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2021年06月04日(金)3:42 PM

日本等の外国判決のシンガポール裁判所における承認・執行手続についてニュースレターを発行しました。
PDF版は以下からご確認ください。

日本等の外国判決のシンガポール裁判所における承認・執行手続

 

日本等の外国判決のシンガポール裁判所における承認・執行手続

2021年6月
One Asia Lawyers Group代表
シンガポール法・日本法・アメリカNY州法弁護士 栗田 哲郎
シンガポール法弁護士 三好 健洋

1 概要

 シンガポールには、一部の諸外国で得た判決をシンガポールにおいて直接的に承認・執行することを認める法律(Reciprocal Enforcement of Judgments Act、Reciprocal Enforcement of Commonwealth Judgments、Choice of Court Agreements Act等)が存在する。ただし、これらの法律は、日本における判決の直接的な承認・執行を認めていない。

 したがって、日本で勝訴判決を得た者(以下、「原告」という)が当該勝訴判決をシンガポール国内において執行することを望む場合、当該判決を相手方(以下、「被告」という)に対して、シンガポールで直接的に承認・執行することはではない。

 そのため原告は、日本の判決による債務(以下、「日本の判決債務」という)を訴因として、被告に対してシンガポールで新たな訴訟手続きを開始する必要がある。すなわち、日本の判決を証拠の一つとして、別途シンガポールにおいて訴訟を提起する必要がある。

2 シンガポールにおける手続

 日本の判決債務をシンガポールで執行するためには、主に以下の2つのステージが存在する。

第一ステージ:

 まず、原告は、日本の判決債務をひとつの証拠してシンガポールの裁判所で訴訟を開始する。被告が出頭して訴訟を争うかどうかに応じて、被告に対する欠席判決(Default Judgement)または略式判決(Summary Judgement)(以下、「シンガポール判決」という)を得ることを目指す。

第二ステージ:

 原告は、第一ステージで取得したシンガポール判決をもとに、被告が支払いを行わない場合にはシンガポールにおいて強制執行手続きを行う。

3 第一ステージ:シンガポールでの日本の判決債務に関する新たな訴訟手続きの開始

 第一ステージでは、原告は、日本の判決が以下の3つの要件が満たされていることを証明する必要がある。

(i) 管轄権を有する裁判所からの判決であること、
(ii) 日本の法律に基づいて確定した判決であること、および
(iii) 確定した金額が示された判決あること。

 これらの要件がすべて満たされ、日本の裁判所の書類が被告に適切に送達され、日本の裁判所の訴訟に手続き的な瑕疵等がなければ、被告に対して略式判決を得ることは困難ではないものと考えられる。

 第1の要件については、日本の裁判所が有効に管轄権を有していたことを証明する必要がある。この点、訴因となる契約書の管轄条項に日本の裁判所が記載されている場合、あるいは日本以外の国が非排他的裁判権を有する条項などである場合には、基本的には問題にならない可能性が比較的高い。

 第2の要件については、日本の判決は、当事者間の権利を最終的に決定し、判決を下した日本の裁判所が変更や再審を行うことができない場合にのみ、「最終的かつ決定的」とみなされる。したがって、例えば、原告が取得した日本の判決が欠席判決である場合、当該欠席判決が最終的に与えられた判決である必要がある。他方、仮差押え判決などの暫定的判決の場合、当該要件が満たされない可能性がある。

 第3の要件については、日本の判決がシンガポールで執行可能であるためには、確定した明確な金額の支払いを求めるものでなければならない。つまり、日本の判決が特定の救済(差止命令や特定の履行など)を命じたもの場合、その救済はシンガポールでは原則として執行できない可能性が高い。他方、日本の判決が、確定された明確な金額の支払いと特定の救済の両方を認めた場合、判決の特定の救済の部分が執行不能であっても、判決の金銭部分は執行可能である。

 上記の3要件が満たされ、被告がシンガポールでの日本の判決の執行可能性に対して有効な抗弁を提起しない場合、原告は被告に対して略式判決を得ることができる可能性は比較的高いと考えられる。

4 第二ステージ:被告がシンガポール略式判決に基づく支払いを行わない場合の強制執行手続き

 被告 がシンガポールにおける略式判決に基づく債務を支払わない場合、原告は、当該略式判決を強制執行することとなる。当該強制執行手続きには複数の方法があり、最も適切な方法に応じて、原告は以下を行うことが可能である。

(i) 差し押さえおよび売却の令状を取得する、
(ii) 被告の資産調査を裁判所に申請する、
(iii) 差し押さえ手続きを開始する。

 また、被告 の支払いを促すために倒産手続きが有効であると判断される場合には、被告 の倒産を申請することも可能である[1]

5 まとめ

 かように、日本における判決は、シンガポールで直接的に執行することは認められていない。しかし、原告は、日本の判決で発生した判決債務を訴因として、被告に対して執行することが可能である。

 シンガポールに資産を有する相手、シンガポールの法人・個人等を提訴する際には、これらの執行方法や執行の実現可能性などを考慮した上で、適切な提訴地を検討することが求められよう。

 

[1] シンガポールの執行手続きの詳細は、下記のニューズレターを参照されたい。

https://oneasia.legal/6549 

2020年09月29日(火)4:20 PM

サンドボックス制度ーシンガポールと日本比較についてニュースレターを発行しました。

PDF版は以下からご確認下さい。

サンドボックス制度について

 

 

サンドボックス制度ーシンガポールと日本比較

 

 

2020 年9月28日

One Asia Lawyers シンガポール事務所

三好 健洋

 

1.制度比較の目的

 Agileな制度設計が求められる状況において、サンドボックスは非常に重要な制度である。日本においてより一層本制度が活用され、イノベーションをより多く生み出すエコシステムを構築することが求められる中で、大陸法、英米法という大きな前提の違いはあるものの、うまくいっているシンガポールから学ぶことは多くある。そこで両者の比較を通じて、日本の民間企業としてどうサンドボックスを活用すべきか、またサンドボックス制度そのものをアップデートする際にはどのような点に留意すべきかの検討材料とする。

 

2.       大陸法、英米法という法体系の違いがサンドボックスに影響を与えるか

 日本は大陸法、シンガポールはコモンローというそもそもの法体系の違いがあるが、法体系の違いがサンドボックスに影響を与えるのだろうか。

 大陸法とは、原則として成文法を中心とする法制度である。たとえば、日本で一般的な契約書に関する紛争が生じた場合、民法などを中心に判断が行われることとなる。

 他方、シンガポールはコモンロー制度の一国である。コモンローとは、原則として過去の判例を法律とする法体系をいう。例えば、一般的な契約に関する紛争が生じた場合、シンガポールには民法に類似した成文法は存在しないため、過去の類似した判例に基づき判断がなされることとなる。

 ただし、シンガポールを含むコモンロー諸国においても、成文法は存在し、シンガポールでは刑法(Penal Code)や証券先物法(Securities and Futures Act)などの成文法により、関連分野について規制が設けられている。特に、サンドボックスが関連する金融、医療、エネルギー開発などの法分野においては、成文法による規制がなされている。したがって、サンドボックスという観点からは、大陸法とコモンローによる違いは大きくないと言える。

 なお、日本では、対象範囲や期間を制限し、規制の趣旨や社会通念に照らして、特定の事業が”業”ではないと整理し、実験を行うことがある。他方、シンガポールでは、それぞれの当局に権限が明確に与えられているため、この権限を利用し、サンドボックスを設け、特定の企業に対して本来適用されるべき法律要件や規制要件を緩和し、管理・運営がなされている。

 

 

3.       マインドや状況の違い

 シンガポールはアジア屈指の金融都市であるが、ビジネス環境ランキングにおいてもニュージーランドに次ぐ世界2位である。また、個人に対する所得税も低く、キャピタルゲイン、インカムゲインに対して無税であることから、多くの投資家がシンガポールに集まる。さらに、メディアなどのごく一部の業種を除いて、外資規制もほとんど存在しない。法人等の設立も、すべてオンラインで完了し、10分程度で設立登記を完了することが可能である。

 上記のような環境を魅力に感じる起業家やスタートアップが多くシンガポールに集まり、投資を募り、新たな事業を開始する。また、シンガポールの国土は、東京都23区ほどの大きさであり、ほとんど自然資源を有しない。したがって、シンガポール政府としても、新たなビジネスを呼び込み、シンガポールでイノベーションを起こしていくことが必要不可欠であるため、各規制当局もイノベーションを積極的に取り入れていくプラットフォーム作りに積極的に取り組んできた。その一部として、サンドボックス制度が形成され、その利用を政府主導で進めてきた。

 

4.       プロセスでの比較

日本のプロセス

https://pnika.jp/articles/20200221

 

シンガポールでプロジェクトが採用するまでのプロセス

 シンガポールでは、サンドボックスが複数の省庁に設置され、それぞれの省庁が当局として各々のサンドボックスの管理・運営を行っている。例えば、シンガポール通貨金融庁(Monetary Authority of Singapore)(以下、「MAS」)、保健省(Ministry of Health)、国家環境庁(National Environment Agency)、エネルギー市場監督庁(Energy Market Authority of Singapore)などがサンドボックスを設置している。

 このうち、最も重要視されているサンドボックスの一つであるMASのサンドボックスを例に、シンガポールでプロジェクトが採用するまでのプロセスを紹介したい。

 MASは、FinTech規制サンドボックス(FinTech Regulatory Sandbox)を設けている。サンドボックスを利用した場合、金融機関やFinTech事業者は、明確に定義づけられた範囲と期間内において、ライブ環境で革新的な金融商品またはサービスを試すことが認められることとなる。

 サンドボックスへの参加を希望する場合には、はじめに、サンドボックスガイドラインに従って申請書と必要資料を、MAS担当窓口のメールアドレスFinTech_Sandbox@mas.gov.sgに送付する。

 MASは申請書の受領後、サンドボックスの評価基準に基づき、初期的審査を行う。その際、サンドボックスの期間中緩和される特定の法的要件および規制要件の検討も行う。申請書と必要書類の受領後21営業日以内に、初期的審査に基づき、申請がサンドボックスに潜在的に適しているか否かを申請者に通知する。その後、MASは更なる審査を行い、サンドボックスの対象の可否について最終的判断を申請者に伝える。

