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2021年06月04日(金)3:42 PM

日本等の外国判決のシンガポール裁判所における承認・執行手続についてニュースレターを発行しました。
PDF版は以下からご確認ください。

日本等の外国判決のシンガポール裁判所における承認・執行手続

 

日本等の外国判決のシンガポール裁判所における承認・執行手続

2021年6月
One Asia Lawyers Group代表
シンガポール法・日本法・アメリカNY州法弁護士 栗田 哲郎
シンガポール法弁護士 三好 健洋

1 概要

 シンガポールには、一部の諸外国で得た判決をシンガポールにおいて直接的に承認・執行することを認める法律(Reciprocal Enforcement of Judgments Act、Reciprocal Enforcement of Commonwealth Judgments、Choice of Court Agreements Act等)が存在する。ただし、これらの法律は、日本における判決の直接的な承認・執行を認めていない。

 したがって、日本で勝訴判決を得た者(以下、「原告」という)が当該勝訴判決をシンガポール国内において執行することを望む場合、当該判決を相手方(以下、「被告」という)に対して、シンガポールで直接的に承認・執行することはではない。

 そのため原告は、日本の判決による債務(以下、「日本の判決債務」という)を訴因として、被告に対してシンガポールで新たな訴訟手続きを開始する必要がある。すなわち、日本の判決を証拠の一つとして、別途シンガポールにおいて訴訟を提起する必要がある。

2 シンガポールにおける手続

 日本の判決債務をシンガポールで執行するためには、主に以下の2つのステージが存在する。

第一ステージ:

 まず、原告は、日本の判決債務をひとつの証拠してシンガポールの裁判所で訴訟を開始する。被告が出頭して訴訟を争うかどうかに応じて、被告に対する欠席判決(Default Judgement)または略式判決(Summary Judgement)(以下、「シンガポール判決」という)を得ることを目指す。

第二ステージ:

 原告は、第一ステージで取得したシンガポール判決をもとに、被告が支払いを行わない場合にはシンガポールにおいて強制執行手続きを行う。

3 第一ステージ:シンガポールでの日本の判決債務に関する新たな訴訟手続きの開始

 第一ステージでは、原告は、日本の判決が以下の3つの要件が満たされていることを証明する必要がある。

(i) 管轄権を有する裁判所からの判決であること、
(ii) 日本の法律に基づいて確定した判決であること、および
(iii) 確定した金額が示された判決あること。

 これらの要件がすべて満たされ、日本の裁判所の書類が被告に適切に送達され、日本の裁判所の訴訟に手続き的な瑕疵等がなければ、被告に対して略式判決を得ることは困難ではないものと考えられる。

 第1の要件については、日本の裁判所が有効に管轄権を有していたことを証明する必要がある。この点、訴因となる契約書の管轄条項に日本の裁判所が記載されている場合、あるいは日本以外の国が非排他的裁判権を有する条項などである場合には、基本的には問題にならない可能性が比較的高い。

 第2の要件については、日本の判決は、当事者間の権利を最終的に決定し、判決を下した日本の裁判所が変更や再審を行うことができない場合にのみ、「最終的かつ決定的」とみなされる。したがって、例えば、原告が取得した日本の判決が欠席判決である場合、当該欠席判決が最終的に与えられた判決である必要がある。他方、仮差押え判決などの暫定的判決の場合、当該要件が満たされない可能性がある。

 第3の要件については、日本の判決がシンガポールで執行可能であるためには、確定した明確な金額の支払いを求めるものでなければならない。つまり、日本の判決が特定の救済(差止命令や特定の履行など)を命じたもの場合、その救済はシンガポールでは原則として執行できない可能性が高い。他方、日本の判決が、確定された明確な金額の支払いと特定の救済の両方を認めた場合、判決の特定の救済の部分が執行不能であっても、判決の金銭部分は執行可能である。

 上記の3要件が満たされ、被告がシンガポールでの日本の判決の執行可能性に対して有効な抗弁を提起しない場合、原告は被告に対して略式判決を得ることができる可能性は比較的高いと考えられる。

