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2020年10月16日(金)7:23 AM

海外インフラプロジェクトの法的留意点(アジア新興国のPPP制度)について記事をアップデート致します。

アジア新興国のPPP制度

 

 

海外インフラプロジェクトの法的留意点について

アジア新興国のPPP制度

2020 年10月16日

One Asia Lawyers

インフラ輸出リーガルプラクティスチーム

      • 1.執筆の背景

      前回の記事「海外インフラプロジェクトの法的留意点-アジア新興国編-」[1]にて述べた通り、全世界において、巨大なインフラニーズが存在している。世界銀行のPrivate Participation in Infrastructure (PPI) Databaseによれば[2]、2005年頃からPublic Private Partnership(以下、「PPP」)が増加しており、特に、東南アジア、南アジア、中央アジアにおける案件が活発となっている。また、当Databaseによれば、鉄道、空港、港湾等のセクターと比較して、道路セクターが伸びており、日系企業もグリーンフィールド型、ブラウンフィールド型、運営維持管理業務型を問わず、案件数を増やしている。

      ただし、アジア新興国の傾向として、財政基盤が脆弱であり、慢性的な財政赤字と対外債務が膨張している。また予算制度が十分に機能していなかったり、行政当局の縦割行政が著しく政府内での見解が異なったりするようなケースが散見される。加えて、それらの地域においてCovid-19の影響は不可避であり、現在、当事務所で対応しているプロジェクトをみても、多くのプロジェクトの事前調査、入札手続き、契約交渉等が長期化したり、政府保証や不可抗力条項、政府補償条約等について一部契約の見直しが生じるような事態も生じており、契約交渉や締結に向けて困難な問題に直面しているという側面もある。

      上記の通り、①外資を含めた民間による資金投下が必須であること、②脆弱な制度上の問題が生じていることを鑑み、特にアジア新興国においては、外資を活用したPPPによるインフラ整備投資への期待から、制度整備が急激に進んでいる。上記で述べたリスクとバランスを取りながら、今後、さらに成長可能性が高いPPP分野における事業展開の可能性を踏まえて、今回はアジア各地のPPP法制について比較し、特に重要な10か国の法規制について解説する。

      • 2.アジア各国におけるPPP法制

      1)総論

      前提として、PPPの法的な枠組みとしては、英米法(Common Law)体系か、大陸法(Civil Law)体系かによって、傾向が若干異なる側面がある。英米法体系の国家においては、当事者の一部が政府であったとしても、当事者意思を重視し、そもそも個別具体的な特定のPPP法が存在しない国もある。他方、大陸法系の多くの国々においては、PPP法が制定、または制定準備がなされており、入札手続等のプロセス、官民の権利義務、政府の役割、PPP契約記載事項や紛争時の処理方法等について、個別具体的に規律されている。とはいえ、下表の通り、英米法系の国であっても、最近の傾向としては、詳細なPPP関連法令を整備する国が多くなってきており、各国によってPPP関連法の整備状況は大きく異るといえる。

      なお、その他PPP法の存否に関わらず、公共調達法(Procurement Law、公共調達の方法やプロセス等を規律する方法)、公共財政管理法(Public Financial Management Law、プロジェクト認可基準、予算取得プロセス、財政上の制限事項等を規律する法律)等に加えて、前回の記事で紹介したような外資企業に対する投資規制、土地取得規制、税法、外国人労働規制等が問題となる。

      <東南アジア、南アジアのPPP法の一覧>

      国名

      法令の有無

      特徴

      タイ

      あり

      2019年3月11日施行

      十分に整備されている。内閣承認が必要となり、手続きが厳格

      ベトナム

      あり

       

      2020年にPPP法が国会で遂に可決

      2021年1月1日施行予定となっている

      カンボジア

      なし

      現在、経済財政相が草案を作成中。2021年中の制定を目標としている。

      ラオス

      なし

      PPP法草案

      現在、ラオス計画投資省が草案を公開している。2021年に制定される可能性あり

      ミャンマー

      なし

      PPP法は特に整備されておらず、個別法により対応

      シンガポール

      あり

      PPPガイドブック

      PPPガイドブックにおいて、政策方針と手続等の詳細が規定されている

       

      マレーシア

      あり

      2009年PPPガイドライン

      PPPガイドラインにおいて、PPPに適したプロジェクトの種類、入札を手続きや適格基準、運営モデル、プロジェクト承認のプロセスフローが明確化されている

      フィリピン

      あり

      1994年BOT法施行

      関連細則等十分に整備されている

      インドネシア

      あり

      2015年大統領令38号施行

      複数の法令が存在。

      改定が多く、複雑化している

       

      インド

      あり

      PPP法は存在しないが、PPPガイドライン等が整備されている

      財務省が基本政策を策定、各種ガイドラインやマニュアルを整備されているが、州毎にルールが異なるので、留意が必要

      バングラデシュ

      あり

      2015年PPP法

      2015年にPPP法が施行。PPP事務局が一括してガイドライン等を整備している。

       

      スリランカ

      あり

      PPPガイドライン

      2016年に財務省内に、PPPユニットが設置され、PPPに関する取り組みを促進、調整機能が存在

       

      ネパール

      あり

      2015年PPPガイドライン

      PPP法草案が公開

      2015年のPPPポリシーとガイドラインによって、入札手続きやPPP契約の内容が明確化された

       

      パキスタン

      あり

      2010年PPPガイドライン

      州レベルでPPP規則が存在

      財務省傘下のインフラプロジェクトユニット内に、中央PPP関連部署が存在。入札手順等について監督している。その他州レベルで、PPPユニットが設置された

       

      アフガニスタン

      あり

      2016年PPP法

      2016年にPPP法が成立。財務省にPPPユニットがあり、ガイドラインの作成、プロジェクト評価等を実施

      2)タイにおけるPPP法制

      ア 背景、状況

      周辺国と比較しても、タイは先行して、PPP法制を整備し、同法の法的枠組みに従ってプロジェクトを推進している。一般的にPPPスキームが浸透しているといえ、PPP法制定までは、インフラ投資は政府主導で行われてきたが、インフラ投資額は政府予算を越えており、さらに民間インフラ投資を呼び込む必要がある。タイにおいては、入札情報等が適切に公開されており、具体的には、国家経済社会開発委員会が準備するインフラ社会開発マスタープランにおいて、プロジェクトの目的、期限、想定総投資額等について記載されているが、それがPPP委員会で承認されると、民間事業者に公開される仕組みとなっており、適切かつ着実に実施がなされている。下記の通り、基本法やガイドライン等も比較的整備されており、事業参入において得に問題ないが、タイ国内企業の技術力等も年々向上しており、外資企業に関しては価格競争力の部分で劣勢に立たされることが多いといわれている。

      イ 法制度の概要

      タイにおいては、1992年にPPPに関する法律が成立しているが、その後、2013年の改正を経て、2019年3月10日に改正PPP法が成立し、11日から施行している。PPPの適用対象事業は、道路、鉄道、空港輸送、港湾、上下水道、エネルギー事業、病院、教育等の12項目が指定されており、いずれかに該当するインフラや公共サービスに関するPPPプロジェクトと定義されている。また、これらのプロジェクトに関して、50億バーツ以上の事業規模とする必要がある。なお、事業規模が未達であったとしても、PPP委員会が許可する場合は、例外として認められる可能性がある。

      PPPプロジェクト推進のためには、プロジェクトの具体的な内容を確定し、PPP法に従って、当局から承認を得る必要がある。プロジェクトを実施する政府機関は、コンサルタントを起用し、プロジェクトの調査報告書を作成し、所轄省庁の大臣に提出し、承認を得る必要がある。その上で、PPP委員会での承認と内閣からの承認を得る必要がある。なお、各審査期間については、PPP委員会が定める期間となっており、明確な期間規定は存在しない。

      その後、政府機関は事業者選定委員会を設置し、当委員会は、入札、選定、契約交渉、契約締結等の役割を負う。選定については、PPP法に従い、原則的に入札によって行われる(政府機関や内閣の承認がある場合は、その限りではない。)。選定業者との交渉が終了すると15日以内に、PPP契約ドラフトは検察庁に送付され、45日以内に審査を完了する必要があると規定されている。その後、所轄大臣に提出され、30日以内に審査を完了し、内閣にて審議される流れとなっている。

      以上が簡単なPPP法上の流れとなるが、タイにおいては内閣承認が必要となるため、比較的厳格な審査手続きが取られていると評価できる。

      3)ベトナムにおけるPPP法制

      ア 背景、状況

      ベトナムのインフラプロジェクトは、主に政府予算によって行われており、そのため国債や地方債が発行されているが、必要投資額の半分程度であり、民間資金の導入が必須の状態である。また、対外債務比率も上昇しており、政府の意向として、今後さらにPPPプロジェクトを活発化させる可能性が高い。ただし、社会主義国ということもあり、どこまで民間(特に外資)に開放されるか、また運用について適切な対応がなされるかについて動向を注視する必要がある。なお、ベトナム計画投資省において、PPP関連情報が定期的に公開されている[3]

      イ 法制度の概要

      ベトナムの法制度上で「PPP」という文言が登場するのは今から10年前の2010年のことであり、当時はあくまで試験的なPPPプロジェクトに対して試験的に適用する規則という位置づけであった[4]。その後、2015年に政令化され、2018年に政令が全面改正されるなどして少しずつ法令の内容拡充が図られ、2020年6月18日にPPP法が可決され、2021年1月1日から施行予定となっている。今後さらにPPPプロジェクトに対する透明性の向上、不確実性の低減化が図られることが期待される。

      今回の主な改正点としては、投資対象が大きく統一的に整理されており、交通運輸、送電・発電、上下水道、ITインフラ等の規定のみとなっており、対象分野が限定されたといえる。また、契約類型としてBuild Transfer方式が削除されたこと、事業収益について、BOT、BTO、BOO方式のPPP事業収益が契約で定めた計画の75%を下回った場合、減収分の半分を政府が負担する保証制度(他方、PPP事業収益が計画の125%を上回った場合は、増益分を政府と投資家で折半する)が盛り込まれたこと、PPPプロジェクト契約は必ずベトナム法に準拠することなどが挙げられる。主な政令63号と新PPP法の相違は、下表の通りである。