 

 なお、審査の際に考慮される評価基準は次の通りである。

 

評価基準

考慮点の例

(ただし、これらに限られない)

提案される金融サービスには、新しいテクノロジーや最先端技術が含まれているか、または既存のテクノロジーを革新的な方法で使用しているか。

·    提案された金融サービスは、既存の法規制ではシンガポールでは利用できないこと。

·    テクノロジーを利用して顧客体験を改善し、運用を合理化すること。

·    申請者は、関連する法的要件と規制要件を完全に満たすことができないため、サンドボックスの期間中の特定の法的要件と規制要件の緩和を申請していること、等。

提案される金融サービスは既存の問題に対処するか、あるいは消費者または業界に利益をもたらすか。

申請者は、サンドボックスを出た後、提案される金融サービスをより広い規模でシンガポールに展開する意図と能力を持っているか。

·    申請者は、100万ドルの資金を確保していること。

·    昨年に比べて人員を倍増させ、提案された金融サービスをより広範な規模でシンガポールに展開するための事業計画とロードマップを提供していること、等。

テストシナリオと期待される結果は明確であるか。

· サンドボックスは50人の顧客に制限され、顧客体験の改善を測定し、リスクエクスポージャーと緩和策を検証するために6か月間実行されること、等。

境界条件は適切であるか。

申請者により、提案されたサービスに存在する重要なリスクが、評価および軽減されているか。

· 提案されている金融サービスは、既に内部テスト環境において様々なリスクシナリオの下でテストされたこと。

· 提案された金融サービスを中止する必要がある場合は、スムーズなエグジットを確実にするために、サンドボックスの顧客に事前に通知すること、等。

明確な出口と移行戦略はあるか。

 

 上記の評価基準を満たし、サンドボックスへの参加が認められたのちは、実際のサンドボックス期間に入る。参加企業は、合意されたスケジュールに基づいてテストの進捗状況を定期的にMASに報告する義務を負っている。

 

 MASは、提案された金融サービス、申請者、および申請内容に応じて、サンドボックス期間中に緩和される特定の法的要件および規制要件を決定する。

 この点、(1)MASがサンドボックスの期間中に、緩和される可能性のある法的要件および規制要件の例と、(2)MASがサンドボックス期間中であっても、維持される法的要件および規制要件の例を次の通り記載する。この例を見ればわかる通り、機密保護などの基本的法的要件は、サンドボックス期間中にも維持される。

 

(1)サンドボックス期間中は緩和される可能性のある法的要件および規制要件の例

  1. 資産維持要件
  2. 取締役会構成
  3. 現金残高
  4. 信用格付け
  5. 財務の健全性
  6. 資金ソルベンシーと自己資本比率
  7. ライセンス料
  8. マネジメント経験
  9. MASのガイドライン
  10. 最小流動資産
  11. 最低払込資本金
  12. 相対的規模
  13. 評判
  14. 実績

 

(2)サンドボックス期間中も維持される法的要件および規制要件の例

  1. 顧客情報の機密保護
  2. 的確要件(特に正直さと誠実さに関する基準)
  3. 仲介者による顧客の資金と資産の取り扱い
  4. マネーロンダリング防止とテロ資金対策

 

 なお、サンドボックスには、当該参加企業による失敗の結果を封じ込め、金融システムの全体的な安全性と健全性を維持するための適切な保護手段が含まれている。すなわち、サンドボックス参加企業の失策等が、経済に多大な影響を防ぐシステムを用意しているのである。

 

 実験に成功し、サンドボックス期間が終了すると、サンドボックス参加企業は、既存の関連する法的要件および規制要件に完全に準拠する必要がある。なお、サンドボックス参加企業は、実験中の金融サービスに変更を加えたり、欠陥を修正したりするために延長を希望する場合には、MASに申請することによりサンドボックス期間の延長を認められることもある。

 

 日本の新技術等実証制度(プロジェクト型サンドボックス)においては、実証後の規制の見直しが行われる可能性があるとされている。

 他方、シンガポールのサンドボックスにおいては、サンドボックス期間の終了後は、対象事業者は既存の法的要件ならびに規制要件を満たして事業を行う必要があり、必ずしも実験中あるいは実験終了時における参加企業からのフィードバックが法制度の変更に利用されるものではない。ただし、主たる目的ではないものの、サンドボックスを通して、新たなテクノロジーやサービスを有する企業と規制当局の濃厚な情報共有は、将来、より実用的な規制の枠組みを形成するのに役立つ可能性が高い。それは、実用的で、新たな技術やサービスを取り入れることに積極的であるシンガポール政府の性質を鑑みれば、当然の結果とも言える。

 なお、シンガポール政府は民間等から意見の集約を行うため、シンガポール政府が新たな法規制を策定する場合や、既存の法律を改正する際、多くの場合に「Consultation Paper」を発行し、シンガポール政府や当局が検討している具体的な新法や改正の内容を公表し、民間ステークホルダーからの意見を求める。上記のサンドボックス制度も、そのようなプロセスを経て策定されたものである。

 

.       採用プロジェクトの比較

日本での採用プロジェクト

https://pnika.jp/articles/20200228

 

シンガポールの採用プロジェクト

 ここでは、FinTech規制サンドボックスの最初の「卒業生」となった保険ベンチャーのPolicyPalを紹介したい。

 

 

PolicyPalは、人々が保険契約をすべて1か所で整理して、保険契約を容易に管理できるアプリを提供するベンチャー企業である。人工知能を活用し、クライアントが保険を比較および購入する一助となっている。

 ポリシーパルのCEOであるバル・ヤップ氏は、自身が親族を亡くした際に、保険金を請求しようとしたが、その複雑な内容や膨大な書類の量に圧倒された経験があった。この経験をもとに、利用者がスマートフォンで写真を撮影することにより、保障内容が一覧できるアプリを開発したのである。

 事業を開始した際、消費者は保険をオンラインで購入したいと思っていたが、保険業ライセンスを持っていなかったため、保険を販売することができなかった。当該ライセンスの取得は、資本とコンプライアンスという側面において、非常にコストがかかるものであった。そこで、ヤップ氏は、「PolicyPalのプラットフォームは、新しいチャネルと革新的な保険契約のスキャン技術を提供することが可能であり、サンドボックスの要件に該当する」と考え、FinTech規制サンドボックスに申請することとしたのである。

 

 新興企業であったことから、サンドボックス申請時はライセンス取得要件を満たしていなかったものの、サンドボックスを利用することにより、MASからサンドボックス期間中のライセンス規制を免除されたのである。「無免許」ではあったが、サンドボックスに参加したことにより、消費者には事前に規制の適用外である旨の説明と共に保険を販売できることとなった。そして、サンドボックス期間中に経験値と資金を獲得し、ライセンス取得申請の準備を整え、サンドボックスの卒業から2ヶ月後には保険業ライセンスを取得したのである。

 現在は多くの保険会社と提携し、事業規模もアジア諸国に拡大中である。

 

6.       シンガポールから日本が学べること

 シンガポールのサンドボックスにおいては、申請からサンドボックスからのエグジットまで、該当する分野の規制当局と念密なコミュニケーションをとることが可能となるため、規制当局としても新興企業から直接学べる機会が自然と多くなる。ここにおける学びが、さらに実用的な法規制の策定につながり、最先端技術・サービスを排除しない的確な規制を行う法制度の拡充を速やかに行うことが可能となる。

 また、シンガポールでは、申請時からサンドボックスに参加するまでの期間を短縮する制度も設けられている。MASのFinTechサンドボックスは上述した通りであるが、経済への悪影響を最低限にとどめるため、申請後のリスクアセスメントに時間を要する。そのため、比較的リスクが低い事業についても、サンドボックスへの速やかな参加が困難であった。この問題を解決するため、2019年にはサンドボックス・エクスプレスを設け、保険業などの比較的リスクが低い事業から、段階的にサンドボックス・エクスプレスへの参加を認めている。参加企業は、長期に及ぶ可能性のある査定期間を待たず、通常21日以内にMASから

の結果通知を受けることができ、参加が認められれば速やかにサンドボックス・エクスプレスに参加することが可能である。この点、日本の規制サンドボックスにおいても、特定の低リスク事業を対象としたファストトラックの策定を検討する余地があるであろう。

 さらに、規制当局の力強いサポートも参考となりうる。一般的に、サンドボックスに申請した場合、規制当局との折衝で成長の速度が遅くなるリスクもある。しかし、シンガポールの規制当局は、サンドボックス参加企業に対して規制面からの助言や忠告を行うことにとどまらない。例えば、前述のPolicyPalがサンドボックスに参加した際にも、MASは申請時からエグジットまで、事業を伸ばすための建設的な提案を行っていたのである。国家の発展のために若い企業を支援し、国内からイノベーションを起こすことが必要不可欠であると考えるシンガポール政府の強みがここに垣間見られると考える。日本においても、サンドボックスに参加することにより逆に企業の成長が遅くなるということがないよう、参加企業の事業に関して建設的な提案を行う体制を整えることが望ましいと考える。

 

 

以 上

 

本記事やご相談に関するご照会は以下までお願い致します。
takehiro.miyoshi@oneasia.legal (三好 健洋)

2020年04月20日(月)10:46 AM

シンガポールにおけるコロナウィルスと不可抗力条項・フラストレーションの法理について報告致します。

コロナウィルスと不可抗力条項・フラストレーションの法理について

 

コロナウィルスと不可抗力条項・フラストレーションの法理

2020 年 4 月 20 日
One Asia Lawyers シンガポール
シンガポール法弁護士 三好 健洋

1.シンガポールの現状

 2020年2月7日、シンガポール政府は、Disease Outbreak Response System Condition (以下、「DORSCON」という)をイエローからオレンジへ変更しました。これは、コロナウイルスが広範な流行をもたらし、人と人との間で容易に感染するものの、国家的流行には至っておらず、国内においては抑制されていることを示したものです。

 DORSCONは現時点では継続してオレンジであるものの、シンガポール政府は3月23日から、全短期滞在者の入国を禁ずる措置を講じています。また、労働ビザを保有しているものについても、交通や医療などの「重要な産業」とされる産業に属する法人に勤務するものでなければ、その家族も含め、入国が許可されていません。