4 第二ステージ:被告がシンガポール略式判決に基づく支払いを行わない場合の強制執行手続き

 被告 がシンガポールにおける略式判決に基づく債務を支払わない場合、原告は、当該略式判決を強制執行することとなる。当該強制執行手続きには複数の方法があり、最も適切な方法に応じて、原告は以下を行うことが可能である。

(i) 差し押さえおよび売却の令状を取得する、
(ii) 被告の資産調査を裁判所に申請する、
(iii) 差し押さえ手続きを開始する。

 また、被告 の支払いを促すために倒産手続きが有効であると判断される場合には、被告 の倒産を申請することも可能である[1]

5 まとめ

 かように、日本における判決は、シンガポールで直接的に執行することは認められていない。しかし、原告は、日本の判決で発生した判決債務を訴因として、被告に対して執行することが可能である。

 シンガポールに資産を有する相手、シンガポールの法人・個人等を提訴する際には、これらの執行方法や執行の実現可能性などを考慮した上で、適切な提訴地を検討することが求められよう。

 

[1] シンガポールの執行手続きの詳細は、下記のニューズレターを参照されたい。

https://oneasia.legal/6549 

2020年09月29日(火)4:20 PM

サンドボックス制度ーシンガポールと日本比較についてニュースレターを発行しました。

PDF版は以下からご確認下さい。

サンドボックス制度について

 

 

サンドボックス制度ーシンガポールと日本比較

 

 

2020 年9月28日

One Asia Lawyers シンガポール事務所

三好 健洋

 

1.制度比較の目的

 Agileな制度設計が求められる状況において、サンドボックスは非常に重要な制度である。日本においてより一層本制度が活用され、イノベーションをより多く生み出すエコシステムを構築することが求められる中で、大陸法、英米法という大きな前提の違いはあるものの、うまくいっているシンガポールから学ぶことは多くある。そこで両者の比較を通じて、日本の民間企業としてどうサンドボックスを活用すべきか、またサンドボックス制度そのものをアップデートする際にはどのような点に留意すべきかの検討材料とする。

 

2.       大陸法、英米法という法体系の違いがサンドボックスに影響を与えるか

 日本は大陸法、シンガポールはコモンローというそもそもの法体系の違いがあるが、法体系の違いがサンドボックスに影響を与えるのだろうか。

 大陸法とは、原則として成文法を中心とする法制度である。たとえば、日本で一般的な契約書に関する紛争が生じた場合、民法などを中心に判断が行われることとなる。

 他方、シンガポールはコモンロー制度の一国である。コモンローとは、原則として過去の判例を法律とする法体系をいう。例えば、一般的な契約に関する紛争が生じた場合、シンガポールには民法に類似した成文法は存在しないため、過去の類似した判例に基づき判断がなされることとなる。

 ただし、シンガポールを含むコモンロー諸国においても、成文法は存在し、シンガポールでは刑法(Penal Code)や証券先物法(Securities and Futures Act)などの成文法により、関連分野について規制が設けられている。特に、サンドボックスが関連する金融、医療、エネルギー開発などの法分野においては、成文法による規制がなされている。したがって、サンドボックスという観点からは、大陸法とコモンローによる違いは大きくないと言える。

 なお、日本では、対象範囲や期間を制限し、規制の趣旨や社会通念に照らして、特定の事業が”業”ではないと整理し、実験を行うことがある。他方、シンガポールでは、それぞれの当局に権限が明確に与えられているため、この権限を利用し、サンドボックスを設け、特定の企業に対して本来適用されるべき法律要件や規制要件を緩和し、管理・運営がなされている。

 

 

3.       マインドや状況の違い

 シンガポールはアジア屈指の金融都市であるが、ビジネス環境ランキングにおいてもニュージーランドに次ぐ世界2位である。また、個人に対する所得税も低く、キャピタルゲイン、インカムゲインに対して無税であることから、多くの投資家がシンガポールに集まる。さらに、メディアなどのごく一部の業種を除いて、外資規制もほとんど存在しない。法人等の設立も、すべてオンラインで完了し、10分程度で設立登記を完了することが可能である。

