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2022年08月16日(火)5:27 PM

グローバルビジネスと人権: 日本企業への導入についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

グローバルビジネスと人権: 日本企業への導入

 

グローバルビジネスと人権: 日本企業への導入

2022年8月
One Asia Lawyers Group
コンプライアンス・ニューズレター(日本語版)
アジアSDGs/ ESG プラクティスグループ
日本法弁護士 難波 泰明
One Asia Lawyers Group顧問 齋藤  彰
シンガポール法・日本法・アメリカNY州法弁護士 栗田 哲郎

 2022年3月、日本の経済産業省は、日本初の人権デューデリジェンスに関する包括的なガイドラインを作成するための研究会「サプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン検討会」を設置し、同年8月12日、「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン(案)」を取りまとめ、現在、パブリックコメントに付されています。このガイドライン案は、日本政府は、2011年に国連人権理事会で全会一致をもって指示された「ビジネスと人権に関する指導原則:国際連合「保護、尊重及び救済」枠組実施のために」(以下、「国連指導原則」といいます。)を踏まえ、企業による人権尊重に向けて取り組んでおり、このような取組みをさらに促進すべく策定、公表されたもので、日本のビジネスに国連のSustainable Development Goals (SDGs)への取組みを促すものともいえます。一般的には、持続可能な開発目標(「SDGs」)というと環境問題を連想されるかもしれませんが、実際には、SDGsは不当労働行為やその他搾取などの人権に関する条項も多く含んでいます。つまり現在における責任ある企業行動とは、SDGsの実現に責任をもつ企業行動と言い換えることも可能でしょう。

日本や他の国が人権保護を目的とした規制政策を施行し始める中、企業は今後適用される法規制が増加していくことが見込まれることに留意する必要があります。本ニューズレターでは、上記ガイドライン案の解説に先立って、前提知識となるSDGsと人権の関係、国際ビジネス慣行への適用可能性について紹介します。

1. 「SDGs」とは?

「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals )」とは、国連サミットが2015年に採択した「貧困を終わらせ、地球を守り2030年までに全人類が平和と繁栄を享受できるようにするための行動要請」としての17の目標のことです。サステナビリティというと、通常は環境責任のニュアンスがあると思われますが、SDGsは地球温暖化など環境問題に加えて、貧困と不平等を減らし、教育と医療のアクセスを広げ、特に女性の基本的人権を守ることも規定しています。

SDGsの目標の多くは、企業がどのように事業活動を行うのかということに直接的に影響します。例えば、「8. 働きがいも経済成長も/Decent Work and Economic Growth」は、すべての人々へ完全かつ働きがいのある人間らしい雇用を提供することを目指すと同時に、労働者の安全を保護し、現代の奴隷制度のような不当な労働慣行を根絶するための措置を講じることを求めています。そして、「16.平和と公正をすべての人に/Peace, Justice and Strong Institutions」は、国民に説明責任のある政府機関の発展を妨げる贈収賄などの腐敗したビジネス慣行の廃止を求めるものです。

2. 人権デューデリジェンスとは

「人権デュー・デリジェンス(以下、「人権DD」)」とは、国連が2011年に発行した「ビジネスと人権に関する指導原則」において導入された概念で、企業は、その活動および事業関係を通して人権を尊重する責任を負うとされています。吸収合併中の企業が潜在的なリスクや負債を特定するためにデューデリジェンスを行うのと同様に、「人権DD」は企業の行動が人権への潜在的な悪影響を特定し、軽減する責任を企業に課すことを目的としています。人権DDに関して指導原則は以下の指針を示しています。

(国連指導原則17)

企業は、人権への悪影響を特定し、予防し、軽減し、対処方法を説明するために、人権デュー・ディリジェンスを実施するべきである。この手続は、現実の及び潜在的な人権への影響の評価、調査結果の統合と対処、対応の追跡調査、対処方法の周知を含むべきである。企業による人権デュー・ディリジェンスは以下の要件を満たすべきである。

 (a) 企業がその活動を通じ惹起または助長するおそれのある人権への悪影響, または取引関係による、企業活動、製品もしくはサービスに直接関連し得る人権への悪影響を含むこと。

(b) その複雑さは企業の規模、人権に対する重大な影響へのリスク、企業活動の性質や状態に応じて異なること。

(c) 人権に関するリスクは企業活動の状態やその変遷により時間とともに変化する可能性があることを踏まえ、継続的に行うこと。

国連のビジネスと人権に関する作業部会は、SGDsの達成における民間企業の役割については、人権の尊重がその中心とされるべきであるとしています。そのため、充実した人権DDを含む国連指導原則の遵守が、持続可能な発展を促進する上で重要は役割を果たすとしています。

3. 人権DD関する企業の留意点

多国籍企業において、人権侵害に関わる懸念事項は、しばしばサプライチェーン上に現れます。企業は、サプライヤーが強制労働、児童労働、危険な労働条件や搾取的な労働条件を利用したり、そこから利益を得たりしないようにする必要があります。さらに、企業が紛争地域から原材料を取得する場合は、その調達行為が暴力や政情不安を助長しないように細心の注意を払う必要があります。、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻や中国のウイグル民族に対する扱いに関する懸念などにより、責任あるサプライチェーンの重要性に対する国際的な世論の注目がさらに高まっています。

そして、贈収賄など、構造的な人権侵害を引き起こす原因となる腐敗行為を防止することも人権DDの重要な役割です。従って、企業は既存の汚職防止の取り組みに、人権保護の観点を、明確に組み込む必要があります。

4. 人権DDを実施している法域

日本政府は2020年の「ビジネスと人権」に関する行動計画」において、日本の企業に対し、その規模および業種を問わずUNGPなどの国際基準に基づいた人権DDの導入を期待していると述べました。行動計画を踏まえて、政府は先日、企業の人権DDガイドライン案として、「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン(案)」を取りまとめました。ガイドラインに拘束力はありませんが、政府は企業に対し、人権DDの原則を義務化するための法律を導入する可能性があることを示唆しており、EUではすでそうした作業が進んでいます。

日本は、G7諸国を主導し、2021年にグローバルサプライチェーンにおける強制労働撲滅に向けた取り組みを行うという共同誓約を発表しました。2021年、欧州連合は大規模企業及び特定の中小企業に対し、人権を含む企業の持続可能性における課題に関する詳細な報告の提出を義務付ける規則を採択しました。同規則が発効すると、EU域内に少なくとも1つの子会社または支店があり、EU域内における総売上高が1.5億ユーロを超えるEU域外の企業も、上記報告の提出が義務付けられることになります。イギリス、フランス、ドイツ、オランダなどの欧州各国も、それぞれに企業に対してサプライチェーンにおける人権DDの実施を義務付ける法令を次々と導入しています。

欧州以外でもオーストラリアやアメリカ(カリフォルニア州)が、サプライチェーンにおける現代奴隷制を排除する取組みの記録化を企業に義務付ける法令を導入しています。さらに、2022年、アメリカではウイグル強制労働防止法が成立しました。この連邦法により、原則として、中国の新疆ウイグル自治区にて生産された全製品は強制労働により製造されたものと推定され、アメリカへの輸入が禁止されることになります。この推定は、新疆ウイグル地区で製造された資材を含む製品が他国で製造され、もしくは他国を経由して出荷された場合にも適用されます。

5. 日本企業が人権DDを実施する方法

2021年に経済産業省が東証上場企業に対して行った調査によると、回答企業の69%が人権ポリシー(人権指針)を策定していると回答しましたが、人権DDを実施していると回答した企業は52%にとどまりました。

政府が示した人権DDガイドライン案は現在パブリックコメントに付されていますが、その間においても日本企業は人権DD方針策定に向けた作業を進めることが強く推奨されます。グローバルな人権DDの実務指針として信頼性の高い「責任ある企業行動のための OECDデュー・ディリジェンス・ガイダンス」に依拠すると、その具体的作業はほぼ次のとおりとなります。

 1. 責任ある企業行動の課題として、労働者,人権, 環境,情報開示,消費者保護,ガバナンス,贈賄及び汚職の防止等に関する現行の企業方針を見直し,更新する。

 2. リスク評価から発見された調査結果に基づいて,最も重大なリスクに関する具体的な方針 を策定し,それらのリスクに対処する具体的な方法についての指針を示す。企業の人権DD計画を上記の企業方針の一部として組み込むことを検討する。

 3. 責任ある企業行動の課題に関する企業方針を,企業のウェブサイトへや企業構内等において公開する。適切な場合には現地の言語を用いる。

 4. スタッフオリエンテーションまたは研修等において、企業自体の関係する従業員及び他 の労働者に対して企業方針を伝えるとともに,認識を維持するために必要な間隔で定期 的に周知する。