 また、3月26日には、映画館、バー、カラオケ、ナイトクラブ、学習塾等の営業が禁止され、さらに4月7日からは、重要サービスを提供する法人以外は、在宅勤務を除き、営業が原則的に禁止されています。

 きょうに、新たな規制により、労働力が不足し、観光客の急激な現象も一因となり消費が落ち込んでおりますが、現在の不透明な状況は今後もしばらく続くことが予想されます。

2.不可抗力(Force Majeure)について

 上記のような経済の行き先が不透明な状況の中、コロナの世界的流行により中国企業をはじめとして多くの企業が債務不履行に陥っている、または陥る可能性が非常に高い状況となっています。そのような状況において、企業法務では、コロナウィルスの世界的流行が、特定の契約の不可抗力条項に該当するか否かが重要な問題となりえます。

 「不可抗力(Force Majeure)」とは、「契約当事者がほとんど、あるいは全く制御することができない契約履行を妨げ得る状況について、両者が合意した契約上の条項」を意味します。シンガポールにおいては、不可抗力となる条件についての一般的なルールは存在しないとの見解が裁判所により示されており、ある状況が不可抗力とみなされるかどうかは、契約当事者が契約にどのような内容を記載したかによって異なるとされています。

 不可抗力条項の解釈をする際、シンガポールの裁判所は「不可抗力とは、いずれの契約当事者の失策によらず発生し、いずれの契約当事者も責任を負わない後発的な出来事に限られる」とみなすことが一般的です。

 契約当事者のいずれかが不可抗力条項を適用しようとする際は、当該事象が不可抗力の適用範囲にあることを示す義務を負います。それに加え、当該事象を回避し、あるいはその影響を最小限にする方法が存在しなかったことを証明する必要があります。それは、契約当事者は契約上の義務を果たすことが大前提であり、契約上の義務から解放されるのは、「ある後発的事象が、契約上の義務の履行を単に煩わしいものにしたのではなく、原則として不可能にした時」に限られるべきであると一般的に考えられるためである。

 また、不可抗力が発生した場合の救済方法は、「不可抗力」の契約上の文言によって異なります。例えば、不可抗力により機関の延長が認められる場合は、いずれかの契約当事者の選択により契約の解除が可能となる場合などがあります。

3.コロナウイルスの流行は不可抗力となるか?

 コロナウィルスと不可抗力の関係性について考察する際に最も重要なことは、「不可抗力条項が適用されるか否かは、それぞれの契約に記載された適用範囲によって大きく異なる」という点です。すなわち、異なウイルスの流行が不可抗力を構成するか否かは、契約上の文言に左右されます。

 もし契約に記載された不可抗力の例として「流行性(epidemic)」「世界的な感染危機(global health emergency)」「人々の安全や健康にリスクを与える出来事」等が挙げられている場合、現在のコロナウィルスの世界的流行は、不可抗力の要件の一つとみなされる可能性が高いと思料いたします。

 他方、契約において不可抗力の例が挙げられておらず、「契約上の義務を果たすことが不可能になる出来事」などと定義されているに留まる場合、当該条項を適用しウイルス流行を不可抗力とみなすには、「義務の履行のためにコストや出費が増加し、義務の履行が煩わしくなったこと」のみならず、「当該事象により義務履行が不可能になったこと」を証明する必要がございます。

 例えば、マレーシアの国境が閉鎖されたことにより、契約の履行に通常必要とされている物資または労働者がシンガポールに輸入・入国できない事態が発生しています。この場合、「当該事象の発生自体」あるいは「当該事象により契約義務履行の費用が上がった」等を理由に不可抗力を適用することは難しいと思料します。他方、代替の存在しない特定の物資や特定の労働者がシンガポールに輸入・入国できなかった場合等、「当該事象により契約義務履行が不可能となった」場合には、不可抗力を適用できる可能性はあると思料いたします。

なお、SARSなどの疫病が不可抗力となるか否かを直接的に判断した判例は、確認されておりません。

4. 契約に不可抗力条項の記載がない場合
 不可抗力条項の適用の有無については上記の通りですが、必ずしも不可抗力条項が契約に含まれているとは限りません。例えば、個人の賃貸借契約に不可抗力条項が含まれていないことは頻繁にございます。
 そのような場合、コモンロー(判例法)におけるフラストレーションの法理(Doctrine of Frustration)の適用により、当該契約から両契約当事者を解放する方法があります。
 当該法理は、契約時に契約当事者によって考えられていた契約義務の履行が、いずれの契約主体の失策にもよらず発生した後発的な出来事により、著しく異なるものとなった時に適用されます。これには、ある状況が契約の実行を不可能にした場合などが該当します。

 ただし、フラストレーションの法理は契約の文言に左右されないものの、その適用範囲は狭い概念であり、求められる要件も高いものとされています。シンガポールの裁判所が当該法理の適用可否を決める際、以下の要件を考慮します。

 1. 特定の事象が合理的に予見可能であったか。
 2. 契約当事者のコントロールが及ばなかったか。
 3. 当該事象は契約上の義務履行を不可能とするか、または契約当時に合意した内容から著しく
 根本的に異なるものとし、その契約義務の履行を行わせることが不当であるか。

 上記の要件に該当する場合、契約は履行不能となり、契約当事者は契約上の義務から解放されます。ここで重要なのは、単に追加のコストがかかることや、契約履行の煩わしさのみならず、その後発的事象が契約上の義務の本質を変化させるものであるか否かという点です。シンガポールの裁判所は、単に高値掴みから逃れるためにフラストレーションの法理を適用させることを認めていません。

5. 疫病の流行とフラストレーションの法理

 コロナウイルスの世界的流行は、一見、予期せぬ出来事であるように思われます。しかし、2003年の SARS の世界的流行の際、シンガポールと同様にコモンローに基づく法制度を有する香港の裁判所は、SARS の発生が予期せぬ出来事であると断定的には判断せず、未だ議論の余地があるとの意見を示しました。

 また、SARS の発生以来、鳥インフルエンザ、エボラ、ジカなどの他の流行がありました。その観点から見ると、今回新たに出現したコロナウイルスの発生は、もはや契約当事者が予期しなかった出来事ではなくなったと解することも不可能ではありません。この点、現在のところシンガポールの裁判所において、「疫病の流行により、フラストレーションの法理が適用される」という明確な判例は存しておりません。
 しかし、たとえ疫病の流行が予見可能であったとしても、「コロナウイルスの発生に対する都市全体の封鎖等の公衆衛生的対応は、予測不可能であった」と主張することが可能であると思料いたします。
 今回、Ministry of Health、Ministry of Manpower、Immigration Checkpoint Authority をはじめとした政府機関の新たな規制等により生じた、労働者がシンガポールに入国できず、自宅待機命令により自宅を離れられない等の一連の出来事は、契約者の制御の及ばない、予測不可能である事象とみなされる可能性が高いかと存じます。 

 さらに、上記の予見可能性に加えて、コロナの流行が契約上の義務を本質的に異なるものとさせるか否か、という点が重要になります。すなわち、感染拡大や政府の各種対策による労働者不足・サプライチェーンの混乱、国境封鎖、都市封鎖、営業停止命令等の事象の発生により当然に、フラストレーションの法理を適用するのではなく、それらの事象により、契約上の義務履行が、契約当時に合意した内容から著しく根本的に異なるものとされ、その契約義務の履行を行わせることが不当であるか否かが重要な点となります。
 したがって、それぞれの契約内容・期間・目的、具体的な状況等を総合的に検討し、関連契約にフラストレーションの法理が適用されるか否かを判断することが重要であると思料いたします。
 なお、フラストレーションの法理の適用例として、以下の 4 つのケースが挙げられます。
 1 つ目の例は、契約履行に必要不可欠である人員や物が一時的に利用できなくなった場合です。ただし、特定の期間中に契約義務が履行されるべき旨の記載があり、かつ履行時期が契約の本質的な目的である場合に限られる可能性が高いと思料いたします。
 2 つ目の例は、特定の入手先から取得するはずであった契約の目的物が、契約当事者の責任に寄らず利用できなくなった場合です。これには、目的物が特定の国から輸入されるところ、禁輸措置など、契約当事者のコントロールの範囲を超える事由によって輸入できなくなった場合などが含まれます。
 ただし、追加費用で特定の目的物を入手できる場合には、たとえそれが高額であっても、フラストレーションの法理は適用されない可能性もありますため、留意が必要です。

 3 つ目の例は、契約に規定されている履行方法が利用できなくなった場合です。ただし、別の履行方法が可能であり、2 つの履行方法が根本的に異ならない場合には、フラストレーションの法理は適用されない可能性があるため留意が必要です。
 4 つ目の例は、法律の改正により契約が違法になった場合です。例えば、今回のコロナ禍においてシンガポール政府が施行した新規制により契約が違法になった場合などが、この例に含まれます。

6.まとめ

 上記の通り、不可抗力条項の適用有無は、契約書の文言に大きく左右され、不可抗力条項の適用有無が不透明な状況で、一方的な契約不履行を行った場合、契約違反として損害賠償等の責を問われる可能性もございます。したがって、弁護士等の法的助言を得ることが推奨されます。

 また、フラストレーションの法理(Doctrine of Frustration)の適用は稀であり、コロナウィルスの世界的流行により費用の増加等のみを事由として当該法理を適用することは困難であるものの、契約上の義務履行が、契約当時に合意した内容から著しく根本的に異なるものとされ、その契約義務の履行を行わせることが不当である場合には、関連契約に対してフラストレーションの法理の適用がなされる余地があるかと存じます。

 さらに、今回の事象を契機に、不可抗力条項を含め、不測の事態を想定した契約書のドラフティングを行っていくことが必要であると思われます。

以上

2019年05月22日(水)10:04 AM

シンガポール刑法の主な変更点について報告いたします。

→刑法の主な変更点について

 

刑法改正法案:シンガポール刑法の主な変更点

2019年5月22日

One Asia Lawyers シンガポール

1、イントロダクション

 シンガポール議会は、2019年5月6日、刑法改正法案を可決しました。今回の改正は、2007年以来の大規模な改正となります。同法案は、ほぼすべての条項について、2020年早々に発効されるとされています。