 上記のような環境を魅力に感じる起業家やスタートアップが多くシンガポールに集まり、投資を募り、新たな事業を開始する。また、シンガポールの国土は、東京都23区ほどの大きさであり、ほとんど自然資源を有しない。したがって、シンガポール政府としても、新たなビジネスを呼び込み、シンガポールでイノベーションを起こしていくことが必要不可欠であるため、各規制当局もイノベーションを積極的に取り入れていくプラットフォーム作りに積極的に取り組んできた。その一部として、サンドボックス制度が形成され、その利用を政府主導で進めてきた。

 

4.       プロセスでの比較

日本のプロセス

https://pnika.jp/articles/20200221

 

シンガポールでプロジェクトが採用するまでのプロセス

 シンガポールでは、サンドボックスが複数の省庁に設置され、それぞれの省庁が当局として各々のサンドボックスの管理・運営を行っている。例えば、シンガポール通貨金融庁(Monetary Authority of Singapore)(以下、「MAS」)、保健省(Ministry of Health)、国家環境庁(National Environment Agency)、エネルギー市場監督庁(Energy Market Authority of Singapore)などがサンドボックスを設置している。

 このうち、最も重要視されているサンドボックスの一つであるMASのサンドボックスを例に、シンガポールでプロジェクトが採用するまでのプロセスを紹介したい。

 MASは、FinTech規制サンドボックス(FinTech Regulatory Sandbox)を設けている。サンドボックスを利用した場合、金融機関やFinTech事業者は、明確に定義づけられた範囲と期間内において、ライブ環境で革新的な金融商品またはサービスを試すことが認められることとなる。

 サンドボックスへの参加を希望する場合には、はじめに、サンドボックスガイドラインに従って申請書と必要資料を、MAS担当窓口のメールアドレスFinTech_Sandbox@mas.gov.sgに送付する。

 MASは申請書の受領後、サンドボックスの評価基準に基づき、初期的審査を行う。その際、サンドボックスの期間中緩和される特定の法的要件および規制要件の検討も行う。申請書と必要書類の受領後21営業日以内に、初期的審査に基づき、申請がサンドボックスに潜在的に適しているか否かを申請者に通知する。その後、MASは更なる審査を行い、サンドボックスの対象の可否について最終的判断を申請者に伝える。

 

 なお、審査の際に考慮される評価基準は次の通りである。

 

評価基準

考慮点の例

(ただし、これらに限られない)

提案される金融サービスには、新しいテクノロジーや最先端技術が含まれているか、または既存のテクノロジーを革新的な方法で使用しているか。

·    提案された金融サービスは、既存の法規制ではシンガポールでは利用できないこと。

·    テクノロジーを利用して顧客体験を改善し、運用を合理化すること。

·    申請者は、関連する法的要件と規制要件を完全に満たすことができないため、サンドボックスの期間中の特定の法的要件と規制要件の緩和を申請していること、等。

提案される金融サービスは既存の問題に対処するか、あるいは消費者または業界に利益をもたらすか。

申請者は、サンドボックスを出た後、提案される金融サービスをより広い規模でシンガポールに展開する意図と能力を持っているか。

·    申請者は、100万ドルの資金を確保していること。

·    昨年に比べて人員を倍増させ、提案された金融サービスをより広範な規模でシンガポールに展開するための事業計画とロードマップを提供していること、等。

テストシナリオと期待される結果は明確であるか。

· サンドボックスは50人の顧客に制限され、顧客体験の改善を測定し、リスクエクスポージャーと緩和策を検証するために6か月間実行されること、等。

境界条件は適切であるか。

申請者により、提案されたサービスに存在する重要なリスクが、評価および軽減されているか。

· 提案されている金融サービスは、既に内部テスト環境において様々なリスクシナリオの下でテストされたこと。

· 提案された金融サービスを中止する必要がある場合は、スムーズなエグジットを確実にするために、サンドボックスの顧客に事前に通知すること、等。

明確な出口と移行戦略はあるか。

 

