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インドにおける取締役会の運営FAQ

2022年01月13日(木)

インドにおける取締役会の運営FAQについてニュースレターを発行いたしました。 PDF版は以下からご確認ください。

インドにおける取締役会の運営FAQ

 

インドにおける取締役会の運営FAQ

 

2022年1月13日

One Asia Lawyers 南西アジアプラクティスチーム

インドでは2021年6月以降、年次財務報告書承認等の取締役会を、ビデオ会議で開催することが恒久的に可能とっています(当該規制緩和については、2021年6月17日付けニューズレターで解説しています。https://oneasia.legal/7038)。

本ニューズレターでは、インドにおける取締役会運営について多く寄せられるお問合せを紹介し、法規制と実務を解説いたします。

なお、2021年9月15日発売の『南アジアの法律実務』(https://oneasia.legal/7381)(中央経済社)では、インドやその他南アジア各国の会社制度、労働法、不動産法制等の法務実務を解説していますので、ぜひご参照ください。

1.インドの取締役会の概要

インドにおける取締役会運営に関しては、「2013年会社法」(Companies Act, 2013)[1]および、その下位規則である「2014年会社(取締役会および権限)規則」(Companies (Meetings of Board and its Powers) Rules, 2014、以下「取締役会規則」)[2]に、具体的な規定が定められています。

日系企業のインド子会社等、インドの会社法に基づいて設立された会社は、当該規定に従い、取締役会を開催することとなります。

かかる規定の概要は下表のとおりです。

開催頻度

毎年少なくとも4回、開催間隔は120日未満

設立後最初の取締役会は設立日から30日以内(会社法173条1項)

なお、小規模企業スタートアップ企業[3]の一部の会社は、年2回の開催(開催間隔は90日以上)で足りるとする例外規定が適用されます(会社法173条5項)

定足数

最低2名(ただし、全取締役数の3分の1(端数切り上げ)を充足する必要あり)(同法174条1項)

開催方法

対面、ビデオ会議、一定の条件の下で書面決議が認められています。

【ビデオ会議】(会社法173条2項)

取締役の参加を記録・認識し、議事を日時とともに記録・保存できる場合、視聴覚手段を用いた取締役会の開催が認められます。

【書面決議(Resolution by Circulation)】(会社法175条1項)

決議の草案をすべての取締役に回覧(メール等電子的手段も可)し、決議された場合、取締役会の正式な決議とみなされます。議決要件は取締役の過半数の賛成。

ただし、借入・融資、財務諸表の承認等、一定の事項については書面決議が認められないため、対面またはビデオ会議の開催が必要です。また、取締役の1/3以上が求める場合にも、書面ではなく対面・テレビ形式での会議上で決議を行うこととなります。

開催地

会社の登記上の所在地や同じ州内でなければならないという規定はなく、日本等の国外で開催することも可能

決議要件

書面決議の決議要件は、議決権を有する全取締役の過半数以上(175条1項)。

取締役会での決議要件は、附属定款において、出席取締役の過半数と規定することが一般的。

 

2.ビデオ会議での取締役会はどのように行えばよいか?

ビデオ会議その他所定の視聴覚手段(video conferencing or other audio visual means)を利用した取締役会については、取締役の参加を記録認識recording and recognising the participation)し、当該会議の議事を日時とともに記録・保存(recording and storing)することが可能であることを前提に、認められています(会社法173条2項)。また、ビデオ会議等による出席であっても、出席者として定足数にカウントされます(同法174条1項)。

ただし、取締役会規則には、ビデオ会議等を用いた取締役会を招集して実施するための要件と手続きが定められており(同規則3条)、ビデオ会議用の機器・設備自体や接続障害回避手段不正アクセス対策電子記録の手段等を確保しておくことが前提条件となります。

同規則第3条におけるとりわけ重要な規定は以下のとおりです。

(1)     十分なセキュリティと本人確認手続きを確保し、会議の完全性を保護すること

(2)     議事を記録し、会議の議事録を作成(to record proceedings and prepare the minutes of the meeting)し、その草案は開催15日以内に全取締役に配布すること

(3)     遅くとも当該年度の監査が完了する前に、テープ記録またはその他電子記録機構を保管すること

(4)     開催通知は、(対面開催同様に)すべての取締役に送付すること

(5)     電子的方法での参加しようとする取締役は、暦年の初めにその旨を申告すること。当該申告の有効期間は1年間であるため、毎暦年の申告が必要となる。

(6)     取締役会の開始時に議長が点呼を行い、ビデオ会議参加のすべての取締役が、記録のために以下の事項を述べること:(a)氏名、(b)自分が参加している場所、(c)関連資料をすべて受領済みであること、(d)今いる場所で当該取締役以外の者が会議に出席していないこと、または会議の議事にアクセスできないこと

なお、以前は物理的な実地開催が必須であった項目(年次財務諸表の承認、取締役会の報告書の承認、目論見書の承認、財務諸表承認のための監査委員会、合併・統合・分割・買収)も、現在はテレビ方式での取締役会開催が認められています(2021年6月17日付けニューズレター参照)。

3.すべての取締役会は、ビデオ会議や書面決議で代替できるか?