 5. 企業の事業、サプライチェーンその他のビジネス上の関係におけるリスクの出現や 変化に応じて,企業方針を更新する。

さらに日本弁護士連合会が発行した「人権デュー・ディリジェンスのためのガイダンス」では、企業がサプライヤーとの契約において、企業の社会的責任条項を盛り込むことも提案されています。これらの条項の要点は、購入者に、サプライヤーの人権に関する要求事項の遵守状況を検査または監査する権限、および人権侵害が合理的な期間内に是正されない場合に供給契約を解除する権利を付与する点にあります。さらに、サプライチェーン全体におけるコンプライアンスを確保するために、サプライヤー自身がさらに上流に位置するサプライヤーに対して合理的な人権DDを行う必要があります。

以上

2022年08月16日(火)1:04 PM

シンガポールの賭博改正法の施行および企業が注意すべき点についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

シンガポールの賭博改正法の施行および企業が注意すべき点

 

シンガポールの賭博改正法の施行および企業が注意すべき点

2022年8月
One Asia Lawyers Group
Focus Law Asia LLC
シンガポール法・日本法・アメリカNY州法弁護士
栗田 哲郎

シンガポールの「Gambling Control Act 2022」および「Gambling Regulatory Authority of Singapore Act 2022」 が、2022年8月1日から施行されます。本法律の改正点は「Gambling Regulatory Authority (以下、「GRA」」という単一の規制当局の設立、「ソーシャルギャンブル」の合法化、代理ギャンブルや未成年者のギャンブルを取り締まるための新たな刑罰の実施など多くの変更が含まれています。

本改正により、本法律の対象が広がったため、賭博業界以外の企業業務も「ギャンブル」と見なされ、GRAの規制の管轄に入る可能性があるため注意が必要となります。

1 「ギャンブル」の再定義

「Gambling Control Act 2022 (以下、「GCA」)」では、ゲーム参加者が何かを失うリスクがあるか否かに関わらず、賞金を得るためのGame of Chance(運の要素のあるゲーム)を行うことはギャンブルと見なされます[1]。 通常、「運の要素のある」ギャンブルはポーカーやコイントスなどゲームのイメージがありますが、今回のGCAにおいてはそのギャンブルの定義を拡大し、参加者の運および腕前が影響を与えるゲーム(games involving elements of chance and skill)も含むものとしています。すなわち、たとえ参加者の腕前によって、運の要素が排除されるゲームであった場合でもギャンブルと見なされる可能性があることとなります。従って、参加者は賞金を得るために、ビリヤードやダーツなどのゲーム、ランダムな要素を含む対戦型ビデオゲームをする場合、ギャンブルであると見なされる可能性があります。しかし、シンガポール政府により、官報にて発表された特定のスポーツイベント、試合または競技などの活動はGCAの目的に対する運の要素のあるものではないと宣言されたものについては、ギャンブルの定義から除外されることとなります。

さらに、GCAが定めたギャンブルの定義には「lottery(くじ引き)」も含まれています。「lottery」とは腕前の要素も含まれていながら、あらゆる段階において運の要素に従って懸賞を得る活動のことです。すなわち、改正法では、参加者が参加するためにお金を払う必要がない場合でも、福引、くじ引き、懸賞はギャンブルの一種であるとみなされる可能性があります[2]。そして、商品やサービスを購入してくじ引きをできるようにすることも、くじ引きの一種であるとみなされます[3]

2 「ソシャルギャンブル」の合法化について

GCAでは、ソシャルギャンブルは認可が必要ではない合法の活動になります[4]。ソシャルギャンブルとは、家庭で親戚と友人の間で行われる自然発生的なギャンブル活動です。ソシャルギャンブルでは、参加者以外の人が利益を得ることだできない、営業活動として行われられないため、企業はソシャルギャンブルの免除を行使できません。

3 Class License」の導入について

通常、運の要素によるギャンブルやくじ引きなどギャンブル活動を行うためには、事業者はGRAからのギャンブルのライセンスを取得しなければなりません。ギャンブルのライセンスの申請手続きにはかなりの時間がかかることが想定されています。しかし、「Class License」制度の下、ギャンブルのライセンスを持たない事業者は、GRAによってリスクが低いと判断された特定のギャンブルサービスを運営することができます[5]

上記に示す広義のギャンブルの定義を考慮すると、Class Licenseのルールは、最初に事業者がギャンブルライセンスを取得することを必要とせずに、特定の運の要素を含むプロモーションやサービスを提供する事業を規制することを意図しています。事業者はClass Licenseを申請する必要はありませんが、該当するClass Licenseのカテゴリーの全ての条件及び規定に従わなければなりません。条件及び規定には、提供される掛け金またはチケットの数、賞金の制限、事業者の提供するギャンブルサービスの頻度、必要な記録、広告に関する規則などが含まれています[6]が、これらに限定されるものではありません。各事業者は条件及び規定に従わない場合、Class Licenseに基づくギャンブルサービスを運営する資格を失う可能性があります。

4 どのようなClass Licenseがあるか

現在、GRAが公表しているClass Licenseは以下の活動となります。Class Licenseに基づくギャンブル活動を行おうとする者は、活動を開始する前に、ライセンスで定められた条件を満たすことを確認する必要があります。

・Mystery Boxes – 日本のガチャなど中身が不明なアイテムが入った箱を顧客に販売すること。
・Remote Games of Chance – プレイヤーが価値のある褒賞を得られる運の要素を含むオンラインゲーム。例えば、オンラインゲームのルートボックス。
・Promotional Lotteries and Games of Chance – 企業の商品やサービスをプロモーションするキャンペーンとして行うくじ引きやゲーム。企業は参加者から参加費を徴収してはなりません。
・Incidental Lotteries and Games of Chance – 祭りなどのイベントで行われる付帯的な活動として提供されるくじ引きやゲーム。これらの活動への参加は、無料かつイベント関係者のみに限定されなければなりません。
・Fund-Raising Lotteries – 特定のチャリティーへの資金を調達するために行われるくじ引き。
・Other Lotteries and Games of Chance – 公共団体によりその目的を促進するために行われるくじ引きおよびゲーム、教育機関または企業が研究及び調査プロジェクトの参加者を募集するための活動も含まれています。

5 新ギャンブル法のもと企業はどのような対応を取る必要があるか

一般的に、GCAでは、あらゆる運や偶然性の要素が含まれるサービスおよび活動が「ギャンブル」の一形態とみなされます。そのようなキャンペーンを実施する企業は、その活動がGRAの公表するClass Licenseに基づく事業に該当するかどうかを確認する必要があります。

現在利用可能なClass Licenseは潜在的な状況のほとんどをカバーすると思われますが、各企業は、各Class Licenseが規定する詳細な条件(褒賞や広告の規制など)に従っていることを確認する必要があります。現在、GRAのホームページにはClass Licenseの規定の詳細がほとんど記載されていません。今後数ヶ月のうちにさらなる情報が公表されると考えられますが、それまでに、その活動が該当するClass Licenseに適合しているかどうか分からない事業者は、GRAに直接連絡することが推奨されます。

以上

[1] Section 7(6) of the GCA 2022.

[2] Section 9(1) of the GCA 2022.

[3] Section 9(2) of the GCA 2022.

[4] Section 12(1) of the GCA 2022.

[5] Section 60(1) of the GCA 2022.