 今回の改正には、盗撮やリベンジポルノなどの新たな性犯罪への取り組みも含まれており、また、未成年者などの弱者に対する犯罪行為からの保護を強化し、さらに自殺を非犯罪化することなども含まれています。

 ここでは、主な改正内容について解説いたします。

2、性犯罪類型の追加(盗撮・リベンジポルノ)

 同法改正により、初めて、下着の撮影等の盗撮行為が、直接的規定により、明確に犯罪化されます。これまで、同様の行為は、刑法第509条における女性への侮辱行為、およびフィルム法(Films Act)における犯罪行為として処罰されてきました。

 前述の刑法改正により、盗撮行為は第377BB条により「盗撮(voyeurism)」として処罰され、最大刑期は、刑法第509条による最大1年の懲役から、2年の懲役に強化されます。さらに、盗撮行為に対する刑罰の選択肢の一つとして、鞭打ち刑が追加されます。

 日本では、盗撮等を行った場合でも、初犯であれば示談により起訴まで至らないことも多々ありますが、シンガポールでは、多くの場合、起訴にいたします。

 また、新たな条文の制定により、被害者の性行為等の親密な記録を配布する、または配布することを脅迫する、いわゆる「リベンジポルノ」も、明確に処罰対象として規定されます。有罪となったものは、最長5年間の懲役刑を処されることとなり、罰金および鞭打ち刑を科されることもあります。なお、14歳未満の者に対して行った場合には、必ず実刑に処されることとなります。

 リベンジポルノは、インターネット等で拡散され、繰り返し閲覧され共有される可能性があり、削除することはほとんど不可能です。強化された罰則規定は、そのような犠牲者に与えられうる深刻な被害を反映しているとも解し得ます。

 また、前述の刑法改正により、承諾なく性器の写真を共有する行為や、性行為等の親密な画像を含むデータベースや記録への違法なアクセスなど、サイバー性的露出が犯罪とされます。

 日本においてもこのようなリベンジポルノは従前刑法第175条1項の定める「わいせつ物領布等の罪」として処罰されていたところ、2014年にいわゆるリベンジポルノ防止法が施行され、動向囲が犯罪であり、処罰の対象であることがより明確にされました。

3、性行為における虚偽

 前述の刑法改正により、男性が性行為の前または最中に無断で避妊具を取る、いわゆる「スティールシング(Stealthing)」といった行為も、犯罪とされます。また、性病であることを隠して性行為を行う者も罰されることとなります。当該改正は、性行為や性病に関する虚偽や虚偽表示がもたらす深刻なリスク、および被害者の性的自治への侵害に対処するために導入されました。

 日本において同様な規定は存在せず、スティールシングがあっても、その後に暴行又は脅迫をして性交等をした等の行為がなければ犯罪にはならないと考えられます。

4、夫婦間におけるレイプの犯罪化・強姦罪の定義拡大

 前述の刑法改正により、夫婦間の同意なしに性交が行われた場合には、レイプとして処罰されます。現行の法律の下では、夫婦間においては、夫婦関係が明らかに崩壊している場合を除いて、合意がない性交はレイプとはされていません。

 なお、当該改正が悪用されることを防ぐために、公務員への虚偽の情報提供については、懲役刑がこれまでの2倍である2年とされます。

 また、前述の刑法改正により、強姦には肛門と口への陰茎の貫通を含むと明記され、これまでの「膣への貫通」よりもさらに定義が拡大されました。

 日本においても判例上、夫婦間でも強姦罪や強制わいせつ罪は成立するとされております。なお、日本でも2017年に大幅な刑法改正が行われ、強姦罪から強制性交財に名称変更がなされて被害者の性別を問わなくなるとともに、法定刑の下限が引上げられ、被害者の告訴なしに起訴ができるようになりました。

5、未成年者に対する性的搾取からの保護

 現在、シンガポールの性的同意年齢は16歳であり、16歳未満との性交は、同意がある場合であっても犯罪とされています。しかし、現行の法律では、16歳から18歳までの未成年者を、「グルーミング(成人が性的行為を目的として青少年に接触し親しくなる行為)」等の性的搾取から完全に保護することはできていません。前述の刑法改正により、16歳以上18歳未満の者に対しても、性的搾取からの保護が適用されることとなります。

 なお、これまでと同様に、シンガポール人およびシンガポール永住権が、シンガポール国外で18歳未満の者と、対価の支払いにより性行為を行った場合には、シンガポール国内で当該行為を行ったものと同様に罰されます。

 また、前述の刑法改正により、18歳未満の者を保護するために以下の行為が犯罪とされます。

 ・未成年者との性的コミュニケーション

 ・未成年者に性的画像をみせる行為

 ・未成年者の前で性行為を行う

 さらに、前述の刑法改正により、卑猥な子供ドールの所持、製造、販売および配布が、違法となります。

 日本においては13歳未満の者との性交は同意がある場合でも強制性交罪が成立するところ、前述の日本における刑法改正により、18歳未満の者に対して親などの監護者がわいせつな行為をした場合には暴行や脅迫がなくても処罰されることになっております。

6、刑事責任能力年齢を7歳から10歳以上へ引き上げ

 現行の法律においては、7歳の子供、および行動の性質と結果を理解することができない7歳以上12歳未満の子供は、違法行為となる行動または不作為に対して、刑事責任を問われることはありません。

 前述の刑法改正により、刑事責任能力年齢が7歳から10歳に引き上げられます。したがって、10歳の子供、および行動の性質と結果を理解することができない10歳以上12歳未満の子供は、刑事責任を問われることはなくなります。ただし、内務省によれば、子供が犯罪行為を行った場合に当局が介入することを可能にする枠組みを開発しているとのことであり、当該刑事責任能力年齢の引き上げは、当該リハビリテーションの枠組みが完成したのちに、発効されるとされています。

 日本においては刑法において14歳未満の者の行為は処罰されないとした上で、14歳未満の者で刑事法令に触れる行為をした者(触法少年)は、少年法により審判に付され、保護処分(保護観察、少年院送致等)等の対象となるとされています。

7、弱者の死亡・傷害における「加害者」でないものへの罰則

 前述の刑法改正により、弱者(14歳未満の子供、または障害者やメイドを含むその他の弱者)が死亡した、または重傷を負った場合、その行為を行ったもののみならず、直接的には課外を加えていないであろうが、被害者を守ることができなかった保護者等も罰されることとなります。有罪となった場合には、最長20年の懲役刑、罰金、および/または鞭打ちの刑に処される可能性があります。 

 法務大臣によれば、誰が加害者であるかを証明することは、時に非常に困難であり、このような状況を解決するため、被害者の死亡や重傷を起こした加害者本人のみならず、被害者を守ることができなかった保護者等も罰されることとなります。

 日本において上記のような規定は存在せず、殺人、傷害致死、保護責任者遺棄、不保護罪等の共犯に該当しない場合には処罰の対象とはならないものと考えられます。

8、自殺未遂の共犯罪化

 現在、自殺未遂は起訴の対象とされています。しかし、自殺未遂した者を「犯罪者」と分類すると、感情状態を悪化させる可能性があるため、前述の刑法改正により非犯罪化されます。ただし、石による自殺幇助を含む自殺幇助は、今後も継続して犯罪であり、最長懲役間は、現在の1年から10年に強化されます。また、被害者が未成年者または精神的能力に欠けている場合は、最長20年の懲役刑に処される可能性があります。

 日本において、自殺は犯罪とはされていませんが、自殺の教唆(そそのかして自殺させること)や自殺の幇助、嘱託殺人(被害者に頼まれて殺害すること)又は被害者の承諾を得て殺害した場合は6月以上7年以下の懲役又は禁固に処するとされております(刑法202条)。

9、まとめ

 上記に見られるように、今回の法改正は、技術の進歩や、新たな犯罪類型へ対応するとともに、弱者の保護、夫婦間のレイプの違法化や、自殺未遂の非犯罪化等、今日のシンガポール政府の立場を明確にする内容となっています。

 シンガポールに在住する日本人が被害に遭うケース、あるいは加害者となるケースも皆無ではありません。個人のみならず、法人においても、2020年早々に想定されている刑法改正に備え、刑法上の義務等も含め、より一層の慎重な配慮をする必要があると思われます。

以上

 

2019年01月23日(水)1:02 PM

ASEAN各国の新法状況をご報告いたします。

 

【シンガポール】決算サービス法案
【タイ】労働者保護法・刑事手続法関連の改正及びIBC制度の創設
【マレーシア】外国人社会保険義務・飲食店での喫煙禁止・贈収賄に関する改正法
【ベトナム】サイバーセキュリティー法の施行
【インドネシア】OSSシステムのBKPMへの移管
【フィリピン】外資規制緩和の最新動向
【ミャンマー】競争委員会の設立及び外国銀行の内資企業への融資撤廃
【カンボジア】労働法のアップデート
【ラオス】付加価値税法の改正
【日本】労働基準法の一部改正

2019新年版ニューズレター

 

One Asia Lawyers ニューズレター

2019年:新年特別号

シンガポール

■シンガポール決済サービス法案(Payment Services Bill)の概要

1 決済サ-ビスの規制枠組みの刷新

 現在のシンガポールにおける決済サービスに対する規制は、決済システム法(Payment System Act)と両替・送金業法(Money-changing and Remittance Business Act)によって行われていますが、仮想通貨ビジネスをはじめとするフィンテックの急激な進展により、実情に十分に対応できなくなってきたことから、既存の2つの法律に置き換わる形で、新法を制定する方向で審議が進められています。

 シンガポールにおいて仮想通貨関連サービスを提供する企業のみならず、決済に関するサービスを提供する企業全般に関わる規制枠組みの刷新となるため、その影響は大きくなるものと思われます。

2 新ライセンスの種類

 この新法案では、

(1) 両替サービス(money-changing service)、
(2) 決済口座発行サービス(account issuance service)、
(3) 国内送金(domestic money transfer service)、
(4) 海外送金サービス(cross border money transfer service)、
(5) アクワイアリング(加盟店獲得)サービス(merchant acquisition service)、
(6) 電子マネー発行サービス(e-money issuance)、
(7) デジタル決済トークンサービス(digital payment token service)