       

      【PPP関連法令の概要比較】

       

      2018年政令

      63/2018/ND-CP)

      2020年PPP法

      制定年

      施行年

      2018年5月4日

      2018年6月19日

      2020年6月18日

      2021年1月1日

      「PPP方式の投資」の定義

      インフラ施設の建設、改造、運営、経営、管理、公共サービスを提供するために、所管国家機関、投資家、プロジェクト企業とで交わされるプロジェクト契約に基づき実現される投資形式

      (第3条1項)

      PPPプロジェクトへの民間投資家の参加を誘致することを目的に、国家と民間投資家のあいだで締結し、履行するPPPプロジェクト契約を通じた有期の協力に基づき実行される投資形式(第3条10項)

      対象

      a)交通運輸

      b)発電所、送電線

      c)公共照明システム、上水道システム、排水システム、下水・廃棄物の回収・処理システム、公園、自動車・車両・機械設備の駐車場・置き場、墓地

      d)国家機関庁舎、公務用住宅、社会住宅、再定住住宅

      đ)医療、教育・育成・職業訓練、文化、スポーツ、観光、科学技術・水文・気象、IT応用

      e) 商業インフラ、都市区・経済区・工業団地・産業クラスター・集中IT区インフラ、ハイテクインフラ、インキュベーション施設、技術施設、中小企業を支援するコワーキングエリア

      g) 農業・農村開発、農業商品の加工・消費を伴う生産連携開発サービス

      h) 首相が決定するその他分野

      (第4条)

      a)交通運輸

      b)送電網・発電所(水力発電所、電力法に基づき国が独占するケースを除く)

      c)利水、上水道、下水道、下水処理、廃棄物処理

      d)医療、教育・訓練

      đ)ITインフラ

      (第4条1項)

      PPP事業として認められる投資額

      規定無し

      (公共投資法の規定に基づき、国家重要、A、B、Cグループ分類)

      2,000億VND以上             (医療、教育・訓練は1,000億VND以上)

      (第4条2項a,b)

       

      国の参加比率

      規定無し

      インフラ整備・土地収用での国の資金拠出:総投資額の50%

      (第69条1項、2項)

      投資優遇

      投資家、プロジェクト企業:法人税優遇

      プロジェクト用の輸入品:関税優遇

      投資家、プロジェクト企業:土地使用料/賃貸料の減免

      投資家、プロジェクト企業:その他法定の優遇(第59条)

      投資家、プロジェクト企業:土地使用料、土地賃貸等に関する優遇、および税や土地、投資、その他関連法で定めるその他の優遇

      (第79条)

       

       

       

      4)カンボジアにおけるPPP法制

       

      ア 背景、状況 

      カンボジアにおけるPPP事業は、1990年代から存在し、発電所・空港の設立など相当数の実例が存在している。もっとも、政府の体制、法制度ともに未整備な状態であり、案件ごとにアドホックに、政府と民間のリスク分担なども曖昧なままなされており、投資リスクが高い状況であった。現に、特定の理由なく政府により中途で終了するプロジェクトもあり、PPP投資の障害となっていた。カンボジア政府としてもかかる問題点を認識しており、状況を改善するため、2016年にPPP制度の整備のためのPPPポリシーを策定するとともに、PPPについての包括的な意思決定機関として経済財務省(MEF)主催の省庁横断議会(IMC)を設立した。そして、2017年に、IMCの事務局としてMEFにCentral PPP Unit (CPU)を設置した。さらに現在、MEF主導のもと、PPP法の草案作成が進んでおり、2021年中の制定を予定しているとのことである。また、PPPプロジェクトの手続・手順・要件、各機関の責任や意思決定機関などの詳細を定める標準手順書(SOP)を作成しており、PPP法の制定後速やかに政令として公布することを予定している。

      イ 法制度の概要

      カンボジアにおいて、従来、部分的には2007年コンセッション法や1994年投資法などを適用し、法令が存在しない事項については個別の調整・交渉などにより決定がされてきた。上記で述べたPPP法およびこれに基づく政令による投資の条件や手続き、政府と民間のリスク分担などの透明化・公平化が待たれる。

      5)ラオスにおけるPPP法制

      ア 背景、状況

      ラオスは、これまで国の基盤となる各種インフラの整備を国家予算と外国からの資金援助に頼ってきており、2016年から2020年までの第8次国家社会経済開発5か年計画[5]では、強い経済基盤と経済的脆弱性の低減を成果の一つとして掲げており、ハード・ソフト面両方の実現のため、PPPに期待する声が高まっている。ただ、ラオスにおいては、PPP事業は、多様なリスクが伴うにも関わらず、法制度が未整備な状態で実施されており、民間事業者が政府や各省庁と直接交渉し、個別の契約を締結するような流れとなっている。その事業分野としては主に、水力発電、国道開発整備、空港開発整備等があげられるが、投資の形態としては、外国企業が政府と合弁会社をラオス現地に設立し、政府から土地使用権や事業運営権等の権利を取得して実施する形態が主流となっている。

      イ 法制度の概要

      ラオスにおけるPPPに関する法令としては、2017年4月に施行した改正投資奨励法があり、PPP事業を投資の一形態として定め、そして、PPPをコンセッション事業の分野の一つとしても位置づけている。

      2016年の施行を目標として、2015年頃からPPP法の草案の作成が始まっており、2020年7月の現時点において、まだ草案は完成しておらず、計画投資省のウェブサイトに掲載されているPPP法の草案は、アジア開発銀行の協力のもと作成されたもので、2019年7月を最後にアップデートされていない状態である。同草案は、全体で80条から構成されており、PPP事業方式、入札手続、PPP契約書の内容や締結手続き等に関する規定も盛り込まれており、同草案の内容を踏まると、いかなる分野も統一ルールの下、プロジェクトを行えることが大きなポイントといえる。同法では、PPPの定義、PPPの事業形態、PPPの方式、PPP入札の流れ(下表)等が規定されている。

       

      <PPPプロジェクトの初期提案書の提出から入札までの流れ(草案)>

      手続き

      責任者

      初期提案書の作成・提出

      実施政府機関

      初期提案書の検討 (20日以内)

      官民連携推進委員会(計画投資省)

      発案書の作成・提出(政府開発計画以外の新規   プロジェクトの場合(先端技術の導入など))

      民間セクター

      発案書の検討(15日以内)

      官民連携推進委員会(計画投資省)

      FS及び環境影響評価報告書の作成・提出

      実施政府機関または民間セクター

      FS及び環境影響評価報告書の検討(90日以内) および承認

      官民連携推進委員会(計画投資省)

      (国民議会等の承認必要)

      FS及び環境影響評価報告書の修正(60日以内)

      実施政府機関または民間セクター

      入札要項等の書類準備(上記FS等承認後3日以内)

      実施政府機関及び官民連携推進委員会

      入札管理委員会の選定

      財務局、実施政府機関、技術面のシニアアドバイザー、官民連携推進員会から構成

      6)ミャンマーにおけるPPP法制

      ア 背景、状況

      近年、ミャンマーにおいて日系企業からはODAのみならず、PPPプロジェクトの実施について多く相談を受けており、著者の感覚として、日系企業のミャンマーでのインフラプロジェクトに関する関心は極めて高い。しかしながら、PPP法制度等の整備は進んでおらず、過去監督機関との交渉や方針転換によりリスクが顕在化したようなケースがあり、特にリスクマネジメントについて十分に考慮する必要がある。そのような状況でも、近年、道路分野等では、民間企業へのBOTプロジェクト等が行われており、徐々にPPPプロジェクトの実績が生じている。また、ミャンマー計画財務省において、PPPプロジェクトを管轄する部署が組成されており、今後のPPP法制度整備や組織体制の拡充が期待される。

      イ 法制度の概要

      ミャンマーにおいては、統一的なPPP法は整備されておらず、公共調達法等の個別法により処理される状態である。計画財務省に照会した限りでは、特段PPP法の整備に対する具体的な動きはないようであるが、民間投資によるインフラ整備、投資については、監督当局内部でも関心が高まっているとのことである。

      7)フィリピンにおけるPPP法制

      ア 背景、状況

      フィリピンでは、1990年にBOT法(後述)が成立する以前の1989年に、同国では初めてとなるBOT(Build-Operate-Transfer)契約がNational Power CorporationおよびHopewell Energy Management Ltd社との間で締結され、ナボタスにおける発電所の建設・操業に関する官民連携プロジェクトが実施された。このように、フィリピンは、PPP分野においてはASEAN諸国では比較的に先行した動きを見せており、インフラ整備は重要な国家課題として位置付けられてきた。しかし、今日におけるフィリピンのインフラ整備状況は世界的に見ても低水準にあり[6]、インフラの未整備が問題点として長く指摘されている。そのような状況下、2016年6月に就任したロドリゴ・ドゥテルテ大統領はインフラ向け支出を拡大し、「ビルド・ビルド・ビルド」と呼ばれる大規模なインフラ整備計画[7]を推し進めることで、投資環境の整備や雇用創出、国民所得の向上など一層の経済成長の実現を目指している。PPCセンターによる公表では、2010年以降のPPP件数は41件となっている(2019年4月30日時点)[8]

      イ 法制度の概要

      フィリピンでは、1990年にASEAN諸国では初めてとなる民活インフラ事業の法的枠組みを定めた共和国法6957号BOT法(Build-Operate and Transfer Law, Republic Act No.6957。1994年に共和国法7718号により一部改正された。以下、「改正BOT法」)および同法の実施細則(Implementing Rules and Regulations of R.A. No. 6957 as amended by R.A. No. 7718。以下、「改正BOT法実施細則」といい、改正BOT法とあわせて「改正BOT法等」)が整備されている。また、改正BOT法等を補完するガイドラインとして、国家経済開発庁(National Economic and Development Agency:NEDA)の傘下にあるPPPセンター(PPP Center)より、国家事業マニュアル(PPP Manual for NGAs)、地方事業マニュアル(PPP Manual for LGUs)、セクター毎のガイドライン等が公表されており、また、NEDOからもPPP事業に関するガイドブックが多く発行されている。PPPを主管する政府組織はNEDO傘下にあるPPPセンターであり、PPPセンターは、プロジェクト案件の発掘、実施、管理・モニタリング、地方政府組織を含むプロジェクト実施主体の能力開発・工場など、広くPPPを推進する役割を担っている。