[6] Section 62(1) of the GCA 2022

2022年07月14日(木)9:30 AM

フィリピンにおける電子自動車産業についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

フィリピン電子自動車産業を推進

 

フィリピン電子自動車産業を推進

2022年7月
シンガポール法・日本法・アメリカNY州法弁護士  栗田 哲郎
日本法弁護士   難波  泰明
フィリピン法弁護士  Cainday, Jennebeth Kae

第1      はじめに

 フィリピンは、日々のエネルギー需要にこたえるため、原油供給の約97%を輸入しており、経済活動の多くを他国に依存しています。[1]その中でも、最終エネルギー消費量のうち最も大きな割合である35%を占める運輸部門は、フィリピンの温室効果ガス排出の最大要因のひとつであり、環境に深刻な影響を与えています。

 これを受けて、フィリピン議会は共和国法11697号電気自動車産業開発法(Republic Act No. 11697, Electric Vehicle Industry Development Act (EVIDA)、以下「本法」という)を制定しました。この法律は、輸送部門における輸入燃料への依存を減らすことで国のエネルギー安全保障と独立性を確保し、公害や温室効果による危険から国民の健康と福祉を守り、世界からの投資を促進・誘致しながら国内の電気自動車産業を発展させることを目的としています。

本法は、政府機関や地方公共団体を動員して、自動車の電力化を促進し、需要の創出と産業の育成を図ることを目的としています。

本法のポイントは、以下の通りです。

第2 電気自動車産業開発のポイント

1 本法適用対象

 電気自動車産業開発法は、電気自動車、充電ステーションおよび関連機器、部品、バッテリー、関連サポートインフラの製造、組立、輸入、建設、設置、保守、取引および利用、研究開発、規制などに適用される主要な法律です。

 本法の適用対象として、以下の定義が規定されています。

 -電気自動車とは、自動車を駆動するために少なくとも1つの電気駆動装置を持つ車両を指し、バッテリー電気自動車(BEV:Battery Electric Vehicle)、ハイブリッド電気自動車、軽電気自動車、プラグインハイブリッド電気自動車が含まれます。

 -充電ステーションとは、電気自動車またはそのバッテリーに電気エネルギーを供給するための機器を、特別な制御機能および通信機能を持つ筐体に設置した施設を指し、バッテリー交換ステーションを含め、車両外に設置される場合もあります。

 -配電事業者とは、配電システムを運営するためのフランチャイズまたは権限を有する電気協同組合、民間企業、または政府所有の公益事業者を指します。

 -グリーンルートとは、州、市、自治体が特定・指定し、運輸省(DOTr: Department of Transportation)が承認した電気自動車専用の公共交通路を指します。

2 電気自動車産業の総合的なロードマップ (CREVI: Comprehensive Roadmap for the Electric Vehicle Industry)

 この法律では、電気自動車の開発・実用化・利用を目的とした国家計画である電気自動車産業の総合的なロードマップ(CREVI)を定めています。CREVIは、以下の4つの柱から構成されています。

 ①電気自動車及び充電ステーション
  ・電気自動車及び充電ステーションの仕様と規格の開発
  ・電気自動車産業の促進
  ・電気自動車専用駐車場の配備
  ・電気自動車専用駐車場への充電ステーションの設置・建設

 ②製造部門
  ・電気自動車産業の製造地域の開発と促進
  ・電気自動車、バッテリー、リサイクル及び充電関連施設の基準の確立

 ③研究開発

 ④人材育成

3 需要創出と産業育成

(1)電気自動車使用割合の設定

 本法は、以下の事業者に対して、CREVIで定められた期間内に、使用する車両の5%以上を電気自動車とすることを義務付けています。

 ・貨物物流会社、食品配送会社、旅行会社、ホテル、電力会社、水道会社などの産業・商業企業

 ・ミニバス、バス、ジプニー、バン、トライシクル、タクシー、交通ネットワーク車両サービスなどの公共交通機関

 ・地方公共団体、政府機関、政府関係法人

(2)電気自動車専用駐車場及び充電ステーションの設置

 上記の使用割合の義務化に加え、民間および公共の建物や施設は、電気自動車専用の駐車場を割り当てることが義務付けられています。地方自治体は、電気自動車専用駐車場の設置基準を満たしていない建物や施設に対して、建設・改築の許可を出さないよう義務付けられています。

また、専用駐車場やガソリンスタンドへの充電ステーションの建設・設置も義務付けられています。

4 投資インセンティブ

(1) 財政的インセンティブ

 本法は、財政的なインセンティブと非財政的なインセンティブの両方が用意されています。

 ・電子自動車、充電ステーション、バッテリー、部品およびその部品の製造と組み立て、充電ステーション等の関連施設の設置運用は、1987年のオムニバス投資法(大統領令第226号)および1997年の国税法(大統領令第8424号)の修正案である企業再生および企業向け税制優遇法(共和国法11534号)による戦略的優先投資計画に含まれ、一定期間の奨励措置を受ける対象となるかの検討対象とされています。

 ・完全に製造された電気自動車の輸入は、TRAIN法(A. No.10963)に基づく奨励措置を受けることができます。

 ・本法の発効から8年間、完成された充電ステーションの輸入は、関税の支払いを免除されます。

 ・本法の発効から8年間、バッテリー電子自動車とハイブリッド電子自動車の自動車使用料、自動車登録料、検査料は、それぞれ30%、15%の割引を受けることができます。

(2) 非財政的インセンティブ

また、本法では以下のような非財政的なインセンティブも提供しています。

 ・優先登録、優先更新、特別な車両プレートの発行

 ・メトロマニラ開発局等の地方自治体が実施する強制的な統一車両量削減プログラム、ナンバーコード方式またはその他類似の方式による車両規制からの免除

 ・電気自動車を独占的に利用する事業者に対する公益車両の運行許可申請と更新の迅速な処理

 ・電気自動車メーカーや輸入業者による輸入の税関での迅速な処理

 ・電気自動車の製造業について、技術移転協定に基づく外国人専門職の雇用の許可

5 電気自動車等の普及を促進するための政府機関の役割

 本法は、政府機関や地方公共団体を動員して、電気自動車の導入を促進することを意図しています。特に、エネルギー省(DOE:Department of Energy)は、電気自動車の普及と充電ステーションおよび関連機器の開発を担当する主要機関として、他の関連政府機関や地方自治体と共に、本法に必要な認定や許可の発行など、必要な規制を公布し実施することが義務付けられています。

6 罰則

 本法および今後公布される関連規則に違反した場合、50,000ペソから500,000ペソの罰金、および許可証の停止や取り消しが行われる可能性があります。

第3 最後に

 フィリピンの電気自動車産業と市場を促進するための政府のこの積極的なアプローチにより、フィリピンにはバッテリーの主成分であるニッケルが豊富にあることも相まって、電気自動車のバッテリー製造などの他の産業についても、投資家にとって魅力的な環境が整ったといえます。さらに、本法が成立する以前から、フィリピン電気自動車協会(EVAP: Electric Vehicle Association of the Philippines)は、年間成長率が8〜12%で、2024年までに16億8000万ペソ(3360万ドル)の収入と20万台の販売を見込んでいます。 今後、需要が拡大すれば、さらに大きな成長が期待できるでしょう。

 引き続き、当事務所のニュースレターにおいてもアップデートをしていく予定です。

[1] http://wingatchalian.com/speech/sponsorship-speech-electric-vehicles-and-charging-stations-act-2/

2022年06月03日(金)1:13 PM

フィリピンにおける中小企業を支援するためのフランチャイズ強化法についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

フィリピンにおける中小企業を支援するためのフランチャイズ強化法

 

フィリピンにおける中小企業を支援するためのフランチャイズ強化法

2022年6月
日本法弁護士   難波  泰明
フィリピン法弁護士  Cainday, Jennebeth Kae
シンガポール法・日本法・アメリカNY州法弁護士  栗田 哲郎

第1      はじめに

 フランチャイズ産業はフィリピンのビジネスの中で比較的大きな割合を占めています。フィリピン統計局 (PSA: Philippine Statistics Authority)のデータによると、フィリピンの企業の約99.5%が中小企業(MSME:Micro, Small and Medium Enterprises)であり、実にそのうち68%がフランチャイズ産業に関係しています。

 このような状況を踏まえ、政府は、フランチャイズ産業が、雇用機会の創出、消費の活性化、観光の促進など、国の経済を維持する上で極めて重要であると位置づけています。そのため、政府は、透明でビジネスに適した環境を整備し、公正・公平な慣行を促進することによりフランチャイズ業界を強化し、中小企業を中心とした企業を支援するための取組みを強化しています。

 大統領令第169号「中小企業保護のためのフランチャイズ産業の強化令」(Executive Order No. 169、以下「本大統領令」または「E.O. 169」という)が署名される以前は、フィリピンでは貿易産業局(Department of Trade and Industry、以下「DTI」という)令第10-24号と知的財産に関する関連法を除き、フランチャイズ事業を規制する法律は存在しませんでした。数年前に、フランチャイズビジネスを規制する法案が議会に提出されましたが、法律として成立しませんでした。このE.O. 196の制定が、フランチャイズ業界を規制する法律の制定を促すきっかけになるかもしれません。

 本大統領令のポイントは、以下の通りです。

第2 中小企業保護のためのフランチャイズ産業の強化令のポイント

 1 本大統領令の適用対象

   E.O.169は、以下の定義により、その適用対象を定めています。以下の定義を参照しながら、それぞれの契約が本大統領令の適用対象となるかご確認ください。

 (1) フランチャイズとは、フランチャイザーとフランチャイジーとの間で結ばれる契約で、以下の内容を含むものとして定義されています。

  (i) フランチャイザーが、フランチャイジーに対して、定められた一定期間、フランチャイズシステムに従って事業を運営する権利を与えるもの
  (ii)フランチャイザーが、フランチャイジーに対し、フランチャイザーの商標、営業秘密、秘密情報または知的財産を使用する権利を与えるもの
  (iii)フランチャイザーが、フランチャイズシステム上、フランチャイズ期間中、フランチャイジーの事業運営の管理権を有するもの
  (iv)フランチャイジーが、上記の権利の対価として一定の手数料などを支払うもの

