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2023年01月17日(火)11:31 AM

大阪オフィスにおける案件実績及び今後の方針についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

日本:大阪オフィスにおける案件実績及び今後の方針

 

日本:大阪オフィスにおける案件実績及び今後の方針

2023年1月
One Asia Lawyers Group
弁護士法人One Asia大阪オフィス

1. 大阪オフィスにおける今後の方針(弁護士江副 哲)

  大阪オフィスは2020年4月に代表の弁護士江副哲が開設いたしましたが、おかげさまで開設から2年半で所属弁護士が5名まで増え(江副哲、難波泰明、古田雄哉、渡邉貴士、川島明紘)、クライアント様により充実したリーガルサービスを提供させていただく体制を構築することができました。今後より一層クライアント様に満足していただけるように、大阪オフィス所属弁護士だけでなく、One Asia Lawyersのアジア・オセアニアの各オフィスや弁護士法人One Asiaの東京オフィス、福岡オフィス、そして2022年10月に開設した京都オフィスとも連携を深めてより幅広い分野、エリアも含め対応をさせていただく方針であります。

  なお、京都オフィスにつきましては、弁護士渡邉貴士が代表に就き、大阪オフィスメンバーと連携しながら、主に京都・滋賀方面で活躍されている企業様に向けて案件の対応や、セミナー等の開催によって企業様の関心の高いトピックスに関する法的知見等の情報を積極的に発信することによって手厚いリーガルサービスを提供すべく、各オフィスと協働して対応させていただきます。

2.2022年における大阪オフィス案件実績のご紹介

  以下では、大阪オフィス所属の各弁護士が対応した案件実績の概要を紹介いたします。

  紹介する案件は、弁護士江副哲が専門的に対応している建設案件、賃貸借や区分所有権に係る法的論点が問題となる不動産案件、商標権に関する知財案件、行政法規違反の請負契約の有効性が法的論点となる運輸案件というように、大阪オフィスとして多岐にわたる分野の案件を取り扱っております。

  各案件の詳細につきましては別途、各弁護士のニュースレターの方で解説しておりますので、そちらをご参照いただければと思います。

  RC造建物の外壁タイルの浮きが建物の基本的安全性を損なう瑕疵であることを理由とする施工者に対する不法行為責任に基づく損害賠償請求の可否(弁護士江副 哲)

  【概要】

築約14年の6階建て建物(RC造)の外壁タイルのうち少なくとも20%の浮きが生じていた事象について、建物の建築工事の発注者かつ所有者(建築・不動産関連企業)が施工者に対して広範囲においてタイルが浮いているという現象が建物の基本的安全性を損なう瑕疵に該当し、それが施工者の過失を原因として生じているとして、タイルの補修ないし張替えに要した費用等について不法行為責任に基づく損害賠償を請求した事案に係る調停手続において、裁判所選任の専門家調停委員(一級建築士)を介して当事者間で協議を進めた結果、生じているタイルの浮きは施工者の過失による建物の基本的安全性を損なう瑕疵であるという前提で、補修内容について一部グレードアップと評価されるものが含まれていることも考慮して、約6000万円の請求に対して施工者が2500万円を支払う内容での和解により解決した(発注者・所有者代理人として調停対応)。

別稿「外壁タイルの浮きに対する施工者の不法行為責任」では、築10年以上が経過した建物の外壁タイルの浮き等について裁判所ではどのように判断される傾向にあるのか、当事者としてどのような主張立証活動をするべきかについて、最高裁判例を踏まえて解説する。

 ⑵ 登録商標「ヒルドイド」と「ヒルドプレミアム」の類似性及び出所の混同が否定された事例 ―審決取消請求事件・知財高裁令和3年10月6日判決(弁護士難波 泰明)

  【概要】

   医薬部外品に対して用いられている登録商標「ヒルドプレミアム」について、医療用医薬品に対して用いられている登録商標「ヒルドイド」との類似性(商標法4条1項11号該当性)及び出所の混同を生ずるおそれの有無(同項15号)の該当性が争われた事案において、そのいずれもが否定された事案(請求棄却・確定)。本件は、原告が、その主力商品である「ヒルドイド」につき、「ヒルドマイルド」及び「ヒルドソフト」に対して商標登録無効審判請求、「ヒルマイルド」について販売差止めの仮処分を請求するなど、訴訟が乱立していた一連の事件の一つであり、唯一「ヒルドマイルド」についてのみ商標の類似性を認めていた。

  居住用不動産の賃貸借契約における中途解約時の違約金請求の可否(弁護士古田 雄哉)

