ラオスにおける投資奨励法の改正について(コンセッション事業)
ラオスにおける投資奨励法の改正(コンセッション事業編)についてのニュースレターを発行しました。
PDF版は以下からご確認下さい。
→改正投資奨励法(コンセッション事業編)
ラオスにおける投資奨励法の改正について
(コンセッション事業)
2024年12月31日
One Asia Lawyers Groupラオス事務所
1.背景
2024年6月28日付で発行された「改正投資奨励法(No62)(以下、「新投資法」)」について、主な改正点のみを速報というかたちで、2024年12月21日付けニューズレターで解説しました。コンセッション事業(新投資法第41条から第54条)については触れていませんでしたので、今回、コンセッション事業の改正点を中心に解説いたします。
コンセッション事業という言葉が新しく規定され、さらにコンセッション事業許可手続きにおいて、投資家が、ラオス政府との覚書の締結をするために申請をする必要があることが明文化されました。
2.改正内容について
(1)コンセッション事業の定義
新投資法では「コンセッション」という言葉が第3条第17項に以下のとおり、新たに定義づけされています。
コンセッション:政府が分配した土地において、農業、植林、観光、工業地帯、経済特別区、特定経済区、新しい街の開発、エネルギー開発、鉱山分野等のコンセッション契約や法律に従って投資活動を行うためにその土地を使用することを要請した者に対する政府の許可。
また、コンセッション事業の中に、旧投資法にはなかった「特定コンセッション事業」について説明が追加されています(新投資法第41条)。
特定コンセッション事業:戦略的コンセッション投資事業、限定された国家の安全保障に関わるコンセッション事業、貴重な天然資源の使用及び複数の県にまたがるプロジェクトに関わるコンセッション
コンセッション事業及び特定コンセッション事業リストは、政府が取りまとめると書いていますが、本日の時点では、リストの存在は、まだ確認できておりません。今後の動向を注視します。
(2)コンセッション事業投資申請及び手続について
コンセッション事業については、はじめに、政府と覚書又はフィージビリティスタディを行うために契約を結ぶ必要があります。旧投資法では、コンセッション事業許可申請という大枠の中で、政府が覚書について検討するというような流れでしたが、新投資法では、覚書等を締結するために、投資家による申請が必要であることが強調されています。その覚書等の締結を申請する窓口は、特定コンセッション事業の場合は、中央のワンストップサービス、特定コンセッション以外のコンセッション事業の場合は、県のワンストップサービスと定められています(新投資法第45条)。また、入札が必要な事業は、政府が法律に基づき入札を公表します。一つのプロジェクト(同じ事業又は同じ土地の使用)に対して30日間に2社以上の申請があった場合は、相見積書による比較検討又は入札を行います(新投資法第45条)。
新投資法第46条では、覚書等の締結からコンセッション契約締結後のコンセッション事業投資許可証取得までの手続きが記載されています。特定コンセッションの手続き内容が追加されていますが、政府内部の手続きの流れは、旧投資法からは大きな変更はありません。
(3)政府の承認が必要なプロジェクト
新投資法第49条及び第50条には、コンセッション事業の中で、それぞれ、国民議会(国会)の承認が必要なプロジェクト及び県レベルの国民議会の承認が必要なプロジェクトが記載されています。その中で、住民移転を伴うプロジェクトについて、500世帯以上は国会の承認が必要と記載されており、100世帯以下は県の議会が承認するとなっており、101世帯から499世帯の移転が伴う場合は、どこが承認するのか記載がありません。また、2021年に施行された「官民連携に関する首相令(詳細はニューズレターをご参照下さい)」においては、500世帯以下の住民移転は、県の議会ではなく、政府の承認となっており、整合性がとれていない状況であり、課題があります[1]。
(4)登録資本金及び登録資本金の輸入について
旧投資法では、「コンセッション事業の登録資本金は、総資本金の30%以上が必要である」としか規定がありませんでしたが、新投資法では、事業規模により下記の表の通り、投資総額に対する登録資本金の比率が規定されています(新投資法第52条)。
また、コンセッション契約の有効日から90日以内に、最低でも以下の比率で、登録資本金をラオスへ送金する必要があります(新投資法第54条)。なお、旧投資法にも、登録資本金の最低送金率が記載されておりましたが、投資総額の区分が再編成されております。