 (2) フランチャイズ契約とは、フランチャイザーとフランチャイジー間の書面での契約であって、前者が後者に対し、一定の対価を得て、マーケティング制度、技術供与契約の下で商品やサービスを提供、販売または流通する事業に従事する権利を付与するものと定義されています。ここでの権利には、契約に別段の定めがない限り、特定の事業に関連する商標、サービスマーク、商号・事業名、ノウハウ、ロゴタイプの広告またはその他の商業上のシンボルの使用が含まれます。

 (3) E.O.169では、中小企業の分類として、以下のように中小企業基本法(R.A. 6977[1])改正前の分類が用いられています。

  (i)マイクロ :50,000ペソ未満
  (ii)コテージ :50,001~ 500,000ペソ
  (iii)小企業 :50,001~500,000ペソ
  (iv)中堅企業:5,000,001~20,000,000ペソ

  なお、中小企業基本法(R.A. No. 6977)はその後に導入された改正[2]により、現在は以下のように大きく変更されています。

  (i)マイクロ               :3,000,000ペソ以内
  (ii)小企業 :3,000,001~15,000,000ペソ
  (iii)中堅企業               :15,000,001~1,000,000,000ペソ

 このような改正が、政府や関連機関によってどのように適用され、処理されるかは、まだ明らかではありません。

 2 中小企業とのフランチャイズ契約の遵守事項

 (1) 公証の必要性

   E.O.169は、フランチャイザーとフィリピン国内の中小企業のフランチャイジー間で締結されるすべてのフランチャイズ契約は、書面で締結され、かつ、公証されなければならないとしています。

 (2) フランチャイズ契約の必要記載事項

   また、E.O.169は、フィリピン国内のフランチャイザーと中小企業フランチャイジー間のフランチャイズ契約の必要記載事項を定めており、以下の規定を含まなければならないと定めています。

  ・フランチャイズの対象となる製品またはサービスの名称および詳細
  ・商標またはその他の登録知的財産権を使用する権利など、中小企業フランチャイジーに付与された具体的な権利の内容
  ・フランチャイズ料、販売促進料、ロイヤルティ料、その他関連する料金など、フランチャイジーに課される可能性のある契約前、契約締結時、定期的な全ての費用の開示
  ・支援の種類と詳細の列挙、およびDTIへのフランチャイズ契約の提出を含むフランチャイザーの責任の詳細
  ・中小企業フランチャイジーの責任の詳細
  ・差別禁止規定
  ・フランチャイズの期間および更新の条件
  ・フランチャイズ契約の事前解約、解除、期間満了の効力と原因
  ・中小企業に契約解除の選択肢として与えられるクーリングオフ期間の規定
  ・当事者の任意で2004 年ADR法(A. No. 9285、「Alternative Dispute Resolution Act of 2004」)に基づく調停により紛争を解決する旨の紛争解決条項
  ・フランチャイズ契約の条件に違反に対する救済措置

   また、中小企業以外のフランチャイジーとの契約においても、上記の必要記載事項を可能な限り規定することが求められます。

   E.O.169は、これらの必要記載事項を満たしたフランチャイズ契約に関して、フランチャイザー対して、政府がインセンティブまたは利益を提供することとしており、DTIが関連規定を整備することとしています。

 

3 フランチャイズ契約の登録義務

  フランチャイザーは、DTIが作成する中小企業フランチャイズ契約登録簿にフランチャイズ契約を登録することが義務付けられます。中小企業フランチャイズ契約登録簿には、上記の必要記載事項に定める契約条件を含んだフランチャイズ契約のみが登録可能となっています。

正規に登録されたフランチャイズ協会に加盟したフランチャイザーは、中小企業フランチャイジーとのすべてのフランチャイズ契約において上記の必要記載事項を含むことを約したうえで、標準フランチャイズ契約を登録することができます。

  他方で、正規に登録されたフランチャイズ協会に加盟していないフランチャイザーは、中小企業フランチャイジーとのすべてのフランチャイズ契約を締結後30日以内に登録する必要があります。

 その他

 (1) フランチャイザーは正式に登録されたフランチャイズ協会への加盟が奨励され、フランチャイズ事業を行おうとする中小企業はフランチャイズ協会に所属するフランチャイザーと取引することが奨励されます。
 (2) 中小企業とすでにフランチャイズ契約を締結しているフランチャイザーは、中小企業フランチャイジーとの各フランチャイズ契約の更新時に、O. No.169に定められた要件を遵守しなければなりません。
 (3) 本大統領令には罰則が定められていません。

第3 最後に

 フランチャイズ事業を営む事業者の中には中小企業に該当するものも多く含まれると思われますが、フィリピンでは、払込資本金が20万ドル以下の中小企業については外資規制がかけられています。したがって、外国企業が中小企業のフランチャイズ事業を経営する場合、20万ドル以上の資本金を払い込むか、または資本金10万ドル以上で、かつ外国投資法が定める特別な場合である必要があり、その場合でも、フランチャイズ事業に従事する企業として、E.O.196に従う必要があります。

 また、E.O. 196施行から90日以内にDTIからガイドラインが公表されることとなっていますので、こちらの動向も注視する必要があります。

 引き続き、当事務所のニュースレターにおいてもアップデートをしていく予定です。

[1] Republic Act No. 6977, Magna Carta for Small Enterprises

[2] Sec. 3, R.A. No 6977, Magna Carta for Micro, Small and Medium Enterprises (MSMEs), as amended by R.A. 8289 and R.A. No. 9501

2022年05月13日(金)10:35 AM

シンガポール国際仲裁センター/2021年仲裁実績報告についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

シンガポール国際仲裁センター/2021年仲裁実績報告

 

シンガポール国際仲裁センター/2021年仲裁実績報告

2022年5月
One Asia Lawyers シンガポール事務所
Focus Law Asia LLC
シンガポール法・日本法・アメリカNY州法弁護士
栗田 哲郎

 シンガポール国際仲裁センター(SIAC)は、2021年版年次報告書を発表した。本稿においては、SIACの年次報告書に基づき、2021年のSIACにおける国際仲裁の状況について記載する。

1 2021年仲裁新規案件数、係争総額

 2021年において、SIACは469件の新規案件が開始され、SIACにおいて過去で3番目に高い事件数を記録したとのことである。SIACが取り扱った469件のうち、446件(95%)はSIACが管理する案件となっている。残りの23件(5%)は、アドホック仲裁となっている。下記の表の通り、SIACの事件処理件数は5年連続で400件を超えている。

 なお、2020年の新規事件数は1080件であり、この数字がコロナ禍による紛争の増加などを受けた一種特殊な数値であったことが分かる。

 SIACの2021年の係争総額は65.4億米ドル(SGD88.5億、約8300億円)となっている。1件の管理案件の最高紛争額は19億5000万米ドル(SGD26億4000万、約2300億円)で、これは2020年の最高紛争額から倍増したとのことである。

2 簡易仲裁などの実績

 SIAC規則2016に基づく手続きは引き続き利用されており、2020年からは簡易仲裁(Expedited Procedure)、早期却下(Early Dismissal)、併合(Joinder)などの申請件数が増加した。

 特に簡易仲裁(Expedited Procedure)が93件、緊急仲裁(Emergency Arbitrator)が15件と、簡易仲裁・緊急仲裁が引き続き利用されていることが分かる。また、簡易仲裁は93件の申し立てが行われたものの、26件のみがAcceptされている一方、緊急仲裁は15件のうち全件がAcceptされたこととなっており、簡易仲裁は成功率が低い一方、緊急仲裁の成功率が非常に高いことが分かる。

 その他多数当事者に関連する手続きも頻繁に利用されていることが分かる。

3 仲裁の当事者

 2021年に64法域の当事者がSIACでの仲裁を選択し、2020年の60法域から増加した。SIAC に新たに申請された事件の 86%は国際的な仲裁(International Cases)となっており、国内仲裁(Domestic Cases)は14%の64件のみとなっている。

 インド、中国、米国が引き続き外国当事者の利用者ランキングの上位を占め、その他の外国人利用者トップ10は、Civil LawおよびCommon Lawの両法域の当事者からなり、SIACでは2020年と比較して、香港特別行政区、マレーシア、韓国、UAE、ウクライナ、ベトナムの当事者数が増加した。

 日本は13件と2020年と比較して、件数は減少している。

4 紛争の類型

 紛争の類型としては、143件がTrade、111件がCommercialとなっており、一般的な契約に関する紛争が過半を占めることとなった。また、Corporate関係が66件となっている。

