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2023年11月13日(月)5:30 PM

日越外交関係樹立50周年に関するニュースレターを発行いたしました。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。

<日越外交関係樹立50周年に寄せて>

 

<日越外交関係樹立50周年に寄せて>

2023年11月13日
One Asia Lawyers ベトナム事務所

概要

 早いもので、今年も残すところ約1か月半となりましたが、2023年は、日本とベトナムにとっては、外交関係樹立50周年にあたる記念すべき年でした。

 9月には、秋篠宮ご夫妻のベトナムご訪問もありましたが、今年は、一年を通して記念イベントが両国各地で多数開催されましたので、何らかのイベントにご参加いただいた方も多いのではないでしょうか。

 その一環として、11月3日にハノイで、「日越外交関係樹立50周年記念シンポジウム『日越関係:過去・現在・未来』」が開かれ、日越の学術関係者が集い、研究結果の報告がなされました。

1.記念シンポジウム「日越関係:過去・現在・未来」

 本記念シンポジウムは、ハノイ国家大学所属日越大学、同社会人文科学大学、日越外交関係樹立50周年実行委員会、日本ベトナム研究者会議の主催により、ハノイ国家大学グイ・ニュー・コントゥム記念講堂(Ngụy Như Kon Tum Hall)にて開かれました。

 会場には、学術関係者、ベトナムの大学生、日本人留学生、現地在住の邦人、また日本各地から、様々な年代、幅広い社会的ステータスの人々が100名程度集まり、オンラインでも約200名ほどの申し込みがあったようです。

 当日は、日越大学の古田元夫氏、桃木至郎氏による基調報告「日本のベトナム研究」に始まり、昼休みをはさんで夕方17時頃まで行われ、日本の研究者の中にはベトナム語で、ベトナムの研究者のなかには日本語で発表される方もおられるなど、研究内容ばかりでなく、発表形式においても日越交流の色濃いシンポジウムとなりました。会場を訪れた在住邦人や留学生には、仕事の合間を縫って参加された方、流ちょうなベトナム語で質問される方、登壇された研究者の方でも回答に窮するようなご質問をする留学生もいらっしゃいました。

 筆者としては、東京大学の菊池百里子氏が発表した「ベトナムにおける日本銭の流通」において、ベトナムでしか見つかっていないという「長崎貿易銭を模倣した銭貨」の存在や、ハノイ社会・人文科学大学のDo Thi Thuy Lan氏の「ベトナムで発見された日本の金属貨幣の概観」において、日本の銭貨が、ハイフォン、Thanh Hoa、Binh Dinh、Phu Yen、Con Dao島、Lang Sonなど、ベトナム各地で広く見つかっていることについて、大変興味深く拝聴しました。

(シンポジウムの様子:筆者撮影)

2.法律関連の日越交流

 さて、今回のシンポジウムでのテーマには含まれていませんでしたが、日本はベトナムに対して、法律面でも支援を行っています。

 1994年の法務省によるベトナムに対する法整備支援に始まり、1996年からは国際協力機構(JICA)による政府開発援助(ODA)として、法務省、最高裁判所および日本弁護士連合会の協力の下、民法や民事訴訟法の立法支援のほか、裁判官や弁護士などの司法人材教育を含めたベトナムへの法整備支援が継続的に実施されています。

 そのなかに、JICAによる法・司法制度改革支援プロジェクトの一環として「ベトナム六法」という取り組みがあり、ベトナムの基本的な法律について和訳がなされています。憲法、民法、刑法をはじめ、商法、投資法、企業法、労働法など、当地でのビジネスに関連する基本的な法律はおおよそ和訳されていますので、是非ご参考ください。

【JICA ベトナム六法】
https://www.jica.go.jp/Resource/project/vietnam/021/legal/index.html

3.アーカイブサイトと「アニオー姫」

 今回のシンポジウムは、平日、かつ終日の開催であったため、興味はあったけれども参加できなかった、という方も多かったと推測されるところですが、本シンポジウムの内容、また日越外交関係樹立50周年を記念して今年開催された各イベントは、「アーカイブサイト」に収録され、閲覧可能になる予定ということですので、今後のサイトの公開をお待ちください。

 記念イベントとしては、9月22~24日にかけてハノイで世界初公演された、新作オペラ「アニオー姫」も特筆に値します。筆者は、一般公開された23日と24日の2公演を鑑賞しましたが、両日ともに観客席はほぼ満員、終演後も拍手がなかなか鳴りやまないなど、とても素晴らしい公演でした。

(「アニオー姫」の会場となったハノイオペラハウス:筆者撮影)

2023年06月12日(月)3:18 PM

ベトナム個人情報保護に関する政令 公安省による説明会における質疑応答についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

ベトナム個人情報保護に関する政令 公安省による説明会における質疑応答

 

<ベトナム個人情報保護に関する政令 公安省による説明会における質疑応答>

2023年6月12日
One Asia Lawyers ベトナム事務所

概要

 2023年6月7日、ベトナム公安省サイバーセキュリティおよびハイテク犯罪予防管理局[1]は、7月1日に施行される個人情報保護に関するDecree No.13/2023/ND-CP(以下「PDPD」)に関して、PDPDの意義や内容を概説する会議を開きました。各国大使館、国家機関、内外企業関係者などから多数の参加者が会議へ参加し、PDPDに対する関心の高さがうかがえました。

 本ニュースレターでは、本会議の配布資料中に掲載された、企業の質問と当局の回答から、特に施行前後のタイミングでの企業の共通の懸念事項と考えられる問題を抜粋してご紹介します[2]

1.施行前に収集した個人情報の施行後の同意「再取得」

Q:PDPD施行前に収集した個人情報について、施行後、PDPDに従って改めて同意を取得する必要はあるか。

A:同意の再取得は不要である。PDPD施行前に収集された個人情報は、施行後にはPDPDに従って管理されることとなる。しかしながら、施行前に収集された個人情報について、データ主体の同意を再取得する必要はない。ただし、その他の義務についてはPDPDに従わなければならない。

2.影響評価報告書類、対外移転報告書類などの提出方法

Q: 個人情報処理影響評価報告書類と対外移転報告書類は、1つにまとめて提出できるのか等、手続について教えて欲しい。

A:両書類は別々の手続において要求される別々の書類であるため、1つにまとめて提出できない。公安省は、PDPDに関するガイドラインを準備しており、2023年7月1日までに、PDPD違反の届出、影響評価報告書類の作成・提出及び内容変更の届出、並びに対外移転報告書類の作成・提出及び内容変更の届出に関して案内をする。

3.影響評価報告書類の作成、公安省への送付期限

Q: PDPDには、次のような規定が存在する。

  第24条 個人情報処理影響評価

  1.個人情報管理者、個人情報管理者・処理者は、個人情報の処理を開始した時点から、個人データ処理影響評価報告書類を作成し、保管する。

  4.個人情報処理影響評価報告書類は、公安省の検査および評価に利用できるよう常に用意し、個人情報の処理を開始した日から60日以内に、本政令の附録書式04に従って、原本1通を公安省 (サイバーセキュリティおよびハイテク犯罪予防管理局)に送付しなければならない。

  第25条 個人情報の国外移転

  3.個人情報の国外移転影響評価報告書類は、公安省の検査および評価に利用できるよう常に用意しておかなければならない。

    データを国外に移転する当事者は、本政令の附録書式06に従って、原本 1通を公安省 (サイバーセキュリティおよびハイテク犯罪予防管理局) に、個人情報の処理を開始した日から 60 日以内に送付しなければならない。

 PDPD施行前に処理した、あるいは国外に移転したデータについては、施行後、いつまでに公安省に提出しなければならないのか?