  【概要】

   居住用不動産の賃貸借契約において、賃貸借契約書に「2年以内に途中解約をする場合は、賃貸人の承諾が必要であり、賃借人はその承諾を得ようとするときは3カ月前までに賃貸人に申し入れをし、賃貸人は賃借人が違約金を支払うことと引き換えに承諾をすることができる。違約金の額は、残存期間の賃料の範囲内で賃貸人が決定する」旨の定めがされていたことを根拠に、契約後約半年で賃貸借契約を解約した賃借人に対し、賃貸人が残存期間すべての賃料を支払わないと解約を認めないとして残存期間の賃料の請求を求めた事案で、裁判所が、本賃貸借契約書における賃借人の中途解約を制限する条項が有効であることを前提に、2か月分の賃料相当額を超える請求は権利の濫用であるとして賃貸人の請求を一部棄却した。

 ⑷ 特定整備につき無認証である自動車整備工場でなされた請負契約の有効性(弁護士渡邉 貴士)

  【概要】

   無認証事業者による車検の不正受検などが社会的に問題視されるなか、クラシックカーのキャブレターやブレーキまわりの修理を委託した事業者が、修理後に無認証だと発覚したため、その整備費用の返還を求めた事案において、「顧客に対し認証工場であるかのような説明をした場合」、「整備後に実際に不具合を生じている場合」には整備に係る請負契約は無効であると、裁判所が行政法規違反の私法上の効力について、具体的に判断した。

 ⑸ 訴訟上の和解により定めたマンションの規約共用部分の収去義務の間接強制の可否(弁護士川島 明紘)

   債務者が区分所有建物(以下、「本件マンション」といいます。)の管理組合法人(以下、「債権者」といいます。)との間で、本件マンションの規約共用部分を収去する旨の訴訟上の和解をしたものの、当該収去に当たっては区分所有者全員の承諾が必要であるとして、当該承諾を得ていないことを理由として収去義務の履行に応じなかったところ、債権者が収去義務の間接強制を申し立てた事案(債務者代理人。申立て却下、執行抗告却下、執行抗告却下決定に対する執行抗告棄却)。

以上

 

2023年01月17日(火)11:27 AM

日本の特定整備につき無認証である自動車整備工場でなされた請負契約の有効性についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

日本:特定整備につき無認証である自動車整備工場でなされた請負契約の有効性

 

日本:特定整備につき無認証である自動車整備工場でなされた請負契約の有効性

2023年1月
One Asia Lawyers Group
弁護士法人One Asia京都オフィス
弁護士 渡邉 貴士

1.事案の概要

  本事案は、クラシックカーの修理先探しに困っていたクライアントが、クラシックカーの取り扱いに慣れていて整備も可能と紹介された事業者に対し、自動車整備を委託したところ、その完了後に、委託先事業者が実は分解整備事業を行うために必要な認証を受けていないことが発覚したため、無認証事業者との整備契約は公序良俗に反し無効であるとして、支払済みの整備費用の返還を求めた事案です。

  自動車整備における分解整備(道路運送車両法(以下「法」といいます)49条2項。なお、令和2年4月1日改正後は「特定整備」と呼称変更されましたが本稿では分解整備と呼びます。)とは、原動機、動力伝達装置、走行装置、操縦装置、制動装置、緩衝装置又は連結装置を取り外して行う自動車の整備又は改造のことです(法49条2項、同法施行規則3条)。この分解整備は、趣味の範囲で自身のためや無償で行うときは認証などは不要であるのに対し、有償で(業として)行う場合は、地方運輸局の認証を受ける必要があり(法78条1項)、この認証を受けずに無認証で整備を請け負った事業者に対しては、50万円以下の罰金という罰則もあります(法109条11号)。

  本件では、クラシックカーのキャブレター(燃料を吸い上げて空気と混合させ、その混合気を燃料としてバルブを通じて供給する部品。現在生産される自動車では用いられることは減ったが、クラシックカーにおいては原動機の中心的機能を担っていた。)の不具合、ブレーキシューがブレーキドラムに噛み込んでブレーキが作動しないという不具合があり、キャブレターの交換修理とブレーキの噛込み修理が行われました。当方としては、それら修理が分解整備にあたることを前提に、まさか委託先が無認証事業者だとは思わず、また、無認証事業者による修理だったとすると杜撰な修理がなされた可能性、危険性があると考え、整備に係る請負契約の無効を理由に整備費用の返還を求めたところ、事業者側は、無認証であることは認めながら契約は有効で整備費用の返還をする理由がないと支払拒絶したために、訴訟提起に至りました。