 他方、Maritime/ ShippingやConstruction/ Engineeringになどの専門的な紛争は20%程度となっている。

5 準拠法

 SIACにおいて紛争となった場合、合計21法域の準拠法が用いられており、そのうちシンガポール法が52%を占め、19.6%がイギリス法となっている。このため、引き続き、コモンローの法律が準拠法として利用されていることが分かる。

 日本法は準拠法として採用されたケースはなかったと思われる。

6 仲裁人

 選任された仲裁人は、シンガポール人が116件、イギリス人が110件、オーストラリアが27件、アメリカが25件、インドが18件、マレーシアが16件となっており、コモンローの法域で75%以上が占められていることが分かる。

 その後、シビルローの法域からは、中国が10件、ドイツが7件となっているが、その割合は極め低い。日本は1件のみとなっている。

7 まとめ

 以上のように2020年のような特殊な数字を除けば、SIACにおける対応案件は、順調に増加しており、そのほとんどが国際案件である。そして、その中でコモンローの準拠法・仲裁人が占める割合は極めて高く、アジアにおいて展開する日本企業も、コモンローの理解が益々重要になるといえよう。

2022年05月12日(木)9:47 AM

フィリピンにおけるSIMカードとソーシャルメディアの登録義務化についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

フィリピンにおけるSIMカードとソーシャルメディアの登録義務化

 

フィリピンにおけるSIMカードとソーシャルメディアの登録義務化

2022年5月
シンガポール法・日本法・アメリカNY州法弁護士  栗田 哲郎
日本法弁護士   難波  泰明
フィリピン法弁護士  Cainday, Jennebeth Kae

第1      はじめに

 数年前から、フィリピンではSMSを利用した詐欺やソーシャルメディア荒らしが深刻化しています。

 SMSを利用した詐欺の多くは、大企業の懸賞に当選したという虚偽情報や、コロナ禍によるフィリピンの失業率悪化に乗じた実在しない仕事のオファーなどの偽情報を送信するものです。被害件数の増加を受け、国家プライバシー委員会(National Privacy Commission)はGlobe Telecom、Smart Communications、Dito Telecommunity、Lazada、Shopee、複数の銀行など、フィリピンの通信、銀行、電子商取引プラットフォームの主要企業のデータ保護責任者 (Data Protection Officers)に対し、最近急増している個人情報を悪用したスパムメールに対する防止策やさらなる対策について報告を求めました。

 また、Facebook、TikTok、Twitterなどで誤報やフェイクニュースが横行し、ソーシャルメディアへの関心が高いフィリピン国民の世論や政治的視点、情報に対する信頼性に大きな影響を与えています。そのためフィリピンは、組織的な情報操作の格好の標的とされています。

この状況に対応するため、フィリピン議会は、SIMカードとソーシャルメディアのアカウントを登録することを義務付けるSubscriber Identity Module (SIM) Card Registration Act(以下「SIMカード登録法案」という)を通過させました。これに対し、ドゥテルテ大統領は、2022年4月15日、拒否権を行使し、フィリピン議会に法案を差し戻しました。これを受け、多くの議員が法案を成立させるよう働きかけており、今後、両院の3分の2以上の賛成をもって同法案が成立する可能性があります(フィリピン憲法第6章第27条(1))。

 今後の成否が注目される同法案の主要なポイントは、以下の通りです。

第2 SIMカード登録法のポイント

 1 目的(法案第2条)

   本法案は、情報通信技術が国家の存立と成長、発展に不可欠であることを認識しつつも、これが濫用されることが国民の生命、財産、公衆及び国家の安全につながることから、SIMカードおよびソーシャルメディアのアカウントの登録を義務付け、SIMカードおよびソーシャルメディアの利用に対する社会的責任を促進するとともに、かかる不正利用を阻止し、解決することを目的としています。

 2 適用範囲(法案第3条)

   本法案は、SIMカードを購入するすべての自然人及び法人を対象としています。SIMカードは、IMSI番号を記録し、携帯電話の利用者を特定し認証するために使用するカードとされており、日本で言及される場合と同様です。

   他方で、ソーシャルメディアアカウントに関しては明確な定義づけがされておらず、その適用範囲は明確ではありません。

 3 SIMカードおよびソーシャルメディアアカウントの登録義務(法案第4条)

   本法案は、公共電気通信事業者(PTE:Public Telecommunications Entity)に対し、SIMカードの販売及び利用に供するにあたって、同法案に従って定められるガイドラインに沿ってSIMカードの登録をすることを義務付けています。また、全ての既存の加入者も、法律の施行日から180日以内にPTEに登録することが義務付けられ、登録しない場合、PTEはSIMカード番号及び登録を無効化することが可能とされています。

   また、ソーシャルメディアアカウントのプロバイダーも同様に、アカウント登録時にユーザーの実名と電話番号を使用することを義務付けています。

  登録情報の開示(法案第10条)

   本法案に基づいて収集されるユーザーの個人情報(氏名、生年月日、住所など)は、2012年個人情報保護法(Data Privacy Act)の規定に基づきPTE又はソーシャルメディアプロバイダーが開示義務を負う場合などのほか、第三者に開示することができないこととされています。

他方で、本法案は、登録情報の開示が許容される場合として、特定の携帯番号またはソーシャルメディアアカウントが犯罪または不正行為に利用されているとする告訴に対する捜査のために必要で、かつ利用者を特定できない場合を定めており、この場合、PTE又はソーシャルメディアプロバイダーはすべての責任を免れるとされています。また、かかる目的を達するため、PTE又はソーシャルメディアプロバイダーは登録情報を10年間保存することとしています。

  外国人のSIMカードの登録(法案第5e

   外国人がSIMカードを購入する場合、以下の登録が義務付けられます。

滞在期間30日以内の観光客については、パスポート及びフィリピン国内での滞在場所を証明する資料を提示の上、氏名、パスポート番号、滞在場所を登録する必要があります。

   就労者や学生などの滞在期間30日以上の滞在者に関しては、上記に加え、外国人登録証明書識別カード(ACRI-Card:Alien Certificate of Registration Identification Card)、および外国人雇用許可証(AEP:Alien Employment Permit)または学校のIDを提示する必要があります。

 罰則(法案第11条)

   本法案には罰則が定められており、違反の内容や行為態様、行為主体に応じて、1万ペソ以上100万ペソ以下の罰金または6年以上の懲役刑が科されます。

第3 最後に

 ドゥテルテ大統領は、当初の法案に含まれていなかったソーシャルメディアアカウントの登録については、十分な議論と明確な定義づけがされておらず、憲法が定める人権保障との兼ね合いでさらなる調査が必要であるとして、法案を差し戻しました[1]。他方で、今後、法案を修正のうえ、再度審議される可能性もあることから、引き続き、当事務所のニュースレターにおいてもアップデートをしていく予定です。

 

[1] https://pcoo.gov.ph/OPS-content/on-the-presidents-veto-of-the-proposed-sim-card-registration-act/

2022年04月13日(水)12:22 PM

フィリピンにおける公共サービス法の改正についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

公共サービス法が改正されました:公共サービスの100%外国人所有

 

公共サービス法が改正されました:公共サービスの100%外国人所有

2022年4月
シンガポール法・日本法・アメリカNY州法弁護士  栗田 哲郎
日本法弁護士   難波  泰明
フィリピン法弁護士  Cainday, Jennebeth Kae

第1      はじめに

 1987年フィリピン憲法では、公益事業(Public Utility)を運営する権限は、フィリピン国民、またはフィリピンの法律に基づいて組織され、その資本の60%以上を当該国民が所有する企業または団体にのみ付与されると規定されています。

 公共サービス法(Public Service Act、Commonwealth Act (C.A.) No. 46、以下「公共サービス法」)では、公共サービスの運営に認可や証明書(Certificate of Public Convenience及びFranchise)が必要な公共サービスを列挙しており、電気、ガス、水道、交通、電話、電信の各サービスの運営など、広範な事業がこれにあたるとされていました。そして、これらの公共サービス(Public Services)が公益事業(Public Utilities)であると解釈されていたことにより、広範な事業が外資規制の対象とされていました。

 ドゥテルテ大統領は、2022年3月21日、公共サービス法改正法案に署名し、同日、改正公共サービス法が成立しました(The Public Service Act, as amended、R.A. 11659)(以下「改正公共サービス法」)。フィリピン政府は、経済を改善し、フィリピンの消費者により良い公共サービスの選択肢を提供するため、公共サービス法を改正し、公益事業の定義を明確化し、外資規制の対象となる公共サービスの範囲を限定し、完全外資のビジネス産業を開くことができるようにしました。