の7つの事業に対してライセンスの取得を義務付けています(同法案6条4項)。

 このうち、(1)両替サービスの実施には、両替サービスライセンス(money-changing licence)の取得が要求されます(同2項)。

 そして、上記(2)~(7)のサービスの実施については、標準決済機関ライセンス(standard payment institution licence)又は、大規模決済機関ライセンス(major payment institution licence)の取得が義務付けられます(同4項)。

 このうち、(2)の決済口座発行サービスを電子的に提供する場合及び、(6)の電子マネー発行サービスの提供については、シンガポール居住者に対して発行した電子マネーの金額、又は、その保管額が1日当たり平均500万SGD(約4億円)を超える場合には、大規模決済機関ライセンスが、それ以下の場合には、標準決済機関ライセンスが必要になります(同5項)。

 そして、(2)~(7)のうち上記を除くサービス提供については、月間の平均取引高が300万SGD(約2億4000万円)を超える場合には、大規模決済機関ライセンスが、それ以下の場合には、標準決済機関ライセンスが必要になります(同5項)。

 これらの規制に反して無許可で事業を行った場合には、3年以下の懲役又は12万5000SGD以下の罰金が科される可能性があります。

3 決済機関ライセンスの条件

 上記2種類の決済機関ライセンスの取得に共通して必要な主な条件は、

(1) 法人であること(シンガポール国内法人であることは必須条件ではない)

(2) シンガポール国内に永続的な事業所又は登録オフィスがあること

(3) シンガポール国籍保有者か同永住者の常任の取締役が1人以上いること

(4) その他当局が規定する財務的経営的な条件

です(同9項)。

 さらに、大規模決済機関ライセンスを取得した事業者は、毎年会計監査を受けなければならず(同37条)、株式の持分割合等の支配権の変動の制限(同28条)、役員等の当局による解任(同35条)等の規制を受けます。

4 仮想通貨ビジネス(取引所運営やICO)へのライセンス制の導入

 本法案が施行されるまでの現行法の下、シンガポールでは、仮想通貨の取引所の運営やICOの実施について、証券法の適用範囲に該当しない限りは、特段の規制は存在しません。

 しかし、今回の法案では、仮想通貨の交換業に関しては、決済機関ライセンスの取得を明確に義務付けました(ただし、商品やサービスの売却の決済手段として仮想通貨を受け取る行為や、購入の決済手段として仮想通貨を利用する行為は規制対象に含まれません)。

 具体的にライセンスの取得が求められる仮想通貨関連サービスは、

(1) Digital Payment Tokenの取扱い

(2) Digital Payment Tokenの交換の促進

(3) その他当局が指定するDigital Payment Tokenに関連するサービス

に関するサービスをシンガポール国内で提供するものと定義されています。

 上記「Digital Payment Token」の意義については、仮想通貨全般を指すものではなく、仮想通貨の性質が、商品、サービス又は債務の支払いの媒体として少なくとも公衆の一部に受け入れられているものに限るという限定が加えられました(正式な法案作成の前段階で公表される草稿ではこの限定はありませんでした。)。

 この「Digital Payment Tokenの取扱い」にICOが含まれるのか、つまり、ICOの実施にライセンスの取得が必要なのかについては、主に、ICOにおいて発行されるトークンが、この「Digital Payment Token」に該当するかによって判断されることになります。そして、前述の「商品、サービス又は債務の支払いの媒体として少なくとも公衆の一部に受け入れられている」かという基準は、どの程度の流通範囲をもって「公衆の一部」とするのか等、曖昧な点が残るものとなっています。この点について、シンガポール金融庁(MAS)のガイドライン(A GUIDE TO DIGITAL  TOKEN OFFERINGS)の中に参考事例と解釈基準が記載されていますが(同ガイドラインP10以降、末尾のリンク参照)、ここにおいても、仮想通貨発行体(ICO実施主体)が提供するサービスの対価としてのみ使用可能なトークンを発行するICOについてライセンスの取得が不要であることが示されているにすぎません。

 したがって、多くのICO案件で採用されているトークンが流通するプラットフォームにおいて一種のトークンエコノミーを構築するようなプロジェクト(つまりICO実施主体以外の企業もトークンを受領してサービスを提供するビジネスモデル)においては、ライセンスの取得の要否が必ずしも明確ではありません。

 仮に、発行するトークンが「Digital Payment Token」に該当する場合であっても、ICO実施主体が自ら交換サービスを提供する限りにおいて、ライセンスの取得が必要というのがMASの見解のようですので、外部の取引所を介してICOを実施するいわゆるIEOであれば、ICO発行主体自体にはライセンスは不要という解釈ができる可能性は残っています。

 他方で、データのやり取りや情報技術、通信手段、決済機器の提供やメンテナンスといった技術サービスの提供については、送金のために法定通貨を保持することがない限り、ライセンスの取得は不要とされています。

 また、仮想通貨を顧客への無償のリワードやロイヤリティー、又は、ゲーム内通貨として利用・発行する場合には、ライセンスの取得は不要とされています。ただし、それが、トークン発行体に対して返還可能である場合は法定通貨との交換のために第三者に売却や譲渡が可能である場合んは、ライセンスの取得が求められます。

5.ライセンスの取得までの猶予期間

 仮想通貨関連サービスについては、法案が成立してから6か月間、その他の決済サービスについてへは法案成立から1年間は、ライセンスの取得が猶予されます。

以上

タイ

タイにおける最新の法改正等について

 タイでは、労働者保護法の改正が予定されており、また、最低賃金の引き上げがありました。

 また、刑事手続法関連の改正予定もされており、さらに、International Business Center(IBC)制度の創設もありました。以下の通り、概要を紹介します。

2 労働者保護法の改正、特定の職業における最低賃金の引き上げ

 2018年12月13日、タイのNational Legislative Assemblyは以下の改正点を含む労働者保護法改正案を承認しました。改正法は、本年中に施行されるものと思われます。

 まず、新たな法定休暇として、1年に3日間の私用休暇が認められることとなります。私用休暇は有給とされ、従前の各種休暇のように目的や理由が限定されていないので、従業イオンにとって利用しやすいものとなります。

 また、女性の妊娠・出産休暇の期間が98日に延長されます(期間中の休日を含む)。このうち45日が有給となる点は従前と同様です。

 さらに、解雇補償金の上限が上がり、勤続20年以上の従業員に対しては、最終賃金の400日分以上の解雇補償金を支払うことが義務付けられます。

 最低賃金については、2018年4月に都県ごとの最低賃金が定められ、すべての都県において引上げあられましたが、2019年1月より、さらに機械、工芸、流通、家具製作等19種の職業について最低賃金の引き上げがなされています。

3 刑事手続法関連の改正

 刑事関連手続法の改正草案によれば、一般市民によって刑事訴訟が申立てされた場合、裁判所は特に内容をより精査することとし、申立者が、正当な理由なく裁判所の命令等に従わない場合など不誠実と判断された場合は、申立人は同一の申立をできなくなります。

 また、これまで保釈は5年を超える懲役刑については認められていませんでしたが、改正により最長で10年の懲役刑の場合について、保釈が認められ得ることになりました。

4 International Business Center(IBC)制度の創設

 The Board Of Investment of Thailand(BOI)及びRevenue Department(歳入局)は、従前運用していたITCやIHQの投資奨励及び税務インセンティブ制度を廃止し、新たにInternational Business Center(IBC)制度を創設しました。既にITCやIHQの認可を受けている企業に関しては従前の恩典はその受益期間中は引き続き与えられます。

 IBCの主な申請条件と恩典内容は次の通りです。

【申請条件】

・奨励事業(組織管理、事業計画、原材料の調達、研究開発、技術サポート等)を対象とすること

・登録資本金が1,000万バーツ以上であること

・奨励事業に関する知識・スキルを持った従業員を10人以上雇用すること

・歳入局への申請に関し、年間経費が6,000万バーツ以上であること

 当該年間経費には、IBC事業に関連するすべての経費を含みます。具体的には、従業員の給料光熱費及び賃料等を参入することが可能となっています。

【BOIの恩典内容】

・研究開発設備に関する一定の輸入関税の免除

・外貨での外国送金の許可

・土地保有が可能

・外国人の就労許可の緩和

【歳入局の恩典内容】

・法人税の軽減税率

 IBC関連事業によるタイ国内での経費の支出額により、3%から8%までの軽減税率が適用されます。従前は国外関連会社か国内関連会社か等によるインセンティブの違いがありましたが、IBCでは統一されることとなります。

・子会社からの配当収入にかかる法人税の免除

・子会社の財務管理業務に係る特定事業税の免除やIBCから在外株主・債権者への配当・利息支払いにかかる源泉税の免除

 上記のように、歳入局の恩典を受けるために必要であった最低経費が従前の制度では、1,500万バーツであったものがIBCでは6000万バーツ以上へと引き上げられている点などから、従前の制度よりも恩典が少なくなったといえます。

 このIBC制度は開始されたばかりですので、引き続き今後の当局の運用動向に注視が必要です。

以上

マレーシア

■外国人社会保険加入義務・飲食店での喫煙禁止・贈収賄に関する法改正

1 はじめに

 2019年のはじめから外国人社会保険加入義務及び飲食店での喫煙禁止に関する法改正がございましたので、本ニュースレターで記載させていただきます。また、前号のニュースレターで送付させていただいた贈収賄に関する法改正についても重要と考えられ、かつ施行が未定の部分がございますので、併せて記載させていただきます。

2 外国人社会保険加入義務に関する法改正

 (a) 社会保障制度の概要

    マレーシアの社会保障制度としては、社会保障機構(Social Security Organization: SOCSO)がEmployee’s Social Security Act 1969に基づき、Employment Injury Scheme(労災保険制度)及びInvalidity Scheme(障害年金制度)を提供しています。

 (b) 外国人の社会保障制度に関する加入義務

    これまでこの社会保障制度の加入義務はマレーシア人に限定されていましたが、2019年1月1日より、外国人にも加入義務が課せられるようになりました。これによって、外国人を雇用する者は、従業員をSOCSOに登録し、Employment Injury Schemeについて掛金を拠出することが義務付けられました。

