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2021年09月17日(金)11:31 AM

シンガポールにおける日系企業に求められる雇用体制についてニュースレターを発行いたしました。 PDF版は以下からご確認ください。

シンガポールにおいて日系企業に求められる雇用体制

 

シンガポールにおいて日系企業に求められる雇用体制 <style=”text-align: center;”>TAFEPによる雇用主区分と公正雇用実施の要請~

2021年9月 <style=”text-align: right;”>One Asia Lawyers Group代表 <style=”text-align: right;”>シンガポール法・日本法・アメリカNY州法弁護士 栗田 哲郎 <style=”text-align: right;”>高嶋 優

1 公正・革新的な雇用推進のためのガイドライン

 シンガポール政府はこれまで、国外からのグローバル人材の誘致・確保と国内の人材基盤の育成・強化の双方を追求してきた。技術的革新のハブとしてのポジションを狙う同国にとって、グローバルな競争力を有する外国人の誘致は、経済成長のため切っても切り離せない課題である。しかしながら近時、新型コロナウィルスの流行による煽りも受け、国内人材の登用保護の機運が高まっており、国内雇用の安定と外国人雇用誘致の調整が進められている。

 外国人労働者登用の引き締めの例として、雇用パス(Employment Pass (EP))の新規申請の最低月額給与基準が、2020年5月1日にS$3,900に、同年9月1日からはS$4,500に引き上げられたのが記憶に新しい[1]。今後もS Passを含めて段階的に給与水準が引き上げられることが予想される。

 また、シンガポールでの外国人雇用にあたり特筆すべき点として、内国雇用の保護と公正雇用を実現するための各種ガイドラインの存在も軽視できない。日本と異なり、雇用主においては最低限の法令規制を守るだけでは足りず、EPやS Passの取得・更新のために各種のガイドラインに沿った運用整備が事実上必須となるため、日系企業にとっては、特に注意が必要だ。下記で紹介するガイドラインにおいては、指定手順に従った広告掲載や採用プロセスでの能力主義(各種差別の排除)の徹底その他雇用・就労環境の整備と運用が求められている。

 本稿では、2021年9月現在、シンガポールにおいて雇用主に遵守が期待されている雇用関連規定・ガイドラインに加え、殊に日系企業が押さえておくべき雇用者区分とその内容について紹介する。

2 TAFEPによる4つの雇用主区分

 人材開発省(Ministry of Manpower (MOM))を含む政労使の三者によって設立された、公正かつ革新的な雇用慣行を目的とした政労使連合(Tripartite Alliance for Fair and Progressive Employment Practices (TAFEP))[2]は、公正、革新的で信用のおける雇用慣行の導入を推進するため、各種基準やガイドラインを発行・公表している。

 TAFEPは、雇用主を成熟度・遵守基準に応じて次の4つに区分する。

(1)初期段階の雇用主

 初期段階にある雇用主とは、設立から間もない会社等が想定され、法令上の最低ラインとなる雇用法(Employment Act (EA))で求められる要件のみを具備している雇用主を指す。

(2)公正な雇用主

 公正な雇用主は、最低限の法令の遵守に加えて、TAFEPが公表しているガイドラインである公正な雇用慣行ガイドライン(Tripartite Guidelines on Fair Employment Practices (TGFEP))[3]に準拠している者を指す。シンガポールにおいて、すべての雇用主に遵守が期待されている基準がTGFEPである[4]。公正な雇用を支える雇用慣行として、5つの原理(①能力主義、②従業員に対する公正な取り扱い・従業員の尊重、③能力開発のための公平な機会の提供、④公正評価・報酬、⑤労働法制・ガイドラインの遵守)が示されている。

 なお、2020年10月1日よりライセンス要件が改訂された職業紹介機関(Employment Agencies (EA))は、TGFEP上の基準を満たした採用活動を行わなければならないこととなった。

(3)革新的な雇用主

 革新的な雇用主は、上記(1)と(2)から更に一歩進んで、差別や偏見のない、公正で円満な就労と従業員の幸福に資する雇用環境の整備を行う者を指す。後述するように、具体的な指標としてTAFEPの設ける政労使基準(Tripartite Standards (TS))[5]がある。