      PPP入札手続については、政府調達改革法(Government Procurement Act, Republic Act No. 9184)が政府機関による物品・サービスの入札プロセスに関するルールを定めている。その他、通行権取得法(Right of Way Acquisition Act, Republic Act No.10572)、下級裁判所による仮処分命令の発行を禁止することで政府インフラプロジェクトの実施・完了を迅速化する法律(Expeditious Implementation and Completion of Government Infrastructure Projects by Prohibiting Lower Courts from Issuing Temporary Restraining Orders, Republic Act No. 8975)、大統領府令432-05号による合弁契約に関するガイドライン(Guidelines on Joint Venture Agreements, Executive Order 432, series 2005)、大統領府令78-12号による全てのPPPおよび合弁事業におけるADRの活用(Use of Alternative Dispute Resolution Mechanisms in all PPP and JV Projects, Executive Order 78, series 2012)など、PPPを推進するために制定された法令・ガイドラインが数多く存する。

      なお、PPP事業が公営事業の管理・運営(operation of public utility)に関わる場合は、1991年外国投資法(Foreign Investment Act of 1991)および現行の第11次ネガティブリストに基づき、外資保有の上限が40%に制限されており、この点は注意が必要となる。

      改正BOT法等では、PPPの対象事業として、各種交通(道路、鉄道、港、空港など)、電力、通信、ICTシステム・設備、農業、運河・ダム・灌漑、上下水、観光・教育・健康施設など、公共インフラとして通常想定されうる事業セクターが広く含められている。なお、電力については、2001年に成立した産業改革法(Electric Power Industry Reform Act: EPIRA)によって国営電力公社(NPC)の民営化や電力市場の自由化が進められてきた関係から、PPTの対象事業として取り扱われるか否かが法的に必ずしも明確に整理されていないとの指摘があるものの、改正BOT法等ではPPPの対象事業として電力が含まれており、実際にPPPスキームによる電力プロジェクトの検討および実施がなされている。

      対象事業は、政府提案型(Solicited Proposal)と民間提案型(Unsolicited Proposal)に分類され、それぞれ事業および事業者の選定の取扱いが異なる。また、公共側の事業実施主体に応じて、国家事業(政府機関や国営企業による実施)と地方事業(地方政府による実施)に分類される。PPP事業は開発および承認(事業選定)、調達(入札)および実施というフェーズに大別される。まず、事業選定フェーズでは、実効性評価や民間事業者からの意見聴取・交換(マーケット。サウンディング)などを経て案件形成されたパイプラインプロジェクトについて、関連承認機関に対する提案および評価・審査がおこなわれ、NEDAに設置された投資調整委員会(Investment Coordination Committee of the NEDA Board:ICC)または大統領を議長としたNEDA理事会によって承認される(下表参照)。PPP事業の入札は、改正BOT法等のほか、政府調達改革法および政府調達委員会(GPPB)作成のガイドラインに基づき実施される。そして、実施フェーズへと移行し、PPT事業契約を締結(金融機関による融資の最終合意も含む)のうえプロジェクト計画に基づき事業が実施される。

      政府提案型

      国家事業:事業総額が3憶ペソ以下の場合は投資委員会(ICC)による承認が必要とされ、事業総額が3億ペソを超える場合はNEDA理事会の承認が必要となる。

      地方事業:原則として地方議会の承認によって事業選定がおこなわれるが、事業総額が2憶ペソを超える場合はICCによる承認が必要となる。

      承認期限は、承認審査条件が充足した日より30営業日以内とされている。なお、政府提案型の入札実施期間については、具体的な日数・期限は示されていない。

      民間提案型

       

      ICCおよび関係承認機関が審査をおこない承認する。民間事業者による提案後、ICCおよび承認機関による審査を経て入札前の承認がなされるまでの所要期間については、期限の明示がないもの(Open Date)もあり、1年超を要する可能性がある。

      また、入札においては、原提案者以外の者による競合提案を募集し(入札図書公表から60営業日以内)、比較評価のうえ、より優れた事業者を選定する「スイスチャレンジ方式」が採用されている。このスイスチャレンジも含めて、入札所要期間は少なくとも4カ月程度は要する。

      8)インドネシアにおけるPPP法制

      ア 背景、状況

      インドネシアでは、政府の財源不足によってインフラ投資が十分に行われない期間が、長期間続いたため、特に都市部での交通渋滞をみても明らかな通り、インフラ整備が相当遅れている状態である。複雑ではあるが、PPP法も整備されており、今後の首都移転プロジェクトと関連インフラ整備との関係でもPPPプロジェクトが増加すると考える。また、インドネシアにおいては、国営企業が多く存在しており、国営企業の民営化の進展にも注目されるが、反対も根強く進展速度は緩やかなものになると想定される。なお、政府側の事情による事業計画の変更や遅延等も多く、留意が必要である。

      イ 法制度の概要

      PPPに関する法制度は、ヨドユノ政権下で制定されたPPPに関する大統領令 2005 年第 67 号 が基本的な事項を定めていたところ、 2015年にPPPに関する大統領令2015年38号が制定され、対象セクター範囲が拡大されるとともに、後述のアヴェイラビリティ・ペイメントが導入された。2005年の大統領令は、2015年の大統領令により廃止されたが、2015年大統領令に反しない限りでその実施細則は有効とされている。具体的な内容は以下のとおりである。

      (ア)PPPの定義

      まず、インドネシアにおけるPPPとは、一般的にPPPに関する大統領令に基づき実施される事業を指す。このPPPの実効性確保のため、上記大統領令では「政府保証」及び「政府支援」について規定している。「政府保証」は後述のIndonesia Infrastructure Guarantee Fund(以下、「IIGF」という)を通して、政府契約機関(Government Contracting Agency(GCA))による契約の履行を保証する制度である。「政府支援」はインドネシア政府による「財産的支援」及び「その他の形態による支援」を指し、「財産的支援」には後述のViability Gap Funding(VGF)が含まれる。なお、インドネシアにおいては、上記大統領令に基づくPPPとは別に、公共事業に対する民間開放が行われていることに注意を要する。これらについては、各セクターが個別の法令を規定している。

      (イ)IIGF(Indonesia Infrastructure Guarantee Fund)

      財務省は100%出資して2009年末にIIGFを設立した。IIGFは、PPP 事業において、政府契約機関(GCA)の契約履行を保証しており、民間事業者のリスクを軽減している。 前述のPPP以外の各セクターの官民連携案件においては、政府保証が政府による Support Letter やConfirmation Note といった形態であったため、その内容が必ずしも明確とは言えなかった。IIGFが設立されたことで、民間事業者は、IIGFとの保証内容の協議を通じて保障内容を明確にする形で保証契約を締結することができるようになった。

      (ウ)VGF(Viability Gap Funding)

      VGFは、財務省から供与される PPP 事業に対する財政的支援である。社会的な利益は大きいにも関わらず事業採算性の低い案件に対して、財務省が建設費の一部を支援することにより、PPP 事業としての成立を支援することを目的としている。VGはPPP事業における建設費の一部を中央政府予算から拠出するものであり、現金で供与される。 VGFは、社会的な便益と事業採算性とのギャップを埋めるものであるが、あくまで当該案件の建設費総額の主要(Dominant)な部分を占めない水準とされている

      (エ)アヴェイラビリティ・ペイメント(Availability Payment)

      アヴェイラビリティ・ペイメントは、前述の大統領2015年38 号で新たに導入された制度である。所定の品質でインフラサービス提供される場合に、その対価として、GCAから民間業者に定額の支払を約束する制度である。これにより民間企業者適切な投資リターンを見込んでPPP事業へ参画することを企図している。

      なお、GCAはアヴェイラビリティ・ペイメントについて民間事業者と契約をするが、当該契約の履行保証については、前述のIIGFを利用することになる。他方で、中央政府がGCAとなるアヴェイラビリティ・ペイメントが利用される案件では、前述のVGFを使用することはできない点に注意が必要である。なお、地方政府がGCAになる案件では、アヴェイラビリティ・ペイメントとVGFの併用が可能となっている。

      (オ)事業者選定方法

      PPP 案件における事業者選定は原則、公募入札方式(Public Tender)で行われる。しかしPPP に関する大統規則2015 年3号により、例外的に直接指名 (Direct Appointment)の可能性についても規定された。 すなわち、対象事業が特定条件(対象となるインフラが既に当該事業者により運転されている場合、当該技術を提供できるのが当該事業者のみの場合、当該事業者が事業に必要な土地を概ねまたは完全にコントロールしている場合)を満たす場合、または、事前資格審査をした結果、通貨事業者が1グループのみの場合には、事業者を直接指名することができる。

      実務上は、最初に公募による事前資格審査が行われ、通過事業者が2グループ以上の場合は原則通り公募入札方式で選定が行われ、通過事業者が1グループのみだった場合には直接指名手続に進むことが認められている。

       

      9)インドにおけるPPP法制

      ア 背景、状況

      インドは、世界でもっとも多くのPPP事例が存在しており、特に道路と空港セクターを中心に一般的に浸透している。モディ政権下においても積極的にPPPプロジェクトの活用が図られている。ただし、州レベルの規制やガイドライン等に基づき、運用が行われており、統一的なPPP法制度がなく、州レベルのローカルルールや恣意的な運用により、外資が参入することは困難なことが多いといわれている。また、政府や監督省庁による計画変更や事業遅延等も生じていることに加えて、現地企業との価格競争を踏まえると、外資企業のプロジェクト推進については困難なことが多いと評価できる。

