためのガバナンス体制を構築することは、本法令の遵守のみでなく、社内で顕在化していないあらゆる法令の違反行為を未然に防ぎ、または重度な違反となる前に是正措置を行うために効果的といえます。オーストラリアの通報者保護法制はすべてのオーストラリア法人が対象となるため、未実施の企業は、早急に対応を進めることが推奨されます。