A: 影響評価報告書類の作成はPDPD施行後に実施でき、施行日から60日以内に提出しなければならない。

4.影響評価報告書類の言語、提出方法

Q: PDPD第24条の個人情報処理影響評価に関して、附属書式04「個人情報処理活動影響評価書送付通知」、同05「書類内容変更通知」にはベトナム語しかない。外国企業は、英語で通知を提出できるか? ベトナム語への翻訳が必要か? ベトナム語へ翻訳する場合、公証が必要か?

また、個人情報処理影響評価書はオンライン提出が想定されているが、まだ提出用サイトは開設されていないが、いつ開設されるのか。

A: 行政手続きの規定上、提出書類は全てベトナム語となる。英語版の提出、ベトナム語翻訳版の提出はできず、「個人情報保護に関する国家情報ポータル」[3]上の書式から直接記載するか、書式をダウンロードして、直接サイバーセキュリティおよびハイテク犯罪予防管理局に提出する必要がある。

 「個人情報保護に関する国家情報ポータル」は、施行までに準備できるよう制作中である。

終わりに

 PDPDの罰則を定める規定の草案がパブリックコメントに付されており、罰則規定の施行予定が本年12月1日とされています。罰則規定の施行直後から違反が続々と摘発される状況になることは一般には考えにくいです。

 本PDPDは、ベトナム初の包括的な個人情報保護に関する法令であり、4月17日の公布以来、施行まで間がないこともあって、どのような対応をすればよいのか懸念する企業も多かったところですが、罰則の適用時期や、公安省からガイドラインが出されることが明言されていることなどから、政令の施行後、その時点で出ている情報をベースにあらためて何をどこまで対応するべきか、という点についてご検討いただければよいかと思います。

 なお、7月1日施行に間に合うよう制作中とあるオンライン提出用の「個人情報保護に関する国家情報ポータル」も、本ニュースレター執筆日現在では、運用開始に関する情報には接していません。

 

[1] Cục An ninh mạng và phòng, chống tội phạm sử dụng công nghệ cao – Bộ Công an

[2] 原文には質問を行った企業名が記載されていますが、本ニュースレターでは質問を実施した企業名は省略しています。また、質問と回答は、それぞれの主旨を踏まえて、わかりやすいように省略、補足しております。

[3] Cổng thông tin quốc gia về bảo vệ dữ liệu cá nhân

2023年05月15日(月)10:10 AM

ベトナム個人情報保護に関する政令の概要についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

ベトナム個人情報保護に関する政令の概要

 

<ベトナム個人情報保護に関する政令の概要>

2023年5月15日
One Asia Lawyers ベトナム事務所

1.概要

 2023年4月17日、ベトナム政府は、個人情報保護に関するDecree No.13/2023/ND-CP(以下「PDPD」といいます)を公布しました。ベトナムで初となる、本格的な個人情報保護に関する法令となります。

 PDPDは2023年7月1日に施行され、国内に所在しているか、国外に所在しているかを問わず、電子・インターネット環境においてベトナム人の個人情報を取り扱うすべての組織および個人に影響します。ただし、具体的にどのような対応を実施すればよいかが不明確な点が多いため、PDPDに関するガイドラインや当局の指示について注視が必要です。

2.PDPDのポイント

i) 個人情報の定義の明確化:

 EUの一般データ保護規則(GDPR)同様に、基本データ(氏名、生年月日、性別、出生地、国籍など)とセンシティブデータ (政治的見解、医療記録に記載された健康状態、人種に関する情報、遺伝的特徴に関する情報、位置情報など)の2グループに分類されています(第2条3項、4項)。

ii) 「データ処理」の定義の明確化:

 ベトナムで以下の活動を行う企業は、ベトナムに拠点があるかないかを問わず、PDPDに従う必要があります。

 【第2条7項】

  個人情報の処理とは、個人情報の収集、記録、分析、検証、保存、修正、公開、結合、アクセス、取得、取消、暗号化、復号化、コピー、共有、送信、提供、転送、削除、破棄あるいは関連するその他の活動など、個人情報に影響するひとつ或いは複数の活動をいう。

iii) データ処理にかかる対象者の分類:

データ処理における役割に応じて、PDPDは、次のように分類しています。

 -個人情報管理者:個人情報を処理する目的と手段を決定する組織、個人(第2条9項)。
 -個人情報処理者:契約を通じてデータ管理者に代わってデータを処理する組織、個人(第2条10項)。
 -個人情報管理および処理者:目的、手段を決定し、同時に個人情報を直接処理する組織、個人(第2条11項)。

iv) データ主体の基本的な権利の明確化:

 PDPDでは、自己の個人情報の取り扱いに関して知る権利、同意する権利、アクセスする権利、同意を撤回する権利、及びデータを削除する権利等を認め、それらの権利を保護するための規定を設けています(第9条)。これらは、従前の法令においても認められていたものであり、あらためてPDPDにおいて統一的に明確化された内容といえます。

v) 個人情報保護の担当政府機関:

個人情報保護を担当する政府機関は、公安省のサイバーセキュリティおよびハイテク犯罪予防管理局[1](以下「当局」といいます)となります(第29条1項)。なお、政府は、消費者からオンラインで苦情や侵害についての通報を受けるためのポータルサイト構築も進めることとされています(第29条2項)。

3.個人情報の管理者、処理者が実施しなければならない事項

i) 同意の取得

 PDPDでは、データ主体の同意なしに個人情報を処理することを禁じています(第11条1項)。

 2023年7月1日以降、データ主体の同意は以下の主な条件が満たされた場合にのみ有効とみなされます。

 -個人情報主体が、同意する前に次の事項を明確に知っていること:処理されるデータの種類、処理の目的、処理する組織または個人情報主体の権利と義務

また、処理されるデータがセンシティブ個人情報の場合、データ主体に、処理されるデータがセンシティブ個人情報であることを知らせる必要があります(第11条2項、8項)。
 -データ主体の同意が明確かつ具体的に表現されていること:データ主体の沈黙や無応答は、同意とはみなされません(第11条6項)。
 -データ主体の同意は、電子形式または検証可能な形式を含め、書面で印刷、複製できる形式で示されなければなりません。なお、情報の取得目的が複数ある場合は、複数の目的を一覧化して同意を取得する必要があります(第11条4項、5項)。
 -子供の個人情報の処理について、7歳以上の子供の場合は子供と保護者の同意が必要となります。保護者が同意を撤回した場合、子供の個人情報を復元できない形で削除しなければなりません(第20条2項、3項b))。