 (c) 給付金の内容

    Employment Injury Schmeの給付には、医療給付金、一時的障害給付金、永久的障害給付金、工恒常的看護給付金、扶養家族給付金、葬儀給付金、教育給付金、リハビリが含まれます。なお、Invalidity Schemeについては外国人は対象外となっています。

3 飲食店での喫煙禁止に関する法改正

 (a) 規則の施行

    2019年1月1日にControl of Tobacco Product (Amendment) Regulations 2018が施行されました、この規制によって、飲食施設(eating place)における喫煙が全面的に禁止されることになります。

 (b) 禁煙対象の飲食施設

    禁煙対象の飲食施設は、屋外または屋内を問わず、食品が調理、提供および販売される場所であり、以下が含まれます(Regulation2, eating placeの定義)。

   ・食品が調理、提供または販売される部屋(船舶または電車内の部屋を含む)

   ・食品が調理、提供または販売される乗物およびその半径3メートル以内のエリア

   ・食品が調理、提供または販売する目的で設置されたテーブルまたは椅子の半径3メートル以内のエリア

 上記の禁煙対象にはフードコートや屋台なども含まれ、違反者は最高1万リンギットまたは2年以下の禁固刑が科せられます(Regulation11(3))。

 (c) 罰則

    この規制では、飲食施設側に対しても喫煙防止に努める義務が規定されており、(1)規定に従った禁煙サインを掲示した上で、(2)施設範囲内での喫煙が行われないよう徹底しなければなりません。(1)に違反した場合は最高3000リンギットまたは6か月以内の禁固刑、(2)に違反した場合は最高5000リンギットまたは1年以内の禁固刑がそれぞれ科せられます(Regulation12)。

 (d) 猶予期間

    2019年1月1日の施行後の最初の6か月間は猶予期間とし、違反者に対する措置は警告にとどまるとされていますが、警告に応じない場合は猶予期間中でも罰則が課せられる場合があると発表されています。

4 MACC法改正

 マレーシアでは、汚職対策として汚職防止委員会(Malaysia Anti-Corruption Commission:以下「MACC」)を設置し、汚職防止やそれに関わる規則を定めたマレーシア汚職防止委員会法(Malaysian Anti-Corruption Commission Act 2009:以下「MACC法」)が施行されています。

 これまでのMACC法では、個人を違反・罰則の対象としていましたが、責任の範囲を会社に拡大するための同法改正法(Malaysian Anti-Corruption Commission (Amendment) Act 2018:以下「MACC 改正法」)が、2018年5月4日に公布されました。今回の改正では、会社が組織内における汚職防止の対策を講じることを奨励するため、会社の責任に関する規定(MACC改正法4条により追加されたMACC法17A条:以下「新17A条」)が追加されています。これは実際に汚職を行った従業員などの会社関係者だけではなく、適切な汚職防止措置をとったことについての反証がない限り、会社にも責任が負わされる両罰規定となっており、マレーシアにおける贈賄に関する重要な改正と考えられますので、新17A条の主な内容を以下で説明させていただきます。

 なお、MACC改正法は新17A条追加以外の条項につき、2018年10月1日に施行されています。新17A条は2020年までに施行されるとの新聞報道がありますが、施行時期について、今後の動向に注意が必要となります。

詳しくは前号のニュースレターをご覧ください。

以上

ベトナム

ベトナムにおけるサイバーセキュリティ法の施行について

1 はじめに

 2019年1月1日から、ベトナムでサイバー空間の安全保障について規定した「サイバーセキュリティ法」が発効しています。

 2018年5月国会での法案審議時には、同じタイミングで審議された「経済特区報」に対する反対とともに、言論の自由が奪われるといった声を中心に、ベトナム国内でデモ等の大規模な抗議活動が行われました。

 この法律では、ウェブサイト等に掲載してはならない情報を具体的に定めるとともに、公安当局によるユーザー情報の収集に関する規定を設け、インターネットサービス事業者に個人情報等のデータのベトナム国内での保管義務を定めています。EUの一般データ保護規則(GDPR)や中国のサイバーセキュリティ法など、世界各国で個人情報保護やサイバー空間のセキュリティに関する法規制が強まるなか、ベトナム向けにネット関連サービスを提供する企業にとって非常に重要度の高い法律と言えます。

2 サイバーセキュリティ法のスコープ

 本法は、「サイバー空間における国家の安全保護と、社会的秩序、安全の保障について規定」(第1条)したものであり、「サイバーセキュリティ」を「サイバー空間における活動を、国家の安全、社会的秩序、安全、機関、組織、個人の合法的な権利、利益を既存しないよう保障すること」(第2条1項)、「サイバーセキュリティの保護」を「サイバーセキュリティを侵害する行為を防止、発見、阻止、処理すること」(第2条2項)と定義しています。

 また、「サイバー空間」については、「ITインフラ施設の接続されたネットワークであり、通信網、インターネット網、コンピュータ網、情報システム、情報処理・統制システム、データベースを含み、空間や時間に制限されずに人間が社会的行為を実行する場」と定義しています。

3 禁止事項

 本法では、サイバー攻撃やサイバーテロの実行、通信網やインターネット網の活動を妨害するソフトウェア・ツール等の制作・使用、サイバーセキュリティ保護当局の活動妨害(第8条2、3、4項)のほか、サイバー空間を用いて次のような行為を実施することを禁止しています。

a) 本法第18条1項で定める行為

b) ベトナム社会主義共和国に反対する人間を組織、活動、結託、扇動、買収、騙す、引き込む、育成、訓練する行為

c) 歴史を歪曲する、革命の成果を否定する、全民族の大団結を破壊する、宗教を侵害する、性差別する、人種差別する行為

d) 事実と異なる情報により国民を動揺させる、経済・社会活動に損害を引き起こす、国家機関あるいは公務執行者の活動に困難を引き起こす、機関、組織、個人の合法的な権利・利益を侵害する行為

e) 売春、社会悪、人身売買、わいせつ、退廃、犯罪情報の掲載、民族、社会的モラル、共同体の健康の醇風美俗を破壊する行為

f) 他人を犯罪に扇動する、引き込む、けしかける行為

(第8条1項)

4 ベトナム国内でのデータ保管・支店/駐在員事務所の設置義務

 本法では、「ベトナムにおける通信網、インターネット網上でサービス、サイバー空間上で付加サービスを提供する国内・外国企業に対する、ユーザーがデジタルアカウント登録する際の情報の認証や、ユーザー情報・アカウントの保護、サイバーセキュリティに関する違法行為の調査のために、公安省に属するサイバーセキュリティ保護当局から書面で要請があった際のユーザー情報の提供」(第26条2項a)、「本法第16条1~5項で定める内容を含む情報の当局から要請があった時点から24時間以内のシェア遮断、情報削除、および政府が定める期間のログの保管(第26条2項b)、「個人情報、サービスユーザーの関係に関するデータ、ベトナムでサービスユーザーによって作成されたデータを収集、利用、分析、処理する活動を行う、ベトナムにおける通信網、インターネット網上でサービス、サイバー空間上で付加サービスを提供する国内外の企業は、政府が定める期間ベトナムにこれらのデータを保管し、外国企業についてはベトナムに支店あるいは駐在員事務所を設置しなければならない(第26条3項)といった責任を課しています。

5 細則と今後の実務運用の見通し

 本法は2019年1月1日に発効し、すでにフェイスブックの違反が指摘されたことなどが報じられていますが、本原稿の執筆時点(2019年1月9日)では、本法の細則を定めた政令やガイドライン通達等が公告されたことは確認できておりません。ベトナムでは下位規則の整備に時間がかかることが多いため、今後公告される細則政令やガイドライン通達を待ちつつ、動向を注視していく必要があります。

以上

インドネシア

■インドネシアにおけるOSSシステムのBKPMへの移管について

1 OSSシステムのBKPMへの移管

 インドネシア政府は、2018年12月21日、同年6月21日から導入されているインドネシアにおける各種ライセンスに関するオンラインシングルサブミッション(OSS)システム(その概要については、後記2のとおり)の管轄を、同システム導入後所管していたインドネシア経済担当調整大臣府(Coordinating Ministry for Economic Affairs(CMEA))から、インドネシア投資調整庁(Investment Coordinating Board(BKPM))に移管する旨のCMEAアナウンスメントを発表しました。

2 OSSシステムの意義及び目的

 上記アナウンスメントに先立つ2018年6月、インドネシア政府は、電子的統合事業ライセンスサービスに関する2018年政府規制24号(GR24/2018)を交付し、同規制は同年6月21日から施行されています。同規制の最大のポイントは、それまで投資調整庁BKPM及びその他の官庁がばらばらに管轄していた各種のライセンシングに関する業務をCMEAが管理するオンラインシングルサブミッション(OSS)システムに一元化した点です。

 OSSシステムの目的は、インドネシアにおける事業の開始等にあたって必要となる各種ライセンス取得のプロセスを簡素化し、ペーパレス化するという点にあたります。具体的には、同規制施行以前は要求されていた投資登録が不要となり、さらに事業開始のための事業ライセンスの取得についてもOSSシステムでの申請が可能となりました。

 OSSシステムを通じた事業ライセンス取得の大まかな流れですが、申請者は、まずOSSシステム上でOSSアカウントを作成し(OSSシステムへのログインについて特段書類等は要求されていません)、必要な情報を入力し、事業登録番号(Nomor Induk Berusaha)(NIB)を取得します。NIB取得後、事業ライセンスの申請を行います(投資登録を行う必要はありません)。事業ライセンスは、所在地許可(又は水的所在地許可)、環境許可、建物建設許可等を含む各種の要件を充たすことにより効力を生じるものとされています。同要件を充たすことにより、OSSシステムにより事業ライセンスが発行され、必要となる商業・操業ライセンスの取得が必要となる一定の事業を除き、事業の開始が可能となります。

3 BKPMへの再移管

 もともと事業ライセンスに関する業務は、基本的にBKPMが所管していたのですが、GR24/2018施行後は、上記のとおり、同施行前にBKPMが管轄していた事業ライセンスに関する業務は、いっらんCMEAが運用することになりました。