ビデオ会議は、対面での取締役会と同等であり、すべての取締役会をビデオ会議で行うことも可能。

書面決議は、後述する規定の重要な決議事項を除く事項であれば、正式な取締役会決議とみなされますが、重要事項については、取締役会との代替はできません。また、書面決議は、次回の取締役会で追認しておくことが一般的です。

【ビデオ会議】

ビデオ会議による取締役会については、前項に示した環境整備や安全対策、会議の記録等の規定に則った開催であれば、法定4回のすべての取締役会をビデオ会議で行うことも可能です。

従前はビデオ会議で扱うことが認められていなかった、財務諸表の承認等の事項も現在はビデオ会議での決議が可能となっているため、コロナ禍により物理的な会合が困難となった多くの日系企業にとっては、コンプライアンス上の大きな懸念が一つ払拭されたと言えます。

なお、記録(record)の方法として、取締役の参加を認識できるものであれば、録画でなく音声録音で代替できると解釈する余地はあるものの、議事録だけでは足りないと解されています。

したがって、ビデオ会議での開催とすると、それを記録し保存する等の新たな負担が生じることとなりますが、録画と保存をしておくことが推奨されます。

【書面決議】

書面決議は、下表の事項以外の事項であれば、その決議案を全取締役に事前回付し、決議要件である取締役の過半数が賛成すれば、正式に取締役会の決議とみなすことができます(会社法175条1項)。回付は、メール等の電子的方法も可能です。当該決議は、次回の取締役会での議事録の一部として記録される必要があります(同条2項)。

以下の事項については、書面回付による決議は認められず、対面またはビデオ会議による取締役会の開催が義務付けられています(同法179条3項)。

また、1/3以上の取締役が求める場合も書面決議は行えず、会議の開催が必要となります。

取締役会の会合での決議が必要な事項

(1)    株式が未払となっている株主に対する払込請求

(2)    有価証券の買戻しの承認

(3)    社債を含む証券の発行

(4)   金銭の借入

(5)    会社資金の投資

(6)   融資、または融資に関する保証もしくは担保の提供

(7)   財務諸表および取締役会の報告書の承認

(8)    事業の多角化

(9)    合併、統合、再編の承認

(10) 他社の買収、または実質的な支配権の取得

(11) その他規定される事項

 

ただし、(4)から(6)の事項については、取締役会は、その権限をマネージングダイレクター(MD)、マネージャー、その他会社の主要な役員、または会社の支店の場合は支店の主な役員に委任することが認められています。そのため、借入のたびに取締役会の決議を経る必要はありません。例えば、あらかじめ100万ルピー相当の借入については、その承認をMDに委ねるという内容の包括決議を取締役会で行っておけば、MDは事後報告のみで足り、取締役会での個別の決議は不要となります。これは、MD等の権利の濫用にもつながるリスクも大きいため、無条件に権限を委任することは避けるべきであり、実務上もありません。

ただし、借入れの場合、金融機関によっては、当該取締役会議事録の提示を求めることもあるため、借入れをしようとする金融機関の条件を事前に確認しておく必要があります。

また、貸付先が取締役の親族などの場合は、関係者間取引(Related Party Transaction)として、金額が権限の範囲に収まっている場合でも、別途取締役会承認が必要となります(会社法188条)。

上記の事項であっても、迅速に行う必要がある等の時間的な制約がある場合は、書面決議で一旦承認した上で、次回開催の取締役会で追認するという方法も、実務の場面ではとられています。ただし、その場合でも、定期的な取締役会において追認しておくことが望まれます。

4.議事録の記録漏れ等の不備は、罰則の対象となるか?

ビデオ会議での記録の保管を含め、取締役会の議事録を記録していない場合、会社に対しては2万5千ルピー、不履行の各役員に対しては、5千ルピーの罰則が課されます(会社法118条11項)。

また、会社は、インド会社秘書協会が定めた取締役会に関する秘書基準(SS 1)を遵守することも求められているため、議事録作成・録画保管を怠ると、会社秘書役の資格に影響するリスクが生じます。

もっとも、議事録の改ざんや虚偽が発覚[4]したような場合でない限り、例えば機器上の不具合といった不測の事情によるものであった場合には、厳格に罰則が行われる可能性は小さいと言えます。

しかしながら、コンプライアンスの観点から、議事録の作成と保管は確実に行い、これらの義務を遵守することが求められます。

[1] https://www.mca.gov.in/content/mca/global/en/acts-rules/ebooks/acts.html?act=NTk2MQ==

[2] https://www.mca.gov.in/content/mca/global/en/acts-rules/ebooks/rules.html

[3] 具体的には、1人会社(One Person Company)、小規模会社(small company)、休眠会社、スタートアップの非公開会社(private company (if such private company is a start-up))が、当該例外規定の対象となります。

小規模会社とは、公開会社以外の会社で、i)払込済み株式資本が500万ルピー以下またはそれ以上の額で規定されている場合1億ルピー以下であり、ii)直近の会計年度の損益計算書上の売上高が2千万ルピー未満である会社を指しますが、持株会社または子会社は小規模会社として適用されません。

[4] 議事録の改ざんの場合は、会社法118条12項に基づき、2年以上の禁固刑および2万5千ルピー以上10万ルピー以下の罰金に処されます。

 

以上