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2023年09月11日(月)2:00 PM

オーストラリアの公益通報者保護法の改正についてニュースレターを発行いたしました。 PDF版は以下のリンクからご確認ください。

オーストラリアの公益通報者保護法改正

オーストラリアの公益通報者保護法改正

2023年8月
One Asia Lawyers Group
オーストラリア・ニュージーランドチーム

 1.はじめに

 2013年公益情報開示法(Public Interest Disclosure Act 2013(Cth))(以下「PID法」)の最近の改正は、連邦の高潔性を強化し、公共部門における高潔性に関連する継続的な懸念に対処するための、オーストラリア政府による広範な取り組みの一環です。

 2023年公益情報開示改正(見直し)法(Public Interest Disclosure Amendment (Review) Act 2023 (Cth))は、国家汚職防止委員会(NACC:National Anti-Corruption Commission)の開始と合わせて、オーストラリアにおける公益情報開示の状況に大きな変化をもたらすものです。これらの改正は、NACCの設立を補完するだけでなく、PID法を評価した2016年に実施されたモス・レビュー(Moss Review)[1]に由来する勧告に対処することも目的としています。

 本稿では、かような最近のPID法の改正の概要と民間企業への影響について解説します。

2.開示可能な行為と個人の職務に関する行為

 PID法に対する主な批判のひとつは、内部不正行為手続きにより適切に対処できるはずの苦情を報告するために、従業員が頻繁にPID法を使用することでした。この問題に対処するため、改正法は「開示対象行為(Disclosable Conduct)」の定義を改正し、個人的な職務に関連する行為を明示的に除外しました。

 PID法第29A条に定められる新規定においては、個人的な職務に関連する行為には、人間関係の対立、いじめ、ハラスメント、懲戒処分や従業員の異動・昇格に関連する決定事項などが含まれます。このような事柄は、一般的に、報復行為に関わるか、または政府機関に重大な影響を及ぼし、かかる政府機関に対する社会的信頼を損なう可能性がない限り、PID法の開示可能行為には該当しません。この基準が実際に適用されるかどうかは未知数であり、政府機関はこれらの基準に該当する行為かどうかを判断する際に慎重に判断する必要があります。

3.開示対象行為:厳格化された重大性の要件

 改正法は、業務上の行為がPID法の開示対象行為に分類されるための基準を引き上げました。対象となるには、その行為が、職員の解雇を合理的に正当化しうるほど重大でなければならなくなりました。この変更は、関連行為が懲戒処分を受ける可能性があることだけを要求していた以前の基準と比べて、基準が引き上げられたことを意味します。

 個人的な職務に関連する行為に対する適用除外と同様に、開示対象行為の定義に対するこの例外は、特にAPS行動規範(APS Code of Conduct)の違反が1999年公務員法(Public Service Act 1999 (Cth))に基づく解雇の正当な理由であることを考慮すると、解雇を正当化する行為かどうかを評価する際に、各省庁が慎重に判断する必要があるといえます。政府機関、特に公益情報開示(PID:Public Interest Disclosures)を決定する権限を持つ職員は、この基準の実施に備えるべきです。

4.証人の保護措置の拡大

 改正法の第3部は、PIDに関与する証人には認められるが、当初の開示者には認められない保護を明確化し、拡大するものです。これには以下が含まれます:

(a) 「公益情報開示に関連して援助を提供する」個人に免責規定を拡大し、民事、刑事、行政上の責任から保護する。

(b) 証人に対する報復措置からの保護を明示的に拡大し、PID法における従来の空白に対処する。

(c) 報復行為の非網羅的な定義を拡大し、行為の事例を特定することで、さらなる明確性を提供する。  

 新12B条は、証人が故意に虚偽または誤解を招く供述を行った場合を含む、証人の免責に対する例外を導入しています。特筆すべきは、自らの行為に関連する証拠を提供する証人は免責されないことであり、PID調査中にその行為が疑われた場合、政府機関は当該証人に対して懲戒処分を下すことができます。

5.主要役員、認定役員、監督者に課される義務の拡大

 主要役員(Principal Officers)、認定役員(Authorised Officers)および監督者(Supervisors)は、改正法の下、以下を含む追加義務を負います:

