ラオスにおける投資奨励法の改正について
ラオスにおける投資奨励法の改正についてのニュースレターを発行しました。
PDF版は以下からご確認下さい。
→改正投資奨励法
ラオスにおける投資奨励法の改正について
2024年12月20日
One Asia Lawyers Groupラオス事務所
1.背景
2024年6月28日付で発行された「改正投資奨励法(No62)(以下、「新投資法」)」が、2024年12月16日に公布されました(2024年10月1日より施行)。2017年4月に改正されて以来、2020年に第12条(関税及び付加価値税法の優遇措置)のみについて改正がなされており(詳細は弊所ニューズレターをご覧ください)、今回は、2017年の投資奨励法及び2020年の一部改正(以下、「旧投資法」)を含めた改正となっています。
投資奨励法に関連する法令においては、2018年に「経済特区に関する首相令」及び 「駐在員事務所の設立と管理に関する合意」、2019年に 「ネガティブ事業及びコンセッション事業リストの承認に関する首相令」が改正され、2021年には、「法人税、政府の土地リース料又は土地コンセッション投資奨励優遇措置に関するガイドライン(以下、2021年優遇措置ガイドライン)」及び「官民連携Public-Private Partnership(PPP)等に関する首相令」が施行されています。また、2023年に会社法も改正されています(詳細は弊所ニューズレターをご覧ください)。
以上のような新しく施行された法令との整合性をとることが今回の改正のポイントでもありますが、不明確な言葉が再定義され、経済特区への投資促進と投資家に対する恩典、登録資本金輸入期限の設定など新規の規定が定められています。そこで、今回、主な改正点を速報として解説いたします。
なお、経過規定によれば、現在進行中の政府との契約は、そのまま満期となるまで有効となります。新投資法上の優遇措置を受けることを希望する開発者や投資家は、関連する当局が通知を発行してから180日以内に申請を行う必要があります(新投資法第101条)。
2. 改正内容について
(1) 投資家の定義について
旧投資法では、外国投資家及び国内投資家の定義は以下の通りでした。
<旧投資法>
外国投資家:ラオスへ投資するために入国した外国籍の個人及び法人
国内投資家:ラオスの法律に基づき、事業登録を行ったラオス人及び外国籍の個人及び外国人
上記定義の場合、事業登録とは何を指すのか、ラオスで企業登録をした外国籍の法人は、どちらにも該当することなり、定義が不明確でした。新投資法では、以下のように改められ、外国籍でラオスに現地法人がある場合は、外国投資家に分類されます(新投資法第3条3項4項)。
<新投資法>
外国投資家:ラオスへ投資するために入国し、ラオスの法律に従い企業登録をした外国籍の個人及び法人
国内投資家:ラオスの法律に従い企業登録をしたラオス籍の個人または法人
(2) 地区に基づく優遇について
旧投資法第10条では、地区を以下のように定めていましたが、新投資法では、「地区3」の経済特別区(SEZ)は削除され、地区は5年ごとに見直されるという規定が新しく追加されました(新投資法第10条)。
<地区1> 投資に対する社会経済のインフラが整備されていない地域への投資
<地区2> 社会経済インフラの整備がある程度進んでいる地域への投資
<地区3> SEZへの投資(この部分が削除されています。)
(3)投資奨励優遇業種について
旧投資法第9条では奨励優遇業種(以下、「奨励業種」)を規定しており、その後2021年優遇措置ガイドラインの中で不明確な定義等が整理されました。新投資法では、さらに、ラオスの状況に見合った言葉に置き換えられ、経済特別区が上記(2)の優遇地区から削除され、奨励業種として新たに規定されました。他方、旧投資法に奨励業種として入っていた「貧困解決のための政策的銀行業務、マイクロファイナンス事業」は削除されています。新投資法で規定される奨励業種は以下の通りです。
<奨励業種(新投資法第9条)>
①クリーンな農業、品種生産、家畜改良、工芸作物栽培、森林開発、環境および多様性の保護に関する分野
②環境に優しい農業生産物及び他分野の加工、飼料の開発、天然肥料、バイオ肥料、化学肥料の開発、伝統・独自の加工品、手工芸品の生産、一郡一品、輸入品の代替となる商品、輸出商品の開発に関する分野
③病院、医薬品および医療器具製造工場、伝統医薬品の製造と治療に関する事業
④教育、スポーツ、人材開発(人的資源開発)、職業技術、教材およびスポーツ用品の生産に関する分野
⑤デジタル化、研究および開発、テクノロジーの使用、環境に優しい天然資源エネルギーの節約に関する分野
⑥環境に優しく持続可能な自然、文化、歴史観光産業
⑦道路・鉄道建設、上水道・下水施設、廃棄物処理施設などの公共サービス・インフラ施設に関する分野
⑧ロジスティックスサービス、物流、越境輸送、ドライポートの倉庫システム、越境、多国間輸送、陸路、水路、鉄道、空路による乗客と商品の輸送に関する分野
⑨経済特別区、特定経済区への投資を便利にするためのインフラの整備に関する分野