(4)模範的な雇用主

 模範的な雇用主は、MOM、NTUC及びSNEFによる優良性・適格性の審査を受けたり、人的資本パートナーシップ・プログラム(Human Capital Partnership (HCP) Programme) や同コミュニティへの参加を通じたりして、あらゆる階層のローカル社員をコアとする就労を強化し、外国人労働者を活用したローカル社員への技能移管や更なる雇用実務の改善・進展などを進める者である。模範的な雇用主として認められた企業には、MOMがホット・ラインを設け、質問事項に対し優先的な回答を行うなどの特典が用意されている。

3 日系企業が目指すべき雇用主区分

 以上の4区分のうち、日系企業が目指すべきは、第3区分の革新的雇用主である。

 日系企業にとって、最低でも第2区分の公正な雇用主を満たすことは事実上避けられない。これは、第2区分違反時のネガティブ・インパクトが大きいためである。第2区分の指針であるTGFEP違反について、MOMは、雇用者評価の基本的な枠組みである公正評価フレームワーク(Fair Consideration Framework (FCF) [6])に違反するものとして、違反企業をFCF監査対象(FCFウォッチリスト)に含めて、EPやS Passの申請・取得について慎重な審査を行うことがあるとしている。また、TGFEPで定める人事労務環境の改善に非協力的な雇用主に対しても、EP及びS Passの権利縮小・剥奪を行いうる旨を公表しているため、将来のみではなく取得済みの各種パスについても影響が及ぶ可能性がある点で注意が必要だ。[7]

 では、第3区分の革新的な雇用主として認められるために具体的に何が必要かであるが、政労使基準詳細(Tripartite Standards Specifications)[8]において、指針として次の9つの原理とその内容が示されている。各企業においては、自社が関係する項目についての体制整備と実施運用が期待される。

原理

内容

1. 年齢に関係なく(老齢者も)働ける職場 年齢による選考・優遇不実施、環境整備のためのシニアマネジメント指名、老齢者向け研修 等
2. フレキシブルな就労条件(仕事量、時間、場所) 担当をシニアマネジメントから指名、フレキシブルな就労条件の周知・整備・運用、従業員からの希望受付 等
3. 苦情/不服申立て整備 苦情の受付、適切な調査/報告体制の整備、記録・公表、不服申立期間/再審査の告知、担当者の教育 等
4. メディア系フリーランサーの保護 メディア事業に携わるフリーランスの利益保護(書面契約によること、支払時期、紛争解決、保険加入) 等
5. 適切な採用プロセス 求人広告や応募書類の記載内容、適切な候補者選考プロセス(採用基準/テスト/面接)の採用と記録保管 等
6. 自営業者/個人事業主との契約の明確化 提供労務・サービスの明確化と重要事項の明示(当事者、履行内容、支払条件、解除条件、紛争解決方法) 等
7. 有期雇用労働者の適切な取り扱い 雇用法(EA)等に従った各種休暇(年次、傷病、産休休暇を含む。)の付与、契約不更新時の事前通知期間の遵守 等
8. 急な育児・介護等のための無給休暇付与 無給休暇の条件・手続方法の周知、代替案の提示・検討、2歳未満の子を持つ者や近親者入院時の無給休暇付与 等
9. ワーク・ライフ・バランス最適化 上記2(フレキシブルな就労条件)の導入と従業員支援制度(Employee support schemes)の導入、就業規則への反映 等

 

4 おわりに

 以上で見たように、シンガポールにおいては法令上の要請に加え、各種ガイドラインに従った雇用主の対応が求められる。不遵守によるデメリットはEPやS Passの取得といった外国人労働者確保の場面で現れる可能性があり、日系企業のガイドライン理解は欠かせない。各企業においては、雇用関連規定の改定の動向を踏まえ、従業員のニーズにも合わせながら柔軟で継続的な雇用体制を構築していくことが肝要となる。事業の内容に応じて、ガイドラインが実際に適用されるそれぞれの場面を的確に把握しながら、社内での各種規程や対策を慎重に整えていく必要があるといえよう。