 上記の評価基準を満たし、サンドボックスへの参加が認められたのちは、実際のサンドボックス期間に入る。参加企業は、合意されたスケジュールに基づいてテストの進捗状況を定期的にMASに報告する義務を負っている。

 

 MASは、提案された金融サービス、申請者、および申請内容に応じて、サンドボックス期間中に緩和される特定の法的要件および規制要件を決定する。

 この点、(1)MASがサンドボックスの期間中に、緩和される可能性のある法的要件および規制要件の例と、(2)MASがサンドボックス期間中であっても、維持される法的要件および規制要件の例を次の通り記載する。この例を見ればわかる通り、機密保護などの基本的法的要件は、サンドボックス期間中にも維持される。

 

(1)サンドボックス期間中は緩和される可能性のある法的要件および規制要件の例

  1. 資産維持要件
  2. 取締役会構成
  3. 現金残高
  4. 信用格付け
  5. 財務の健全性
  6. 資金ソルベンシーと自己資本比率
  7. ライセンス料
  8. マネジメント経験
  9. MASのガイドライン
  10. 最小流動資産
  11. 最低払込資本金
  12. 相対的規模
  13. 評判
  14. 実績

 

(2)サンドボックス期間中も維持される法的要件および規制要件の例

  1. 顧客情報の機密保護
  2. 的確要件(特に正直さと誠実さに関する基準)
  3. 仲介者による顧客の資金と資産の取り扱い
  4. マネーロンダリング防止とテロ資金対策

 

 なお、サンドボックスには、当該参加企業による失敗の結果を封じ込め、金融システムの全体的な安全性と健全性を維持するための適切な保護手段が含まれている。すなわち、サンドボックス参加企業の失策等が、経済に多大な影響を防ぐシステムを用意しているのである。

 

 実験に成功し、サンドボックス期間が終了すると、サンドボックス参加企業は、既存の関連する法的要件および規制要件に完全に準拠する必要がある。なお、サンドボックス参加企業は、実験中の金融サービスに変更を加えたり、欠陥を修正したりするために延長を希望する場合には、MASに申請することによりサンドボックス期間の延長を認められることもある。

 

 日本の新技術等実証制度(プロジェクト型サンドボックス)においては、実証後の規制の見直しが行われる可能性があるとされている。

 他方、シンガポールのサンドボックスにおいては、サンドボックス期間の終了後は、対象事業者は既存の法的要件ならびに規制要件を満たして事業を行う必要があり、必ずしも実験中あるいは実験終了時における参加企業からのフィードバックが法制度の変更に利用されるものではない。ただし、主たる目的ではないものの、サンドボックスを通して、新たなテクノロジーやサービスを有する企業と規制当局の濃厚な情報共有は、将来、より実用的な規制の枠組みを形成するのに役立つ可能性が高い。それは、実用的で、新たな技術やサービスを取り入れることに積極的であるシンガポール政府の性質を鑑みれば、当然の結果とも言える。

 なお、シンガポール政府は民間等から意見の集約を行うため、シンガポール政府が新たな法規制を策定する場合や、既存の法律を改正する際、多くの場合に「Consultation Paper」を発行し、シンガポール政府や当局が検討している具体的な新法や改正の内容を公表し、民間ステークホルダーからの意見を求める。上記のサンドボックス制度も、そのようなプロセスを経て策定されたものである。

 

.       採用プロジェクトの比較

日本での採用プロジェクト

https://pnika.jp/articles/20200228

 

シンガポールの採用プロジェクト

 ここでは、FinTech規制サンドボックスの最初の「卒業生」となった保険ベンチャーのPolicyPalを紹介したい。

 

 

PolicyPalは、人々が保険契約をすべて1か所で整理して、保険契約を容易に管理できるアプリを提供するベンチャー企業である。人工知能を活用し、クライアントが保険を比較および購入する一助となっている。