      イ 法制度の概要

      インドにおいて、連邦政府レベルで統一的なPPP法は存在していない。基本的には、財務省が基本政策を策定し、各種ガイドラインやマニュアルを整備している。具体的には、以下に示す一定の規則、手続き、マニュアル等が整備されている。PPPプロジェクトにおける事前資格基準、調達プロセス、調達者と入札予定者との間の契約事項などについて規定を定めている。

      • 2017年一般的財務規則 (General Financial Rules, 2017)
      • 1978年財務権限委譲規則(Delegation of Financial Powers Rules, 1978)
      • 2017年物品公共調達規則(Manual for Procurement of Goods, 2017)
      • 中央監察委員会ガイダンス(Central Vigilance Commission Guideline)

      その他、個別に①高速道路、②上下水道、③港湾、④廃棄物管理、⑤都市交通の5つのセクターに特化した規則等が存在している。その上で、州政府が個別具体的な政令や規則等を策定し、運用を行っている。また、州レベルの法制度の整備状況は州ごとに異なっており、公共インフラへの民間投資を含むインフラに関する法的枠組みを明確に規律している主な州は以下の通りである。

       

      法規定 

      Andhra Pradesh

      The Andhra Pradesh Infrastructure Development Enabling Act 2001

      Bihar

      The Bihar Infrastructure Development Enabling Act 2006

      Gujarat

      Gujarat Infrastructure Development Act 1999 amended in 2006

      Haryana

      Haryana PPP Policy

      Karnataka

      The Karnataka Infrastructure Policy 2007 amended in 2015 and Guidelines for Procurement of PPP Projects through the Swiss Challenge Proposals Route, 2010

      Punjab

      The Punjab Infrastructure Development and Regulation Act 2002

      Tamil Nadu

      Tamil Nadu Infrastructure Development Act, 2002

      Uttar Pradesh

      Uttar Pradesh Infrastructure and Industrial Investment Policy, 2012

      West Bengal

      The West Bengal Policy on Infrastructure Development through PPP 2003

       

      インドでのPPPにおいては、Public Private Partnership Approval Committee (PPPAC、「PPP評価委員会」)が、その中核を担っている。PPP評価委員会は、内閣経済委員会(CCEA)傘下の中央省庁/中央公共セクター事業(CPU)/法定当局またはその管理下にある事業体から構成されている。PPPAC評価委員会発行のプロジェクト査定・評価・承認のための手順[9]は次の通りである。

       

      ①監督機関は、PPPにおいて実施されるプロジェクトを策定し、適切な資格を持ったコンサルタントの支援を得て、フィジビリティ・スタディとプロジェクト契約の準備を行う必要がある。

      ②必要に応じて、監督機関で議論した内容をPPP評価委員会へ提出するプロジェクト提案書に添付する必要がある。

      ③PPP評価委員会の承認のために、行政庁は、フィジビリティ・スタディ報告書とともに、所定のフォーマットで作成されたプロジェクト提案書を提出する必要がある。

      ④ PPP評価委員会は、提出された書類を関係省庁に展開し、3週間以内に関係省庁との会合を開き、プロジェクトの原則的承認の可否を決定する。

      ⑤原則承認後、行政省は資格審査(RFQ)を提出し、資格のある入札者をリストアップすることが可能となる。そして、提案要請書とすべての契約書の草案を作成する必要がある。

      ⑥最終的な承認を得るため、事前に指定されたフォーマットで作成された提案書をPPP評価委員会に送り、PPP評価委員会の全メンバーの審査を受ける。

      ⑦Niti Aayog(政策委員会)、法律省、およびその他の関係省庁は、意見書をPPP評価委員会に送り、その意見書は行政省に転送される。

      ⑧PPP評価委員会の審査のために、PPP評価委員会の覚書付きの調達書類と契約書の全てを提出する必要がある。

      ⑩PPP評価委員会は、関係当局の最終承認を得るためにプロジェクトを推薦するか、または、PPP評価委員会で更検討するために、行政省にプロジェクトの修正の再提出を提案する。

      ⑪PPP評価委員会の承認後、最終承認のため、監督機関に最終プロジェクトを付託する必要がある。

       

      なお、PPP契約書の作成に際して、以下の条項を必ず記載する必要があるので、注意が必要である。

      ①契約日とコンセッション期限

      ②民間事業者の義務、権利や制限(提供されるサービスと履行義務の説明を含む)

      ③公的主体の義務と権利、プロジェクト収入スキームと支払方法等

      ④履行監視のための要件と手続きや不履行時の処理方法

      ⑤紛争解決規定、不可抗力等の標準条項

       

      10)バングラデシュにおけるPPP法制

      ア 背景、状況

      バングラデシュ政府は、「ビジョン2021」を戦略ペーパーとして作成し、PPPを通じたインフラ整備を最優先課題の一つとしている。政府は、民間投資を持続的に誘致するための環境を整備するため、2004年、バングラデシュプライベート・セクター・インフラ・ガイドライン(PSIG)を発行し、2009年6月には、PPPに関する「PPP-Public Private Partnershipによる投資イニシアティブ活性化」を発表し、そして「官民パートナーシップのための政策と戦略」が2010年に公表されている。それらに加えて、複数のセクターにおけるPPP投資を強化するために明確な規制および手続き上のガイドラインを制定し、首相府が直轄するPPP事務局(PPPO)が設置されている。PPPOにより、各セクターの手続きとガイドラインに関する文書が、定期的に公表されている。そして、2015年9月16日には、バングラデシュ初のPPP法が成立している。

       

      イ 法制度の概要

      PPP法は、全49条から構成される。第9条では、PPPOの権限および責任が詳細に規定されており、政策、規制、ガイドラインの策定の責任を負っている。また投資家の手続き上の負担を低減化するために、関連文書のサンプルを作成し、提供することもその義務となっている。パートナーの選定、プロジェクト入札、契約調印、インセンティブ等の提供や海外での研修、セミナー、学習ツアーを手配する義務も明記されている。また、PPP法13-18条では、PPPプロジェクトの選定と承認に関する規定が存在している。特に第17条では、投資家に対してインセンティブを付与することができると規定されている。ただし、規定自体は非常に簡単な内容となっており、今後の細則等の発表が待たれる。

      また、PPP法第19条では、民間事業者の選定方法、第22条では、当事者間の合意に際して、プロジェクト会社の設立要件や方法等が明記されており、第24条および第25条は、汚職および利益相反に関する規定を定めており、汚職および利益相反の申し立てが生じた場合は、バングラデシュの調達法や汚職防止よりに対応されることが明記されている。また、第26条2項に基づき、法的関係、リスク配分、両当事者の権利および義務は、プロジェクト契約に準拠するとされ、第26条3項は、契約期間、保険、準拠法等のプロジェクト契約に含める必要のある条項が明示されている。

       

      1. 最後に

      新興アジアにおけるインフラ需要は膨大である。ただし、PPPプロジェクトを成功させるためには、PPPプロジェクトが実現可能な環境を整備することが不可欠である。その意味では、PPPプロジェクトを促進するための政策、法的、制度的枠組みの設計や強化等といった政府のアクションが絶対的に必須である。アジア新興国において、上記で述べた通り、2010年に入り、徐々にPPP法制度の制定やPPPガイドラインを策定やPPP専門部署を設置が進んでいることが確認できたのではないだろうか。しかしながら、リスクマネジメントの観点からは、制度等の拡充等のともに、財政的支援や保険制度等の整備が次のステージでは必要となってくるのは間違いない。次回は、アジア新興国におけるPPPプロジェクトの潜在的なリスクマネジメントに対する対応策や偶発債務の管理方法等への対案を検討するため、先進国におけるPPPプロジェクト事例を整理紹介し、アジア新興国でのPPPプロジェクトに活かしていきたい。

以上

本記事やご相談に関するご照会は、以下までお願い致します。
yuto.yabumoto@oneasia.legal(藪本 雄登)

 

2019年01月23日(水)1:02 PM

ASEAN各国の新法状況をご報告いたします。

 

【シンガポール】決算サービス法案
【タイ】労働者保護法・刑事手続法関連の改正及びIBC制度の創設
【マレーシア】外国人社会保険義務・飲食店での喫煙禁止・贈収賄に関する改正法
【ベトナム】サイバーセキュリティー法の施行
【インドネシア】OSSシステムのBKPMへの移管
【フィリピン】外資規制緩和の最新動向
【ミャンマー】競争委員会の設立及び外国銀行の内資企業への融資撤廃
【カンボジア】労働法のアップデート
【ラオス】付加価値税法の改正
【日本】労働基準法の一部改正

2019新年版ニューズレター

 

One Asia Lawyers ニューズレター

2019年:新年特別号

シンガポール

■シンガポール決済サービス法案(Payment Services Bill)の概要

1 決済サ-ビスの規制枠組みの刷新

 現在のシンガポールにおける決済サービスに対する規制は、決済システム法(Payment System Act)と両替・送金業法(Money-changing and Remittance Business Act)によって行われていますが、仮想通貨ビジネスをはじめとするフィンテックの急激な進展により、実情に十分に対応できなくなってきたことから、既存の2つの法律に置き換わる形で、新法を制定する方向で審議が進められています。

 シンガポールにおいて仮想通貨関連サービスを提供する企業のみならず、決済に関するサービスを提供する企業全般に関わる規制枠組みの刷新となるため、その影響は大きくなるものと思われます。

2 新ライセンスの種類

 この新法案では、

(1) 両替サービス(money-changing service)、
(2) 決済口座発行サービス(account issuance service)、
(3) 国内送金(domestic money transfer service)、
(4) 海外送金サービス(cross border money transfer service)、
(5) アクワイアリング(加盟店獲得)サービス(merchant acquisition service)、
(6) 電子マネー発行サービス(e-money issuance)、
(7) デジタル決済トークンサービス(digital payment token service)

の7つの事業に対してライセンスの取得を義務付けています(同法案6条4項)。

 このうち、(1)両替サービスの実施には、両替サービスライセンス(money-changing licence)の取得が要求されます(同2項)。

 そして、上記(2)~(7)のサービスの実施については、標準決済機関ライセンス(standard payment institution licence)又は、大規模決済機関ライセンス(major payment institution licence)の取得が義務付けられます(同4項)。

