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2021年08月24日(火)9:57 AM

タイにおけるVAT 課税に関する歳入法の改正について報告いたします。

VAT 課税に関する歳入法の改正について

 

 

 

タイにおけるVAT 課税に関する歳入法の改正について

 

2021年8月24日

One Asia Lawyersタイ事務所

 

1.はじめに

2021年2月9日、タイにおいて、海外から提供される電子サービスからの付加価値税(以下、「VAT」という)の徴収を規定した歳入法B.E.2481(1938)の改正を目的とした改正歳入法(No.53)B.E.2564(2021)(以下「法第53号」という)が成立した。2021年9月1日に施行される予定である。

以下、その改正点を詳述する。結論を先に述べると、改正によって、海外の「電子サービス」(下記の定義規定参照)をタイ国内で当該サービスを利用する個人消費者などの非VAT登録者に提供する事業者(以下「対象事業者」という)は、VAT登録の義務を負い、(仕入VAT及び売上VAT間の相殺を行わずに)VATを支払わなければならず、タックスインボイスの発行も禁止されることとなる。そして、「電子プラットフォーム」(下記の定義規定参照)運営者は、対象事業者がそのプラットフォームを通じて上記サービスの提供を行う場合、その対象事業者に代わってVAT支払い義務を負い、その義務と責任はその対象事業者と同等のものとされる。

2.納税関連文書等について

改正により、作成及び提出等の対象となる納税関連文書が明示的に拡大された。

これらの文書等については、改正前は「電子取引法で定める規則に準じて」作成及び提出することと定められていたのに対し、改正後は「省令で定める規則及び手続きに従って」(当該省令は、まだ発布されていない。)作成及び提出することと定められた。

これにより、改正後は、これらの文書等を改正前と異なる規則にしたがって、電子的方法によって作成及び提出することができるものとした。

 

第3条の16〔改正前〕

納税に関連する報告又は文書の提出、及びその他の歳入法に基づく文書の作成は歳入局長が定めた規則、手順、及び条件に従って電子的方法により行うことができる。この場合、電子取引法で定める規則に準じなければならない。

第3条の16〔改正後〕

召喚状、納税通知書、帳票、タックスインボイス、報告書、証拠書類、その他歳入法に基づいて入手、発行、使用しなければならない書簡、歳入局が納税者やその他の者と連絡を取るために使用しなければならない書類、証拠書類、書簡、又は納税者やその他の者が歳入局と連絡を取るために使用しなければならない書類、証拠書類、書簡は、省令で定める規則及び手順に従って電子的手段を用いて作成することができる。

第1項の省令は、電子取引に関する法律に準拠した文書の作成、提出、受領、保管のための関連規則及び手続きを定めるものとする。

 

3.定義

  • 「商品」について

改正により「商品」の定義から、インターネット又はその他の電子ネットワークを介して配信される無形の財産が明示的に排除された。

 

第77/1条9項〔改正前〕

「商品」とは、販売、使用、その他の目的の有無にかかわらず、価値を有し、所有することが可能な有形又は無形の財産を指し、すべての輸入品を含む。

第77/1条9項〔改正後〕

「商品」とは、販売、使用、その他の目的の有無にかかわらず、価値を有し、所有することが可能な有形又は無形の財産を指し、すべての輸入品を含む。ただし、インターネット又はその他の電子ネットワークを介して配信される無形の財産を除く。

 

  • 「電子サービス」及び「電子プラットフォーム」について

改正により、新たに「電子サービス」及び「電子プラットフォーム」が定義された。

 

〔改正前〕

規定なし

第77/1条10/1項〔改正後〕

「電子サービス」とはインターネット又はその他の電子ネットワークを介して配信される無形の財産の提供を含むサービスで、基本的に自動化され、かつ、情報技術を使用せずには提供することが不可能なサービスを指す。

第77/1条10/2項〔改正後〕

「電子プラットフォーム」とは、多くのサービス提供者がサービス受領者に電子サービスを提供するために使用するマーケット、チャンネル、その他の手続きを指す。

 

4.VAT課税について

  • 課税範囲と電子プラットフォームに課される義務について

改正により、従来の条項(以下「第1項」という)に加えて、第2項及び第3項が加えられた。

第2項によれば、対象事業者は、第1項の適用がなく、仕入VATを控除せずに売上VATを計算し、VATを支払わなければならない。そして確定申告書類を提出し、第83条にしたがって納税しなければならない。

第3項によれば、対象事業者が電子プラットフォームを通じて電子サービスを提供する場合に、電子プラットフォーム運営者はその対象事業者に代わってVATを支払う義務を負う。電子プラットフォーム運営者の義務と責任は、対象事業者と同等とされる。