(a) PID実施の支援と奨励を確保すること。

(b) 公務員を報復措置から保護すること。

(c) PIDの実施および関連する保護について、公務員、認定役員、および監督者に継続的な研修と教育を提供すること。

 これらの研修要件は、「任命後合理的な期間内」に履行されなければなりません。これらの変更は、各省庁がその職員に上記義務を理解させ、確実に履行させることの重要性を強調しています。

6.NACCの要件と相互作用

 改正法は、2022年国家汚職防止委員会法(National Anti-Corruption Commission Act 2022 (Cth))(以下「NACC法」)に定義される「NACC開示」という新たなカテゴリーの PID を導入します。これは、汚職問題に関する情報が、NACC 法に基づく照会や情報・証拠の提供によって 国家汚職防止委員会(以下「NACC」) に提示された場合を対象とするものです。

 特に、NACC による情報開示は、NACC 法に定義される「汚職問題(Corruption Issue)」に関する情報に限定されます。これには、公務員の公平な権限行使に不利な影響を及ぼす可能性のある行為、公信義違反、職権乱用、公務員による情報の悪用などが含まれます。これらの要素の一部は、PID法における開示対象行為の定義と重複しているため、両カテゴリーに該当する苦情をどのように配分するのかという疑問が生じていました。

 NACC法は、現職員または元職員による「重大または組織的な(Serious or Systemic)」汚職行為をNACCに照会するよう、各省庁の長に義務づけています。このNACCと各省庁の連携により、調査の重複を防ぎ、汚職問題への合理的な対応プロセスが確保されます。

7.民間セクターへの影響

 かような最近の改正は、ほとんどが公共部門に関するものですが、外国企業に実質的に支配されているオーストラリア企業を含む、公共部門と取引する民間企業にも根本的な影響を及ぼすものです。以下に、これらの影響のいくつかを概説いたします。

 公共部門と契約する民間企業

 連邦政府と契約したり、政府機関に代わってサービスを提供したりする民間企業は、PID法の要件に拘束される可能性があります。言い換えれば、政府との契約に携わる民間企業の従業員は、PID法に基づき、業務中に目撃した不正行為を報告する義務を負う可能性があるということです。

 追加の内部告発者保護

 民間セクターの従業員が政府との契約に関連する業務に従事し、または公益サービスを提供している場合は、それらの契約またはサービスの範囲内で発生した不正行為または違法行為の報告について、PID法に基づく内部告発者保護に関する権利が与えられる可能性があります。

 評判とコンプライアンス

 政府との契約やサービスに従事する民間企業は、間接的にPID法の規定の影響を受ける可能性があります。これらの企業は、コンプライアンスを確保し、市場における評判を守るために、これらの規定を認識しておく必要があるといえます。これには、内部告発者保護方針および手順の実施が含まれます。

 調査の可能性

 PID法に基づき、民間企業が関与する政府との契約やサービスの範囲内での不正行為の開示が行われた場合、民間企業を巻き込んだ調査や照会が行われる可能性があり、当該企業の業務や評判に影響を与える可能性があります。

 周知・トレーニング

 連邦政府との取引や公共サービスを提供する民間企業は、特に特定の状況下で内部告発者になる可能性がある場合、PID法の存在と影響について従業員への教育を実施すべきといえます。

8.おわりに

 上述の改正は、公益情報開示の状況に大きな変化が生じたことを意味し、オーストラリアの公共部門と契約してい全ての事業体も、これらの変化に対応するため、引き続き警戒し、積極的に行動する必要性があることを強く示しています。これらの改正が貴社にどのような影響を与えるかについてご質問がある場合、または詳細の説明をご要望の場合は、お気軽に弊所のオーストラリア・ニュージーランドチームまでご連絡ください。

 

[1] https://www.ag.gov.au/sites/default/files/2020-06/Moss%20Review.PDF

2023年04月14日(金)8:38 AM

オーストラリアにおける労働安全衛生法および有給育児休暇の改正についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

オーストラリア:労働安全衛生法および有給育児休暇の改正

 

オーストラリア:労働安全衛生法および有給育児休暇の改正

2023年4月吉日
One Asia Lawyers Group
オーストラリア・ニュージーランドチーム

1.はじめに

 オーストラリアにおける労働安全衛生法および有給育児休暇の権利に関する最近の法改正は、オーストラリアの企業およびオーストラリアで子会社を保有する外国企業にとって重要なものです。

 これらの改正は、2023年労働安全衛生改正法(the Work Health and Safety Amendment Act 2023 (Cth) )および2023年有給育児休暇改正法(家族のための改善と男女平等)(the Paid Parental Leave Amendment (Improvements for Families and Gender Equality) Act 2023 (Cth))により導入されました。