                                   以上

 

[1] Ministry of Manpower “Tightening of Work Pass Requirements”:

https://www.mom.gov.sg/newsroom/press-releases/2020/0827-tightening-of-work-pass-requirements

[2]TAFEPは、2006年にMOM、シンガポール全国労働組合会議(National Trades Union Congress  (NTUC))及びシンガポール全国雇用者連盟(Singapore National Employers Federation (SNEF))の3者により組織された。

Tripartite Alliance for Fair and Progressive Employment Practicesウェブサイト:

https://www.tal.sg/tafep

[3] TAFEPの下記ウェブサイトにてTGFEPのダウンロードが可能。[2021年9月15日現在]

https://www.tal.sg/tafep/-/media/TAL/Tafep/Getting-Started/Files/Tripartite-Guidelines.pdf

[4] 同ガイドラインでは、雇用主に対して、能力主義(候補者のスキル、経験、業務遂行能力から見た)選考を行い、差別のない公正な採用・雇用活動を行うよう求めており、採用広告での具体的な表記の適否等、各原理が反映される場面も示されているため、少なくとも具体的例示のある箇所については遵守が必須となろう。

[5] Tripartite Standards:

https://www.tal.sg/tafep/getting-started/progressive/tripartite-standards#term-contract

[6] MOM “Fair Consideration Framework (FCF)”

https://www.mom.gov.sg/employment-practices/fair-consideration-framework

[7] 行政罰処分の効果も大きく、2020年1月にはFCF違反に対するペナルティが厳格化され、就労パスの処分(禁止)期間が6ヶ月から12ヶ月に、重大な違反については最長24ヶ月に伸長された。処分を受ける企業にとっては、処分期間中の欠員分の新規申請ができないことに加え、新たに更新についても認められないこととなったため、FCF違反に問われた際のダメージは少なくない。加えて、公正な雇用手続きを行ったとして申告を行ったが、MOMから公正な雇用プロセスを経たものと判断されなかった場合、虚偽の申告を行った雇用者又は主要人物に対しても、Employment of Foreign Manpower Act(外国人労働者雇用法)違反が問われ、最長2年間の禁固若しくはS$20,000の罰金又はその両方が課される罰則が追加された。

https://www.mom.gov.sg/employment-practices/fair-consideration-framework#penalties-for-non-adherence-to-the-tripartite-guidelines-on-fair-employment-practices

[8] TAFEPのウェブサイトにてダウンロードが可能。[2021年9月15日現在]

https://www.tal.sg/tafep/-/media/TAL/Tafep/Getting-Started/Files/Tripartite_Standards.pdf

2021年03月26日(金)3:40 PM

シンガポールにおけるベンチャー投資契約についてニュースレターを発行しました。
PDF版は以下からご確認ください。

シンガポールにおけるベンチャー投資契約について

 

シンガポールにおけるベンチャー投資契約
SAFE形式・KISS形式での投資~

2021年4月
One Asia Lawyers Group代表
シンガポール法・日本法・アメリカNY州法弁護士 栗田 哲郎
高嶋 優

1 シンガポールのベンチャーキャピタル投資とその契約

 新型コロナウイルスの影響などがあり、東南アジアのベンチャーキャピタル(Venture Capital, VC)が2020年1~3月期に新たに投資した資金は約13億ドル(約1400億円)に留まり、2019年10~12月期の金額から半減したとの報道もあったものの、2021年新型コロナ収束の兆しを見せる中で、シンガポールを含む東南アジア地域において、ベンチャーキャピタル投資は、回復の兆しをみせつつある。

 本稿においては、ベンチャーキャピタル投資において用いられることが多い、SAFEおよびKISSを含めたシンガポールのベンチャー投資に関する契約について、アメリカ法・日本法と比較しながら論ずることとする。

