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2023年09月12日(火)2:30 PM

ベトナム国家銀行が2023年6月30日に発出し、8月15日に発効となった外国ローンの実施条件に関するCircular No.08/2023/TT-NHNNについて、ニュースレター第2弾を発行いたしました。 PDF版は以下のリンクからご確認ください。なお、第1弾はこちらから閲覧いただけます。

<外国ローンの実施条件に関する新通達08/2023/TT-NHNNが発出>その2

<外国ローンの実施条件に関する新通達08/2023/TT-NHNNが発出>その2

2023年9月11日
One Asia Lawyers ベトナム事務所

はじめに

 本年8月の弊所ニューズレターにおいて、2023年8月15日に発効した外国ローンの実施条件に関する新通達についてご紹介しました。そこで取り上げた主な内容は、①外国ローンの実施条件の明確化、②外国ローン使用計画または外国ローン再編計画の作成義務、③借入限度額の明確化の3点でした。今回は、前回のニューズレターで取り上げなかった改正ポイントについてご紹介します。

 なお、本稿でいう新通達とは、政府保証のない外国ローンの実施条件に関する2023年通達8号(08/2023/TT-NHNN)を指し、旧通達とは、同2014年通達12号(12/2014/TT-NHNN)を指します。

1.外国ローンの借入費用に関する改正

 外国ローンの借入費用とは、借入人が債権者、保証人、保険会社、代理人その他の関係者に支払う、利息その他の費用で、借入金に対する年率で換算した費用の総額を指します。この借入費用に関して、次の2点が改正されました。

 第一は、外国ローン費用に関する当事者の合意について、ベトナム法が適用される旨を明記した点です。旧通達では、外国ローン費用は、借入人、債権者および関係者の合意により決定されるとしていました。これに対して、新通達は外国ローン金利と外国ローンに関連するその他の費用について、ベトナム現行法の規定を遵守すべきと定めました。

 この改正で論点となりうるのは、外国ローンの準拠法を当事者間で合意しても、ローン費用についてはベトナム法が適用されるという点です。これに関連して、新通達は、SBV(ベトナム中央銀行)総裁が必要に応じて外国ローン費用の上限水準を決定し公表する旨定めています。なお、ベトナム民法上はローンの上限金利は、年利20%と定められています。今後は、外国ローン費用に関する当事者間の合意は、これらの上限を超えないことが求められる可能性があります。

 借入費用に関する第二の改正点は、外国ローンの債務再編における借入費用の上限に関する旧通達の条項が、新通達において削除されている点です。旧通達は、「ローン費用を増加させることなく債務再編すること」を求めていましたが、新通達ではこの規定が削除されています。この改正により、新ローンで旧ローンよりも高い金利を設定できるとも解せられますが、これについては現時点では明確ではありません。SBVの運用を注視することが必要かと思われます。

 なお、新通達は、外国ローンの債務再編における借入金の上限を定めており、債務再編に際して、新たな借入金は、海外ローンの元本、未払利息、関連費用、および新規借入に関連する費用の合計額を超えないことが必要とされています。

2.ベトナムドン建ての外国ローン

 外国ローンで使用される通貨は、原則として外貨となります。ただし、例外的にベトナムドン建ての外国ローンを組むことが可能で、新通達は、旧通達と同様にベトナムドン建て外国ローンが認められる場合を定めています。ただし、新通達は、旧通達に定められていた「融資の状況や必要性を考慮し、国家銀行総裁が承認した場合」にベトナムドン建て外国ローンを認めるという条項を削除しました。その代わりに、新通達では、「借入人が外貨で出金し返済するのであれば、外国ローンはベトナムドン建てで締結される」旨規定されています。これは、ベトナムドン建ての外国ローンを認めるものの、借入人が借入金を引き出したり返済したりする際には、外貨で行わなければならないとするものです。その際、ベトナムドン建て外国ローンに用いられる為替レートは、当事者間で合意した信用機関が発表する為替レートとされています。

3.外国ローンに用いられる為替レート

 新通達は、外国ローンの借入目的に応じて、借入限度額の算出に際して適用される為替レート(財務省が公表する為替レート)について規定を設けました。

 それによると、次の為替レートが以下それぞれの時点のものが適用されます;