 ポリシーパルのCEOであるバル・ヤップ氏は、自身が親族を亡くした際に、保険金を請求しようとしたが、その複雑な内容や膨大な書類の量に圧倒された経験があった。この経験をもとに、利用者がスマートフォンで写真を撮影することにより、保障内容が一覧できるアプリを開発したのである。

 事業を開始した際、消費者は保険をオンラインで購入したいと思っていたが、保険業ライセンスを持っていなかったため、保険を販売することができなかった。当該ライセンスの取得は、資本とコンプライアンスという側面において、非常にコストがかかるものであった。そこで、ヤップ氏は、「PolicyPalのプラットフォームは、新しいチャネルと革新的な保険契約のスキャン技術を提供することが可能であり、サンドボックスの要件に該当する」と考え、FinTech規制サンドボックスに申請することとしたのである。

 

 新興企業であったことから、サンドボックス申請時はライセンス取得要件を満たしていなかったものの、サンドボックスを利用することにより、MASからサンドボックス期間中のライセンス規制を免除されたのである。「無免許」ではあったが、サンドボックスに参加したことにより、消費者には事前に規制の適用外である旨の説明と共に保険を販売できることとなった。そして、サンドボックス期間中に経験値と資金を獲得し、ライセンス取得申請の準備を整え、サンドボックスの卒業から2ヶ月後には保険業ライセンスを取得したのである。

 現在は多くの保険会社と提携し、事業規模もアジア諸国に拡大中である。

 

6.       シンガポールから日本が学べること

 シンガポールのサンドボックスにおいては、申請からサンドボックスからのエグジットまで、該当する分野の規制当局と念密なコミュニケーションをとることが可能となるため、規制当局としても新興企業から直接学べる機会が自然と多くなる。ここにおける学びが、さらに実用的な法規制の策定につながり、最先端技術・サービスを排除しない的確な規制を行う法制度の拡充を速やかに行うことが可能となる。

 また、シンガポールでは、申請時からサンドボックスに参加するまでの期間を短縮する制度も設けられている。MASのFinTechサンドボックスは上述した通りであるが、経済への悪影響を最低限にとどめるため、申請後のリスクアセスメントに時間を要する。そのため、比較的リスクが低い事業についても、サンドボックスへの速やかな参加が困難であった。この問題を解決するため、2019年にはサンドボックス・エクスプレスを設け、保険業などの比較的リスクが低い事業から、段階的にサンドボックス・エクスプレスへの参加を認めている。参加企業は、長期に及ぶ可能性のある査定期間を待たず、通常21日以内にMASから

の結果通知を受けることができ、参加が認められれば速やかにサンドボックス・エクスプレスに参加することが可能である。この点、日本の規制サンドボックスにおいても、特定の低リスク事業を対象としたファストトラックの策定を検討する余地があるであろう。

 さらに、規制当局の力強いサポートも参考となりうる。一般的に、サンドボックスに申請した場合、規制当局との折衝で成長の速度が遅くなるリスクもある。しかし、シンガポールの規制当局は、サンドボックス参加企業に対して規制面からの助言や忠告を行うことにとどまらない。例えば、前述のPolicyPalがサンドボックスに参加した際にも、MASは申請時からエグジットまで、事業を伸ばすための建設的な提案を行っていたのである。国家の発展のために若い企業を支援し、国内からイノベーションを起こすことが必要不可欠であると考えるシンガポール政府の強みがここに垣間見られると考える。日本においても、サンドボックスに参加することにより逆に企業の成長が遅くなるということがないよう、参加企業の事業に関して建設的な提案を行う体制を整えることが望ましいと考える。

 

 

以 上

 

本記事やご相談に関するご照会は以下までお願い致します。
takehiro.miyoshi@oneasia.legal (三好 健洋)

2020年04月20日(月)10:46 AM

シンガポールにおけるコロナウィルスと不可抗力条項・フラストレーションの法理について報告致します。

コロナウィルスと不可抗力条項・フラストレーションの法理について

 