 このうち、(2)の決済口座発行サービスを電子的に提供する場合及び、(6)の電子マネー発行サービスの提供については、シンガポール居住者に対して発行した電子マネーの金額、又は、その保管額が1日当たり平均500万SGD(約4億円)を超える場合には、大規模決済機関ライセンスが、それ以下の場合には、標準決済機関ライセンスが必要になります(同5項)。

 そして、(2)~(7)のうち上記を除くサービス提供については、月間の平均取引高が300万SGD(約2億4000万円)を超える場合には、大規模決済機関ライセンスが、それ以下の場合には、標準決済機関ライセンスが必要になります(同5項)。

 これらの規制に反して無許可で事業を行った場合には、3年以下の懲役又は12万5000SGD以下の罰金が科される可能性があります。

3 決済機関ライセンスの条件

 上記2種類の決済機関ライセンスの取得に共通して必要な主な条件は、

(1) 法人であること(シンガポール国内法人であることは必須条件ではない)

(2) シンガポール国内に永続的な事業所又は登録オフィスがあること

(3) シンガポール国籍保有者か同永住者の常任の取締役が1人以上いること

(4) その他当局が規定する財務的経営的な条件

です(同9項)。

 さらに、大規模決済機関ライセンスを取得した事業者は、毎年会計監査を受けなければならず(同37条)、株式の持分割合等の支配権の変動の制限(同28条)、役員等の当局による解任(同35条)等の規制を受けます。

4 仮想通貨ビジネス(取引所運営やICO)へのライセンス制の導入

 本法案が施行されるまでの現行法の下、シンガポールでは、仮想通貨の取引所の運営やICOの実施について、証券法の適用範囲に該当しない限りは、特段の規制は存在しません。

 しかし、今回の法案では、仮想通貨の交換業に関しては、決済機関ライセンスの取得を明確に義務付けました(ただし、商品やサービスの売却の決済手段として仮想通貨を受け取る行為や、購入の決済手段として仮想通貨を利用する行為は規制対象に含まれません)。

 具体的にライセンスの取得が求められる仮想通貨関連サービスは、

(1) Digital Payment Tokenの取扱い

(2) Digital Payment Tokenの交換の促進

(3) その他当局が指定するDigital Payment Tokenに関連するサービス

に関するサービスをシンガポール国内で提供するものと定義されています。

 上記「Digital Payment Token」の意義については、仮想通貨全般を指すものではなく、仮想通貨の性質が、商品、サービス又は債務の支払いの媒体として少なくとも公衆の一部に受け入れられているものに限るという限定が加えられました(正式な法案作成の前段階で公表される草稿ではこの限定はありませんでした。)。

 この「Digital Payment Tokenの取扱い」にICOが含まれるのか、つまり、ICOの実施にライセンスの取得が必要なのかについては、主に、ICOにおいて発行されるトークンが、この「Digital Payment Token」に該当するかによって判断されることになります。そして、前述の「商品、サービス又は債務の支払いの媒体として少なくとも公衆の一部に受け入れられている」かという基準は、どの程度の流通範囲をもって「公衆の一部」とするのか等、曖昧な点が残るものとなっています。この点について、シンガポール金融庁(MAS)のガイドライン(A GUIDE TO DIGITAL  TOKEN OFFERINGS)の中に参考事例と解釈基準が記載されていますが(同ガイドラインP10以降、末尾のリンク参照)、ここにおいても、仮想通貨発行体(ICO実施主体)が提供するサービスの対価としてのみ使用可能なトークンを発行するICOについてライセンスの取得が不要であることが示されているにすぎません。

 したがって、多くのICO案件で採用されているトークンが流通するプラットフォームにおいて一種のトークンエコノミーを構築するようなプロジェクト(つまりICO実施主体以外の企業もトークンを受領してサービスを提供するビジネスモデル)においては、ライセンスの取得の要否が必ずしも明確ではありません。

 仮に、発行するトークンが「Digital Payment Token」に該当する場合であっても、ICO実施主体が自ら交換サービスを提供する限りにおいて、ライセンスの取得が必要というのがMASの見解のようですので、外部の取引所を介してICOを実施するいわゆるIEOであれば、ICO発行主体自体にはライセンスは不要という解釈ができる可能性は残っています。

 他方で、データのやり取りや情報技術、通信手段、決済機器の提供やメンテナンスといった技術サービスの提供については、送金のために法定通貨を保持することがない限り、ライセンスの取得は不要とされています。

 また、仮想通貨を顧客への無償のリワードやロイヤリティー、又は、ゲーム内通貨として利用・発行する場合には、ライセンスの取得は不要とされています。ただし、それが、トークン発行体に対して返還可能である場合は法定通貨との交換のために第三者に売却や譲渡が可能である場合んは、ライセンスの取得が求められます。

5.ライセンスの取得までの猶予期間

 仮想通貨関連サービスについては、法案が成立してから6か月間、その他の決済サービスについてへは法案成立から1年間は、ライセンスの取得が猶予されます。

以上

タイ

タイにおける最新の法改正等について

 タイでは、労働者保護法の改正が予定されており、また、最低賃金の引き上げがありました。

 また、刑事手続法関連の改正予定もされており、さらに、International Business Center(IBC)制度の創設もありました。以下の通り、概要を紹介します。

2 労働者保護法の改正、特定の職業における最低賃金の引き上げ

 2018年12月13日、タイのNational Legislative Assemblyは以下の改正点を含む労働者保護法改正案を承認しました。改正法は、本年中に施行されるものと思われます。

 まず、新たな法定休暇として、1年に3日間の私用休暇が認められることとなります。私用休暇は有給とされ、従前の各種休暇のように目的や理由が限定されていないので、従業イオンにとって利用しやすいものとなります。

 また、女性の妊娠・出産休暇の期間が98日に延長されます(期間中の休日を含む)。このうち45日が有給となる点は従前と同様です。

 さらに、解雇補償金の上限が上がり、勤続20年以上の従業員に対しては、最終賃金の400日分以上の解雇補償金を支払うことが義務付けられます。

 最低賃金については、2018年4月に都県ごとの最低賃金が定められ、すべての都県において引上げあられましたが、2019年1月より、さらに機械、工芸、流通、家具製作等19種の職業について最低賃金の引き上げがなされています。

3 刑事手続法関連の改正

 刑事関連手続法の改正草案によれば、一般市民によって刑事訴訟が申立てされた場合、裁判所は特に内容をより精査することとし、申立者が、正当な理由なく裁判所の命令等に従わない場合など不誠実と判断された場合は、申立人は同一の申立をできなくなります。

 また、これまで保釈は5年を超える懲役刑については認められていませんでしたが、改正により最長で10年の懲役刑の場合について、保釈が認められ得ることになりました。

4 International Business Center(IBC)制度の創設

 The Board Of Investment of Thailand(BOI)及びRevenue Department(歳入局)は、従前運用していたITCやIHQの投資奨励及び税務インセンティブ制度を廃止し、新たにInternational Business Center(IBC)制度を創設しました。既にITCやIHQの認可を受けている企業に関しては従前の恩典はその受益期間中は引き続き与えられます。

 IBCの主な申請条件と恩典内容は次の通りです。

【申請条件】

・奨励事業(組織管理、事業計画、原材料の調達、研究開発、技術サポート等)を対象とすること

・登録資本金が1,000万バーツ以上であること

・奨励事業に関する知識・スキルを持った従業員を10人以上雇用すること

・歳入局への申請に関し、年間経費が6,000万バーツ以上であること

 当該年間経費には、IBC事業に関連するすべての経費を含みます。具体的には、従業員の給料光熱費及び賃料等を参入することが可能となっています。

【BOIの恩典内容】

・研究開発設備に関する一定の輸入関税の免除

・外貨での外国送金の許可

・土地保有が可能

・外国人の就労許可の緩和

【歳入局の恩典内容】

・法人税の軽減税率

 IBC関連事業によるタイ国内での経費の支出額により、3%から8%までの軽減税率が適用されます。従前は国外関連会社か国内関連会社か等によるインセンティブの違いがありましたが、IBCでは統一されることとなります。

・子会社からの配当収入にかかる法人税の免除

・子会社の財務管理業務に係る特定事業税の免除やIBCから在外株主・債権者への配当・利息支払いにかかる源泉税の免除

 上記のように、歳入局の恩典を受けるために必要であった最低経費が従前の制度では、1,500万バーツであったものがIBCでは6000万バーツ以上へと引き上げられている点などから、従前の制度よりも恩典が少なくなったといえます。

 このIBC制度は開始されたばかりですので、引き続き今後の当局の運用動向に注視が必要です。

以上

マレーシア

■外国人社会保険加入義務・飲食店での喫煙禁止・贈収賄に関する法改正

1 はじめに

 2019年のはじめから外国人社会保険加入義務及び飲食店での喫煙禁止に関する法改正がございましたので、本ニュースレターで記載させていただきます。また、前号のニュースレターで送付させていただいた贈収賄に関する法改正についても重要と考えられ、かつ施行が未定の部分がございますので、併せて記載させていただきます。

2 外国人社会保険加入義務に関する法改正

 (a) 社会保障制度の概要

    マレーシアの社会保障制度としては、社会保障機構(Social Security Organization: SOCSO)がEmployee’s Social Security Act 1969に基づき、Employment Injury Scheme(労災保険制度)及びInvalidity Scheme(障害年金制度)を提供しています。

 (b) 外国人の社会保障制度に関する加入義務

    これまでこの社会保障制度の加入義務はマレーシア人に限定されていましたが、2019年1月1日より、外国人にも加入義務が課せられるようになりました。これによって、外国人を雇用する者は、従業員をSOCSOに登録し、Employment Injury Schemeについて掛金を拠出することが義務付けられました。

 (c) 給付金の内容

    Employment Injury Schmeの給付には、医療給付金、一時的障害給付金、永久的障害給付金、工恒常的看護給付金、扶養家族給付金、葬儀給付金、教育給付金、リハビリが含まれます。なお、Invalidity Schemeについては外国人は対象外となっています。