2 SAFEおよびKISSの基本構造と共通点・相違点

 まずはアメリカ・日本で用いられているSAFE (Simple Agreement for Future Equity) とKISS (Keep It Simple Securities) の契約形態について説明する。SAFEおよびKISSは、いずれもアーリーステージのスタートアップ企業が、投資家との長期にわたる交渉を避けて初期資金を得るための手段であり、前者はY Combinator、後者は500 Startupsというシリコンバレーのアクセラレーターにより開発されたものである。

(1)通常の株式発行・投資契約との違い

 SAFE、KISS両者の基本設計思想は、時間・資金が必ずしも豊富ではないシードラウンドやアーリーステージでの調達を、できるだけ迅速かつ簡便に達成することを目指すものである。このため、SAFEおよびKISSはいずれも、内容を簡素なものとし、投資時に株式を発行する形式にしないことで、資金調達時の株式引受契約・株主間契約の締結などの複雑な契約が不要とすることを目指した契約形態である。対象会社は資金をシードラウンドまたはアーリーステージで簡易な形態で投資を受けることができる一方、そのリスクをとった投資家には一定の保護と利益が与えられている。すなわち、SAFE、KISSで投資した投資家は、将来のエクイティラウンドが発生した際に、その投資を株式に転換する権利が与えられており、エクイティラウンドにおいて優先株が発行された場合、投資家はその後の募集で株式を受け取ることになるものの、後続の他の投資家がその募集で支払う価格よりも低い割引価格や有利な条件で株式発行を受け取ることができることが一般的である。

 いわば、ローンでもなく、株式投資でもない簡易な投資形態を認めることで、簡易迅速で低コストな投資を認めた点で、通常の株式発行・投資契約とは異なるといえよう。

(2)SAFEKISSの相違点

 SAFEとKISSの大きな違いは、KISSはより投資家が保護された形式であり、例えば下記のような投資家保護の条項が盛り込まれている点である。

 

SAFE

KISS

法形式

転換社債ではない

デッド型:転換社債モデルに近い

エクイティ型:SAFEと転換社債の中間

ディスカウント

場合による

場合による

満期・利息

なし

あり(18カ月で過半数の同意)

VC等大口投資家の

情報請求権・優先引受権

なし

あり

(5万ドル以上投資している場合)

最恵国待遇(MFN, ダウンラウンドプロテクション)

場合による

あり

転換前(満期日前)の売却

1×で精算か、バリュエーションキャップで普通株に転換した後で買収

2Xで精算か、バリュエーションキャップで普通株式に転換した後で買収

譲渡

原則不可

原則可能

 より具体的には、SAFEには満期・利息の定めがなく、次ラウンド以降のファイナンシングが行われなければ、そのままSAFEの投資家の投資金額は株式に転換されない可能性があり、投資金の返済を求めることはできない。すなわち、SAFEには利息が発生せず、満期日の定めもないため、実際には新株予約権付社債ではない。また、SAFEは、投資家の関連会社等にのみ譲渡することができ、それ以外の当事者には譲渡はできない。さらに、SAFEにおいて、キャップおよびディスカウントについては設けられない場合もあり、最恵国待遇条項(ダウンランドプロテクション)についても設けられない場合もある。

 他方、KISSはSAFEと類似している点もあるが、KISSは2つのタイプ(①デット型:金利・一応の償還期限があるもの、②エクイティ型:金利はつかないが、一応の満期の定めがあるもの)に分かれるところ、デッド型KISSは古典的な転換社債のモデルに非常に近いものとなっている。指定利率(4%)で利息が発生し、満期日(18ヶ月)が設定されており、満期日以降、投資家は過半数の決議をもって、投資額および経過利息分を、優先株式に転換することができる。投資家サイドの利点は、他にもある。例えば、SAFEとは異なり、KISSには投資家に有利な最恵国待遇条項も含まれている。また、KISSでは、会社が100万ドル以上のエクイティ資金を調達した場合に株式転換されることが一般的で、案件ごとに交渉する必要があるものの、原則的にキャップ・ディスカウントが設定されているため、投資先が成長しているときに、より有利な形でエクイティに参加できる。さらに、株式転換前に会社の売却があった場合、投資家は投資額の2倍の金額を受け取るか、評価額の上限で株式化するかを選択できる条項も入っている。この他、大口投資家 (最低 5万ドル の投資を行った投資家) に対しては、情報提供(財務情報)を受ける権利、優先引受権を含む将来ラウンドへの参加権も付与している。加えて、投資家はいつでもそのKISSを誰にでも譲渡することができる。