2.争点

  本件は、行政法規に違反する行為が私法上効力を有するのかという、公法と私法の関係に関する検討が必要なケースでした。

  (1) キャブレター交換及びブレーキシュー噛込み修理作業の「分解整備」(現在の「特定整備」)該当性
  (2) 無認証業者が分解整備を請け負う請負契約の有効性

3.判決要旨

  控訴審である大阪高等裁判所は、以下のとおり判示しました(一部抜粋、下線追記)。

 (1)-a キャブレター交換作業の「分解整備」該当性について

  「キャブレターは、エンジンに燃料を供給するための燃料装置であることが認められるところ、旧法49条2項は、原動機(同条1号)と燃料装置(同条6号)とを区別しており、旧法49条2項は、同項の規律の対象となる整備又は改造に原動機を含めているものの、燃料装置を含めていないから、同項の適用上、キャブレターの整備又は改造は、同項所定の分解整備には該当しないというべきである。」

 (1)-b ブレーキシュー噛込み修理作業の「分解整備」該当性について

  以下の当方主張を採用し、本件におけるブレーキシューの噛込み修理については、黙示的に分解整備に該当する旨認めました。

  「ドラムブレーキにおけるブレーキシューとは、ブレーキペダルを踏んで生じる油圧によりドラム部分に押し付けて摩擦を生じさせる部品である。ブレーキシューがドラムに噛み込むと摩擦が生じなくなり、制動措置が講じられなくなる。そして、その噛み込みに異常がある場合は、ドラムを取り外して分解し、スプリングなどの部品も外した上、ブレーキシューを取り替える必要がある。そのため、ブレーキシューの噛込み修理は分解整備に該当する。」

  なお、当該認定根拠としては、当方提出の神戸運輸監理部による以下の内容の「回答書」(弁護士会照会結果)が証拠として引用されています。

  「ドラムブレーキの整備作業の際に、ブレーキドラム、ブレーキシュー、ホイールシリンダー、バックプレート、シューアジャスタ又はブレーキスプリングを取り外す作業が伴う場合は、分解整備に該当します。」

 (2)  無認証業者が分解整備を請け負う請負契約の有効性

  「旧法78条1項に基づく認証は、道路運送車両に関し、安全性の確保や整備についての技術の向上を図り、併せて自動車の整備事業の健全な発達に資することにより、公共の福祉を増進させる目的(法1条)を達成するため、一定の水準に達していない事業者が自動車の分解整備を行う結果道路運送車両の安全性が損なわれる事態が招来されることがないように、罰則を設けてこうした事態の一般予防を図る趣旨に出たものと解されるものの、旧法は、分解整備を目的とする契約をだれとの間で締結するかに関しては、当該認証を受けている事業者に所定の標識を掲げなければならないとする一方で(旧法89条1項)、当該認証を受けていない事業者がこうした標識に類似する標識を掲げることを禁止することで(同条2項)、当該事業者と契約を締結するかどうかを判断するに当たって重要な情報が提供されていることを可能にする規定を置いているにすぎず、当該認証を受けていない事業者が当該認証を受けている事業者の名義を借りて営業を行うことを禁止するような規定を置いていない(その点では、例えば、許可制が採用されている宅地建物取引業について、無許可者の営業が禁止されているだけでなく(宅地建物取引業法12条)、名義貸しをも禁止し(同法13条)、いずれの違反についても罰則(同法79条2号、3号(いずれも令和4年法律第68号による改正前のもの))を設けている同法の規制とは異なる規制にとどまっている。)。そうすると、旧法78条1項に基づく認証を受けていない事業者が道路運送車両の修理又は整備・車検に係る請負契約を締結した場合であっても、そのことだけで、当該行為の反社会性が強いとまで評価することはできず、①旧法80条所定の認証基準に適合する設備及び従業員を有していないのに、顧客に対してこれを有するかのごとき説明をするなどして旧法89条の趣旨を潜脱するような態様で分解整備を伴う作業を依頼する契約を締結したとか、②実際の分解整備が、旧法80条所定の認証基準に適合する従業員によらない分解整備が行われた結果、現に道路運送車両の安全性を損なう状態になったことが明らかであるとかの特段の事情がない限り、請負契約が公序良俗に反することを理由に無効になるとはいえないものと解するのが相当である。」