3 飲食店での喫煙禁止に関する法改正

 (a) 規則の施行

    2019年1月1日にControl of Tobacco Product (Amendment) Regulations 2018が施行されました、この規制によって、飲食施設(eating place)における喫煙が全面的に禁止されることになります。

 (b) 禁煙対象の飲食施設

    禁煙対象の飲食施設は、屋外または屋内を問わず、食品が調理、提供および販売される場所であり、以下が含まれます(Regulation2, eating placeの定義)。

   ・食品が調理、提供または販売される部屋(船舶または電車内の部屋を含む)

   ・食品が調理、提供または販売される乗物およびその半径3メートル以内のエリア

   ・食品が調理、提供または販売する目的で設置されたテーブルまたは椅子の半径3メートル以内のエリア

 上記の禁煙対象にはフードコートや屋台なども含まれ、違反者は最高1万リンギットまたは2年以下の禁固刑が科せられます(Regulation11(3))。

 (c) 罰則

    この規制では、飲食施設側に対しても喫煙防止に努める義務が規定されており、(1)規定に従った禁煙サインを掲示した上で、(2)施設範囲内での喫煙が行われないよう徹底しなければなりません。(1)に違反した場合は最高3000リンギットまたは6か月以内の禁固刑、(2)に違反した場合は最高5000リンギットまたは1年以内の禁固刑がそれぞれ科せられます(Regulation12)。

 (d) 猶予期間

    2019年1月1日の施行後の最初の6か月間は猶予期間とし、違反者に対する措置は警告にとどまるとされていますが、警告に応じない場合は猶予期間中でも罰則が課せられる場合があると発表されています。

4 MACC法改正

 マレーシアでは、汚職対策として汚職防止委員会(Malaysia Anti-Corruption Commission:以下「MACC」)を設置し、汚職防止やそれに関わる規則を定めたマレーシア汚職防止委員会法(Malaysian Anti-Corruption Commission Act 2009:以下「MACC法」)が施行されています。

 これまでのMACC法では、個人を違反・罰則の対象としていましたが、責任の範囲を会社に拡大するための同法改正法(Malaysian Anti-Corruption Commission (Amendment) Act 2018:以下「MACC 改正法」)が、2018年5月4日に公布されました。今回の改正では、会社が組織内における汚職防止の対策を講じることを奨励するため、会社の責任に関する規定(MACC改正法4条により追加されたMACC法17A条:以下「新17A条」)が追加されています。これは実際に汚職を行った従業員などの会社関係者だけではなく、適切な汚職防止措置をとったことについての反証がない限り、会社にも責任が負わされる両罰規定となっており、マレーシアにおける贈賄に関する重要な改正と考えられますので、新17A条の主な内容を以下で説明させていただきます。

 なお、MACC改正法は新17A条追加以外の条項につき、2018年10月1日に施行されています。新17A条は2020年までに施行されるとの新聞報道がありますが、施行時期について、今後の動向に注意が必要となります。

詳しくは前号のニュースレターをご覧ください。

以上

ベトナム

ベトナムにおけるサイバーセキュリティ法の施行について

1 はじめに

 2019年1月1日から、ベトナムでサイバー空間の安全保障について規定した「サイバーセキュリティ法」が発効しています。

 2018年5月国会での法案審議時には、同じタイミングで審議された「経済特区報」に対する反対とともに、言論の自由が奪われるといった声を中心に、ベトナム国内でデモ等の大規模な抗議活動が行われました。

 この法律では、ウェブサイト等に掲載してはならない情報を具体的に定めるとともに、公安当局によるユーザー情報の収集に関する規定を設け、インターネットサービス事業者に個人情報等のデータのベトナム国内での保管義務を定めています。EUの一般データ保護規則(GDPR)や中国のサイバーセキュリティ法など、世界各国で個人情報保護やサイバー空間のセキュリティに関する法規制が強まるなか、ベトナム向けにネット関連サービスを提供する企業にとって非常に重要度の高い法律と言えます。

2 サイバーセキュリティ法のスコープ

 本法は、「サイバー空間における国家の安全保護と、社会的秩序、安全の保障について規定」(第1条)したものであり、「サイバーセキュリティ」を「サイバー空間における活動を、国家の安全、社会的秩序、安全、機関、組織、個人の合法的な権利、利益を既存しないよう保障すること」(第2条1項)、「サイバーセキュリティの保護」を「サイバーセキュリティを侵害する行為を防止、発見、阻止、処理すること」(第2条2項)と定義しています。

 また、「サイバー空間」については、「ITインフラ施設の接続されたネットワークであり、通信網、インターネット網、コンピュータ網、情報システム、情報処理・統制システム、データベースを含み、空間や時間に制限されずに人間が社会的行為を実行する場」と定義しています。

3 禁止事項

 本法では、サイバー攻撃やサイバーテロの実行、通信網やインターネット網の活動を妨害するソフトウェア・ツール等の制作・使用、サイバーセキュリティ保護当局の活動妨害(第8条2、3、4項)のほか、サイバー空間を用いて次のような行為を実施することを禁止しています。

a) 本法第18条1項で定める行為

b) ベトナム社会主義共和国に反対する人間を組織、活動、結託、扇動、買収、騙す、引き込む、育成、訓練する行為

c) 歴史を歪曲する、革命の成果を否定する、全民族の大団結を破壊する、宗教を侵害する、性差別する、人種差別する行為

d) 事実と異なる情報により国民を動揺させる、経済・社会活動に損害を引き起こす、国家機関あるいは公務執行者の活動に困難を引き起こす、機関、組織、個人の合法的な権利・利益を侵害する行為

e) 売春、社会悪、人身売買、わいせつ、退廃、犯罪情報の掲載、民族、社会的モラル、共同体の健康の醇風美俗を破壊する行為

f) 他人を犯罪に扇動する、引き込む、けしかける行為

(第8条1項)

4 ベトナム国内でのデータ保管・支店/駐在員事務所の設置義務

 本法では、「ベトナムにおける通信網、インターネット網上でサービス、サイバー空間上で付加サービスを提供する国内・外国企業に対する、ユーザーがデジタルアカウント登録する際の情報の認証や、ユーザー情報・アカウントの保護、サイバーセキュリティに関する違法行為の調査のために、公安省に属するサイバーセキュリティ保護当局から書面で要請があった際のユーザー情報の提供」(第26条2項a)、「本法第16条1~5項で定める内容を含む情報の当局から要請があった時点から24時間以内のシェア遮断、情報削除、および政府が定める期間のログの保管(第26条2項b)、「個人情報、サービスユーザーの関係に関するデータ、ベトナムでサービスユーザーによって作成されたデータを収集、利用、分析、処理する活動を行う、ベトナムにおける通信網、インターネット網上でサービス、サイバー空間上で付加サービスを提供する国内外の企業は、政府が定める期間ベトナムにこれらのデータを保管し、外国企業についてはベトナムに支店あるいは駐在員事務所を設置しなければならない(第26条3項)といった責任を課しています。

5 細則と今後の実務運用の見通し

 本法は2019年1月1日に発効し、すでにフェイスブックの違反が指摘されたことなどが報じられていますが、本原稿の執筆時点(2019年1月9日)では、本法の細則を定めた政令やガイドライン通達等が公告されたことは確認できておりません。ベトナムでは下位規則の整備に時間がかかることが多いため、今後公告される細則政令やガイドライン通達を待ちつつ、動向を注視していく必要があります。

以上

インドネシア

■インドネシアにおけるOSSシステムのBKPMへの移管について

1 OSSシステムのBKPMへの移管

 インドネシア政府は、2018年12月21日、同年6月21日から導入されているインドネシアにおける各種ライセンスに関するオンラインシングルサブミッション(OSS)システム(その概要については、後記2のとおり)の管轄を、同システム導入後所管していたインドネシア経済担当調整大臣府(Coordinating Ministry for Economic Affairs(CMEA))から、インドネシア投資調整庁(Investment Coordinating Board(BKPM))に移管する旨のCMEAアナウンスメントを発表しました。

2 OSSシステムの意義及び目的

 上記アナウンスメントに先立つ2018年6月、インドネシア政府は、電子的統合事業ライセンスサービスに関する2018年政府規制24号(GR24/2018)を交付し、同規制は同年6月21日から施行されています。同規制の最大のポイントは、それまで投資調整庁BKPM及びその他の官庁がばらばらに管轄していた各種のライセンシングに関する業務をCMEAが管理するオンラインシングルサブミッション(OSS)システムに一元化した点です。

 OSSシステムの目的は、インドネシアにおける事業の開始等にあたって必要となる各種ライセンス取得のプロセスを簡素化し、ペーパレス化するという点にあたります。具体的には、同規制施行以前は要求されていた投資登録が不要となり、さらに事業開始のための事業ライセンスの取得についてもOSSシステムでの申請が可能となりました。

 OSSシステムを通じた事業ライセンス取得の大まかな流れですが、申請者は、まずOSSシステム上でOSSアカウントを作成し(OSSシステムへのログインについて特段書類等は要求されていません)、必要な情報を入力し、事業登録番号(Nomor Induk Berusaha)(NIB)を取得します。NIB取得後、事業ライセンスの申請を行います(投資登録を行う必要はありません)。事業ライセンスは、所在地許可(又は水的所在地許可)、環境許可、建物建設許可等を含む各種の要件を充たすことにより効力を生じるものとされています。同要件を充たすことにより、OSSシステムにより事業ライセンスが発行され、必要となる商業・操業ライセンスの取得が必要となる一定の事業を除き、事業の開始が可能となります。

3 BKPMへの再移管

 もともと事業ライセンスに関する業務は、基本的にBKPMが所管していたのですが、GR24/2018施行後は、上記のとおり、同施行前にBKPMが管轄していた事業ライセンスに関する業務は、いっらんCMEAが運用することになりました。

 ただ、このCMEAによる運用は暫定的なものであり、同施行後約半年経過した2018年12月21日、CMEAは、OSSシステムサービスについてBKPMへ順次移管する旨のアナウンスメントを発表するに至りました(No. S-386/M/EKON/12/2018)。