改正についての主な改正点は以下の通りです。

第2 主な改正点の概要

①公益事業(Public Utility)の定義の明確化

 改正公共サービス法では、公益事業(Public Utility)の定義が明確に規定されました。そして、同法はいかなる法律でも、公共サービスのうち公益事業に分類されないものについては、国籍要件(外資規制)が課されないものとされました。

 下表は、フィリピン国民およびフィリピン人が60%以上を所有する企業のみが運営できる公共サービスの一覧です。左側が従前から規定されている公共サービスの一覧、右側が今回新たに規定された公益事業の一覧となっています。

公共サービス(Public Service)
(公共サービス法第13条)

公益事業(Public Utility)
(改正公共サービス法第13条(d))

・コモンキャリア、鉄道、道路鉄道、牽引鉄道、サブウェイ自動車、あらゆるクラスの貨物または運搬サービス
・エクスプレスサービス、蒸気船または蒸気船ライン、ポンティン、フェリー、および水上クラフト、乗客または貨物の輸送業
・造船所、海洋鉄道、海上修理工場
・倉庫業、埠頭またはドック
・製氷工場、氷蓄熱工場
・運河、灌漑システム
・ガス、電灯・熱供給・電力供給、石油
・下水道システム
・有線または無線通信システム、有線または無線放送局
・その他類似の公共サービス

・電力流通
・送電
・石油・石油製品パイプライン輸送システム
・上水道パイプライン配水システムおよび下水道パイプラインシステム 下水道パイプラインシステム
・海港
・公共事業用車両

 この改正により、外国人はフィリピンの通信会社、運輸会社、内航海運会社、鉄道、地下鉄などを完全に所有することができるようになりました。

 ただし、バス、UVエクスプレス、タクシー、ジプニーなどの公益事業用車両(PUV:Public Utility Vehicles)は、公益事業(Public Utility)として分類されています。しかし、同法では、交通ネットワーク企業(TNC:Transport Network Corporations)と認定され、運行されている交通車両は、公益事業用車両とみなさないことを明示しています。TNCとは、Grabタクシーのようなオンラインを利用した交通サービスやライドヘイリングサービスを提供する企業です。

②大統領による公益事業(Public Utility)の分類勧告

 改正公共サービス法では、国家経済開発庁(NEDA: National Economic and Development Authority)の勧告を受け、以下の基準に基づいて、大統領が公共サービス(Public Service)を公益事業(Public Utility)に分類することを議会に勧告する権限が与えられています。

 -個人または法人が、ネットワークを通じて、公共性の高い商品またはサービスを定期的に供給し、公衆に送信・配布していること
 -その商品またはサービスが自然独占であり、公共の利益のために規制される必要があること
 -商品またはサービスが、生計の維持に必要なものであること
 -公衆の要求に応じて適切なサービスが提供される必要があること

③重要インフラ(Critical Infrastructure)に関する規定

 重要インフラ(Critical Infrastructure)とは、物理的なものか仮想的なものかを問わず、フィリピンにとって極めて重要なシステムや資産を所有、使用、運用する公共サービス(Public Service)のことで、そのようなシステムや資産の機能不全や破壊が国家の安全保障に有害な影響を与えるような、フィリピン大統領令で定める電気通信を含む重要な公共サービス(Public Service)とされています。

 外国人は、相互主義を定めている国の者でない限り、重要インフラ(Critical Infrastructure)の運用・管理に携わる事業体の資本の50%以上を所有することはできないこととされました。

④外国政府または外国国有企業の投資制限

 外国政府または外国国有企業に支配され、またはそのために行動する企業は、公共事業または重要インフラ(Critical Infrastructure)に分類される公共サービス(Public Service)の資本を所有することができなくなります。

⑤その他の修正

 -公共サービス法に基づいて発行された認証は、保有者が独立評価チームによる年次業務監査に3年連続で不合格となった場合、停止または取り消される可能性があります。
 -災害時に人的、物的、経済的、環境的損失が拡大しないよう、行政機関が緊急に使用、提供、または提供するよう求めた場合、個人または法人がこれを拒否またはた対応しないことは違法となりました。
 -資本金増加のための株式または株券の発行、および社債の発行に政府の事前承認を必要とする規定は削除されました。
 -証明書または委員会の命令、決定、規則の条件に違反した場合、または遵守しなかった場合の罰金を、1日あたり最高200ペソから5,000~2,000,000ペソに増額され、その他の罰則も引き上げられました。また、これらの罰則については法人役員や管理職等の両罰規定が設けられています。

第3 最後に

 フィリピンでは、今年5月に大統領選挙が行われる予定です。このことは、フィリピンにとって政権交代への希望の光となっています。これと相次ぐ法改正で外資の参入が容易になり、特に上記の改正公共サービス法は、外国人投資家にとってフィリピンへの投資を再検討する良い機会と思われます。引き続き、当事務所のニュースレターにおいてもアップデートをしていく予定です。

2022年03月11日(金)4:28 PM

フィリピンにおける外国人投資家を奨励する新たな法律についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

フィリピンへの外国人投資家を奨励する新たな法律が成立

 

フィリピンへの外国人投資家を奨励する新たな法律が成立

2022年3月
シンガポール法・日本法・アメリカNY州法弁護士  栗田 哲郎
日本法弁護士   難波  泰明
フィリピン法弁護士  Cainday, Jennebeth Kae

第1      はじめに

 フィリピン政府は、フィリピン経済のさらなる開放に向けた取り組みを強化しています。今年1月にフィリピンにおける外国人小売業の投資を緩和する小売業自由化法が改正されたことは記憶に新しいところですが、さらに今月、外国投資法(R.A. 7042、Foreign Investment Act of 1991)の改正法案(Republic Act (R.A.) No. 11647、An Act Promoting Foreign Investments、以下「改正外国投資法」といいます)が成立しました。

 フィリピンは、他の東南アジア諸国と比べて、外国直接投資(FDI:Foreign Direct Investment)に大きな遅れをとっていたことから、議会はこの問題を改善するための改革策として、本改正法案を可決しました。

 改正外国投資法で導入された外国投資法の主な改正点は以下の通りです。

第2 改正外国投資法により導入された規定

 ①外国投資法上、憲法や関連法、外国投資法8条が定めるネガティブリストに該当しない限り、外国資本による輸出企業及び国内企業への100%出資が認められています(同法6条及び7条)。他方で、払込資本金20万米ドル以下の中小企業がネガティブリストに指定されており、中小企業への出資が可能となる要件(ネガティブリストの除外規定)が限定的でした。

 ②今回の改正外国投資法で、以下の場合は、最低払込資本金10万米ドルによって、国内の中小企業に対する外国人投資家および外国企業による100%出資が認められることになりました。

  ・科学技術省が先端技術と認定した事業を行う企業(従前と同様)
  ・関連法において、スタートアップまたはスタートアップイネーブラーとして承認された企業(新設)
  ・直接雇用する労働者の過半数がフィリピン人である企業。ただし、フィリピン人労働者の数が15人以上であること(改正前50人以上から緩和)

 ③ネガティブリストは2年以上ごとに改定されることとされていますが、関係省庁は、2年ごとにネガティブリストを見直し、その分析結果等を議会に提出することとされました。

 ④専門職の業務 (Practice of Profession)は、今後外国投資法の適用を受けず、各専門家規制委員会等が定める規定に従うことになります。

 ⑤税務上の補助を受ける外資系企業が外国人を雇用している場合は、フィリピン人従業員向け技能研修が義務化され、労働雇用省(DOLE: Department of Labor and Employment)によるモニターの対象となります。

 ⑥外国投資の促進と円滑化への取組みを統合することを任務とする省庁間投資促進調整委員会(Inter-Agency Investment Promotion Coordination Committee 、以下「IIPCC」という)が創設され、同委員会は、外国投資促進・マーケティングにかかる中長期計画(FIPMP: Foreign Investment Promotion and Marketing Plan)の策定などを行います。

 ⑦現地パートナーのディレクトリを含む中央データベースとしてオンラインポータルが公開され、現地のサプライチェーンにおける投資とビジネスマッチングを促進するツールとして機能することが期待されます。

 ⑧外国投資促進に携わる公務員や職員が、「反腐敗行為防止法」(Anti-Graft and Corrupt Practices Act)で処罰される行為を行った場合の追加制裁が規定されました。

第3 最後に

 上記のようなフィリピンにおける外資規制の緩和は、日本企業にも大きなビジネスチャンスとなる可能性があります。さらに、フィリピンにおける外資規制をさらに緩和するための「公共サービス法の一部を改正する法律 (Public Service Law)」が成立する見込みです。今後の改正状況については、引き続き、当事務所のニュースレターにおいてもアップデートをしていく予定です。

