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マレーシアにおける民事裁判について

2023年04月13日(木)

マレーシアにおける民事裁判についてニュースレターを発行いたしました。 PDF版は以下からご確認ください。

マレーシアにおける民事裁判(5) ~略式判決・欠席判決~

 

マレーシアにおける民事裁判(5) ~略式判決・欠席判決~

2023年4月
One Asia Lawyers Group マレーシア担当
日本法弁護士   橋本  有輝
マレーシア法弁護士  Clarence Chua Min Shieh

1.はじめに

 マレーシアにおける裁判の在り方について概説している本シリーズであるが、今回は、正式裁判に至らずに裁判が終了する場合、すなわち、略式判決及び欠席判決について説明する。

 マレーシアは、英米法の司法制度を採用しているため、正式裁判に以降した場合には、厳格な手続きのもと裁判が行われることになり、これに要するリーガル・コストや解決に至るまでの期間が膨大なものとなり得る。その観点で見ても、正式裁判に至らずに紛争を解決できる略式判決(訴訟提起から4-6か月程度での解決が見込まれる)や欠席判決(訴訟提起から3か月程度での解決が見込まれる)の制度は実務的にはかなり重要である。

2.略式判決(Summary Judgment)

 裁判所規則(ROC)第14条のRule 1(1)によれば、原告は、被告が出廷した後、被告が、損害賠償請求額に関するものを除き、請求またはその一部に対して反論をしないことを根拠として、裁判所に対して被告に対する略式裁判の命令を申請することができる。つまり、略式裁判は、相手方が出廷はするものの法的な意味での反論がない場合又は反論の根拠が極めて弱い場合に迅速に判決を出すことができるようにするものである。例えば、貸金の返還請求裁判において、被告が「お金がないので返せない」とだけ主張することは、法的な意味での反論にはなっていないため、略式裁判に相応しいという判断となり得る。

 このような略式裁判は、原則として、令状(Writ)または訴状(Statement of Claim)で始まるすべての訴訟について認められている。

 逆に、事実の存否に関する主張が対立しているような場合は、証人尋問が必要と考えられ、略式判決は認められない。例えば、貸金の返還請求裁判において、被告が「お金を借りたのではなく贈与であった」とか、「お金は借りたが返した」と主張する場合である。このほか、裁判所規則では、名誉毀損、悪意のある訴追、結婚の約束違反などに関する裁判の場合、略式判決ができない旨を定めている 。また、被告が政府である場合も略式判決ができない 。

3.略式判決を申し立てる方法

 原告は、自身の案件が略式判決に適していると考える場合、以下の3つのことを確認する必要がある  。第一に被告が出廷していること、第二に訴状(statement of claim)が提出されていること、最後に略式裁判の申立てを裏付ける宣誓供述書(Affidavit)が 裁判所規則の定める要件(主に下記4のRule2(1)の要件)に合致していることである。また、この申立ては、宣誓供述書(Affidavit)を添付した申立通知書(Notice of Application)によって行われる必要がある。

 申立ての時期については特段の期限はないものの  、何ヶ月も経ってから申し立てた場合、当該遅延につき正当な理由が要求され、場合によっては裁判所の裁量で却下される可能性もある  。

4.略式裁判のための宣誓供述書に関する留意点

 略式裁判の申立てを基礎づける宣誓供述書は、原告の請求に異議を唱える実質的な反論が存在しないことを明確に述べなければならない 。申立書が提出されると、その写しは被告及び/又はその弁護士に送達されなければならない。被告は、実質的な反論があり、裁判期日が必要であることを表明することで、これに異議を唱える必要がある。

 この異議申し立ては、原告の宣誓供述書に対する反論としての供述書(Affidavit in Reply)を通じて行われる。

 ここでは、被告が単なる否定をするだけでは足りず、原告の主張を否定するような関連する事実(単なる否認ではなく、積極的な事実の主張)が述べられる必要がある 。また、相殺や反訴が反論とみなされることもある (反訴が原告の本来の請求とどの程度関連しているかによる)。被告によって反論の供述書が提出されると、原告は反論する機会を得て、通常、当事者は宣誓供述書の提出はこれで終了となる。

 上記の後、審問が行われ、原告が、被告が請求に対抗する実質的な反論を持たないことを証明できれば、略式判決が下され、事件はそこで終了する。しかし、案件が正式裁判にかけられるべきであると判断された場合、裁判官は申立てを却下する。

5.欠席判決とは

 以上は、被告があくまで出廷をしたうえで、効果的な反論を持たない場合の説明であったが、被告が出廷すらしない場合に登場するのが、欠席判決である。

本シリーズの(2)で説明した通り、WritとStatement of Claimの送達を受けた被告は、Order12のRule4では、出廷は訴状が送達された日から14日以内に行わなければならないと定めている。この期限を徒過した場合、欠席判決がなされる。

 ただし、欠席判決は、予定損害賠償額の請求であれば終局判決となるが、それ以外の損害賠償請求の場合や不動産の明渡しを求める訴訟の場合は、裁判所が損害額を評価する等のための中間判決になる。また、被告が政府である場合は、欠席判決はなされない。

6.欠席判決の手続き

 上記の14日間が経過すると、原告は欠席判決を要求することができる。欠席判決が認められるためには、原告は、第一に令状の送達が適切に行われたこと  、第二に送達を証明する宣誓供述書があること  、不出頭証明書(Certificate of Non-Appearance)があることを示す必要がある 。

すべての書類が提出されると、欠席判決が原告に渡される 。

 とはいえ、何らかのやむを得ない事情により、被告が出廷できなかった場合もあり得るところである。Order 42 のRule 13では、欠席判決が被告に送達された日から30日間、被告が欠席判決の無効化を申立てるための猶予期間が認められている。この無効化を行うには、被告からの宣誓供述書を添付した申請通知が必要である 。ただし、この無効化が認められるか否かは、裁判所の完全な裁量に委ねられている 。 したがって、訴状が送られてきた場合には、早急に対応を検討する必要があると言える。

7.欠席判決の種類

(1)予定された損害賠償の請求のみを行う場合:この場合の欠席判決は、終局判断となる(Order 13 Rule 1)。

(2)予定された損害賠償の請求以外の損害賠償を行う場合、動産・不動産の返還請求を行う場合:これらの場合の欠席判決は、損害の存否のみに関する中間判決となり、損害の査定等の審理を続けることになる(Order 13 Rule 2-4)。

(3)それ以外の請求の場合:この場合中間判決は出ず、その代わり被告が出席したと見做されたうえで審理が続行する。

8.まとめ

 上記についてご不明な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。