 なお、PDPDには、施行日より前に個人情報が処理されている場合、施行日以降、PDPDに沿ってデータ主体の同意を取り直す必要があるかどうかに関する規定はありません。

ii) 個人情報保護対策の導入

 PDPDでは、データ管理者、処理者に対し、(i) 管理対策を講じ、 (ii) データ処理プロセスの開始からプロセス全体を通じて、データを保護するための技術的措置を講じることを義務付けています(第26条1項、2項a、b)。センシティブ個人情報を収集する場合、個人情報保護を担当する部門や担当者を任命する必要があります(第28条2項)。

 ただし、PDPDには、データ管理者、処理者が導入する管理対策が適切かどうかを評価するための基準や条件は規定されていないため、どのような部門を設ける必要があるのか、また、担当者に要求される条件は無いのか等、実務的にどのように対応を行えばよいのか不透明な状況です。

iii) 個人情報処理影響評価書の作成

 PDPDでは、個人情報管理者、処理者に対し、個人情報の処理開始時から個人情報処理影響評価書を作成し、保管することを義務付けています(第24条)。

 個人情報の処理を開始した日から60日以内に企業は、個人情報処理影響評価書を備えておく必要があります(第24条4項)。当局には、当該書類を検査し、内容が不十分である場合には、十分に整備するよう要求する権利を有します。

 個人情報管理者、処理者の個人情報処理影響評価書には次のものを含む必要があります。

 a) 個人情報管理者、処理者の情報、連絡先。
 b) 個人情報保護業務を実施する組織、個人情報保護スタッフの氏名、連絡先。
 c) 個人情報を処理する目的。
 d) 処理される個人情報の種類。
 dd) 個人情報を受け取る組織、個人(ベトナム領土外の組織、個人を含む)。
 e) 個人情報を国外に移転する場合。
 g) 個人情報を処理する時間、個人情報の削除または破棄を予定している時間(あれば)。
 h) 導入した個人情報保護対策の説明。
 i) 個人情報の処理による利益の評価。発生し得る被害、損害、そのリスクを低減、排除するための対策。
 (第24条1項)

 上記に従って個人情報処理影響評価書を用意したとしても、実務上当局から内容が十分であると認められるかどうかという点について不透明であるため、更なるガイドラインや実務の蓄積が待たれるところです。

4.個人情報の域外移転

 PDPDでは、ベトナム国民の個人情報を国外に転送したり、ベトナム領土外に設置されたシステムを用いて、ベトナム国民の個人情報を処理したりすることを認めています(第2条14項)。しかしながら、ベトナム国民の個人情報を国外に移転するためには、次の基本条件を満たしている必要があります。

個人情報の処理を開始した時点から、個人情報の国外移転影響評価書を作成すること。
個人情報の処理を開始した日から60日以内に、個人情報の国外移転影響評価書を当局に提出すること。当局は、書類が不完全な場合、書類を十分に整備するよう求める権利がある。
データの国外移転者は、当局に提出した書類の内容に変更があれば、更新、補足する必要がある
(第25条1項、2項、3項、6項)

 個人情報の国外移転影響評価書の内容は、基本的に個人情報処理影響評価書と同じです。当局は、個人情報の国外移転を年に一度検査し、規定の条件を満たしていない場合には、データの国外移転者に対し、個人情報の国外移転を停止させる権利があります(第25条7項)。

 データの国外移転は正常に行われた後、データの移転と担当者の連絡先を書面で当局に通知する必要があります(第25条4項)。

 個人情報処理影響評価書同様に、更なるガイドラインと実務の蓄積が必要な箇所であるといえます。

5.インターネット上でのマーケティングや商品の紹介(広告)

 マーケティングや商品の紹介(広告)を実施する企業は、国内外を問わず、その事業活動を通じて収集した顧客の個人情報のみを、顧客の同意を得たうえで、マーケティングや商品の紹介(広告)に使用することができます(第21条1項)。当該企業は、商品紹介の内容、方法、形態、頻度等を顧客が把握していることを前提に、顧客の同意を得る必要があります(第21条2項)。

6.個人情報処理のシステムログの記録・保存

 個人情報管理者は、個人情報の処理プロセスにシステムログを残す必要があります(第38条2項)。

 PDPDは2023年7月1日から施行されるため、個人情報の処理に関連する活動を行う企業は、本政令で定める要件をできるだけ早く確認し、対応準備を進める必要があります。他方で、現時点では具体的な対応方法が不明な事項が多く、施行までに詳細なガイドラインが出される可能性があるため、注視が必要です。

[1] Cục An ninh mạng và phòng, chống tội phạm sử dụng công nghệ cao – Bộ Công an

2023年02月10日(金)6:04 PM

ベトナム共産党書記長の汚職撲滅をテーマにした書籍の公表についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

ベトナム共産党書記長が汚職撲滅をテーマにした書籍を公表

 

<ベトナム共産党書記長が汚職撲滅をテーマにした書籍を公表>

2023年2月13日
One Asia Lawyers ベトナム事務所

1 概要    

 2023年2月2日、Nguyen Phu Trong(グエン・フー・チョン)ベトナム共産党書記長を著者とする、ベトナムにおける汚職撲滅の取り組みをまとめた書籍が公表されました[1]

 「汚職と不正に断固闘い、クリーンで力強い党と国家の建設に貢献する」[2]と題された本書籍はベトナム語で600ページ超に及ぶもので、2013年に設立された「汚職・不正防止に関する中央指導委員会」設立からこれまでの汚職・不正防止の取り組みの総括や、2014年、2018年、2020年、2022年にそれぞれ開催された「汚職・不正防止業務に関する全国会議」における書記長の発表、汚職・不正が起きないための体制づくりに関する考え、取り締まり実績、今後の方針などが盛り込まれています。

 ベトナムにおける贈収賄をはじめとする腐敗・汚職の問題は、当地でビジネスを行う日系企業の関心も高く、実際に問題に直面し、頭を悩ます担当者も非常に多いと思われることから、以下書籍の内容をいくつかご紹介いたします。

2 取り締まり実績

 本書籍では、2012年から2022年までの10年間に処分された党組織は2,740、党幹部・党員は16万7,700人(このなかに中央の高官も190人あまり含まれる)であり[3]、汚職事件における資産の回収率が上がっていること(2013年には回収率が10%未満だったものが現在は34.7%に上がっている)など、汚職摘発が高官に対しても例外なく進められており、汚職によって失われた資産の回収率が高まるなど、汚職防止対策が効果を上げていることが記載されています。