 ただ、このCMEAによる運用は暫定的なものであり、同施行後約半年経過した2018年12月21日、CMEAは、OSSシステムサービスについてBKPMへ順次移管する旨のアナウンスメントを発表するに至りました(No. S-386/M/EKON/12/2018)。

 同発表によると、GR24/2018施行後、CMEAが管理していた事業ライセンス査定に関するサービス及びOSSシステムの運用が、2019年1月2日からBKPMに移管されることになります。

 また、BKPM事務所に、支援サービス、優先ライセンシングサービス、投資相談等のサービスを提供するOSSラウンジが設置されます。また、OSSコールセンター(1500765)、OSS Emailヘルプデスクが準備されます。

 次回の移管作業は、OSSシステムのネットワーク、ハードウェア、ソフトウェアライセンス等に関するインフラの移管であり、2019年3月1日に予定されています。

4 インドネシアにおける各種ライセンス申請の今後

 OSSシステムは、今後インドネシア国外からの会社設立を含む投資にあたって最も基本的で重要なファーストステップとなるものである一方、もともと事業ライセンスの申請業務を基本的に担っていたBKPMではなく、そのシステムの当初の運用をCMEAが行うこととされていたため、制度の新設に伴う混乱が実務上も見られるところでした。

 今般、事業ライセンスに関する業務、OSSシステムの運用が、BKPMの所管になり、さらに、各種のサービス、ヘルプデスクの窓口が明確化されたことにより、OSSシステムを通じたライセンスの申請に関する手続きのより一層のスムーズ化が期待されるところです。

以上

フィリピン

フィリピンにおける外資規制緩和の最新動向

1 ネガティブリストの最新第11次修正

 フィリピンでは、外資規制といえば、外国投資法(Foreign Investment Act of 1991)とは別に「ネガティブリスト」と呼ばれる大統領令において規定されています。ネガティブリストは外資規制対象分野と外資比率を列挙しております。その内容は2年毎に修正され、前回の修正である第10次修正が行われたのは2015年5月であり、既に2年以上が経過していました。そして、今般、2018年11月16日に、第11次外国投資ネガティブリストが発効されました。

2 第11次修正ネガティブリストの内容

下表が第11次修正の最新ネガティブリストです。第10次修正から変更されている分野を赤字記載しております。

<第11次修正ネガティブリスト(変更箇所赤字記載)>

リストA

外資上限 事業分野
全面的に禁止

1.レコーディング及びインターネット事業(メッセージ/情報の創造ではなく、単にメッセージを伝送するインターネットアクセス提供者をいう)を除くマスメディア

2.専門職

 薬剤師、放射線・レントゲン技師、犯罪捜査、林業、弁護士及び船舶甲板官並びに船舶エンジン官を含む。ただし、別紙(※末尾に掲載)(相互関係がある場合にフィリピンにおいて外国人に認められている専門職及び企業の参入が認められている専門職が定められている。)に従うものとする。また、外国人は、専門科目でない場合には、高等教育レベルにおいて教師となることができる(例えば、政府組織または司法試験を含む。)

3.払込資本250万米ドル未満の小売

4.協同組合

5.民間警備等

6.小規模鉱業

7.群島内・領海内・排他的経済海域内の海洋資源の利用、河川・湖・湾・潟での天然資源の小規模利用

8.闘鶏場の所有、運営、経営

9.核兵器の製造、修理、貯蔵、流通

10.生物・科学・放射線兵器の製造、修理、貯蔵、流通

11.爆竹その他の花火製品の製造

20% 民間ラジオ通信ネットワーク(20%→40%)
25%

1.雇用斡旋(国内・国外のいずれかで雇用されるかを問わない)

2.国内で資金供与される公共事業の建築・修理(25%→40%)

2.防衛関連施設の建設契約

30% 広告業
40%

1.国内で資金供与される公共事業の建築・修理。(25%→40%)

ただし、以下の除く。

・BOT法に基づくインフラ開発プロジェクト

・外国の資金供与・援助を受け、国際競争入札を条件とするプロジェクト

2.天然資源の調査・開発・利用

3.私有地の所有

4.公営事業の管理・運営。ただし、競合可能市場に対する発電及び電力の供給並びに公益事業に含まれないその他の類似事業を除く。

5.教育機関の保有・設立・運営

6.米・とうもろこし産業

7.国有・公営・市営企業への材料、商品供給

8.深海漁船の運営

9.コンドミニアムユニットの所有

10. 民間ラジオ通信ネットワーク(20%→40%)

リストB

外資上限 事業分野
40% 1. フィリピン国際警察(PNP)の許可を要する製品・原料の製造・修理・保管・流通(例:銃器、火薬、ダイナマイト)
2. 国家防衛省(DND)の許可を要する製品の製造・修理・保管・流通(例:軍用兵器、宇宙ロケット・部品、軍艦、軍用通信機器)
3. 危険薬物の製造・流通
4. サウナ、スチーム風呂、マッサージクリニック等、公共の保健及び道徳に対するリスクの観点から法に規制されているもの。ただし、ウェルネス施設を除く。
5. フィリピン娯楽賭博公社と投資契約が結ばれているもの以外のすべての賭博事業
6. 払込資本 20 万米ドル未満の国内市場向け事業
7. 先端技術を有する、又は 50 名以上を直接雇用し、資本金額 10 万米ドル未満の国内市場向け事業

3 旧ネガティブリストからの変更点

 変更点を再度整理しますと、下表の通りです。

外資保有比率の上限が引き上げられた分野 ・民間ラジオ通信ネットワーク(20%→40%)
・国内で資金供与される広狭事業に係る建設、修理(25%→40%)
100%外資保有可とされた分野 ・インターネット事業(アクセスプロバイダ)
・高等教育機関における教師(専門職科目以外)
・専門職のうち、薬剤師、林業
・競合可能市場に対する発電及び電力供給等

 結局、旧ネガティブリストから大きく変わっていないという印象です。今回、マスメディア業から例外として除かれたインターネット事業については、あくまでも通信インフラを提供する事業についてであって、E コマースや動画配信などのオンラインサービス業が解放されたわけではありません。また、大きな期待がかけられていた小売業の規制緩和についても、緩和に関しては憲法改正の手続きが関わってくるといった問題もあり、現状が維持される形となりました。

4 今後の展望

 今回のネガティブリストの修正は、経済政策に注力するドゥテルテ現大統領が政権を握って初めての修正であったため、大きな規制緩和が期待されましたが、先述の通り、当初の期待からは大きく外れた形に終わりました。次回の修正に持ち越されたとの見方もできるかもしれませんが、次回の修正は2年後であるため、特定の分野の企業にとってはまだまだ進出が難しい状況が続きそうです。

別紙(専門職)

A. その母国においてフィリピン人に対して就業が認められていない場合を除き、外国人に就業が認められる分野

1. 会計士、2. 航空工学、3. 農業生物工学、4. 農業、5. 建築、6. 化学工業、7. 化学、8. 土木工学、9. 通関業者、10. 歯科、11. 電気工学、12. 電子工学、13. 電気技師、14. 環境計画、15. 漁業、16. 林業、17. 測地工学、18. 地質学、19. 指導及びカウンセリング、20. インテリア・デザイン、21. 景観設計、22. 図書館司書、23. 配管熟練工、24. 機械工学、25. 医療技術、26. 医薬、27.金属工学、28. 助産師、29. 鉱山学、30. 造船工学、31. 看護、32. 栄養士、33. 検眼、34. 薬局、35.理学・作業療法士、36. 心理学、37. 不動産業(不動産コンサルタント、不動産鑑定士、不動産査定人、不動産仲介人及び不動産販売員)、38. 呼吸療法、39. 衛生工学、40. 社会事業、41. 小中学校における教職、42. 獣医学、43. 法律又はフィリピンが当事者である条約において規定される他の専門職

B. 関連する専門職法規の条件に従うことを条件として、法人形態での参入が認められる分野

1. 航空工学、2. 農業生物工学、3. 建築、4. 化学、5. 電子工学、6. 環境計画、7. 林業、8. 指導及びカウンセリング、9. インテリア・デザイン、10. 景観設計、11. 造船工学、12. 心理学、13. 不動産業(不動産コンサルタント、不動産鑑定士、不動産査定人、不動産仲介人及び不動産販売員)、14. 衛生工学、15. 社会事業

 

ミャンマー

競争委員会の設立及び外国銀行の内資企業への融資規制撤廃
(1)従来の競争法
 ミャンマーでは 2015 年に競争法が制定され、2017 年 2 月 24 日に施行しました。また、競争法の細則(主に競争委員会の組織・運営について)を定める競争法規則が2017年10月に制定・公表されています。しかしながら、執行機関である競争委員会の設置(競争法第5条)が遅れ、本格的な運用には至っていない状況が続いていました。
(2)改正内容 競争委員会の設立
 今回、ミャンマー連邦政府は 2018 年 10 月 Notification No.106/2018 において、競争委員会の設立を正式に公表しました。競争委員会は、商業大臣を委員長とし、政府機関及び非政府機関から専門家や代表者を集めて構成されることになりました。
 競争委員会の設立により本格的な運用が予想される競争法ですが、未だ競争法の適用対象は明確になっていません。すなわち、競争法上の「独占」に該当し規制の対象となる市場シェアや売上高等の具体的な基準は競争法や競争法規則によって明確にされておらず、これらは今後競争委員会が検討し具体的な基準を設けていくこととなります(競争法第 8 条(g))。
 また、競争委員会は同法違反の捜査を行う機関として調査委員会を設置することを競争法上定めています(同法第 11 条(a))。競争委員会設置時点では、調査委員会は未設置の状態にありますが、例えば、競争法に違反した場合は最大で3年以下の懲役又は 1,500 万 MMK 以下の罰金が課せられますので(下記「競争抑制行為」の場合)(同法第 39 条)、調整委員会の設置に伴う競争法の本格的な執行を見据え、今後の動向に注意が必要です。
2 外国銀行による内資企業への融資規制撤廃
(1)従来の提供可能業務
 従来、外国銀行の支店は外資企業及び合弁企業に対しては全ての銀行業務を提供することが認められていました。他方で内資企業に対しては輸出金融及びその関連業務の提供のみが認められていました。
(2)改正内容 内資企業への融資業務
 ミャンマー中央銀行(Central Bank of Myanmar)は、2018 年 11 月 8 日付け DirectiveNo.6/2018 により,外国銀行の支店が内資企業(100%国内資本)向けに融資を行うことを認めました。
 今回の Directive により、外国銀行の支店が制限される業務はミャンマー国民に向けた小売銀行業務(リテール業務)のみとなり、内資企業は外国銀行による融資を受けることが可能となります。外資規制緩和による、金融市場の今後の市場動向に注目です。