なお、旧投資法では、恩典を受けるための条件として、最低でも12億キープ(約900万円)の投資総額、または、ラオス人技術者を最低30名以上雇用することなどが条件となっていましたが、新投資法では、すべて削除されています。
(4)奨励業種および地域に基づく法人税優遇措置について(新投資法第11条)
新投資法では、旧投資法と同様に、奨励業種と地区別による基準により、法人税免税の恩典内容を判断する内容となっています。なお、法人税の免税期間、追加法人税の対象分野は、旧投資法からは変更はありませんが、教育に関する事業の場合は、投資期間を通して、法人税は免税されることが新しく規定されました。新投資法第9条に定められる奨励業種①から⑨は、以下の通り、法人税の免除の優遇措置を受けることができます。
地区 |
法人税免除期間 |
追加法人税免除期間と奨励業種 |
地区1 |
最大10年 (第9条で定めるすべての分野) |
追加最大5年間(合計最大15年間) 第9条で定める①、②及び③の業種 特に、教育に関連する投資は、投資期間中の法人税は免除(新規) |
地区2 |
最大4年 (第9条で定めるすべての分野)
|
追加最大3年間(合計最大7年間) 第9条で定める①、②及び③の業種 特に、教育に関連する投資は、投資期間中の法人税は免除(新規) |
(5)ネガティブ事業リスト内の事業内容変更について
事業内容を変更する場合の手続きについて、新しく規定されました(新投資法第37条)。例えば、事業目的、登録資本金等に変更が生じた場合は、事業を許可した関連機関から変更について合意を得る必要があります。他方、株主の変更等については、ラオスの法律に基づき変更手続きを行い、投資許可証及び企業登録書の変更申請をそれぞれ、計画投資関連機関及び商工業関連機関で行う必要があります。
(6)一般事業の登録資本金について
資本金の振り込みについては、旧投資法第53条では、「一般事業への投資を行う外国人投資家は、投資関連許可証を取得後、90日以内に登録資本金総額の30%を送金する」と規定されており、残金に関する規定は、会社法に従うとありました。しかしながら、現行の会社法には、登録資本金の払込期限は株主総会で決定することになっており、残金に関しても株主総会の決定に従うと解釈されています。新投資法第53条では、残金について、「事業許可又は投資許可が下りてから1年以内に振り込むこと。但し、別途規定する法令がある場合は除く」という文言が追加されました。従いまして、会社法に従い、株主総会で残金の振込期限が決定された場合は、その期限に従うことになります。株主総会で残金の支払い期限を決定しない場合は、原則、1年に内に振り込むことになりますので、留意が必要です。
なお、コンセッション事業の登録資本金と資本金の払込率についても改正がありましたが(新投資法第52条及び第54条)、次回のニューズレターで解説いたします。
(7)特定経済区について
旧投資法は、特定経済区(Specific Economic Zone)という言葉が削除されていましたが、新投資法第61条では、経済特別区(Special Economic Zone)とは別に「特定経済区」という言葉が復活し、以下の通り再定義されています。
特定経済区:特定の分野(例えばハイテク分野、工業団地など)への投資のために政府が、経済特別区の外に設立した地域
(8)経済特別区及び特定経済区(以下、「SEZ」)における恩典について
新投資法第64条にSEZへの投資家に対する恩典措置が下記、①及び②のとおり、新たに規定されています。上記(4)の恩典に加えて、以下の恩典を受けることが可能です。
①法人税免税恩典(新規)
SEZ 開発者(デベロッパー):地区1へ投資した場合、合計 16 年間(追加6年間)、地区2の場合は、合計8年間(追加4年間)の法人税免税恩典を受けることができます。
SEZ内に投資する者:上記(4)で規定する免税期間に加え、さらに追加で2年間の免税恩典を受けることができます。ただし、(4)の⑧(ロジスティックス、運輸関連)の分野は除きます。
②長期滞在許可証とマルチプルビザの発行恩典(新規)
SEZ開発者及び投資家は、家族を含め、1回の申請で、最大10年間有効な滞在許可証及びマルチプルビザ(定められた有効期間内に何度でも出入国可)を取得することが可能です。
またSEZの中にある不動産の所有権を保有する外国人は、10万米ドル以上の支払いが完了している場合、家族も含め1回の申請で、10年間有効なマルチプルビザを取得でき、更新も可能です。
これまでも、条件を満たせば、長期滞在資格を得られていたケースがあったようですが、手数料の問題等の議論があり、投資家の間では1年更新が通常となっていました。今回新投資法上で新規で規定されましたが、長期滞在資格取得にかかる申請手続きや手数料についての詳細は確認できておりませんので、実務については、別途確認する必要があります。
以上
yuto.yabumoto@oneasia.legal(藪本 雄登)
satomi.uchino@oneasia.legal (内野 里美)
≪ 前へ |