 本稿では、これらの改正法に基づきオーストラリアの企業のとるべき対応について解説します。

2.職場安全衛生法

 2023年労働安全衛生改正法(the Work Health and Safety Amendment Act 2023 (Cth) )により、労働安全衛生法における最も重い犯罪において、過失(Negligence)が心理要件として含まれるようになりました。これにより、有罪判決のハードルが下がり、無謀で重大な過失(Reckless and Grossly Negligent)を犯した雇用主は、より深刻な結果や罰則に直面する可能性があります。また、この改正では、労働安全衛生法に基づく金銭的な罰則を保険でカバーすることを禁止し、罰金を単なる事業活動のコストとしてではなく、適切な抑止力として機能させることを保証しています。

 オーストラリアで事業を行う企業(オーストラリア子会社を持つ日本や世界各地の外国企業を含む)は、労働安全衛生法に基づく新たな違反の基準値の引き下げを認識し、以下に示すような対応を取ることが推奨されます。

労働安全衛生に関する社内ポリシーのレビュー

 過失や重過失を含む労働安全衛生問題の発生を可能な限り排除するために、今回の改正を踏まえ、労働安全衛生に関する社内ポリシーの見直を行うことが推奨されます。

従業員へのトレーニング

 オーストラリアのすべての雇用主は、従業員に対して注意義務(Duty of Care)を負っており、職場における従業員の安全に対して最終的な責任を負います。適切な労働安全衛生管理の実施に関する意識を高め、労働安全衛生の問題が発生するリスクを最小限に抑えるために、従業員やその他社内の関係者を対象に労働安全衛生法のコンプライアンスに関するトレーニングを実施することが推奨されます。このようなトレーニングは、雇用主と従業員の義務、最近の法規制の改正、および適切なトレーニングプログラムを通じてこれらの要件に準拠する方法についてアドバイス可能な労働安全衛生法のコンプライアンスに関する専門家や法律事務所に委託される場合が多く見受けられます。

報告手順の作成および窓口の設置

 問題に遅滞なく対処し、深刻化のリスクを軽減するために、従業員や利害関係者が労働安全衛生の危険や問題を迅速かつ匿名で報告できる明瞭な報告手順の策定およびホットライン(報告窓口)の設置を行うことが推奨されます。

3.有給育児休暇

 2023年有給育児休暇改正法(家族のための改善と男女平等)(the Paid Parental Leave Amendment (Improvements for Families and Gender Equality) Act 2023 (Cth))は、オーストラリア政府の有給育児休暇制度に大きな変更をもたらしました。主な変更点は、2023年7月1日から有給育児休暇が18週間から20週間に延長されることです。その他の変更点としては、この制度で支給される休暇の日数上限が30日に撤廃されたこと、実の親ではない両親との乳児の絆やケアに関する規定が追加されたことが挙げられます。

 コンプライアンスを確保するため、企業はオーストラリアの従業員の有給休暇の延長を認識し、雇用契約書、給与計算システム、その他の関連する文書に適切な修正を加えることが推奨されます。

4.おわりに

 労働安全衛生法および有給育児休暇に関する今回の改正は、企業が従業員に対して負うべき責任の度合いや雇用関係に大きな変化をもたらしました。オーストラリアの企業にとって、新しい改正点を認識しコンプライアンス確保のための適切な対策をとることは、信用を維持し、重大な罰則を回避するために非常に重要といえます。

2023年03月14日(火)10:54 AM

オーストラリアにおける再エネ事業のEPC契約についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

オーストラリア:再エネ事業のEPC契約

 

オーストラリア:再エネ事業のEPC契約

2023年3月吉日
One Asia Lawyers Group
オーストラリア・ニュージーランドチーム

1.はじめに

 再生可能エネルギープロジェクトの開発において、信頼性が高く費用対効果の高い方法を模索している企業にとって、EPC(設計・調達・建設)契約は、プロジェクトの納品に不可欠な法的手段といえます。EPC契約では、企業は設計、調達、建設の全プロセスを、プロジェクトの全側面を担当する単一のコントラクターに委託することができます。この種の契約は、プロジェクトに関連するリスク、コスト、期間を削減するのに役立ち、再生可能エネルギー分野が国際的に成長し続ける中、ますます重要となっています。EPC契約の詳細を理解することは、関係者全員が同じ見解を持ち、プロジェクトを時間通り、予算通りに完了させるために重要です。

