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2022年07月13日(水)9:25 AM

日本における経済安全保障推進法の成立と中小企業への影響についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

経済安全保障推進法の成立と中小企業への影響

 

経済安全保障推進法の成立と中小企業への影響

2022年7月
弁護士法人One Asia
日本法弁護士
越路 倫有
南    純

 岸田政権が重視する経済安全保障推進法が、2022年5月11日に成立しました。企業負担が増えることも予想されている同法について、概要を説明するとともに、中小企業がどのような影響を受けるのかも併せてご紹介したいと思います。

1.概要

 今回成立した「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律」(以下、「経済安全保障推進法」または「同法」といいます。)では、国家及び国民の安全を害する経済活動に関連した行為を未然に防止することが目的であるとされています。そのため、同法に基づき、以下の4つの制度が創設されました。

⑴     特定重要物資の安定的な供給の確保
(「サプライチェーンの強靭化」)

⑵     特定社会基盤役務の安定的な提供の確保
(「基幹インフラのサイバーセキュリティ」)

⑶     特定重要技術の開発支援

⑷     特許出願の非公開

 なお、制度の対象となる物資や事業者は、今後政省令で指定されることになります。同法施行日は各政省令で指定されることとなっていますが、2024年5月までには全体が施行される予定となっています。以下では、それぞれの制度概要をご説明いたします。

2.特定重要物資の安定的な供給の確保

  サプライチェーンの強靭化を目的として、国民の生存や、国民生活・経済活動に甚大な影響のある物資(有識者会議等では、半導体、医薬品・原薬、大容量電池、重要鉱物、水素、クラウドエッジコンピューティング等を想定)の安定供給の確保のため、指定された「特定重要物資」の安定供給が困難となった場合には、備蓄や民間企業への補助等の安定供給確保のために必要な措置を講ずることができるようになります。補助については、民間企業が策定した供給確保計画が政府に認定されることにより、財政支援等を受けることが可能になります。ただし、認定供給確保事業者となった場合、毎年度、主務大臣に対して認定供給確保計画の実施状況について報告する義務や、資料提出義務が課されることになります。

3.特定社会基盤役務の安定的な提供の確保

 日本の基幹インフラの安全性・信頼性確保を目的として、14分野の特定社会基盤事業(電気、ガス、石油、水道、電気通信、放送、郵便、金融、クレジットカード、鉄道、貨物自動車運送、外航貨物、航空、空港の事業分野)を営む「特定社会基盤事業者」に対して、指定された重要設備(機器のみならずソフトウェア、クラウドサービス、委託先などを含みます。)の概要や部品、維持・管理の委託先などの計画を策定させ、主務大臣に届け出ることが義務づけられるようになります。該当企業が計画書を届け出なかったり、虚偽の届け出をしたりした場合には、「2年以下の懲役か100万円以下の罰金」が科され、計画に修正を求める政府勧告後に従わない場合にも同様の罰則が適用されます。

4.特定重要技術の開発支援

 先端的な重要技術の研究開発を促進し、その成果の適切な活用を図ることを目的として、先端的な特定重要技術(宇宙・海洋・量子・AI・ バイオ等の分野)について、情報の提供、資金の確保、人材の養成等の措置を講ずることができるようになります。

5.特許出願の非公開

 安全保障上機微な発明(軍事転用可能な発明等を想定)の技術流出を防止すると同時に、発明者が特許法上の権利を維持するため、出願時の審査で出願内容を非公開化し、外国出願を制限することができるようになります。

6.中小企業への影響

 上記4つの制度のなかで、一番企業への負担が大きいのは「3.特定社会基盤役務の安定的な提供の確保」です。中小企業への影響を考える前提として、同制度の「特定社会基盤事業者」に中小規模の企業が含まれるのかが問題となります。

 前述のとおり、どの範囲の企業が規制対象となるかはまだ確定しておらず、今後幅広い企業が規制対象となる可能性もあります。ただし、同法には附帯決議があり、「中小規模の事業者については、役務の安定的な提供に支障 が生じた場合に与える国民生活又は経済活動への影響が限定的であるほか、規制への対応が相対的に大きな負担となると考えられることから、規制の対象とするべきかについては慎重に行う」と記載されています。従いまして、事前審査義務や罰則のある「特定社会基盤事業者」は、大企業に限定される可能性が高いものと考えられます。