コロナウィルスと不可抗力条項・フラストレーションの法理

2020 年 4 月 20 日
One Asia Lawyers シンガポール
シンガポール法弁護士 三好 健洋

1.シンガポールの現状

 2020年2月7日、シンガポール政府は、Disease Outbreak Response System Condition (以下、「DORSCON」という)をイエローからオレンジへ変更しました。これは、コロナウイルスが広範な流行をもたらし、人と人との間で容易に感染するものの、国家的流行には至っておらず、国内においては抑制されていることを示したものです。

 DORSCONは現時点では継続してオレンジであるものの、シンガポール政府は3月23日から、全短期滞在者の入国を禁ずる措置を講じています。また、労働ビザを保有しているものについても、交通や医療などの「重要な産業」とされる産業に属する法人に勤務するものでなければ、その家族も含め、入国が許可されていません。

 また、3月26日には、映画館、バー、カラオケ、ナイトクラブ、学習塾等の営業が禁止され、さらに4月7日からは、重要サービスを提供する法人以外は、在宅勤務を除き、営業が原則的に禁止されています。

 きょうに、新たな規制により、労働力が不足し、観光客の急激な現象も一因となり消費が落ち込んでおりますが、現在の不透明な状況は今後もしばらく続くことが予想されます。

2.不可抗力(Force Majeure)について

 上記のような経済の行き先が不透明な状況の中、コロナの世界的流行により中国企業をはじめとして多くの企業が債務不履行に陥っている、または陥る可能性が非常に高い状況となっています。そのような状況において、企業法務では、コロナウィルスの世界的流行が、特定の契約の不可抗力条項に該当するか否かが重要な問題となりえます。

 「不可抗力(Force Majeure)」とは、「契約当事者がほとんど、あるいは全く制御することができない契約履行を妨げ得る状況について、両者が合意した契約上の条項」を意味します。シンガポールにおいては、不可抗力となる条件についての一般的なルールは存在しないとの見解が裁判所により示されており、ある状況が不可抗力とみなされるかどうかは、契約当事者が契約にどのような内容を記載したかによって異なるとされています。

 不可抗力条項の解釈をする際、シンガポールの裁判所は「不可抗力とは、いずれの契約当事者の失策によらず発生し、いずれの契約当事者も責任を負わない後発的な出来事に限られる」とみなすことが一般的です。

 契約当事者のいずれかが不可抗力条項を適用しようとする際は、当該事象が不可抗力の適用範囲にあることを示す義務を負います。それに加え、当該事象を回避し、あるいはその影響を最小限にする方法が存在しなかったことを証明する必要があります。それは、契約当事者は契約上の義務を果たすことが大前提であり、契約上の義務から解放されるのは、「ある後発的事象が、契約上の義務の履行を単に煩わしいものにしたのではなく、原則として不可能にした時」に限られるべきであると一般的に考えられるためである。

 また、不可抗力が発生した場合の救済方法は、「不可抗力」の契約上の文言によって異なります。例えば、不可抗力により機関の延長が認められる場合は、いずれかの契約当事者の選択により契約の解除が可能となる場合などがあります。

3.コロナウイルスの流行は不可抗力となるか?

 コロナウィルスと不可抗力の関係性について考察する際に最も重要なことは、「不可抗力条項が適用されるか否かは、それぞれの契約に記載された適用範囲によって大きく異なる」という点です。すなわち、異なウイルスの流行が不可抗力を構成するか否かは、契約上の文言に左右されます。

 もし契約に記載された不可抗力の例として「流行性(epidemic)」「世界的な感染危機(global health emergency)」「人々の安全や健康にリスクを与える出来事」等が挙げられている場合、現在のコロナウィルスの世界的流行は、不可抗力の要件の一つとみなされる可能性が高いと思料いたします。

 他方、契約において不可抗力の例が挙げられておらず、「契約上の義務を果たすことが不可能になる出来事」などと定義されているに留まる場合、当該条項を適用しウイルス流行を不可抗力とみなすには、「義務の履行のためにコストや出費が増加し、義務の履行が煩わしくなったこと」のみならず、「当該事象により義務履行が不可能になったこと」を証明する必要がございます。