 本稿では、EPC契約の主要な要素に加え、この法的手段を用いて効果的に交渉、管理、プロジェクトを遂行する方法について検討します。

 2.EPC契約活用の主なメリット

 上述のように、再生可能エネルギープロジェクトでEPC契約を利用する主なメリットは、複数の請負業者を管理する必要がないため、プロジェクトの主体者(プリンシパル)のリスクプロファイルが本質的に軽減されることです。

 一般的に、経験豊富で評判の良いEPC契約の主請負業者(EPCコントラクター)は、プロジェクトに精通しており、潜在的なリスクやコスト上昇を管理することができます。重要なことに、EPCコントラクターは、プロジェクトがすべての適用される法律、業界規制および標準に準拠していることを保証する責任を負います。

3.EPC契約における重要規定

 EPC契約には、通常、以下のような重要な要素や条項が含まれます。

単独責任

 EPC契約において、通常、成果物に対する責任は、EPCコントラクターが単独で負うことが一般的であり、したがって、プロジェクトに起因するあらゆる問題に対して責任を負います。その結果、プリンシパルは、瑕疵およびその是正、または何らかの金銭的補償を受ける権利を有します。EPCコントラクターが複数のステークホルダーからなるコンソーシアムで構成されている場合、各当事者は通常、事業主に対して連帯して責任を負います。

価格の固定

 EPC契約に基づく役務は、通常、変更の難しい固定価格の条件下で提供されることから、EPCコントラクターはコスト上昇のリスクを負わなければなりません。一方で、状況によっては、プリンシパルが完成までの遅延を引き起こし、または作業範囲を変更した場合等においては、EPCコントラクターは追加費用を請求することが可能です。支払いタームは、一括払いか、成果物に対する一括払い、またはマイルストーンごとの支払いかのどちらかで構成されます。

完了日の設定

 プロジェクトの完了日は、固定された日付け、またはEPC契約の開始日を起算とした一定期間です。 契約に基づき定められた期間内に完了しなかった場合は、EPCコントラクターには予め合意された損害賠償額(Liquidated Damages)の支払いが求められます。

履行保証金

 ほとんどのEPC契約では、EPCコントラクターが契約上の義務を果たさない場合を想定した、履行保証(Performance Bond)を提供することが要求されます。履行保証は通常、親会社による保証、銀行による保証、留保保証、または前払い保証の形をとります。

履行保証義務

 EPC契約には、履行保証義務が(Performance Guarantees)が規定されることが多く、義務の履行を怠たり、またはプリンシパルの要件を満たさない場合に、Liquidated Damagesの支払いが求められます。

引き渡し、検査、試運転

 EPCコントラクターの責任、検査および試運転は、作業の一部を構成し、プロジェクトの引渡しおよび完成に先立ち行われます。これらの義務に関連する条項にて、いつプロジェクトが引き渡され完了とみなされるかが詳細に規定されます。

責任制限

 責任制限条項とは、EPCコントラクター の責任を契約金額の所定の金額または割合まで制限する規定です。責任の上限は様々ですが、契約金額の100%までとするのが一般的です。

下請けの雇用

 EPC契約では、EPCコントラクターの作業の一部を第三者に下請けさせることが可能となっています。EPCコントラクターは、通常、下請け業者の雇用に関して事前にプリンシパルへ通知し、その承認を得ることが要求されます。

紛争解決および準拠法

 紛争解決条項は、紛争解決の手段や、当事者が紛争解決のために従うべき手続きを定めるものです。紛争解決方法として仲裁を規定するのが一般的であり、数ある仲裁地の中でも、特にシンガポール国際仲裁センター(SIAC)規則に従いシンガポールで仲裁を行うことが選択される場合が多いです。

 準拠法条項は、契約の解釈および発生した紛争が処理される準拠法および裁判管轄を規定するものです。異なる法域の当事者が関与するクロスボーダー取引では、この条項が非常に重要となります。

4.信頼できるEPCコントラクターの選定

 EPCコントラクターの選定にあたっては、必要な管轄区域で同様のプロジェクトの建設経験が豊富なコントラクターを探すことが重要です。そのためには、コントラクターの経歴や評判を調査し、リファレンスを確認し、複数のコントラクターに見積もりを依頼するなどの方法があります。