2022年02月28日(月)9:31 AM

シンガポールにおける2022年シンガポールにおける永住権(PR)の最新情報についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

シンガポール:2022年シンガポールにおける永住権(PR)の最新情報

 

シンガポール:2022年シンガポールにおける永住権(PR)の最新情報

2022年3月
One Asia Lawyers Group代表
シンガポール法・日本法・アメリカNY州法弁護士
栗田 哲郎

1 シンガポールにおけるPRに関し

(1)基本情報

 シンガポールの永住権(Permanent Resident以下、「PR」)とは、自国籍を維持しつつ永住を目的として取得する権利をいう。市民権(Citizen ship)とは異なる大きな点として、シンガポール国籍を有することが可能かという点がある。もっとも、「永住権」という名前であるが実際は長期滞在ビザであり、5年ごとに更新が要求される。

 日本国外務省の資料[1]に基づくと2022年現在シンガポールには全体のおよそ10%に当たる3.432人の日本人永住者が存在するとのことである。コロナ渦によってシンガポールは長期滞在パスを有している者以外の入国が制限しているためPRの取得率は、前年比およそ1.5%増加しているとのことである。

(2)申請資格

 PRの申請を行うことが可能となるのは以下に該当する人物である。現在PR申請は全てオンラインで行われる。また、1回の申請には申請の許可にかかわらず、SGD100がかかる。

 政府の基本方針としてPRが認められるかに関しては、「将来シンガポール国民となる可能性があるか」などの事情を総合的に考慮して判断しており、後述する兵役の義務(National Service)との関係においても問題となる。

 申請権を有する者

1.EPパス(Employment Pass)又はSパス(S Pass)に基づき居住と勤労の実績を積んだ人
2.シンガポールに留学中の学生Eパス又はSパスの者
3.グローバル投資プログラム(GIP)利用の場合
4.シンガポール国民・永住権保有者の配偶者
5.シンガポール国民又は永住権保有者の21歳未満の実子又は正式な養子
6.シンガポール国民の高齢の親

(3)PR取得のメリット・デメリット

 PRを取得する主なメリットは以下のとおりである。

 第1に、PR取得後3年後にHDB(公団住宅)を購入可能な点にある。物価が高騰しているシンガポールにおいては住居費もその例外ではなく高額である。そのため、8割程度のシンガポール国民はHDB に居住している。よってHDBに入居可能であることは、シンガポールにおいて生活をする上で大きなメリットであるといえる。また、不動産を購入する際の取得税が、外国人に比べて優遇されている。

 また、PRの保有者は、原則、ビザの保有なしに入出国が可能である。特にコロナによって外国人の移動に制限が加えられる可能性のある現在において、MOMなどの許可なくPR保有者は移動ができることから、こちらも大きなメリットといえよう。

 第4に、中央積立基金(CPF)の形における経済的利益が存在する。外国人労働者にはCPFは適用されない一方、永住権者にはCPFが適用される。

 第5に、医療費・公立学校の費用が安くなる点が存在する。さらに公立学校の選択権に関して、外国人と比較し、より良い順位となる可能性があるとされている。もっとも、公立学校の選択権については、近年では以前ほどのメリットはなくなってきているとも評価されている。

 他方、シンガポールにおいてPRを取得する場合日本人が最も懸念する点は、以下記載する兵役(National Service)であるため、以下詳述する。

2 シンガポールにおける兵役の義務について

(1)基本情報

 シンガポール国民の男性とPRを有する親から生まれた2世代の男性は、16歳半になると兵役登録が要求され、18歳頃から、2年間の兵役が義務化されている。

 兵役を終了した場合においても予備軍として40歳 (士官の場合は50歳) になるまで、年に1日最大40日徴兵される。2004年以前は2年半の兵役が要求されていたが、2004年以降は2年間の兵役が要求される。訓練に関しては、テコン島にある基礎軍事トレーニングセンターで行われる。報酬も存在し、兵役に対する給料が階級別に支払われる。また14日間休暇を取得することも可能である。

(2)対象

 永住権を取得した本人は兵役の対象とはならないが、第2世代以降は、徴兵対象となる。

(3)兵役免除の特則

 原則として兵役に関しては延期・免除を行うことができない。しかし一定の事項に該当する場合には、兵役の実施を1年から4年延長することも可能である。

 一定の事項の例

1.ジュニア・カレッジ(通常JC)で加速教育を受けている学生
2.高校を卒業し、ポリクリニックを学習している学生
3.工業学校(ITE)の学生
4.国のスポーツチームのメンバーであって、18歳の時からスポーツイベントに参加している選手は、イベントから戻るまでは延期が可能

 このような特権がないにもかかわらず、兵役を回避しようとした場合には、罰則が適用され、最悪3年間投獄されるか、SGD5,000の罰金を課され、又は両方の適用がされることがある。

(4)近年の兵役の義務に関する報道

・オーストラリア人が実刑を受けたケース

 近年では兵役を受けずに国外に出国したオーストラリア人の男性に実刑が下されたという報道[2]が存在する。

 男性はシンガポールで出生し、その後一家でオーストラリアに移り住んだ。そしてオーストラリアにおいて市民権を得た。男性の父親が中央労働力基地(CMPB)からのNS登録義務を男性に知らせず、男性が違反を知ったのは2016年(25歳の時)であった。男性は、シンガポールに戻ってNSを終了したが、裁判所は、有効な出国許可なしに、国外に逃亡した罪に基づき、実刑を課した。

・サッカー選手のプレミヤ契約に関するケース

 シンガポールのサッカー選手がプレミア契約に基づき徴兵登録を怠った違反に基づき禁錮または罰金刑となる可能性があると報道[3]されている。SG国防相は声明文で「兵役の義務を逃れる手段とて市民権の放棄を利用してはならない」としている。 

・政府の兵役の義務に対する考え方

 以上の事件から、政府は安全保障に対して高い優先順位を置く傾向が存在する。そのため親は永住権を取得するが、子は永住権を取得しないという申請を行うことはできるが、実務上は、PR申請自体が却下される可能性が高いのが現状である。すなわち、現在においては兵役の義務から逃れるため子供を申請の対象から場外し、申請を行うことは可能であるが、このような場合にPRが認められる可能性は高くない。なぜなら、政府の基本方針として“将来シンガポール国民となる可能性があるか”において判断するためである。

(5)シンガポールにおけるPRの放棄に関して

 PRを放棄する方法に関してシンガポール入局管理局のHPにおいては何ら記載がなく「ICA(入局管理局)にメールでお問い合わせください」とのみ記載されている。

 子息の兵役直前にPRを放棄すること自体を禁止する規定はみあたらない。しかし後述するように、兵籍直前にPRを放棄する場合においては、息子及び家族が、将来PRを取得する際、重大な不利益が生ずる可能性が存在する。

 すなわち、過去にPRを放棄した外国人に対してシンガポール国防長官は、「18歳(兵役に従事)より前にPRを放棄した外国人に対して再びPRを出したことは当然ないし、再びシンガポールで仕事や勉強をしたいと考えた際の就労ビザや学生ビザもほぼ許可しない可能性がある」とコメントとしている。また、入国管理局もHPにおいて明文で「兵役をフルタイムで務める、または完了することなくPR資格を放棄する、または失うと、シンガポールでの就労、就学、居住、シンガポール市民権またはPR資格の申請において、即時または将来的に不利な影響を与えることになります。また、フルタイムの兵役を務めることなくPR資格を放棄または喪失した場合、家族またはスポンサーによる即時または将来の再入国許可更新の申請にも悪影響を与える可能性があります。」と規定しているため注意が必要である。

 以上を踏まえると子息を有するPR申請者は、申請を行う際において以下の利益と不利益を考慮して申請する必要がある。

 利益として、PRが通りやすいという点がある。PRが通った場合には上述した利益を受けることができる。しかし不利益として、事実上子息を除外する両親に限定するPRが認められない可能性が高く、そのためPRを申請する場合には子息を一緒に申請する必要があるが、その場合には子息が兵役に従事しなければ、自信のシンガポールでの滞在・就労に不利益がある可能性があるということに留意が必要である。

 

[1] 外務省 海外在留邦人数調査統計 https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/hojin/index.html 

[2] https://www.channelnewsasia.com/singapore/ns-defaulter-who-stayed-outside-singapore-without-permit-more-8-years-gets-jail-653386  

[3] https://www.afpbb.com/articles/-/3373427

 

2022年02月14日(月)10:49 AM

シンガポール:シンガポールにおけるNFTをめぐる規制(2022年2月更新版)
についてニュースレターを発行いたしました。 PDF版は以下からご確認ください。

シンガポール:NFTをめぐる規制

 