<コンセッション事業における登録資本金と最低送金率>
投資総額(USD) |
投資総額に対する登録資本金の比率 |
最低送金率 |
50,000,000以下 |
30%以上 |
3% |
50,000,000~100,000,000 |
20%以上、但し15,000,000USD以上 |
2% |
100,000,000~500,000,000 |
5%以上、但し20,000,000USD以上 |
1.5% |
500,000,000以上 |
2%以上、但し25,000,000USD以上 |
1% |
登録資本金の残金に関しては、2年以内に送金する必要があります。ラオスへ登録資本金を送金後は、ラオス中央銀行へ資本金輸入証明書(Capital Importation Certificate)を取得することが改めて規定されています(新投資法第54条)。2023年12月21日付の「外国直接投資における外貨管理に関する合意 (No1225)」によると、「資本金輸入証明書を取得した投資家は、ラオス政府に対する支払いの義務(税金等)が完了したのち、利益、配当金、事業売却又は会社清算後の残金を、本国へ送還することが可能です(合意第11条)」とありますので、資本金輸入証明書を取得しなかった場合は、資本金を本国へ送金できなくなる可能性がありますので、留意する必要があります(詳細はニューズレターをご参照ください)。
(5) 関税及び諸税上の優遇措置について
2017年に旧投資奨励法が施行後、2020年に旧投資法の第12条(関税及び付加価値税法の優遇措置)のみについて改正がなされました(詳細は弊所ニューズレターをご覧ください)。新投資法では、第12条がさらに改正されました。特に付加価値税については、免税の有無は触れず、付加価値税法に従うという記載のみとなりました。これにより、少なくとも投資奨励法と付加価値税法の規定内容に矛盾が生じることがなくなると思われます。
新投資法では、以下の表の通り改正されています(新投資法第12条)。
改正前 |
改正後 |
第12条 関税及び諸税上の優遇措置 |
第12条 関税、法人税及び付加価値税の優遇措置 |
投資家は、投資奨励法第9条(セクター別による奨励優遇)、11条(セクターおよび地区による法人税上の優遇)及び付加価値税法第12条(非課税取引)における優遇措置の他にも、関税や諸税上の以下の優遇を受けることができる。 |
奨励業種及び優遇地区へ投資する投資家は、下記の関税恩典を受けることができる。 |
1. 国内で調達又は生産することができない固定資産となる機械や生産に直接使用される重機車両について関税及び付加価値税を免除する。化石燃料、ガス、重油、自動車、その他の機材などは関係法に従う。 |
1. 国内で調達又は生産することができない固定資産となる機械や生産に直接使用される重機車両の輸入関税を免除する。 化石燃料、ガス、重油、化学薬品、事業に使用する自動車、その他の機材の輸入関税は、重機車両の一時輸入も含めて、関税法に従う。 |
2. 輸出のための生産に使用する原料、鉱物、機器及び部品の輸入は、輸入時の関税及び付加価値税を免除し、生産品を輸出しなかった場合は、関連する法令に従い関税と各種税金を徴収する。 |
2. 輸出のための生産に使用する原料、鉱物、機器及び部品の輸入関税を一時免除する |
3. 輸出のための完成品や半完成品の製造のための非天然資源由来の国内原料の使用については、付加価値税を0%課税とする。 政府は、輸出のための半完成品リストを規定する。 |
3. 輸入の代替として、国内販売のための生産に使用する原料、鉱物、機器及び部品の輸入関税を免除する。
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4.生産、耕種、家畜の飼養から得られる農産物、製造又は完成品として加工された工業製品、手工芸品の輸出関税を免税する。但し、定期的に特別に規定される一部の商品等は除く |
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奨励業種に従事する専門家の個人所得税率を5%とする。その恩典を享受する対象者及び要件は別途規定する。 |
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付加価値税に関する恩典措置は、付加価値税税法に従う |
[1] 投資奨励法では、官民連携事業を投資の一形態と定め、官民連携事業をコンセッション事業の分野の一つと定めています。
以上
yuto.yabumoto@oneasia.legal(藪本 雄登)
satomi.uchino@oneasia.legal (内野 里美)