 本書籍において地域的、分野的な傾向の分析や説明等の記載はないものの、「以前は汚職事件の摘発が「年間ゼロ」となっていた地方もあったところ、近年では全国各省・市で汚職摘発がなされているほか、ハノイ、ホーチミン市、An Giang省、Dong Nai省、Khanh Hoa省、ダナン市、Binh Thuan省、Phu Yen省、Thanh Hoa省、Quang Ninh省、Bac Ninh省、Thai Nguyen省などで大規模な汚職事件が摘発された」[4]として、全国各地で取り締まりが行われていることが記載されています。

 また分野としては、金融、銀行、土地の管理・使用、資源・鉱物管理・開発、公共投資などで、特に汚職が深刻な状況が続いているとされています[5]。したがって、この分野で事業活動を実施している日系企業は、引き続き汚職について注視していく必要があるといえます。

3 民間セクターにおける腐敗撲滅

 ベトナムの刑法、及び汚職防止法は、公務員に対するものに加えて、民間の汚職も規制する法令になっています。

 本書籍でも、「2015年刑法では民間における汚職に関する罪が4つ追加され、2018年汚職防止法では民間における汚職防止に関する章が設けられている」という記載をした上で、実際の摘発事例として、次のような事件名を挙げています[6]

・Viet A事件:新型コロナのテストキットの不正納入。Viet A社が全国各地の医療機関に対して、関係者にコミッションを出すなどして不正納入した。元保健大臣などが逮捕。

・AIC事件:Dong Nai 省の公立病院における医療機器の不正入札・納入。2018年に日本政府から旭日小綬章を授与されたAICグループ会長などが起訴。同会長は国外逃亡中とみられる。

・FLC事件:不動産開発大手FLCの会長らが市場操縦などの容疑で逮捕。

・Tan Hoang Minh事件:不動産開発大手Tan Hoang Minhにおける不正な社債発行。会長らが逮捕。

・Van Thinh Phat事件:不動産開発大手Van Thinh Phatにおける不正な社債発行。会長らが逮捕。

4 今後の課題

  世界の汚職を監視する非政府組織Transparency Internationalが毎年発表している「世界腐敗認識指数(CPI)」 2022年版でベトナムは世界180か国・地域中77位[7]。2021年は87位[8]、2020年は104位[9]であり、近年順位を上げてきています。

 2023年に入ってすぐには、ベトナムのテト(旧正月)直前というタイミングでNguyen Xuan Phuc(グエン・スアン・フック)国家主席が、党幹部、政府高官による一連の汚職事件の責任を取って辞任し、日本のメディアでも驚きをもって報道されました[10]

 大規模な汚職事件が多数摘発されるなかで、これまでのベトナムの汚職撲滅活動や会議等で発表された書記長の考え、方針、国民の声など書記長の実績を取りまとめる形で発表された本書籍。汚職撲滅は一朝一夕に進むものではありませんが、ベトナムも国を挙げて対策を進めていますので、ベトナムとかかわってビジネスをする私たちも、「ベトナムだから…」と受け入れるのではなく、毅然とした態度をとり、また民間企業間であっても、襟を正して行動することが必要なのかもしれません。

以上

[1] https://vnexpress.net/ra-mat-sach-chong-tham-nhung-cua-tong-bi-thu-nguyen-phu-trong-4565602.html

[2] ベトナム語原文は“Kiên quyết, kiên trì đấu tranh phòng chống tham nhũng, tiêu cực, góp phần xây dựng Đảng và Nhà nước ta ngày càng trong sạch, vững mạnh.”

[3] 書籍には実施された処分の具体的説明等は記載されていない。ベトナム共産党における処分の類型としては、組織の場合は警告や解散、党員の場合は警告、解任、除名などがある。

[4] 本書籍P.30

[5] 本書籍P.56

[6] 本書籍P.35。事件の概要は筆者が現地報道からまとめたもので、本書籍には事件の詳細は記載されていない。

[7] https://www.viet-jo.com/news/social/230202131000.html

[8] https://www.viet-jo.com/news/social/220127174351.html

[9] https://www.viet-jo.com/news/social/220127174351.html

[10] https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM164D70W3A110C2000000/

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM16BXT0W3A110C2000000/

https://www.jiji.com/jc/article?k=2023011700826&g=int

 

2022年08月16日(火)3:28 PM

ベトナムにおいて不動産事業会社をM&Aする際の新たな条件についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

ベトナム 不動産事業会社をM&Aする際の新たな条件

 

ベトナム 不動産事業会社をM&Aする際の新たな条件

2022年8月11日
One Asia Lawyers ベトナム事務所

 

 2022年3月1日より、不動産事業法の施行細則となるDecree No.02/2022/ND-CP(以下「政令第2号」といいます)が施行された影響か、不動産事業法におけるM&Aの手続において従来とは異なる条件が付されています。

 本条件は、不動産事業を行う会社を日系企業がM&Aする際、特にスケジュール面において大きな影響を及ぼす可能性があるため、以下概要をご紹介いたします。

1 M&A承認とは

 ベトナム企業をM&Aによって取得する場合に特徴的な制度として、投資法26条2項に定める以下の基準を満たす場合、当該M&Aについて地方の計画投資局(Department of Planning and Investment: DPI)へ登録する手続(以下「M&A承認」といいます)が挙げられます。

【M&A承認が要求されるケース】

①条件付き投資分野を含む事業を行う対象会社の株式・持分を取得し、結果として対象会社の外国投資家の出資比率が増加する場合

②対象会社の株式・持分を取得し、結果として対象会社の外国投資家の出資比率が50%を超える場合

③対象会社が国防・治安維持に影響する地域などの土地使用権証明書を保有する場合

 日系企業がベトナムにおいて不動産事業を行う会社の株式・持分を取得する場合、上記①又は②に該当するとして、M&A承認が要求されることとなるケースが多いと考えられます。

2 不動産事業を行う会社のM&A承認手続

 従来、不動産事業は外国投資家にも開放されている分野であるため、M&A承認の取得について特に困難が伴うものではありませんでした。

 しかし、最近の事例においてホーチミン市DPIは、不動産事業に関するM&A承認に関して以下の条件を課しています。

・対象会社は、その住所、営業の範囲・方法、外国人投資家に適用される投資条件を充足していること(もしあれば)について具体的に説明すること
・2022年4月19日付人民委員会による安定的かつ健全な不動産市場の発展に関する首相の指示に関するConfidential official dispatch No. 371/UBND-D第4項・第5項に基づいて、人民委員会から与えられた指示に従い、不動産事業の分野におけるマネーロンダリング、移転価格、脱税、不動産取引の現金での支払い、その他関連する申請書類に関して、ベトナム国家銀行(以下「SBV」といいます)の意見をM&A承認を申請する前に取得しなければならない

 特にDPI承認を申請する前にSBVの意見を取得することについて、SBVの回答期限が明確にされていないため、不動産事業会社をM&Aする際のスケジュールに大きな影響を与える可能性があります。