 同発表によると、GR24/2018施行後、CMEAが管理していた事業ライセンス査定に関するサービス及びOSSシステムの運用が、2019年1月2日からBKPMに移管されることになります。

 また、BKPM事務所に、支援サービス、優先ライセンシングサービス、投資相談等のサービスを提供するOSSラウンジが設置されます。また、OSSコールセンター(1500765)、OSS Emailヘルプデスクが準備されます。

 次回の移管作業は、OSSシステムのネットワーク、ハードウェア、ソフトウェアライセンス等に関するインフラの移管であり、2019年3月1日に予定されています。

4 インドネシアにおける各種ライセンス申請の今後

 OSSシステムは、今後インドネシア国外からの会社設立を含む投資にあたって最も基本的で重要なファーストステップとなるものである一方、もともと事業ライセンスの申請業務を基本的に担っていたBKPMではなく、そのシステムの当初の運用をCMEAが行うこととされていたため、制度の新設に伴う混乱が実務上も見られるところでした。

 今般、事業ライセンスに関する業務、OSSシステムの運用が、BKPMの所管になり、さらに、各種のサービス、ヘルプデスクの窓口が明確化されたことにより、OSSシステムを通じたライセンスの申請に関する手続きのより一層のスムーズ化が期待されるところです。

以上

フィリピン

フィリピンにおける外資規制緩和の最新動向

1 ネガティブリストの最新第11次修正

 フィリピンでは、外資規制といえば、外国投資法(Foreign Investment Act of 1991)とは別に「ネガティブリスト」と呼ばれる大統領令において規定されています。ネガティブリストは外資規制対象分野と外資比率を列挙しております。その内容は2年毎に修正され、前回の修正である第10次修正が行われたのは2015年5月であり、既に2年以上が経過していました。そして、今般、2018年11月16日に、第11次外国投資ネガティブリストが発効されました。

2 第11次修正ネガティブリストの内容

下表が第11次修正の最新ネガティブリストです。第10次修正から変更されている分野を赤字記載しております。

<第11次修正ネガティブリスト(変更箇所赤字記載)>

リストA

外資上限 事業分野
全面的に禁止

1.レコーディング及びインターネット事業(メッセージ/情報の創造ではなく、単にメッセージを伝送するインターネットアクセス提供者をいう)を除くマスメディア

2.専門職

 薬剤師、放射線・レントゲン技師、犯罪捜査、林業、弁護士及び船舶甲板官並びに船舶エンジン官を含む。ただし、別紙(※末尾に掲載)(相互関係がある場合にフィリピンにおいて外国人に認められている専門職及び企業の参入が認められている専門職が定められている。)に従うものとする。また、外国人は、専門科目でない場合には、高等教育レベルにおいて教師となることができる(例えば、政府組織または司法試験を含む。)

3.払込資本250万米ドル未満の小売

4.協同組合

5.民間警備等

6.小規模鉱業

7.群島内・領海内・排他的経済海域内の海洋資源の利用、河川・湖・湾・潟での天然資源の小規模利用

8.闘鶏場の所有、運営、経営

9.核兵器の製造、修理、貯蔵、流通

10.生物・科学・放射線兵器の製造、修理、貯蔵、流通

11.爆竹その他の花火製品の製造

20% 民間ラジオ通信ネットワーク(20%→40%)
25%

1.雇用斡旋(国内・国外のいずれかで雇用されるかを問わない)

2.国内で資金供与される公共事業の建築・修理(25%→40%)

2.防衛関連施設の建設契約

30% 広告業
40%

1.国内で資金供与される公共事業の建築・修理。(25%→40%)

ただし、以下の除く。

・BOT法に基づくインフラ開発プロジェクト

・外国の資金供与・援助を受け、国際競争入札を条件とするプロジェクト

2.天然資源の調査・開発・利用

3.私有地の所有

4.公営事業の管理・運営。ただし、競合可能市場に対する発電及び電力の供給並びに公益事業に含まれないその他の類似事業を除く。

5.教育機関の保有・設立・運営

6.米・とうもろこし産業

7.国有・公営・市営企業への材料、商品供給

8.深海漁船の運営

9.コンドミニアムユニットの所有

10. 民間ラジオ通信ネットワーク(20%→40%)

リストB

外資上限 事業分野
40% 1. フィリピン国際警察(PNP)の許可を要する製品・原料の製造・修理・保管・流通(例:銃器、火薬、ダイナマイト)
2. 国家防衛省(DND)の許可を要する製品の製造・修理・保管・流通(例:軍用兵器、宇宙ロケット・部品、軍艦、軍用通信機器)
3. 危険薬物の製造・流通
4. サウナ、スチーム風呂、マッサージクリニック等、公共の保健及び道徳に対するリスクの観点から法に規制されているもの。ただし、ウェルネス施設を除く。
5. フィリピン娯楽賭博公社と投資契約が結ばれているもの以外のすべての賭博事業
6. 払込資本 20 万米ドル未満の国内市場向け事業
7. 先端技術を有する、又は 50 名以上を直接雇用し、資本金額 10 万米ドル未満の国内市場向け事業

3 旧ネガティブリストからの変更点

 変更点を再度整理しますと、下表の通りです。

外資保有比率の上限が引き上げられた分野 ・民間ラジオ通信ネットワーク(20%→40%)
・国内で資金供与される広狭事業に係る建設、修理(25%→40%)
100%外資保有可とされた分野 ・インターネット事業(アクセスプロバイダ)
・高等教育機関における教師(専門職科目以外)
・専門職のうち、薬剤師、林業
・競合可能市場に対する発電及び電力供給等

 結局、旧ネガティブリストから大きく変わっていないという印象です。今回、マスメディア業から例外として除かれたインターネット事業については、あくまでも通信インフラを提供する事業についてであって、E コマースや動画配信などのオンラインサービス業が解放されたわけではありません。また、大きな期待がかけられていた小売業の規制緩和についても、緩和に関しては憲法改正の手続きが関わってくるといった問題もあり、現状が維持される形となりました。

4 今後の展望

 今回のネガティブリストの修正は、経済政策に注力するドゥテルテ現大統領が政権を握って初めての修正であったため、大きな規制緩和が期待されましたが、先述の通り、当初の期待からは大きく外れた形に終わりました。次回の修正に持ち越されたとの見方もできるかもしれませんが、次回の修正は2年後であるため、特定の分野の企業にとってはまだまだ進出が難しい状況が続きそうです。

別紙(専門職)

A. その母国においてフィリピン人に対して就業が認められていない場合を除き、外国人に就業が認められる分野

1. 会計士、2. 航空工学、3. 農業生物工学、4. 農業、5. 建築、6. 化学工業、7. 化学、8. 土木工学、9. 通関業者、10. 歯科、11. 電気工学、12. 電子工学、13. 電気技師、14. 環境計画、15. 漁業、16. 林業、17. 測地工学、18. 地質学、19. 指導及びカウンセリング、20. インテリア・デザイン、21. 景観設計、22. 図書館司書、23. 配管熟練工、24. 機械工学、25. 医療技術、26. 医薬、27.金属工学、28. 助産師、29. 鉱山学、30. 造船工学、31. 看護、32. 栄養士、33. 検眼、34. 薬局、35.理学・作業療法士、36. 心理学、37. 不動産業(不動産コンサルタント、不動産鑑定士、不動産査定人、不動産仲介人及び不動産販売員)、38. 呼吸療法、39. 衛生工学、40. 社会事業、41. 小中学校における教職、42. 獣医学、43. 法律又はフィリピンが当事者である条約において規定される他の専門職

B. 関連する専門職法規の条件に従うことを条件として、法人形態での参入が認められる分野

1. 航空工学、2. 農業生物工学、3. 建築、4. 化学、5. 電子工学、6. 環境計画、7. 林業、8. 指導及びカウンセリング、9. インテリア・デザイン、10. 景観設計、11. 造船工学、12. 心理学、13. 不動産業(不動産コンサルタント、不動産鑑定士、不動産査定人、不動産仲介人及び不動産販売員)、14. 衛生工学、15. 社会事業

 

ミャンマー

競争委員会の設立及び外国銀行の内資企業への融資規制撤廃
(1)従来の競争法
 ミャンマーでは 2015 年に競争法が制定され、2017 年 2 月 24 日に施行しました。また、競争法の細則(主に競争委員会の組織・運営について)を定める競争法規則が2017年10月に制定・公表されています。しかしながら、執行機関である競争委員会の設置(競争法第5条)が遅れ、本格的な運用には至っていない状況が続いていました。
(2)改正内容 競争委員会の設立
 今回、ミャンマー連邦政府は 2018 年 10 月 Notification No.106/2018 において、競争委員会の設立を正式に公表しました。競争委員会は、商業大臣を委員長とし、政府機関及び非政府機関から専門家や代表者を集めて構成されることになりました。
 競争委員会の設立により本格的な運用が予想される競争法ですが、未だ競争法の適用対象は明確になっていません。すなわち、競争法上の「独占」に該当し規制の対象となる市場シェアや売上高等の具体的な基準は競争法や競争法規則によって明確にされておらず、これらは今後競争委員会が検討し具体的な基準を設けていくこととなります(競争法第 8 条(g))。
 また、競争委員会は同法違反の捜査を行う機関として調査委員会を設置することを競争法上定めています(同法第 11 条(a))。競争委員会設置時点では、調査委員会は未設置の状態にありますが、例えば、競争法に違反した場合は最大で3年以下の懲役又は 1,500 万 MMK 以下の罰金が課せられますので(下記「競争抑制行為」の場合)(同法第 39 条)、調整委員会の設置に伴う競争法の本格的な執行を見据え、今後の動向に注意が必要です。
2 外国銀行による内資企業への融資規制撤廃
(1)従来の提供可能業務
 従来、外国銀行の支店は外資企業及び合弁企業に対しては全ての銀行業務を提供することが認められていました。他方で内資企業に対しては輸出金融及びその関連業務の提供のみが認められていました。
(2)改正内容 内資企業への融資業務
 ミャンマー中央銀行(Central Bank of Myanmar)は、2018 年 11 月 8 日付け DirectiveNo.6/2018 により,外国銀行の支店が内資企業(100%国内資本)向けに融資を行うことを認めました。
 今回の Directive により、外国銀行の支店が制限される業務はミャンマー国民に向けた小売銀行業務(リテール業務)のみとなり、内資企業は外国銀行による融資を受けることが可能となります。外資規制緩和による、金融市場の今後の市場動向に注目です。