以上

 

カンボジア

カンボジア労働法アップデート
1 概要
 昨年 2018 年、労働法分野の法令変更として、①年功補償の導入、②賃金等の各月 2 回支給の義務付け、③最低賃金法の制定があった。これらは、昨年 7 月 29 日にあった 5 年に一度の下院選挙を強く意識したものと考えられ、いずれも基本的に労働者の利益を図るものである。
2 年功補償の導入
年功補償は,昨年 6 月 28 日付けの労働法改正により,解雇補償に代わって導入された(8 月 15 日付けニューズレター参照)。更に、9 月 21 日付けの労度職業訓練省(MLVT)省令(Prakas)443 号により、その詳細が定められた。年功補償の概要は以下である。
 ① 使用者に対し、労働者の雇用継続 1 年につき、15 日分の賃金等相当額の支給を義務付ける。算定基準額には、賃金以外の諸手当を含む。
 ② 年功補償の支給対象は,無期雇用契約のみ(有期雇用契約は、本改正前と同じく、期間満了時に退職金の支給義務がある)。
 ③ 2019 年以降,各年 2 回,6 月と 12 月に支給(各 7.5 日分)する。
 ④ 2018 年以前の雇用に対して支給義務あり(「遡及支給」。156 日相当額を上限)。遡及支給の算定基準額は、対象となる過去の雇用期間の基礎賃金額(諸手当を含まない)。
支給は③と同じく各年 6 月と 12 月(縫製産業は各 15 日分、縫製産業以外は 7.5 日分)。
 ⑤ 自主退職の場合、以降の遡及支給の必要はない。解雇の場合は明文規定がないが、解雇時の残額を支給する義務があると考えられる。
 使用者にとって大きなコストアップとなるものであり、特に③遡及支給は法治国家の常識に反する法令であるため各国関係団体が強く抗議をしている。これを受け、MLVT は関係団体と協議を行っており、昨年 12 月 28 日付で、遡及支給のスケジュールについて協議を行っている旨の公式発表をした。既に制定・発行している法令であるが、導入の延期の可能性も残されており、経過を観察する必要がある。
3 賃金等の各月 2 回支給の義務付け
 従前、賃金等の支給については、作業員(主として肉体労働に従事する者)とその他の従業員で規制に相違があり、作業員の賃金は、少なくとも月に二度(最大で 16 日の間隔)、その他の従業員は少なくとも月に一度 (労働法 116 条 1 項、2 項)の支給を要するというものであった。
 上記の省令 443 号と同日の昨年 6 月 28 日に公布された MLVT Prakas442 号は、労働法116 条を前提に、規制を上乗せするものと考えられるが、概要は、下記の通りである。
 ① 2019 年以降、全従業員に対して、各月 2 回の賃金等の支給を義務付ける。
 ② 支給日は、各月 2 週目と 4 週目とする。
 ③ 第 1 回の支払いは,月額賃金の基礎賃金額の半額。
   第 2 回の支払いは,月額賃金の基礎賃金額の残額と,諸手当等の合計額。
 当月の賃金等を当月に支払うことまで要求するものであるのか(文言上は記載がない)、同意により例外が認められる場合があるのかなどが必ずしも明らかでなく、当局による今 後の運用等を注視する必要がある。
4 最低賃金法の制定
 最低賃金の規定は、本法制定前も、労働法に規定が存在した(104 条~112 条)。昨年7 月 9 日に、従来の労働法規定に代わるものとして、最低賃金法が公布され、即日発効した。本法は、最低賃金に関する調査・審議機関の設置、最低賃金の決定方法・決定基準などについて、旧法規定よりも詳細を定めるものである(全 30 条)。
 なお、旧法規定および最低賃金法のいずれも、具体的な金額は、MLVT の Prakas により定めるものとされている。従来、この Prakas は縫製産業のみを対象とする形で発令されてきた。本法は各年 1 回の Prakas 発布を定めており、同法制定後、2019 年を対象とした Prakas が発布されたが、やはり縫製産業のみを対象としたものである(最低賃金額は182US ドル)。本法令の制定を契機として、縫製産業以外の産業を対象とした Prakas が発令されることも想定されるが、その実施は 2020 年以降になると考えられる。

以上

 

ラオス

ラオスにおける付加価値税法の改正について
1 はじめに
 ラオスにおける税金に関する主な法令は「税法」と「付加価値税法(以下、「VAT 法」)」があります。付加価値税は、2009 年 1 月より導入され、その後、数度改正されましたが、今回の改正は、2015 年 7 月に施行された VAT 法(以下、旧法)にとって代わるもので、2018 年 12 月 4 日
に官報に掲示され、15 日後の 12 月 18 日より施行されています。
 今回の主な改正点について、以下に概要を記載します。
2 VAT への登録義務
 旧法では、年間 4 億キープ以上の売り上げ、ラオス会計システムの遵守、タックスインボイスの使用等が登録条件となっていました(旧法第 31 条)。今回の改正では、企業登録、投資許可、納税者番号を取得した個人、法人、設立団体は、VAT への登録することが義務化されました(但し、零細企業は除きます)。
 年間 4 億キープ等の条件はなくなり、VAT 登録対象者の枠が拡大されたことから、ラオス政府の税収アップを目的としております。
3 VAT 課税対象活動
 VAT の課税取引は、以下のとおり、旧法第 11 条に定めれていました。
 ①ラオス国内に輸入される商品
 ②VAT 登録事業者(個人、法人、団体)によって、ラオス国内で提供される商品やサービス
 ③ラオス非居住者及びラオスで登記していない法人や団体により提供されるサービス
 今回の改正では、上記に加えて、以下が、新しく規定されました。
 ④経済特区(以下、SEZ)内で登記した法人が SEZ 外で提供するサービス
 ⑤電子的取引を通して提供される商品やサービス
 ラオスにおいても、電子商取引が拡大しており、オンラインで商品を購入する人が増えてきています。そのような背景を踏まえて、改正がなされております。
4 商品及びサービスの提供地

 今回新しく規定された条項となっており。改正後び旧法第 11 条に規定されているとおり、商品及びサービスの提供地がラオス国内であるとみなされたときに、課税取引の対象となります。例えば、以下のような要件の場合も提供地はラオス国内とみなされますので、注意が必要です。
・海外で購入した商品をラオスへ輸入した場合
例えば、ラオスで登記した法人やラオス居住者が、商品をタイで購入し、ラオスへ輸入する場合(輸入する物は、業者、自身問わない)、付加価値税対象商品に関しては、空港や国境の税関において、VAT を支払うことになります(改正 VAT 法第 13 条 1.4)。
・ラオスに関する情報提供を行った場合
例えば、日本で登記した企業が、ラオスのコンサル会社に対してラオスの会計に関して相談をメールで行った場合、サービスの受領者が、ラオス居住者であろうと、なかろうと、ラオスで登記の有無は問わず、役務の提供地はラオスとみなされ、課税取引となります(改正VAT 法第 13 条 2.3)。

以上

 

東京

労働基準法の一部改正について
1 時間外労働の上限規制の導入
 「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(平成30年法律第71号)の成立により,2019年4月1日から改正労働基準法が施行されることになりました。
 今回の法改正においては,長時間労働の是正が大きな柱として掲げられており,その中の目玉として時間外労働に関する上限規制が設けられました。
 これまでの労働基準法においては,法律上時間外労働の上限が定められていなかったことから,特別条項付き36協定を締結することにより,年6回(6か月)であれば法律上の上限なく時間外労働を行うことができるものとされていました。
 しかし,今回の法改正により時間外労働の上限が法律上定められたことにより,使用者はこれを超える時間外労働をさせることができなくなり,この上限を超えて労働させた場合には新たに罰則の対象となることが規定されました。
2 上限規制の具体的な内容
 今回の法改正による時間外労働の上限規制の具体的な内容は以下の通りです。
 ・36協定を締結した場合における労働時間の上限は,月45時間,年360時間(1年単位の変形労働時間制の場合は月42時間,年320時間)を原則とする。
 ・臨時的な特別の事情がある場合であっても下記①~④を限度とする。
                    記
 ① 年720時間
 ② 単月100時間未満(休日労働含む)
 ③ 複数月(2か月~6か月)平均80時間(休日労働含む)

 ④ 月45時間(一年単位の変形労働時間制の場合月42時間)を超える時間外労働の回数は,年6回まで

3 実務への影響
 本改正により,上限規制に即した内容となるよう就業規則の見直しや新たな36協定を締結する必要があることは言うまでもありません。もっとも,本改正は,現行の「時間外労働の限度に関する基準」(平成 10 年労働省告示第 154 号)を法律に格上げし,罰則による強制力を持たせることにより時間外労働規制の実効性を確保するための措置であるといえることから 3,従来の「時間外労働の限度に関する基準」を履践している企業に対する影響はそれほど大きいものではないように思われます。
 もっとも,本改正においては,長時間労働の是正対策として,上限規制に加え,労働者の労働時間の把握義務に関する規定が労働安全衛生法に規定されました。
 したがって,企業においては,本改正による就業規則の見直しや新たな36協定の締結等上限規制に対する形式的な措置にとどまることなく,労働者の労働時間管理に対する現在の措置を見直すとともに,労働時間管理の重要性について再度強く意識する必要があるものと思われます。

以上

2018年01月11日(木)4:44 PM

ASEAN各国の新法の状況をご報告いたします。

 

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2021年04月19日(月)12:20 PM
タイトル:最新 東南アジア・インドの労働法務
著者:One Asia Lawyers Group/弁護士法人One Asia  各国専門家

言語:日本語
発行元:中央経済社
発行日:2021年4月22日