 具体的には、コントラクターの経歴を調べる際には、再生可能エネルギー業界における経験や、プロジェクトを予算内で完了させた実績を調べることが重要です。また、過去の顧客からの紹介を確認し、業者のサービスレベルを把握することも重要です。

 複数の業者に見積もりを依頼する場合、契約に含まれていない追加コストが発生しないことを確認するため、見積もりに契約書に記載されているすべての要素が含まれていることを確認することが重要となります。

5.EPC契約の交渉

 コントラクターが決まった後、全関係当事者にとって公平なEPC契約を交渉することが重要です。契約交渉の際には、その業務範囲および上述の契約要素に留意する必要があります。

 業務範囲の交渉では、コントラクターが担当する業務が明確に定義されているか、および成果物が明確に示されているかを確認することが重要といえます。また、費用面の交渉、およびコントラクターが役務に対して過大な費用を請求できるような条項が契約内に埋もれていないかの確認も必要です。さらに、プロジェクトが期限内に完了するように、タイムラインについても交渉する必要があります。最後に、コントラクターがプロジェクトに関連する潜在的なリスクを軽減するために必要なすべての手順を踏んでいることを確保するため、リスクマネジメントの要件についても交渉することが重要といえます。

6.EPC契約における契約管理戦略

 EPC契約の交渉が終わり締結に至った後は、プロジェクトを成功させるために、リスク軽減策を実施することが重要です。最も重要なリスク軽減策は、コントラクターがプロジェクトに精通し、潜在的なリスクを管理できるようにすることです。このためには、コントラクターへプロジェクトの詳細な仕様や計画、定期的なプロジェクトの最新情報を提供することが有効です。

 コントラクターにプロジェクトの詳細情報を提供することに加えて、プロジェクトが適用されるすべての法律、規制、および標準に準拠していることを確認することも重要です。これは、経験豊富なリーガル・チームと協力して契約書をレビューし、すべての条項が適用される法律に準拠していることを確認することで実現可能となります。

 最後に、コントラクターの履行状況をモニタリングするシステムを導入することも重要です。これは、コントラクターとの定期的な協議の場を設定し、コントラクターがプロジェクトのすべての要件を満たしていることを確認するために、プロジェクトの監査を実施することによって行うことが可能です。

7.おわりに

 再生可能エネルギー業界では、プロジェクトに伴うリスクおよびコストを軽減する方法として、EPC契約の普及が進んでいます。EPC契約の主要な要素や法的条件を理解することは、プロジェクトを成功させるために重要です。さらに、EPCコントラクターがプロジェクトのすべての要件を満たしていることを確保するために、契約を有効に管理するシステムを導入することが重要です。このような手順を踏むことは、企業が、再生可能エネルギープロジェクトを、リスクヘッジしながらも、予定通りかつ予算内に確実に完成させるために不可欠といえます。

2022年12月02日(金)4:40 PM

日本・オーストラリア間のネット・ゼロの未来についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

カーボン・トレーディング:日本・オーストラリア間のネット・ゼロの未来

 

カーボン・トレーディング:日本・オーストラリア間のネット・ゼロの未来

2022年12月吉日
One Asia Lawyers Group
オーストラリア・ニュージーランドチーム

1.オーストラリアにおけるエネルギー市場の紹介

 オーストラリアのエネルギー市場は、低排出経済への移行に伴い、急速な変化を遂げつつあります。オーストラリア政府は、再生可能エネルギー目標(RET:Renewable Energy Target)として、再生可能エネルギーによる発電量のベンチマークを設定し、再生可能エネルギーによる発電量を一定割合以上確保できない事業者に対しては罰則を科す方針を打ち出しています。

 オーストラリアエネルギー市場を所管する独立行政機関Australian Energy Market Operator(AEMO)によると、2040年までに石炭火力発電の約63%が廃止され、風力や太陽光発電、揚水発電、蓄電池、ガスなどの安定したエネルギー源に代替されるとされており、この種の政策は益々重要となってきています。

 民間セクターでは、多くの企業がカーボンクレジットを購入することで二酸化炭素排出量を削減し、温室効果ガス排出量削減という世界的な活動を支援しています。

2.カーボン・トレーディングとは

 カーボン・トレーディング(炭素取引)とは、端的には、1トン当たりのCO2を排出する権利を与える「クレジット」を売買することを指します。カーボンクレジットは誰でも取得することができますが、実際には、規制遵守や企業の社会的責任(CSR)の観点から企業が取得するのが一般的です。