 上記の点を考慮し、不動産事業会社をM&Aする際のスケジュールについては慎重に検討する必要がある点にご留意ください。

以上

2022年07月13日(水)3:20 PM

ベトナム 労働法関連トピック 首相が労働者と対話についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

ベトナム 労働法関連トピック 首相が労働者と対話

 

<ベトナム 労働法関連トピック 首相が労働者と対話>

2022年7月13日
One Asia Lawyers ベトナム事務所

1 概要

 2022年6月12日、ファン・ミン・チン首相は、ベトナム北部の都市Bac Giang(バクザン)省において、工場労働者との対話を行いました。対話は、Bac Giang省の会場と全国63省市をオンラインで結ぶ形で実施され、計4,500人の工場労働者が参加したとされます。首相と労働者との対話は、今後の労働法改正に影響を与える可能性があるため、法令改正を先取りして理解する趣旨で、労働者からどのような声が上がったのかを今回紹介いたします。

2 労働者の関心が高い10の問題

 今回の対話を実施するにあたり、全国の労働組合を統括するベトナム労働総同盟(VGCL)は、政府に対する意見、質問、要望等を募集し、労働者から合計約1万件近くの意見が寄せられました。今回の対話の議題は、この意見の中から、労働者の関心が高いと考えられる次の10の問題に集約し、設定されました。

 1.最低賃金の引き上げ、生活に十分な給料の支給(給料・賃金)
 2.社会保険法の全面改正、無年金者が発生する社会保険の一時金引き出しの抑制(社会保障)
 3.工場労働者支援制度・政策の運用にかかる問題の解決(ワーカー支援)
 4.工業団地を中心とする工場労働者向けの幼稚園、学校、診療施設、文化施設の整備(養育・教育・医療)
 5.工場労働者に対する融資制度、ヤミ金融を利用しなくて済む融資制度の整備(融資)
 6.職業訓練、第4次産業革命に適応できる職業レベル・技能の向上(職業訓練・技能向上)
 7.使用者の法令違反に対する検査・監視・処罰の強化(使用者の違反行為)
 8.工場の食堂や市場(いちば)における食品の安全衛生の確保(食・健康)
 9.職場、工場労働者の住まい、工業団地における治安、交通安全の確保(治安・交通安全)
 10.下宿における家賃、電気代、水道代の不合理な値上げ、教科書の値上げ、戸籍登録が無いことにより工場労働者の子供の通学に支障が生じている問題(生活費・教育)

3 法令改正への影響

 ベトナムは共産党一党支配の社会主義国家ですが、世論、民意を重視し、これらが法律の制定・改正に大きく影響しています。実際に、現行の2014年社会保険法は、国会で法律が成立した後の2015年に、一時金の取り扱いに関する規定について外資工場で大規模なストライキが発生し、当該規定をほぼ成立前の状態に戻す部分改正が行われ、更に2018年には、経済特区法案で定める最長99年の土地使用権を与える規定が乱用されかねないと激しい抗議デモが発生し、法案採択が見送られたこともあります。

 近年ベトナムでは、法令の制定・改正にあたってパブリックコメントもしっかり実施されるようになりつつあり、ベトナム政府ができるだけ、民意、世論を汲んだ法整備をしようとしている姿勢がうかがえます。

 今回、首相はじめ対話に参加した政府関係者らは指摘された問題点を解決、改善していくことを約束しており、具体的にどのような形で実現するかは不透明ではあるものの、上記対話の議題に関する分野について、労働者に有利な方向で改正がなされることが予測されます。

上記議題に関して現地法人運営上の懸念がある場合に、事前に検討を行った上、仮に法令が改正された場合であっても、速やかに対応ができるよう備えておくことが重要となります。また、日系企業、特に製造業においてベトナム人労働者をどのようにリテンションするかということが課題として挙げられることが多くなってきていることから、上記の点を解決できるような制度設計とすることで、労働者にとって魅力的な労働環境を提供することにつながり、安定した雇用を実現することもできるのではないでしょうか。

以上

2022年06月13日(月)4:13 PM

職場におけるセクハラに対する行動規範改正についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

ベトナム 職場におけるセクハラに対する行動規範を改正へ

 

<ベトナム 職場におけるセクハラに対する行動規範を改正へ>

2022年6月13日
One Asia Lawyers ベトナム事務所

1 概要    

 地元紙によると、ベトナム労働傷病兵社会省(以下「労働省」といいます)、ベトナム労働総同盟(VGCL)、ベトナム商工会議所(VCCI)は、職場におけるセクシャルハラスメント(以下「職場でのセクハラ」といいます)に対する行動規範の改正草案を作成しました。

 本改正草案は、2015年に労働省法務局が公表した職場でのセクハラに対する行動規範を一部改正するものとなります。

 前回のニュースレターでは、新たに職場でのセクハラに罰金規定が設けられたことをご紹介いたしましたが、今回は、どういった行為が職場でのセクハラになるのか、という点をご紹介させていただきます。今後、実際に行動規範が改正されるに先立って、職場でのセクハラに関する社内規定の整備などをご検討の際にご参照ください。

2 「職場でのセクハラ」を定義

 改正草案では、「職場でのセクハラ」を、「他人に対する性的な性質を有する行為であって、相手が望まない、又は承認しないもの」と定義したうえで、「身体的セクハラ」「言語的セクハラ」「非言語的セクハラ」の3種類に分類しています。

「身体的セクハラ」には、行動や性的な身体接触などを含み、「言語的セクハラ」には、性的な内容を含む直接の発言や電話、電子的手段を通じた発言、本人がいる前またはその人に向けた衣服や身体についての言動、しつこく外出に誘うことなどを含み、「非言語的セクハラ」には、ジェスチャーや連続的なウインク、わいせつな資料の陳列などが含まれます。

3 課題

 労働省は、職場でのセクハラは様々な形式で起こりうるものであり、具体的な規則をもって防止していくべきだとしています。しかし、本行動規範は法令ではないため強制的に適用されるものではなく、また、例えば、具体的にどのようなジェスチャーであればセクハラに該当するのか、ウインクはどれくらい連続的であればセクハラに該当するのかなど、規定の内容が曖昧模糊としているため、今後議論の余地はまだまだありそうです。

 日本においてもセクハラの判断基準はよく議論の対象となりますが、ベトナムにおいてはセクハラに対する社会的な認識がまだまだ低いため、こういった行動規範に基づいて、社内でセミナー等を開いて定期的にセクシャルハラスメントに対する意識を啓蒙していくことが推奨されます。

 なお、職場でのセクハラに対しては、Decree No. 12/2022/ND-CP号により、1500万から3000万VNDの罰金が科される可能性があるのは前回のニュースレターでご紹介したとおりです。