  • 外国ローンが投資プロジェクトの実行に使用される場合、外国ローン契約または借入額の変更に関する契約の締結時。
  • 外国ローン資金を事業計画等の実施に使用する場合は、外国ローン資金使用計画作成時。
  • 債務者の対外債務の再編のために外国ローンが利用される場合、債務再編計画の作成時。


 なお、財務省が公表する為替レートは、月次で公表され、財務省のホームページ(https://mof.gov.vn/webcenter/portal/btcvn のTỷ giá hạch toán(会計為替レート)の項目で確認することができます。

4.未使用ローンの金融機関への預入

 新通達は、外国ローンを出金したものの融資目的に使用されていない場合、借入人は当該融資額をベトナム国内で営業している信用機関または外国銀行の支店に預けることができると規定しました。ただし、預金期間は1ヶ月を超えてはなりません。

おわりに

 以上、簡単ではありますが、新通達の内容を2回にわたり検討しました。新通達の内容は、懸念されていたようなクロスボーダーの親子ローンの実施を大きく制約するものではありません。むしろ、いくつかの項目では規制が緩和されたと思われる部分もあります。とはいえ、新通達の運用はSBVの判断にゆだねられている部分も大きく、今後のSBVによる通達運用の動向を注視してゆく必要があります。

2023年08月16日(水)10:00 AM

ベトナム国家銀行が2023年6月30日に発出した外国ローンの実施条件に関するCircular No.08/2023/TT-NHNNの概要についてニュースレターを発行いたしました。 PDF版は以下のリンクからご確認ください。

外国ローンの実施条件に関するCircular No.08/2023/TT-NHNNの概要

 

外国ローンの実施条件に関するCircular No.08/2023/TT-NHNNの概要

2023年8月16日
One Asia Lawyers ベトナム事務所

概要

 ベトナム国家銀行(State Bank of Vietnam:SBV)は2023年6月30日、企業が政府保証なく外国ローンを受けるための条件を規定するCircular No. 08/2023/TT-NHNN(以下「新通達」)を発出しました。新通達は2023年8月15日に発効し、これにより2014年Circular No. 12/2014/TT-NHNN(以下「旧通達」)は失効します。

 新通達の改定作業は2022年に始まり、日系企業が多く利用するクロスボーダーの親子ローンに大きな影響を与えるため注目されてきました。2022年5月にパブリックコメントに付された第一草案は、外国ローンを大きく制約する内容であったため、外国投資家をはじめとする経済界から大きな反発を受けました。2023年2月に公表された第二草案では、第一草案にあった外国ローンに対する制約の多くが削除されました。このような経緯を経て発出された新通達は、上記草案にあった外国ローンに対する制約のほとんどを削除しています。ただし、SBVによる外国ローンの管理は従前よりも強化されており、今後の新通達の運用に注目する必要があります。

 新通達において注目される新たな規制としては、外国ローンの借入条件が明確化された点、借入前に外国ローンの使用計画または債務再編計画を詳細に作成する義務が導入された点などが挙げられます。

以下、新通達の概要を紹介いたします。

1.外国ローンの実施条件の明確化

 外国ローンが、短期ローン(借入期間1年以下)と中長期ローン(借入期間1年超)に区分されるのは従来通りですが、それぞれの融資条件は、新通達において以下のように整理されました。

・短期ローン:

 短期ローンの使途は、借入人の外国ローンの再編と短期債務(国内ローン元本を除く)の返済に限定されています。

短期債務とは、投資プロジェクト、事業計画、その他のプロジェクトを実施する過程で借入人に発生する債務を指します。国内ローン元本の借換えに使用することができない点に留意が必要です[1]

・中長期ローン:

 中長期ローンの使途は、a)借入人の投資プロジェクトの実施、b)事業計画またはその他のプロジェクトの実施、c)外国ローンの再編に限定されています。

 なお、上記の外国ローンの再編というのは、新たな外国ローンの資金を用いて既存の外国ローンを返済すること(借換え)を意味します。

(新通達の変更点)