 世界的には、京都議定書やパリ協定のような国際協定や条約が、炭素排出削減のための世界的な方針を規定し、炭素取引市場の会計指針と透明性に関する目標が設定されています。

 炭素取引市場におけるもう一つの重要な違いは、コンプライアンス市場および任意市場に関するものです。コンプライアンス市場は、国家、地域、および国際的なCO2削減スキームにより創られた市場です。一方で、任意市場はコンプライアンス市場の外で機能し、コンプライアンス目的の使用を目的とせず、企業が自主的にカーボンクレジットを購入することを可能とする市場です。

 カーボンクレジットの取引は、コンプライアンス市場でも任意市場でも、他の商品と同じように行われ、先物取引所が存在し、スポットや長期間の受渡決済およびオプション取引が容易に行えます。また、カーボンクレジットは、ブローカーを通じて取得することも可能です。 

3.オーストラリアにおけるカーボン・トレーディング規制の概要

 オーストラリアのカーボンクレジットであるACCU(Australian Carbon Credit Units)は、排出削減基金(Emissions Reduction Fund)を通じてクリーンエネルギー規制局(CER:Clean Energy Regulator)により発行され、企業は、これを、オーストラリア政府の制定する排出削減法に従った遵守義務に対する排出量の相殺、自主的なカーボンニュートラルの表示、またはカーボンニュートラル認定に使用することができます。

 ACCUはオーストラリアの会社法(Corporations Act 2001 (Cth))により金融商品として分類されているため、ACCUはネット・ゼロへの道筋において単なるオフセット以上の役割を果たす可能性があり、正しく運用されれば、ネット・ゼロへの取り組みに対する資金調達の担保として利用できる可能性があります。 

 ACCUは、オーストラリア政府により、オーストラリア国内排出権登録簿(ANREU:Australian National Registry of Emissions Units)を通じて追跡されます。企業がカーボンニュートラルの表示を行う場合、その表示の時点で、公的登録簿にあるそれぞれのACCUを償却または取消を行う必要があります。

 オーストラリアの炭素取引市場のもう一つの基盤となる開発として、CERは、市場環境を通じてACCUの取引をより容易にするオーストラリア炭素取引所(ACE:Australian Carbon Exchange)を提唱しています。ACEのプラットフォームは2023年に開始される予定で、承認されたエネルギー排出基金プロジェクトから得られたACCUを個人および企業間で取引することができるようになります。

4.日本・オーストラリア間のカーボン・トレーディング活動

近年、日本企業によるオーストラリアのカーボンクレジット取引・生成事業の買収が相次いでいます。代表的な案件として、以下が挙げられます。

 a) 三井物産による、カーボンクレジットの生成・販売を行うコンサルティング会社であるClimate Friendly社への出資
 b) 三菱商事による、自然環境に配慮した排出権取引を行うAustralian Integrated Carbon社の株式40%取得
 c) 大阪ガスの現法Osaka Gas Energy OceaniaによるAustralian Integrated Carbon社への出資

 三井物産は、Carbon Friendly社と共同で2022年から2025年にかけて7000万トン以上のカーボンクレジットを創出する計画であり、カーボン・トレーディング分野における主要プレーヤーと見られていますが、他にも日本の商社がオーストラリアで同市場への多角化を図る動きが増えています。

 市場活動をさらに促進するため、オーストラリア国立大学(ANU:Australian National University)が2021年に発表した報告書では、オーストラリアと日本の間でカーボンクレジットの取引を促進するための二国間協定の締結が推奨されています。これが実現されれば、両国のさらなる取引活動の確立に向けた大きな一歩となり、自主的な炭素市場を通じて、オーストラリアと日本の両方で再生可能エネルギープロジェクトの資金調達能力を向上させることができるようになると考えられます。

5.おわりに

 多くの政府や民間企業が二酸化炭素排出量の削減に取り組む中、再生可能エネルギープロジェクトやネイチャー系炭素クレジットプロバイダーへの投資機会が益々増加することが予測されます。オーストラリアは人件費が比較的高い国であるにもかかわらず、外国企業や商社にとって投資に適した地域とみなされています。日豪両政府による二国間炭素取引協定に関する協議を継続することは不可欠であり、これにより、両国が、経済を大幅に強化し、国際的な再生可能エネルギー大国としての地位を確立することが期待されています。