 以上のように、KISSには転換社債型の新株予約権的性質があり、SAFEに比べて投資家に有利に設計されていると言える。

3 シンガポールにおけるベンチャーキャピタル投資契約

(1)VIMAベンチャーキャピタル・モデル契約書

 シンガポールにおけるベンチャーキャピタル投資については、ベンチャーキャピタル協会であるSingapore Venture Capital & Private Equity Association(SVCA)、シンガポールの政府系ファンド、弁護士会、法律事務所などが中心となってVenture Capital Investment Model Agreements(一VIMA)と呼ばれる契約一式が作成・公表されている[1]。VIMAは、シンガポール会社法に基づき設立された会社の優先株式をベンチャーキャピタルが少数株主として引き受けることを前提として、シンガポール法に準拠し、シンガポールを紛争解決地とすることを想定して作成された契約である。

 主にシードラウンドやアーリーステージにある会社が、いわゆるシリーズAと呼ばれるベンチャーキャピタル投資家に向けて最初に株式を発行することを想定した契約として、現在に至るまで、以下の6種類の契約形態が公開されている。

1. Venture Capital Lexicon:創業者および投資家向けのベンチャーキャピタルの重要な条件やコンセプトの用語説明集
2. Series A Term Sheet(Long Form/Short Form):対象会社の株式の引受けや出資後の権利義務に関する主要な条件を定めたタームシート
3. Series A Subscription Agreement:対象会社の株式を引き受ける条件を定める契約
4. Series A Shareholders’ Agreement:対象会社に関する事項並びに対象会社の株主(投資家および創業家)間の権利義務を定める契約
5. Non-Disclosure Agreement(NDA):潜在的な投資家に情報を開示する際の、対象会社の秘密情報の取り扱いや守秘義務を定める契約
6. Convertible Agreement Regarding Equity(CARE):プレシリーズA段階における対象会社への投資を主に想定した契約(一定の条件発生時に投資家が株式または償還を受ける)

(2)CARESAFEKISSの相違点

 この点、6番目のCAREでは、投資家は満期日以降、いつでも投資額分を普通株式に転換することができる。仮に満期日よりも前に、当事者間で定めた一定額以上のエクイティ発行が行われる場合には、事前に定めた任意のレート/ディスカウントで優先株式に転換される。

以上のように、CAREは、満期日の設定がある点でSAFEとは異なり、また、満期日以降は優先株式でなく、普通株式に転換する点で、KISSとは異なっている。この意味でCAREは、SAFEとKISSの両者の間の契約形態と考えることもできる。

 その他、KISSとの比較では、バリュエーションキャップや資本流動時のキャッシュアウト倍率などKISSでは事前に固定される条件についても、交渉による任意の設定が可能となっており、KISSよりも柔軟な設計が可能であり、かように柔軟な分、交渉ポイントが増えるとも言える。また、KISSでは、転換後も優先株主として株主間での優先的な投下資本の回収などダウンサイド時の保護の余地が残るのに対し、CAREの満期日以降の転換ではこのような保護がなく、普通株主として対象会社側の立場に置かれる点にも違いがある。

4 SAFEおよびKISSのシンガポール法上の法的地位

 現状、シンガポールのスタートアップにおいて、上記のSAFE、KISS、CAREが一般的に用いられているという状況ではなく、米国由来のSAFEおよびKISSが法的に有効であることを明確に確認した判例は現在のところ存しない。しかし、シンガポールは典型的なイギリス型のコモン・ローの法域であり、投資契約に関しては、原則として、投資家、創業者およびスタートアップ企業が適切に合意をしたのであれば、それが無効となることは想定し難い。このため、SAFEおよびKISS方式でスタートアップに投資することも合理的であるといえよう。