4.実務の影響

  本判決は、上記(1)について、法令上明確でない「分解整備」の該当性判断をどのように行うかついて、まずは整備を行った各部品が、その機能からすると法41条1項のいずれに該当するかを検討し、そして、同項各号の部品に関わる道路運送車両法上の規律内容を参照して判断するとの枠組みを示しました。また、分解整備該当性は法的判断ではあるものの、地方運輸局からの回答書に基づく判断もなされている点で、運輸局への照会は有効な立証方法でした。

  そして、上記(2)については、無認証業者による不正受検や不適切整備がニュースでも取り沙汰されているなか、事後的に無認証であることが発覚した場合に、その費用返還を求められるか否かについて、請負契約の有効性(公序良俗違反の有無)に関する一般的規範を示し、画期的な判断がなされたといえます。

  本件のような行政法規違反の私法上の効力への影響という論点は、行政法上の重要テーマです。基本的には「行政法規違反の状態の反社会性」などといった抽象的規範のもと、各違反行為の事情を個別検討するケースが多く、例えば非弁行為がなされた場合の報酬の帰趨などについては先例がありますが、自動車整備の文脈においては、道路運送車両法違反が私法上いかなる影響を有するかの判断がなされたケースは本件で関わる限りありませんでした。それが今回の判決により、どのような場合には公序良俗違反となるかの一般的規範が示され、今後の自動車整備実務に大いに影響が生じると考えられます。

  たとえば、名義貸しについては本判決で許容する内容でしたが、名義貸しすらなく、あたかも自身が認証事業者のようにふるまって営業行為や説明をしたとか、現に整備後車両に不具合が生じているとかのケースにおいては、公序良俗違反を理由に、車検や整備に係る請負契約の無効を主張して報酬返還を求められます。これまでは認証有無を特に問題とせず技術があることを売りにしていた整備事業者、メカニックについては、本件の一般的規範を意識した受託が必要になるといえます。

以上

2021年05月17日(月)12:21 PM

日本における2021年プロバイダ責任制限法改正についてニュースレターを発行しました。
PDF版は以下からご確認ください。

日本:2021年プロバイダ責任制限法改正の要点

 

日本:2021年プロバイダ責任制限法改正の要点

2021年5月15日
One Asia Lawyers Group
弁護士法人One Asia
日本法弁護士 渡邉 貴士
同      栗田 哲郎

1. はじめに

 2021年1月、プロバイダ責任制限法(正式には「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」) の改正案が閣議決定され、2月26日国会に法案として提出されました。この法律は、インターネット上での誹謗中傷など他人の権利を侵害する「権利侵害情報」を投稿した者(以下「発信者」といいます)の住所・氏名などの情報開示の要件等を定めたもので、手続の迅速化などかねて改正が強く望まれていました。

 この改正案が滞り無く成立した場合、その後は実務運用等を定める規則等整備がなされ、交付後施行までの一定期間も考慮すれば、施行日は2023年以降になると予想されます。

2.改正のポイント

 今回の改正のポイントは主に次の2点です。

(1) 投稿者の情報開示を容易にする新たな裁判手続の創設

 現行制度では、仮処分、訴訟などと少なくとも2度の裁判手続を経ることが必要であるなど、権利侵害を受けた被害者にとって必ずしも使い勝手が良い精度であるとは言えませんでした(問題点は後に詳述します)。

 そこで、今回の改正では、被害者がより容易に発信者情報開示ができるよう、裁判所が事業者側に投稿者情報の開示を命じられるようになる新たな裁判手続が創設される予定です。

 また、従来問題であった開示手続中に発信者情報を消去されてしまう保管期間の問題も、消去禁止命令という新制度が設けられ、併せて対応がなされる予定です。

(2) ログイン型投稿におけるログイン関係情報の開示制度の新設

 SNS事業者など一部のコンテンツプロバイダは、それぞれ個別の投稿に関するユーザー(発信者)情報を保有せず、ログイン時及びログアウト時の情報しか保存していないことがあります。その場合、現行のプロバイダ責任制限法の規定では、ログイン・ログアウト時の情報の開示を正面から認めることは困難であり、「権利侵害情報を投稿した者は、その投稿時に利用した同一のインターネット回線を、ログイン・ログアウト時にも利用したはずだ」との経験則などを介してしかそれら情報の開示は認められないという問題点がありました(ただし、そのような経験則を認めなかった実際の裁判例も多数あります)。

 そこで、今回の改正では、ログイン・ログアウト時情報は「侵害関連通信」(新5条3項)として開示要件が明文で規定され、補充性など要件の加重はあるものの、それら情報の開示も法律上可能となる予定です。