 短期ローンについて、旧通達では、生産・事業計画または投資プロジェクトが融資対象とされていたのに対して、新通達では、これらに加えて、「その他のプロジェクト」が融資対象として認められました。

 中長期ローンについても、同様に「その他のプロジェクト」が融資対象として認められました。その反面、旧通達で定められていた「借入人の直接投資先企業の事業・生産計画または投資プロジェクト」は、融資対象から削除されています。

 ただし、新たに導入された「その他のプロジェクト」については、「投資プロジェクト以外のプロジェクト」と定義するのみです。その他のプロジェクトに、新通達で削除された「借入人の直接投資先企業の事業・生産計画または投資プロジェクト」を含むのか、さらにはそれ以外のプロジェクトまでも含むのかは明白ではありません。SBVによる今後の運用に注意が必要です。

2.外国ローン使用計画または外国ローン再編計画の作成義務

 旧通達では、外国ローンの借入れに際して、借入人に生産・事業計画書の作成を義務付けていました。新通達は、これに代えて、外国ローン使用計画または外国ローン再編計画の作成義務を新たに課します(新通達17条、18条)。

 外国ローン使用計画の記載内容は、a)借入人に関する情報、b)外国ローンに関する情報、c)外国ローンの目的と規模、d)ローンリスクの管理措置などです。とくに、ローンの目的(使途)に関しては、短期ローンと中長期ローンについて、下記の情報を記載しなければなりません。

・短期ローン:

 外国ローンを短期債務の返済に用いる場合、借入人は、資金ニーズ申告書の作成を要します(新通達7条4項)。資金ニーズ申告書には、借入期間内に履行すべき支払債務について、請求書や契約書などの徴憑に基づいて作成した見積もりを記載しなければなりません。

・中長期ローン:

 外国ローンの目的と規模について、事業活動資金の総額、資本構成、外国ローンの規模、外国ローンの支出項目について記載します(新通達7条3項)。

・外国ローン再編計画:

 外国ローン再編計画には、a)債務者の情報、b)既存の外国ローンに関する情報、c)新規外国ローンに関する情報などを記載します(新通達8条2項)。

・借入人の責任:

 借入人は、外国ローンの目的を証明する書類の正確性と真実性に対して法的責任を負い、上記の書類に定められた目的のために外国ローン借入金を使用しなければなりません(新通達17条4項、19条3項)。

・所轄機関の承認:

 外国ローン使用計画と外国ローン再編計画については、所轄官庁の承認が必要です(新通達7条1項、8条1項)。

3.借入限度額の明確化

 新通達は、外国ローンの目的ごとに借入限度額を定めています。

・投資プロジェクトの実施(181項):

 外国ローンの目的が投資プロジェクトの実施の場合、中長期の国内ローン及び外国ローンの元本合計残高が、投資登録証明書(Investment Registration Certificate=IRC)に記載された投資総額と払込済定款資本の差額をこえないこととされます。新通達において、中長期債務の元本のみが上限額に算入され、利子と手数料は除外されることが明記されました。

・事業計画またはその他のプロジェクトの実施(182項):

 所轄機関が承認した外国ローン使用計画に定められた借入必要総額を超えないことが必要です。

・外国ローンの再編(183項):

 海外ローンの元本、未払い利息、関連費用、および海外債務のリストラクチャリング時に決定された新規借入に関連する費用の合計額を超えないことが必要です。

・短期ローン(184項):

 短期ローンは、外国ローン借入限度額の制限を受けません。

4.その他の改正事項

 上記以外の改正事項としては、外国ローンの融資費用の明確化、VND建て外国ローンの明確化、外国ローンに用いられる為替レートの明確化、未使用ローンの預金などが挙げられます。

 新通達は、旧通達と比較して多くの点で規制内容が明確化されています。外国ローンを実施する際に、企業は外国ローン使用計画および債務再編計画の作成に注意を払う必要があります。

 上記の情報は、外国ローンに関する新通達の法的枠組みについてまとめたものです。ご不明な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

 

[1] 外国ローンを目的外に違反した場合、6,000万から1億VNDの範囲で罰金が科される可能性があります(Decree No.88/2019/ND-CP第23.4(g)(Decree No.143/2021/ND-CPにより修正))。