 本改正草案の内容がそのまま実際に職場でのセクハラに対する行動規範として設定されるかは今後注視が必要ですが、行動規範が制定された際には、社内規定の整備などで適切に行動規範を遵守する体制を構築できるようにすることが推奨されます。

以上

2022年03月10日(木)10:29 PM

職場におけるセクハラ行為に対する罰金を規定についてニュースレターを発行いたしました。

PDF版はこちらからご確認ください。

 

 

<ベトナム:職場におけるセクハラ行為に対する罰金を規定>

 

2023年3月3日

One Asia Lawyers ベトナム事務所

1 概要

 ベトナム政府は2022年1月17日、労働、社会保険、契約に基づき外国で就労するベトナム人労働者の送り出し分野の行政違反の処罰について定めた政令Decree No. 12/2022/ND-CP号を公布しました。本政令は即日発効し、2020年4月から施行されていた従前の政令Decree No. 28/2020/ND-CPは失効しています。

 本政令において、以前までは存在していなかった職場におけるセクハラ行為に対する罰金が規定されているため、以下紹介させていただきます。

2 本政令の対象

 本政令は、就職サービスや労働派遣サービスなどの労働関連サービス業、採用から労働契約解除までの一般労務、労働安全衛生、女性の雇用、外国人の雇用、未成年者の雇用、お手伝いさんの雇用、労働紛争、労働組合、社会保険など多岐にわたる場面での違反行為の罰則を定めている政令であり、2019年労働法(Law No :45/2019/QH14)や2020年契約にもとづき外国で就労するベトナム人労働者法(Law No:69/2020/QH14)など、近年改正された法律に基づいて罰則が改められたものになります。

3 職場でのセクハラ行為に対する罰金が設定

 2021年1月1日から施行されている2019年労働法では、職場におけるセクハラ対策を就業規則に盛り込まなければならないなど、就業規則の大きな改定を求められるなど企業にとってインパクトの大きい改正がありましたが、他方で職場におけるセクハラ行為については、就業規則違反による懲戒対象となるほかは、刑法におけるわいせつ行為や性的犯罪に対する罰則以外に、特に罰則が存在していなかったところ、本政令において、職場におけるセクハラ行為に対して15,000,000VNDから30,000,000VNDまでの罰金が設けられました。

第11条 労働契約の履行に関する規定違反

3.刑事責任追及をするにいたらない職場におけるセクハラ行為に対しては15,000,000から30,000,000ドンの罰金を課す。

 就業規則の改定に絡んで社内講習等を実施する機会も多いと思われるところ、職場におけるセクハラ行為は懲戒処分の対象となるだけでなく、罰金が課される可能性もあることを従業員に認識させることで、職場でのセクハラ防止がより効果的になることが期待されます。

 

 

 

以上

2022年02月11日(金)7:32 PM

ベトナムにおけるラベル規制の一部改正:原産地の記載ルールなど変更についてニュースレターを発行いたしました。

PDF版はこちらからご確認ください。

 

 

<ラベル規制が一部改正:原産地の記載ルールなど変更>

 

2022年2月11日

One Asia Lawyers ベトナム事務所

1 はじめに

 ベトナム政府は2021年12月9日、製品ラベルに関する政令43/2017/ND-CP号を一部改正する政令(Decree No.111/2021/ND-CP、以下「新政令」といいます)を公布しました。新政令は、2022年2月15日に施行されます。

新政令には、記載が義務付けられる事項や、原産地の記載ルール等について変更がなされていますので、主な改正点を旧政令と比較しながらご紹介します。

2 適用対象の変更

 旧政令においては、政令が適用される対象は「ベトナムで流通する製品」と「輸入品」に限られていたところ、新政令においては「輸出品」「輸出者」も対象に含まれることとなりました(新政令第1条1項、第2条)。

 原則的として、「輸出品」のラベルは輸入国のラベル記載に合わせることとされていますが(第10条3項)、原産地については、新政令15条1項に従って記載しなければなりません(後述の「5原産地記載」を参照)。また、主権紛争に関連する映像や内容、ベトナムの安全保障、政治、経済、社会、外交関係、公序良俗に影響し得るその他のセンシティブな内容を表示することはできません(新政令10条3項b)、旧政令18条2項)。

3 輸入品のベトナム語ラベル

 旧政令においては、輸入品にもともと貼付されているオリジナルのラベルが政令に適合していない場合、オリジナルのラベルを保持したまま、ベトナム語の補助ラベルを付して市場流通させなければならないとされていました(旧政令第9条4項)。

新政令においては、「ベトナムに製品を輸入する組織・個人は、本政令の輸入品のラベルに記載することが義務付けられる内容に関する規定に従ってラベル記載しなければならない」という規定に変更されており、対応方法が変更されています(後述の「4」記載が義務付けられる内容を参照)。

4 記載が義務付けられる内容

 新政令では、記載が義務付けられる内容が大きく変更されました。具体的には、原産地の記載ルールとして、「原産地を確定できない場合には、製品を完成させる最終工程が実施された場所を記載すること」という規定が追加されています(新政令第10条1項ⅽ))。その他、旧政令と新政令の差異については、次ページの表をご参照ください。

 

【表1 ラベルの記載に関する新旧規定の比較】

旧政令第10条

新政令第10条

1.製品ラベルには、次の内容を表示しなければならない。

 

a) 製品名

b) 製品に責任を負う組織・個人の名・住所

c) 原産地

d)本政令附録Ⅰおよび関連法規で規定される製品の各種類の性質に基づくその他の内容

 

2. 製品に付録Ⅰで定める複数のグループに属する性質を有する、あるいは法令に規定がない場合は、製品の主な効用に基づいて、製品に責任を負う組織・個人が、製品のグループを自ら特定して、本条1項dに規定される内容を記載する。

 

3. 製品の寸法が、ラベルに表示しなければならない内容をすべて表示しきりない場合には、製品ラベル上には本条1項a,b,cで規定される内容を記載し、本条1項dで規定される内容については、製粉の付帯資料に記載し、ラベル上にはその内容を記載した場所を示すこと。

 医療機器については、本条1項dで規定する内容は、本政令附録Ⅰの規定に従って表示する。

1.ベトナムで流通する各種製品のラベルには、ベトナム語で次の内容を表示しなければならない。

a) 製品名

b) 製品に責任を負う組織・個人の名・住所

c) 原産地

原産地を確定できない場合には、製品を完成させる最終工程を実施した場所を本政令第15条3項の規定に則って記載する

d) その他の記載が強制される内容は、本政令附録Ⅰおよび関連法規で規定される製品の各種類の性質に基づいてラベル表示すること

 

 製品が付録Ⅰで定める複数のグループに属する性質を有する、あるいは法令に規定がない場合は、製品の主な効用に基づいて、製品に責任を負う組織・個人が、製品のグループを自ら特定して、本条1項dに規定される内容を記載する。

 

 製品の寸法が、ラベル表示しなければならない内容をすべて表示しきれない場合には、製品ラベル上には本条1項a,b,cで規定される内容を記載し、本条1項dで規定される内容については、製品の付帯資料に記載し、ラベル上にはその内容を記載した場所を示すこと。