 例えば、マレーシアの国境が閉鎖されたことにより、契約の履行に通常必要とされている物資または労働者がシンガポールに輸入・入国できない事態が発生しています。この場合、「当該事象の発生自体」あるいは「当該事象により契約義務履行の費用が上がった」等を理由に不可抗力を適用することは難しいと思料します。他方、代替の存在しない特定の物資や特定の労働者がシンガポールに輸入・入国できなかった場合等、「当該事象により契約義務履行が不可能となった」場合には、不可抗力を適用できる可能性はあると思料いたします。

なお、SARSなどの疫病が不可抗力となるか否かを直接的に判断した判例は、確認されておりません。

4. 契約に不可抗力条項の記載がない場合
 不可抗力条項の適用の有無については上記の通りですが、必ずしも不可抗力条項が契約に含まれているとは限りません。例えば、個人の賃貸借契約に不可抗力条項が含まれていないことは頻繁にございます。
 そのような場合、コモンロー(判例法)におけるフラストレーションの法理(Doctrine of Frustration)の適用により、当該契約から両契約当事者を解放する方法があります。
 当該法理は、契約時に契約当事者によって考えられていた契約義務の履行が、いずれの契約主体の失策にもよらず発生した後発的な出来事により、著しく異なるものとなった時に適用されます。これには、ある状況が契約の実行を不可能にした場合などが該当します。

 ただし、フラストレーションの法理は契約の文言に左右されないものの、その適用範囲は狭い概念であり、求められる要件も高いものとされています。シンガポールの裁判所が当該法理の適用可否を決める際、以下の要件を考慮します。

 1. 特定の事象が合理的に予見可能であったか。
 2. 契約当事者のコントロールが及ばなかったか。
 3. 当該事象は契約上の義務履行を不可能とするか、または契約当時に合意した内容から著しく
 根本的に異なるものとし、その契約義務の履行を行わせることが不当であるか。

 上記の要件に該当する場合、契約は履行不能となり、契約当事者は契約上の義務から解放されます。ここで重要なのは、単に追加のコストがかかることや、契約履行の煩わしさのみならず、その後発的事象が契約上の義務の本質を変化させるものであるか否かという点です。シンガポールの裁判所は、単に高値掴みから逃れるためにフラストレーションの法理を適用させることを認めていません。

5. 疫病の流行とフラストレーションの法理

 コロナウイルスの世界的流行は、一見、予期せぬ出来事であるように思われます。しかし、2003年の SARS の世界的流行の際、シンガポールと同様にコモンローに基づく法制度を有する香港の裁判所は、SARS の発生が予期せぬ出来事であると断定的には判断せず、未だ議論の余地があるとの意見を示しました。

 また、SARS の発生以来、鳥インフルエンザ、エボラ、ジカなどの他の流行がありました。その観点から見ると、今回新たに出現したコロナウイルスの発生は、もはや契約当事者が予期しなかった出来事ではなくなったと解することも不可能ではありません。この点、現在のところシンガポールの裁判所において、「疫病の流行により、フラストレーションの法理が適用される」という明確な判例は存しておりません。
 しかし、たとえ疫病の流行が予見可能であったとしても、「コロナウイルスの発生に対する都市全体の封鎖等の公衆衛生的対応は、予測不可能であった」と主張することが可能であると思料いたします。
 今回、Ministry of Health、Ministry of Manpower、Immigration Checkpoint Authority をはじめとした政府機関の新たな規制等により生じた、労働者がシンガポールに入国できず、自宅待機命令により自宅を離れられない等の一連の出来事は、契約者の制御の及ばない、予測不可能である事象とみなされる可能性が高いかと存じます。 