 ただ、SAFE、KISS、CAREのいずれにおいても、一部の指定箇所を除き、変更を行わずそのまま締結することが前提とされており、これについて投資家側の有利に反映させた変更を行おうとする場合には、シンガポール法上の位置づけやシンガポール会社法との関係性を慎重に見極める必要があるといえよう。

                                   以上

[1] https://www.svca.org.sg/publications/vima-kit

2021年02月19日(金)9:32 AM

パワハラ防止法対応についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

中小企業にも迫るパワハラ防止法対応

 

中小企業にも迫るパワハラ防止法対応

弁護士法人One Asia
シンガポール法・アメリカNY州法・日本法
弁護士 栗田 哲郎

 2020年6月1日、改正労働施策総合推進法(通称「パワハラ防止法」)が施行され、これにより大企業は職場において、パワーハラスメント対策を行うことが義務付けられました。中小企業には2022331日まで猶予期間が設けられていますが、施行時期が迫っており、早めに準備を整えておく必要があります。本稿においては、パワハラ防止法の概要および企業が行わなければならない対応策について述べます。

1 対象となる職場・企業

 2020年6月1日、パワハラ防止法が施行され、これにより正規雇用労働者・非正規雇用労働者を問わず、「職場」におけるパワーハラスメントの防止対策が義務付けられています。

 法律上、「職場」とは、従業員が通常働いている事業所に限らず、外出先・客先・懇親の場・サテライトオフィスなど、業務を遂行しうるすべての場所が含まれており、幅広く定義されているため注意が必要です。

 そして、大企業に対しては、パワハラ防止法施行時である2020年6月1日から既にパワハラ対策の実施が義務付けられています。「資本金の額または出資の総額」「常時使用する労働者数」の両方が下記に該当しない場合、パワハラ防止法上、大企業に分類されることとなります。

業種 資本金の額または出資の総額 常時使用する労働者数
小売業 5,000万円以下 50人以下
サービス業 5,000万円以下 100人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
その他(製造業、建設業、運輸業など) 3億円以下 300人以下

(中小企業基本法 第2条第1項)

2 パワハラ防止法の対象となる行動の定義

 パワハラ防止法の対象となるハラスメント行為とは、①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであることのすべてを満たす行為[1]と定められております(第30条の2第1項)。他方、「業務上必要かつ相当な範囲」の業務指示・指導・注意であれば、パワハラに該当しないこととされています。

 さらに、パワハラ防止法の施行に伴い、新たに、SOGIハラ(個人の性的指向や性自認を揶揄・侮蔑する言動)、およびアウティング(個人の性的指向や性自認を許可なく暴露する言動)の2つのハラスメントがパワハラに含まれることになりました。今後、個人の性自認や性的指向に関わるハラスメントについても、企業として防止策やアフターケアを講じることが義務付けられており注意が必要です。なお、SOGIハラとは、個人の性的指向(Sexual Orientation)と性自認(Gender Identity)の頭文字をとったものであり、パワハラ防止法の施行により、LGBTを始めとした性的マイノリティーの性的指向や性自認(SOGI)を揶揄したり、侮蔑したりする言動のことを指します。また、アウティングとは、個人の性的指向や性自認(SOGI)を本人の同意なく、第三者に暴露する行為を指します。パワハラ防止法において、SOGIは「機微な個人情報」とされ、許可なく他人に暴露する行為はハラスメントに該当することになります。

 さらに、パワハラ防止法では、男女雇用機会均等法及び育児・介護休業法と併せ、パワーハラスメント対策だけでなく、他者への性的な言動を行うセクシャルハラスメントや、妊娠・出産した従業員に対し否定的な言動を行うマタニティハラスメントにおいても、新たな雇用管理上の対策措置を講ずることを義務付けています[2]