 

2. ベトナムに輸入される商品のオリジナルのラベルは、通関手続き時に外国語あるいはベトナム語で次の内容が表示されていなければならない

 

a) 製品名

b) 原産地

 

 原産地を確定できない場合には、製品を完成させる最終工程を実施した場所を本政令第15条3項の規定に則って記載する

 

c) 生産組織・個人あるいは外国の製品に責任を負う組織・個人の名あるいは略称

 

c1) 商品のオリジナルラベルに、生産組織または個人、あるいは外国で商品に責任を負う組織、個人の氏名と住所が記載されていない場合、これらの内容は製品の付帯資料に十分に表示されていること。

 

c2) ベトナムへの輸入品で、本条2項a,b,cの規定に従った外国語のラベルを有するベトナムへの輸入品については、通関手続きを実施し、倉庫に移送した後、製品を輸入した組織・個人は、ベトナム市場に製品を流通させる前に本条1項の規定に従ってベトナム語で製品ラベルを補充すること。

 

3. 輸出品の製品ラベルは、輸入国の法令に則って記載すること。

 

a) 輸出品のラベル上に原産地を表示する場合は、本政令第15条1項の規定を順守すること。

b) 輸出品のラベルの内容は、本政令第18条2項の規定を順守すること。

 

4. 科学技術大臣は、電子方式による、本条1項dで規定する商品ラベル上に義務付けられる内容の一部について詳細に規定すること

 

5 原産地記載

 原産地記載の新旧政令の差異は、以下の表をご参照ください。

 

【表2 原産地記載に関する新旧規定の比較】

旧政令第15条

新政令第15条

1.生産、輸入する組織および個人は、自己の製品の原産地を自ら確定するが、真実かつ正確であり商品の原産地に関する法律またはベトナムが参加または署名する協定を順守すること。

 

2. 原産地の記載方法は次のものとする:「san xuat tai–」(–で生産)あるいは「che tao tai–」(–で製造)、「nuoc san xuat」(生産国)「xuat xu」(原産地)あるいは「san xuat boi –」(–によって生産)という文言に、その製品が生産された国・地域名を記載する。

 

製品を生産した国あるいは地域名は、省略して記載してはならない

1.生産、輸出、輸入をする組織、個人は、自己の製品の原産地を、忠実、正確、ベトナムにおける製品の輸出、輸入品の原産地、ベトナムにおいておける生産品の法規、あるいはベトナムが加盟する国際的な約束の規定を順守して、自ら特定して記載する。

 

2. 原産地を記載する際には、「san xuat tai–」(–で生産)「che tao tai–」(–で製造)「nuoc san xuat」(生産国)「xuat xu」(原産地)「san xuat boi」(–によって生産)「san pham cua–」(–の製品)という文言に、その製品が生産された国・地域名を記載するか、原産地にかかる法令の規定に則って記載する。

 

3. 規定に則った原産地記載ができない場合には、製品が完成した最終工程が実施された場所を記載する。その場合には、「lap rap tai–」(–で組み立て)「dong chai tai–」(–で充填)「phoi tron tai–」(–で混合)「hoan tat tai–」(–で完成)「dong goi tai–」(–で包装)「dan nhan tai–」(–でラベル貼付)という文言を(組み合わせて)使用して、製品の最終工程が実施された国・地域名を記載する。

 

4. 製品を生産したあるいは製品を完成させる最終工程を実施した国あるいは地域名は、省略して記載してはならない

 

6 付録

 旧政令では、共通して記載しなければならない内容に加えて、付録Ⅰにおいて、食品、飲料、酒、タバコ、食品添加物、栄養素、食品原料、医療機器、化粧品など68種類の製品について、ラベル記載を義務付ける内容を個別に規定していましたが、新政令で全体的な改正がなされていますので、自社が取り扱う製品について変更がなされているか、ご確認ください。

7 経過措置 

 旧政令に従って生産、輸入、流通していた製品のラベルについては、引き続き流通が認められ、商品ラベル上に記載された使用期限まで、使用することが可能です。旧政令上、ラベル上に使用期限の記載が義務付けられていなかったものについても、引き続きの流通が認められます。

 

以上

2022年01月13日(木)1:51 PM

ベトナム人労働者の送り出しに関する新法令についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

ベトナム人労働者の送り出しに関する新法令が成立

 

<ベトナム人労働者の送り出しに関する新法令が成立>

2021年1月13日
One Asia Lawyers ベトナム事務所

1 はじめに

 ベトナム政府は、2020年11月13日付で、契約に基づいて外国で就労するベトナム人労働者法(Law No.69/2020/QH14、以下「新海外労働者派遣法」といいます)を公布しました。新海外労働者派遣法は、ベトナム人労働者の送り出し事業に関する法規制について定めるものであり、旧法を14年ぶりに改正するものです。

 また、ベトナム政府は、2021年12月10日付で、海外労働者派遣法における事業活動ライセンス等に関する条項の細則を定める政令(Decree No.112/2021/ND-CP、以下「新政令」といいます)、及び2021年12月15日付で、海外労働者派遣法の詳細を規定する通達(Circular No.21/2021/TT-BLDTBXH、以下「新通達」といいます)を公布しました。

新海外労働者派遣法及び新法令は、2022年1月1日から施行されており、新通達は2022年2月1日から施行される予定です。

 ベトナム人労働者を受け入れることで人出不足の解消を図ろうとする日系企業は多く、そういった企業に対して新海外労働者派遣法、新政令、及び新通達の概要を理解することは重要です。

本ニュースレターでは、ベトナム人労働者を受け入れる日本企業の視点から、Q&A形式で上記概要をご紹介いたします。

Q1 ベトナム人労働者の送り出し事業を実施したいです。日本企業がベトナムに現地法人を設立して、ベトナム人労働者を日本に送り出す事業を実施することはできますか?