シンガポール:シンガポールにおけるNFTをめぐる規制(2022年2月更新版)

2022年1月
One Asia Lawyers Group代表
シンガポール法・日本法・アメリカNY州法弁護士
栗田 哲郎

1.NFTマーケットプレイス運営者は、シンガポールでライセンスを取得する必要がありますか

 決済サービスライセンス

2020年1月に施行された決済サービス法(Payment Services Act、以下「PSA」という)は、従来の決済と暗号通貨の決済との交換を規制しています。デジタル決済トークンサービスを提供する機関は、PSAに基づくライセンスの取得が義務付けられました。[1]

PSAでは、デジタル決済トークンとは、交換媒体、または人々の間で商品やサービスの支払いに使用されることを目的とした、価値のあるデジタル表現と定義されています。ビットコインやイーサリアムのような暗号通貨は、PSAのデジタル決済トークンの定義に含まれます。これらの暗号通貨を取り扱う機関、または交換を促進する機関は、PSAに基づきライセンスを取得することが義務付けられています。

しかし、NFTは代替不可能であるため、一般に交換媒体とはみなされません。したがって、PSAの下でデジタル決済トークンとして分類される可能性は低いでしょう。その結果、NFTマーケットプレイス運営者はPSAの規制を受けず、ライセンス取得も要求されない可能性があります。

 認可された取引所および資本市場サービスライセンス

証券、デリバティブ契約、集団投資スキームのユニットを構成するデジタルトークンに関して、シンガポールで取引プラットフォームを設立または運営する者は、組織的な市場を運営している可能性があります。[2] 組織市場運営者は、シンガポール通貨庁(MAS)から公認取引所として承認されるか[3]、MASから公認市場運営者として認められるか[4]、証券先物法(SFA)に基づきMASから免除[5]を受けなければなりません。

NFTは、企業の実質的な所有権を表すなど、証券の特徴を示す場合には、証券に該当する可能性があります。その場合、そのようなNFTの取引を行う市場は、SFAに基づき組織的に運営されているとみなされ、MASから取引所としての承認、ライセンス、または免除を受ける必要がある可能性があります。

さらに、フラクショナルNFTは、(i)この種のNFTの市場参加者はNFTの原資産を管理していない、(ii)参加者の拠出はプールされている、(iii)参加者が利益を得ることを目的としていることから、SFAが定義する集団投資スキームのカテゴリーに該当する可能性があります。分数化されたNFTを扱うマーケットプレイスは組織的市場とみなされるため、SFAに規定されたライセンス制度を遵守する必要があります。[6]

 オムニバス法(Proposed Omnibus Ac)

2020年7月、MASは新オムニバス法を提案し、マネーロンダリング防止基準の強化と、仮想資産サービスプロバイダー(VASP)に対する規制や命令を課すMASの権限の拡大を導入することを決定しました。このような導入は、マネーロンダリングとテロ資金調達の世界的な監視機関である金融活動作業部会(FATF)が調整する金融犯罪を軽減するための継続的な取り組みと一致するものです。

提案された法律によると、MASは、「デジタル・トークン・サービス・プロバイダー(Digital Token Service Providers)」(「DTサービス・プロバイダー」)という新しいクラスの金融機関を設立する意向です。デジタルトークンサービスには、金銭や他のデジタルトークンと引き換えにデジタルトークンを売買するための、またはそのような契約を締結するよう人を誘導することが含まれます。NFTマーケットプレイス運営者は、この定義に基づくDTサービスプロバイダとして認定される可能性があります。[7]  マーケットプレイス事業者がシンガポールで設立された場合、同法案の制定に伴い、同法に基づく規制およびライセンス体制を履行することが求められる可能性があります。

2.シンガポールにおける NFT ビジネスに対するアンチマネーロンダリング要件は何ですか

 一般的に

汚職、麻薬取引及びその他の重大犯罪(利益の没収)法によると、マネーロンダリングの疑いのある取引について、シンガポール警察が設置した疑わしい取引報告所に実務上速やかに報告する義務を負うとされています。[8]

テロ資金対策については、テロリズム(資金調達の抑制)法に基づき、テロリストに属する財産の所持・保管や、それに関連する取引に関する情報は、直ちに警察に開示しなければならないとされています。[9]

決済サービス法(Payment Services Act)

PSAには、デジタル決済トークンサービス提供者の金融犯罪を防止するためのAML/CFT条項が含まれています。MASは、決済サービスライセンス保有者に対し、マネーロンダリングやテロ資金供与を検知・防止するための強固な管理体制を構築するよう求める通知を別途発表しています。[10]しかし、上述の通り、NFTマーケットプレイスはPSAの下でデジタル決済トークン・サービス・プロバイダーに分類される可能性が低いため、PSAの下で発行されたAMLガイドラインはシンガポールのNFTマーケットプレイス運営者に影響を与えない可能性があります。

オムニバス法(Proposed Omnibus Act)

提案されている包括法では、MASはすべてのDTサービスプロバイダーのAML要件を、PASの下で支払サービス免許の保有者に課される要件と一致させる意向です。本法案が施行された場合、NFTマーケットプレイス運営者は、他の認可された暗号通貨サービスプロバイダーと同様に、AML/CFT対策の実施を求められる可能性があります。このようなAML対策には、一般的に適切な顧客デューデリジェンスの実施、定期的なアカウントレビューの実施、疑わしい取引の報告などが含まれます。

 3.今後、シンガポールでのビジネス確立を目指すNFTマーケットプレイス事業者にとっての課題は何でしょうか

 シンガポールは暗号通貨関連ビジネスに対してオープンな姿勢を示しています。例えば、2018年、MASは暗号通貨企業がシンガポールに設立するために、現地の銀行口座の開設を支援することに同意しました[11]。また、政府はブロックチェーン技術がもたらす可能性のある経済的・社会的利益を認識しています。実際、MASはこれらの革新的な技術の実験に熱心で、近年いくつかのプロジェクトを立ち上げています[12]

しかし、シンガポール政府は、長年にわたって技術への理解を深めるにつれて、暗号通貨関連産業に関連するリスクをさらに認識し、それに対する規制を強化してきています。規制当局が発表した最新の数字によると、PASの下で決済サービスライセンスを申請した約170の暗号サービス事業者のうち、100以上の事業者が申請を断られたり、取り下げられたりしているとのことです。これらの申請者が不合格になった理由は、主にマネーロンダリングやテロ資金供与を抑止するために金融規制当局が定めた高いコンプライアンス基準を満たす能力やインフラが不足しているためです[13]。これは、MASが暗号セクターのリスクを監視する上で慎重なアプローチを採用していることを示しています。MASは、非常に高い基準で運用できるプロバイダーを選択することになるでしょう。

シンガポールにオフィスを構えたいNFTマーケットプレイスサービスプロバイダーは、現地銀行へのアクセスを得るために、MASが発行するAML要件の基礎となるものを受けることをお勧めします。さらに、規制当局が急速に追い上げているため、暗号セクターのすべてのプレーヤーに対する規制は最終的にFATFが定める世界標準に一致することが予想されます。シンガポールで設立されたNFTマーケットプレイスは、海外でビジネスを行う際にシンガポールの基準を遵守する必要があるかもしれません。[14]
                                          以上

[1] Payment Services Act Section 5 & 6.

[2] Part I of the First Schedule to the Securities and Futures Act.

[3] Securities and Futures Act Section 7 & 8.

[4] Ibid.

[5] Securities and Futures Act Section 14(1) & (2).

[6] Securities and Futures Act Section 2(1).

[7] Particularly, Consultation Paper on the New Omnibus Act for the Financial Sector para. 3.12 (c).

[8] Corruption, Drug Trafficking and Other Serious Crimes (Confiscation of Benefits) Act section 45.

[9] Terrorism (Suppression of Financing) Act section 8.

[10] Notice PSN02 Prevention of Money Laundering and Countering the Financing of Terrorism – Digital Payment Token Service.

[11] The Star, Singapore will help crypto firms set up local bank accounts, October 10, 2018, https://www.thestar.com.my/business/business-news/2018/10/10/singapore-will-help-crypto-firms-set-up-local-bank-accounts.

[12] Such as Project Ubin launched in 2016 and Project Orchid launched in 2021.

[13] Nikkei, Crypto entrepreneurs find Singapore is not so hospitable after all, December 20, 2021, https://asia.nikkei.com/Spotlight/Market-Spotlight/Crypto-entrepreneurs-find-Singapore-is-not-so-hospitable-after-all

[14] Consultation Paper on the New Omnibus Act for the Financial Sector para. 3.4.

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