 さらに、上記の予見可能性に加えて、コロナの流行が契約上の義務を本質的に異なるものとさせるか否か、という点が重要になります。すなわち、感染拡大や政府の各種対策による労働者不足・サプライチェーンの混乱、国境封鎖、都市封鎖、営業停止命令等の事象の発生により当然に、フラストレーションの法理を適用するのではなく、それらの事象により、契約上の義務履行が、契約当時に合意した内容から著しく根本的に異なるものとされ、その契約義務の履行を行わせることが不当であるか否かが重要な点となります。
 したがって、それぞれの契約内容・期間・目的、具体的な状況等を総合的に検討し、関連契約にフラストレーションの法理が適用されるか否かを判断することが重要であると思料いたします。
 なお、フラストレーションの法理の適用例として、以下の 4 つのケースが挙げられます。
 1 つ目の例は、契約履行に必要不可欠である人員や物が一時的に利用できなくなった場合です。ただし、特定の期間中に契約義務が履行されるべき旨の記載があり、かつ履行時期が契約の本質的な目的である場合に限られる可能性が高いと思料いたします。
 2 つ目の例は、特定の入手先から取得するはずであった契約の目的物が、契約当事者の責任に寄らず利用できなくなった場合です。これには、目的物が特定の国から輸入されるところ、禁輸措置など、契約当事者のコントロールの範囲を超える事由によって輸入できなくなった場合などが含まれます。
 ただし、追加費用で特定の目的物を入手できる場合には、たとえそれが高額であっても、フラストレーションの法理は適用されない可能性もありますため、留意が必要です。

 3 つ目の例は、契約に規定されている履行方法が利用できなくなった場合です。ただし、別の履行方法が可能であり、2 つの履行方法が根本的に異ならない場合には、フラストレーションの法理は適用されない可能性があるため留意が必要です。
 4 つ目の例は、法律の改正により契約が違法になった場合です。例えば、今回のコロナ禍においてシンガポール政府が施行した新規制により契約が違法になった場合などが、この例に含まれます。

6.まとめ

 上記の通り、不可抗力条項の適用有無は、契約書の文言に大きく左右され、不可抗力条項の適用有無が不透明な状況で、一方的な契約不履行を行った場合、契約違反として損害賠償等の責を問われる可能性もございます。したがって、弁護士等の法的助言を得ることが推奨されます。

 また、フラストレーションの法理(Doctrine of Frustration)の適用は稀であり、コロナウィルスの世界的流行により費用の増加等のみを事由として当該法理を適用することは困難であるものの、契約上の義務履行が、契約当時に合意した内容から著しく根本的に異なるものとされ、その契約義務の履行を行わせることが不当である場合には、関連契約に対してフラストレーションの法理の適用がなされる余地があるかと存じます。

 さらに、今回の事象を契機に、不可抗力条項を含め、不測の事態を想定した契約書のドラフティングを行っていくことが必要であると思われます。

以上

2019年05月22日(水)10:04 AM

シンガポール刑法の主な変更点について報告いたします。

 

→刑法の主な変更点について

 

2019年01月23日(水)1:02 PM

ASEAN各国の新法状況をご報告いたします。

 

【シンガポール】決算サービス法案
【タイ】労働者保護法・刑事手続法関連の改正及びIBC制度の創設
【マレーシア】外国人社会保険義務・飲食店での喫煙禁止・贈収賄に関する改正法
【ベトナム】サイバーセキュリティー法の施行
【インドネシア】OSSシステムのBKPMへの移管
【フィリピン】外資規制緩和の最新動向
【ミャンマー】競争委員会の設立及び外国銀行の内資企業への融資撤廃
【カンボジア】労働法のアップデート
【ラオス】付加価値税法の改正
【日本】労働基準法の一部改正

 

2019新年版ニューズレター

2018年01月11日(木)4:44 PM

ASEAN各国の新法の状況をご報告いたします。

 

シンガポール→ダウンロード

タイ→ダウンロード

マレーシア→ダウンロード

ベトナム→ダウンロード

インドネシア→ダウンロード

フィリピン→ダウンロード

ミャンマー→ダウンロード

ラオス→ダウンロード

日本→ダウンロード

 

2021年04月19日(月)12:20 PM
タイトル:最新 東南アジア・インドの労働法務
著者:One Asia Lawyers Group/弁護士法人One Asia  各国専門家

言語:日本語
発行元:中央経済社
発行日:2021年4月22日