以上

 

カンボジア

カンボジア労働法アップデート
1 概要
 昨年 2018 年、労働法分野の法令変更として、①年功補償の導入、②賃金等の各月 2 回支給の義務付け、③最低賃金法の制定があった。これらは、昨年 7 月 29 日にあった 5 年に一度の下院選挙を強く意識したものと考えられ、いずれも基本的に労働者の利益を図るものである。
2 年功補償の導入
年功補償は,昨年 6 月 28 日付けの労働法改正により,解雇補償に代わって導入された(8 月 15 日付けニューズレター参照)。更に、9 月 21 日付けの労度職業訓練省(MLVT)省令(Prakas)443 号により、その詳細が定められた。年功補償の概要は以下である。
 ① 使用者に対し、労働者の雇用継続 1 年につき、15 日分の賃金等相当額の支給を義務付ける。算定基準額には、賃金以外の諸手当を含む。
 ② 年功補償の支給対象は,無期雇用契約のみ(有期雇用契約は、本改正前と同じく、期間満了時に退職金の支給義務がある)。
 ③ 2019 年以降,各年 2 回,6 月と 12 月に支給(各 7.5 日分)する。
 ④ 2018 年以前の雇用に対して支給義務あり(「遡及支給」。156 日相当額を上限)。遡及支給の算定基準額は、対象となる過去の雇用期間の基礎賃金額(諸手当を含まない)。
支給は③と同じく各年 6 月と 12 月(縫製産業は各 15 日分、縫製産業以外は 7.5 日分)。
 ⑤ 自主退職の場合、以降の遡及支給の必要はない。解雇の場合は明文規定がないが、解雇時の残額を支給する義務があると考えられる。
 使用者にとって大きなコストアップとなるものであり、特に③遡及支給は法治国家の常識に反する法令であるため各国関係団体が強く抗議をしている。これを受け、MLVT は関係団体と協議を行っており、昨年 12 月 28 日付で、遡及支給のスケジュールについて協議を行っている旨の公式発表をした。既に制定・発行している法令であるが、導入の延期の可能性も残されており、経過を観察する必要がある。
3 賃金等の各月 2 回支給の義務付け
 従前、賃金等の支給については、作業員(主として肉体労働に従事する者)とその他の従業員で規制に相違があり、作業員の賃金は、少なくとも月に二度(最大で 16 日の間隔)、その他の従業員は少なくとも月に一度 (労働法 116 条 1 項、2 項)の支給を要するというものであった。
 上記の省令 443 号と同日の昨年 6 月 28 日に公布された MLVT Prakas442 号は、労働法116 条を前提に、規制を上乗せするものと考えられるが、概要は、下記の通りである。
 ① 2019 年以降、全従業員に対して、各月 2 回の賃金等の支給を義務付ける。
 ② 支給日は、各月 2 週目と 4 週目とする。
 ③ 第 1 回の支払いは,月額賃金の基礎賃金額の半額。
   第 2 回の支払いは,月額賃金の基礎賃金額の残額と,諸手当等の合計額。
 当月の賃金等を当月に支払うことまで要求するものであるのか(文言上は記載がない)、同意により例外が認められる場合があるのかなどが必ずしも明らかでなく、当局による今 後の運用等を注視する必要がある。
4 最低賃金法の制定
 最低賃金の規定は、本法制定前も、労働法に規定が存在した(104 条~112 条)。昨年7 月 9 日に、従来の労働法規定に代わるものとして、最低賃金法が公布され、即日発効した。本法は、最低賃金に関する調査・審議機関の設置、最低賃金の決定方法・決定基準などについて、旧法規定よりも詳細を定めるものである(全 30 条)。
 なお、旧法規定および最低賃金法のいずれも、具体的な金額は、MLVT の Prakas により定めるものとされている。従来、この Prakas は縫製産業のみを対象とする形で発令されてきた。本法は各年 1 回の Prakas 発布を定めており、同法制定後、2019 年を対象とした Prakas が発布されたが、やはり縫製産業のみを対象としたものである(最低賃金額は182US ドル)。本法令の制定を契機として、縫製産業以外の産業を対象とした Prakas が発令されることも想定されるが、その実施は 2020 年以降になると考えられる。

以上

 

ラオス

ラオスにおける付加価値税法の改正について
1 はじめに
 ラオスにおける税金に関する主な法令は「税法」と「付加価値税法(以下、「VAT 法」)」があります。付加価値税は、2009 年 1 月より導入され、その後、数度改正されましたが、今回の改正は、2015 年 7 月に施行された VAT 法(以下、旧法)にとって代わるもので、2018 年 12 月 4 日
に官報に掲示され、15 日後の 12 月 18 日より施行されています。
 今回の主な改正点について、以下に概要を記載します。
2 VAT への登録義務
 旧法では、年間 4 億キープ以上の売り上げ、ラオス会計システムの遵守、タックスインボイスの使用等が登録条件となっていました(旧法第 31 条)。今回の改正では、企業登録、投資許可、納税者番号を取得した個人、法人、設立団体は、VAT への登録することが義務化されました(但し、零細企業は除きます)。
 年間 4 億キープ等の条件はなくなり、VAT 登録対象者の枠が拡大されたことから、ラオス政府の税収アップを目的としております。
3 VAT 課税対象活動
 VAT の課税取引は、以下のとおり、旧法第 11 条に定めれていました。
 ①ラオス国内に輸入される商品
 ②VAT 登録事業者(個人、法人、団体)によって、ラオス国内で提供される商品やサービス
 ③ラオス非居住者及びラオスで登記していない法人や団体により提供されるサービス
 今回の改正では、上記に加えて、以下が、新しく規定されました。
 ④経済特区(以下、SEZ)内で登記した法人が SEZ 外で提供するサービス
 ⑤電子的取引を通して提供される商品やサービス
 ラオスにおいても、電子商取引が拡大しており、オンラインで商品を購入する人が増えてきています。そのような背景を踏まえて、改正がなされております。
4 商品及びサービスの提供地

 今回新しく規定された条項となっており。改正後び旧法第 11 条に規定されているとおり、商品及びサービスの提供地がラオス国内であるとみなされたときに、課税取引の対象となります。例えば、以下のような要件の場合も提供地はラオス国内とみなされますので、注意が必要です。
・海外で購入した商品をラオスへ輸入した場合
例えば、ラオスで登記した法人やラオス居住者が、商品をタイで購入し、ラオスへ輸入する場合(輸入する物は、業者、自身問わない)、付加価値税対象商品に関しては、空港や国境の税関において、VAT を支払うことになります(改正 VAT 法第 13 条 1.4)。
・ラオスに関する情報提供を行った場合
例えば、日本で登記した企業が、ラオスのコンサル会社に対してラオスの会計に関して相談をメールで行った場合、サービスの受領者が、ラオス居住者であろうと、なかろうと、ラオスで登記の有無は問わず、役務の提供地はラオスとみなされ、課税取引となります(改正VAT 法第 13 条 2.3)。

以上

 

東京

労働基準法の一部改正について
1 時間外労働の上限規制の導入
 「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(平成30年法律第71号)の成立により,2019年4月1日から改正労働基準法が施行されることになりました。
 今回の法改正においては,長時間労働の是正が大きな柱として掲げられており,その中の目玉として時間外労働に関する上限規制が設けられました。
 これまでの労働基準法においては,法律上時間外労働の上限が定められていなかったことから,特別条項付き36協定を締結することにより,年6回(6か月)であれば法律上の上限なく時間外労働を行うことができるものとされていました。
 しかし,今回の法改正により時間外労働の上限が法律上定められたことにより,使用者はこれを超える時間外労働をさせることができなくなり,この上限を超えて労働させた場合には新たに罰則の対象となることが規定されました。
2 上限規制の具体的な内容
 今回の法改正による時間外労働の上限規制の具体的な内容は以下の通りです。
 ・36協定を締結した場合における労働時間の上限は,月45時間,年360時間(1年単位の変形労働時間制の場合は月42時間,年320時間)を原則とする。
 ・臨時的な特別の事情がある場合であっても下記①~④を限度とする。
                    記
 ① 年720時間
 ② 単月100時間未満(休日労働含む)
 ③ 複数月(2か月~6か月)平均80時間(休日労働含む)

 ④ 月45時間(一年単位の変形労働時間制の場合月42時間)を超える時間外労働の回数は,年6回まで

3 実務への影響
 本改正により,上限規制に即した内容となるよう就業規則の見直しや新たな36協定を締結する必要があることは言うまでもありません。もっとも,本改正は,現行の「時間外労働の限度に関する基準」(平成 10 年労働省告示第 154 号)を法律に格上げし,罰則による強制力を持たせることにより時間外労働規制の実効性を確保するための措置であるといえることから 3,従来の「時間外労働の限度に関する基準」を履践している企業に対する影響はそれほど大きいものではないように思われます。
 もっとも,本改正においては,長時間労働の是正対策として,上限規制に加え,労働者の労働時間の把握義務に関する規定が労働安全衛生法に規定されました。
 したがって,企業においては,本改正による就業規則の見直しや新たな36協定の締結等上限規制に対する形式的な措置にとどまることなく,労働者の労働時間管理に対する現在の措置を見直すとともに,労働時間管理の重要性について再度強く意識する必要があるものと思われます。

以上

2018年01月11日(木)4:44 PM

ASEAN各国の新法の状況をご報告いたします。

 

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2021年04月19日(月)12:20 PM
タイトル:最新 東南アジア・インドの労働法務
著者:One Asia Lawyers Group/弁護士法人One Asia  各国専門家

言語:日本語
発行元:中央経済社
発行日:2021年4月22日