A: 日本企業がベトナムに現地法人を設立し、ベトナム人労働者を日本に送り出す事業を実施ことはできません。

 旧海外労働者派遣法(Law No.72/2006/QH11)では、外国で就労するベトナム人労働者の送り出しサービス活動許可(以下「送り出しライセンス」といいます)の発給対象を「ベトナムの組織・個人が資本金100%を有し、企業法に基づき設立され、活動する企業」と定義していました(旧海外労働者派遣法の細則を定める政令(Decree No.126/2007/NĐ-CP)第2条)。

 これに対して、新海外労働者派遣法では「オーナー、全ての出資者、株主が投資法で定める内国投資家である企業」という定義に変更されています。

 投資法上、「内国投資家」とは「ベトナム国籍を有する個人、外国投資家である出資者または株主がいない経済組織」(2020年投資法(Law No.61/2020/QH14)第3条20項)と定義されていますので、日本企業が設立した企業(経済組織)は内国投資家の定義に含まれません。

 よって、日本企業が設立したベトナム法人は、送り出しライセンスの発給対象外であるため、上記結論となります。

Q2: 送り出しライセンスを保有するベトナム企業から、ベトナム人労働者の紹介・派遣を受け、日本でベトナム人を雇用したいと思っています。そういった企業をベトナムでどのように探したらよいのでしょうか。

A: Q1において記載したとおり、ベトナム人を海外に送り出すためには、送り出しライセンスの取得が必要です。送り出しライセンスを取得しているベトナム企業を探すためには、当該ライセンスを所管する労働傷病兵社会省国外労働管理局のウェブサイト[1]に掲載されている、送り出しライセンス取得済み企業の一覧を参照することが有用です。

 または、新政令上、送り出しライセンスについては、次のような様式で発給されるため、取引実施の前にライセンス文書を確認し、正式なものかどうかを確認しておくという方法も考えられます。

Q3: 送り出しライセンスを取得するための条件を教えてください。

A: 新法に規定されている、送り出しライセンスを取得するための条件は以下のとおりです。なおライセンス取得条件の詳細は、新政令に規定されています。新政令に規定されているような詳細な条件をすべて満たしているか確認することは困難かもしれませんが、以下の新法上の基本的な条件を満たしているかどうかを確認することは、そこまで難易度が高いと思われません。したがって、取引先企業が送り出しライセンスを適切に取得しているかどうかを確認する際、以下の条件を満たしているかどうかを確認することは有用と考えられます。

【送り出しライセンスの取得条件(新法第10条1項)】

a) 50億ドン以上の資本金を有し、所有主、全ての社員(出資者)、株主が投資法で規定される内国投資家であること
b) 新法第24条で規定する保証金を預託していること[2]
c) 法定代表者がベトナム国民であり、大学卒業以上の学歴を有し、契約に基づき外国で就労するベトナム人労働者の送り出しあるいは就職サービス分野で5年以上の経験を有し、刑事責任追及をされておらず、犯罪歴[3]が無いこと
d) 新法第9条で規定する事業内容[4]を実施し得る従業員を十分に有していること
dd)契約に基づき外国で就労するベトナム人労働者を教育するために必要な物理的施設を有していること、あるいは安定的に賃借していること。
e) ウェブサイトを有すること。

 上記に関連して、旧法に基づく送り出しライセンスを取得した企業について、新法施行後12か月間は、旧法に定める条件を遵守したうえで活動可能という経過規程が設けられています。言い換えれば、2023年からは全ての企業が新法に基づく送り出しライセンスの条件を満たしていなければならないことになる点にご留意ください。

Q4: 日本への送り出しについて、上記の他、事業実施のために特別な条件はあるのでしょうか?

A: Q3の回答において紹介した送り出しライセンスの取得条件を満たすこととは別途、日本への送り出し事業を実施する企業については、日本語能力試験(JLPT)N2以上を取得している従業員を雇用していることといった人的要件が定められています。

【日本で就労するベトナム人労働者の送り出しサービスの活動条件(新政令第15条1項)】

人的要件:

a) JLPT N2あるいはそれ相当以上の日本語能力を有する、外国労働市場開発に従事する従業員を1名以上有すること。
b) JLPT N2あるいはそれ相当以上の日本語能力を有し、かつ日本へのベトナム人労働者の送り出しについて1年以上の経験を有する、労働者管理活動を実施する従業員を1名以上有すること。
c) 日本へのベトナム人労働者の送り出しについて1年以上の経験を有する方針教育活動に従事する従業員を1名以上有すること。

 上記に加えて、ベトナム労働傷病兵社会省と日本側当局とが合意した、日本へのベトナム人労働者の送り出しサービスを実施する企業の基準を満たしている必要があります(新政令第15条2項)。

 また、看護師・介護福祉士など個別に条件が設定されている業種があり、以下のような条件を満たしている必要があります。

【看護師・介護福祉士を送り出す企業に課される条件(新政令第17条)】

1. 日本で就労するベトナム人労働者の送り出し契約を履行中であること。
2. 次の基準を満たす、看護師・介護福祉士の技能を養成し、外国語を養成する育成施設を有すること、あるいは職業教育施設と養成について連携すること
a) 日本語を養成するための基本的な視聴覚設備を有すること、日本のプログラムに基づく看護・介護福祉業の技能を育成するための、車いす、歩行器、医療用ベッド、食事テーブル、壁に取り付けた手すり、入浴介助用いす、浴槽、自動トイレ、医療器具を収納した棚を備えた実習室を有すること。
b) 日本のプログラムに基づき労働者の看護・介護福祉技能を育成するための教員を1名以上有すること。
c) 日本のプログラムに基づいて労働者に日本語を指導するためのJLPT N2あるいはそれ相当の日本語教員を少なくとも1名以上有すること。

Q5: ベトナムから労働者を海外派遣する際に、仲介業者が徴収できる手数料に上限はありますか。

A: 仲介業者が徴収できる手数料の上限は、派遣期間12カ月につき、労働契約に定める賃金の0.5カ月分までとされています。また、派遣期間が36カ月を超える場合には、労働契約に定める賃金の1.5カ月分までが上限となります(新通達第7条1項)。

 ただし、日本の仲介業者については例外規定が設けられており、仲介手数料の上限が0VNDとされているため、仲介手数料を徴収することが認められていないと考えられます(同条2項及び別表X)。この他にも、労働派遣期間中に労働者から徴収するサービス料についても上限が設けられており、日本との関係では、「技能実習生3号」及び「特定技能」の在留資格の場合、上限が0VNDとされており、「高度専門職」及び「特定活動(建設・造船)」の場合、派遣期間12カ月ごとに賃金の0.7カ月分まで、36カ月を超える場合には、賃金の2カ月分までが上限とされています(新通達8条及び別表XI)。

 以上、ベトナムに多数存在する企業のなかから送り出しサービスの提供を受ける取引先を選定するのは容易では無いとはいえ、ベトナム側で要求される上記のような基本的な活動条件等に関する知識を有し、これらについて取引先が適切に対応を行っているか監査することで、悪質な送り出し企業と取引することを避けることができるのではないかと考えられます。また、送り出しサービスの提供者との間で締結する契約内容についても詳細が定められているため、そのようなサービスを利用する際には、現地専門家の助言を受けることが推奨されます。

 

[1]http://dolab.gov.vn/BU/Index.aspx?LIST_ID=1371&type=hdmbmtmn&MENU_ID=246&DOC_ID=1561

[2] 保証金20億ドンを銀行へ預託することが定められています(本政令第23条)。

[3] ここでの犯罪には、国家安全保障侵犯罪、人間の生命、健康、人格、名誉を侵犯する罪、詐欺罪などが限定されていますが、本ニュースレターでは割愛します。

[4] 外国での市場開発や、労働者の採用、技能・語学の育成、労働者管理など、労働者の送り出しにかかる一連の業務

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