3.投稿者の情報開示を容易にする新たな裁判手続の創設

(1) 改正の背景-現状の制度の問題点

 現状の発信者情報開示制度は、権利侵害をされた被害者に莫大な手続コスト(費用及び時間)がかかるという問題点がありました。

 現行制度では、発信者情報開示をするためには、SNSやインターネット掲示板管理者などのコンテンツプロバイダ(CP)を相手取る仮処分等の手続(第1段階)を経たうえで、インターネット接続サービス事業者などのアクセスプロバイダ(AP)を相手取る訴訟(第2段階)も提起する必要があります。

 こうした2度の裁判手続を要するということは、手続にかかる弁護士費用など出費かさむとの問題点のほか(なお、それら費用を開示後の発信者からの全額回収することは一般的には困難です)、そもそも訴訟手続がスムーズとはいえず、しかもCPが海外法人の場合には国際送達を行う必要もあり、情報開示完了までに1年以上も要することも珍しくないとの迅速性の問題点もありました。

 しかも、上述の通り、その開示手続中に、開示対象とする通信記録の保管期限が過ぎ、消去されてしまうリスクもあることから、その場合は更に当該通信記録を保全するために別途仮処分申立てを提起するなどの必要もありました。

 このように、現行の発信者情報開示制度はとても使い勝手が良いとはいえなかったため、これら問題点を解消し、被害者の権利救済を拡大しようと、かねてから簡易迅速かつ一回的解決が可能な制度が求められていました。

 そこで今回の改正で、以下の新たな裁判手続が新設されることとなりました。

(2) 新設される手続

 今回の手続においては、裁判所による以下の3つの命令が新設されます。

ア 発信者情報開示命令(新8条)

 これは発信者情報の開示を開示関係役務提供者に対して命じることができる手続です。
 発令の法律要件(新5条1項)や開示対象とする発信者情報は、現行法での発信者情報開示手続と同様です。
 もっとも、副本送達に代わる「申立書の写しの送付」(新11条)という新たな制度が設けられ、特にCPに多い海外法人を相手取る場合には現行法よりも柔軟かつ迅速な手続が期待できます。

イ 提供命令(新15条)

 新設された提供命令には次の2種があります(新15条1項)。

1号命命
コンテンツプロバイダ(CP)に対するアクセスプロバイダ(AP)情報の提供

2号命令
1号の提供命令により特定できたAPに対する発信者情報の提供

 提供命令の要件は、1号、2号共通の要件に加え、各号個別の要件もありますが、いずれも現行法での発信者情報開示の要件と比較してかなり緩和されています。

<1号・2号共通の要件>
①         発信者情報開示命令事件が係属する裁判所に対する申立てであること
②         侵害情報の発信者特定ができなくなることを防止する必要性があること

<1号固有の要件>
③         保有している発信者情報により当該侵害情報に係る他の開示関係役務提供者の氏名
または名称および住所(他の開示関係役務提供者)の特定をすることができること

<2号固有の要件>
③ ‘ 1号の提供命令により提供を受けたAPを相手方とする発信者情報開示命令の申立て
をした旨の通知を行ったこと

 なお、上記要件①との関係で、発信者の住所等の情報を一切保有していない(とされている)CPに対しては、発信者情報開示命令を申し立てたところで無意味ですが、提供命令の要件を満たすためだけに発信者情報開示命令の申立てを行う必要があるとも考えられます。こうした一見無意味な申立てが本当に必要とされるのかなどは、今後の規則制定などの動向を確認する必要があります。

ウ 消去禁止命令(新18条)

 これまで情報保管のためなされていた仮処分申立てに代わる制度であり、開示請求の対象となっている発信者情報の消去を禁ずる命令を発することができるようになります。

 消去を禁じられるのは、当該発信者情報開示命令事件が終了するまでの間ですが、被害者からすれば開示命令が出さえすればよいので、特に問題はありません。

 なお、この消去禁止命令に対しては即時抗告が可能です。

4. まとめ

 実務運用上及び解釈上の未決定事項は多く残るものの、かねてから改正が望まれていた発信者情報開示手続において簡略化目処が立った点では、今回のプロバイダ責任制限法の改正案は、被害者救済の点で大きな前進であると評価できます。

 特に、アクセスプロバイダの多重化が生じ、発信者情報開示のハードルが高かったMVNO経由での投稿については、今回の新たな裁判制度は非常に有用と思われます。

 今後はさらに省令改正等で詳細が固まっていくことになるため、引き続き本改正に関する動向には注目する必要があります。

以上