 しかしながら、仮に中小企業として「特定社会基盤事業者」の適用除外となったとしても、中小企業が大企業の取引先や委託先として特定社会基盤事業の14分野のサプライチェーンの一部となっている場合には、大企業の計画書策定段階や修正段階において、当該中小企業に対しても様々な追加的業務の要請が行われる可能性が考えられます。したがって、同法の成立により、中小企業にも追加的な負担が増えることが懸念されています。

 そのため、まずは自社や取引先が特定社会基盤事業の14分野に関連するのかをご確認ください。これらに該当する事業を行っている場合や該当企業とお取引がある場合は、今後、同法に合わせた対応を準備・検討することが求められるため、同法に関する動向に注意をすることが必要となるでしょう。

2022年03月10日(木)12:32 PM

中小企業のパワハラ防止法・改正公益通報者保護法対応についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

中小企業のパワハラ防止法・改正公益通報者保護法対応

 

中小企業のパワハラ防止法・改正公益通報者保護法対応
~2022年から中小企業にも適用開始~

2022年3月
弁護士法人One Asia
弁護士 越路倫有

 いわゆるパワハラ防止法が2022年4月から中小企業にも適用され、改正公益通報者保護法も2022年6月から施行されます。これらに対応するため、中小企業においても、2022年4月までに内部通報体制を整備することが必要となりますが、まだ十分に対応ができていないのが現状です。そこで、今回は、これら法律の概要や内部通報制度導入の重要性について、ご案内いたします。

1.はじめに

 2021年7月、日本郵便は、福岡県内の郵便局長による別の局長に関する内部通報に関し、当時コンプライアンス担当だった元役員が、被通報者の父親に通報者を推測できる情報を伝達していたと公表しました。元郵便局長でもあるその父親は、その後通報者を特定してパワハラをしたとして、懲戒処分および刑事事件での有罪判決を受けています。この日本郵便による公表は、日本郵便の内部通報制度に対する信頼の根幹を揺るがすものとして大きな話題になりました。

 このように近年大きな話題となっているパワハラと内部通報について、それぞれ2022年には改正法が施行されます。

2.パワハラ防止法の中小企業への適用

 まずパワハラについて、厚労省の統計によると、都道府県労働局等の総合労働相談コーナーに寄せられる「いじめ・嫌がらせ」に関する相談は年々増加しており(2019年度には8万7000件以上)、2019年、労働施策総合推進法の改正により、パワハラの規定が新設され(いわゆる「パワハラ防止法」)、2020年6月から施行されました。いよいよ2022年4月から、中小企業にも同法が適用されます。

 これにより、2022年4月までに、中小企業も、労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講ずることが義務付けられます。当該義務には罰則がありませんが、相談窓口がないなど防止措置が不十分であることを理由に2020年度には408社が労働局から是正指導を受けたとの報告もあり、相談窓口の設置等の対応は必須になります。

3.改正公益通報者保護法への対応

 また、重大なパワハラ事案をはじめ、企業不祥事を早期発見し、組織の自浄作用を働かせるために重要なのが内部通報制度です。消費者庁の平成28年度の実態調査によると、内部通報制度を「導入している」事業者は全体の 46.3%にすぎず、従業員数の少ない事業者ほど導入が進んでいません。

 公益通報者保護法は、労働者が、不正の目的なく、労務提供先の一定の不正を通報することを保護する法律で、この改正法が昨年6月に公布され、2022年6月から施行されます。

改正法により、企業には内部通報体制整備が義務付けられ(従業員が300人以下の企業については努力義務)、その実効性の確保のため、義務に従わない企業に対し、行政措置が講じられることとなりました。さらに、公益通報対応業務従事者等には、刑事罰を伴う通報者特定情報の守秘義務が課されます。

4.内部通報制度の導入による企業価値の向上 

 企業の規模に関わらず、内部通報制度を整備し企業の自浄作用を高めることは、不正の抑止や早期発見、企業活動における人権の尊重、ひいては企業価値の向上にとって不可欠であり、経営者の姿勢が問われる優先順位の高い事項です。

 また、企業不祥事は、海外子会社を含むグループ会社で問題となることも多く、海外子会社も含めた内部通報制度をうまく機能させることで、グローバル企業における海外不祥事のリスク対策も可能になります。

 日本郵便も、外部の弁護士を活用した受付窓口の設置や調査体制の構築など、内部通報制度の改善策を講じているようです。これから準備を開始してもまだ間に合います。これを機に、外部の弁護士を活用した内部通報制度の構築をご検討ください。