3 パワハラ防止のために事業主が講ずべき措置

 厚生労働省の「職場におけるハラスメント関係指針」では、パワハラ防止のために事業主が講ずべき措置として、次の3点が明記されています。

①事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発 ②相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備 ③職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応

 まずはパワハラ防止対策についての企業ポリシーを周知徹底したうえで、相談窓口の設置や外部機関との連携により、労働者が気軽に相談しやすい仕組みをつくる必要があります。

 そして、パワーハラスメントが生じた場合は労働者の心身のケアを行い、謝罪や配置転換など行為者に対する措置を速やかに講じて、再発防止策を実施しなければなりません。

 これら3つの措置と併せて、パワハラの相談によって労働者に不利益が出ないことを就業規則などの文書に明記し、周知徹底する必要もあります。また、相談者だけでなく、パワハラ行為者のプライバシーを守り、相談窓口の担当者に必要な研修を実施しなければなりません。

1. 方針の明確化及びその周知・啓発
・パワーハラスメントの内容の明示 ・パワーハラスメント禁止の明示
・パワーハラスメントの行為者に対する厳正対処の明示(就業規則等への規定を含む)
・管理監督者を含む労働者への周知・啓発
2. 相談に適切に対応するための体制整備
・相談窓口の設置と労働者への周知
・相談窓口担当者や外部委託機関の設置
3. 相談後の迅速かつ適切な対応
・事実関係の迅速かつ正確な把握
・(被害事実が認められた場合の)被害者に対する適切な配慮措置、行為者への適正な措置
・再発防止策の策定・実施
4. その他
・相談者・行為者のプライバシー保護のために必要な措置とプライバシー保護に関する周知
・相談者が、相談したことにより不利益な取り扱いをされない旨の明示・周知・啓発
・妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの原因・背景の解消に向けた措置

4 パワハラ防止法の罰則

 必要なパワハラ防止対策を講じなかった企業に対し、具体的な罰則が規定されているわけではありません。ただし、パワハラ防止法に違反した企業は、厚生労働省による助言・指導・勧告の対象となります(第33条第1項)。改善が認められない場合は、企業名の公表が行われる可能性があり(同2項)、罰則がなくても法令遵守が必要です。

5 中小企業にも迫る施行日(202241日)

 上述1に記載の表の「資本金の額または出資の総額」「常時使用する労働者数」いずれかに該当する中小企業は、2022年4月1日までの猶予期間が与えられています。ただし、2022年3月31日までは努力義務の期間とされており、遅くとも3月末までにはパワハラ防止のための措置を講じ、準備を整える必要があります。

 

[1] 厚生労働省の指針『事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針』(令和2年厚生労働省告示第5号)では、代表的なハラスメントの言動として次の6類型が挙げられています。①身体的な攻撃(暴行・傷害)、②精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)、③人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)、④過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強要・仕事の妨害)、⑤過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)、⑥個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること) 

[2] 『事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針』(平成 18 年厚生労働省告示第 615 号)

2019年01月23日(水)1:02 PM

ASEAN各国の新法状況をご報告いたします。

 

【シンガポール】決算サービス法案
【タイ】労働者保護法・刑事手続法関連の改正及びIBC制度の創設
【マレーシア】外国人社会保険義務・飲食店での喫煙禁止・贈収賄に関する改正法
【ベトナム】サイバーセキュリティー法の施行
【インドネシア】OSSシステムのBKPMへの移管
【フィリピン】外資規制緩和の最新動向
【ミャンマー】競争委員会の設立及び外国銀行の内資企業への融資撤廃
【カンボジア】労働法のアップデート
【ラオス】付加価値税法の改正
【日本】労働基準法の一部改正

 

2019新年版ニューズレター

2018年01月11日(木)4:44 PM

ASEAN各国の新法の状況をご報告いたします。

 

シンガポール→ダウンロード

タイ→ダウンロード

マレーシア→ダウンロード

ベトナム→ダウンロード

インドネシア→ダウンロード

フィリピン→ダウンロード

ミャンマー→ダウンロード

ラオス→ダウンロード

日本→ダウンロード