 

第82/13条〔改正前〕

タイ国外の事業者が、第85/3項に基づくVAT登録を行わずに、一時的にタイ国内で物品の販売又はサービスの提供を含む事業を行っている場合、又は事業者がタイ国外からサービスを提供しそのサービスがタイ国内で使用される場合、事業者はVATを支払う義務がある。事業者は、納税義務が発生した時点で、第三部に基づく課税ベースと第80条又は第80/1条に基づく課税率から算出したVATの支払いを行わなければならない。

第82/13条〔改正後〕

第1項

タイ国外の事業者が、第85/3項に基づくVAT登録を行わずに、一時的にタイ国内で物品の販売又はサービスの提供を含む事業を行っている場合、又は事業者がタイ国外からサービスを提供しそのサービスがタイ国内で使用される場合、事業者はVATを支払う義務がある。事業者は、納税義務が発生した時点で、第三部に基づく課税ベースと第80条又は第80/1条に基づく課税率から算出したVATの支払いを行わなければならない。

第2項

第1項は、事業者が海外から電子サービスを提供しそのサービスをVAT非登録者がタイ国内で利用する場合には適用されない。この場合、当該事業者は仕入VATを控除せずに売上VATを計算することでVATを支払う必要がある。当該事業者は、確定申告書を提出し、第83条に従って納税しなければならない。

第3項

第2項の事業者が、電子プラットフォームを通じてサービスの提供、サービスの対価の受領、サービスの配信、及びその他歳入局長が定める行為からなる連続したプロセスで、電子サービスを提供する場合、当該電子プラットフォーム運営者は、各事業者のサービス提供内容を分類することなく、すべての事業者に代わってVATの支払義務を負う。また、当該電子プラットフォーム運営者は、第2項の事業者と同等の義務及び責任を負うものとする。

 

  • VAT支払い義務を有する主体について

改正により、第83/6条(2)に但書きを加え、(a)(b)同上

 

第83/6条〔改正前〕

商品やサービスの支払いが以下の事業者に対して行われた場合、支払いを行う者は事業者が支払い義務を有するVATを送金する義務がある。

(2)   海外からサービスを提供している事業者で、当該サービスがタイ国内で利用されている場合。

第83/6条〔改正後〕

商品やサービスの支払いが以下の事業者に対して行われた場合、支払いを行う者は事業者が支払い義務を有するVATを送金する義務がある。

(2)   海外からサービスを提供している事業者で、当該サービスがタイ国内で利用されている場合。ただし、以下の事業者に限る。

(a) 電子サービスをVAT登録者に提供する事業者

(b) 非電子サービスを全消費者に提供する事業者

 

  • VAT登録が不要とされる事業者について

改正により、第85/3条(2)に但書きを加え、(a)(b)の条項を加えたことによって、例外的事業者のみが、VAT登録が不要とされた。これにより、例外的事業者でない対象事業者は、VAT登録義務を負うことが確認された。

 

第85/3条〔改正前〕

以下の事業者はVAT登録を不要とする。

(2)   海外からサービスを提供している事業者で、当該サービスがタイ国内で利用されている場合。

第85/3条〔改正後〕

以下の事業者はVAT登録を不要とする。

(2)   海外からサービスを提供している事業者で、当該サービスがタイ国内で利用されている場合。ただし、以下の事業者に限る。

(a) 電子サービスをVAT登録者に提供する事業者

(b) 非電子サービスを全消費者に提供する事業者

 

5.タックスインボイス発行が禁止される事業者について

改正により、対象事業者はタックスインボイスの発行が禁止された。

 

第86/1条(1/1)〔改正前〕

規定なし

第86/1条(1/1)〔改正後〕

(1/1) 海外から電子サービスを提供している事業者で、当該サービスがタイ国内で非VAT登録者により利用されている場合。

 

6.おわりに

2021年6月10日に発行されたバンコク・ポスト紙の報道によれば、財務省財政事務局(Fiscal Policy Office)のクラヤ・タンティミット局長が、タイの法律では、タイに恒久的施設(PE)を持たない企業(以下、「オンライン企業」という)に法人税を課すことは認められていないため、現在、財政省では、タイでサービスを提供するオンライン企業に法人所得税を課す方法を検討していると発言した。その発言は、G7財務大臣協定における、各国が低税率を維持することによって多国籍企業の誘致競争を止めるべき旨の定めを受けたものである。このことから、今後、海外に拠点を有するオンライン企業に法人税を課すことに関する法改正が成立する可能性があるため、今後の動向を注視していく必要がある。

以上 

〈注記〉
本資料に関し、以下の点ご了解ください。
・ 今後の政府発表や解釈の明確化にともない、本資料は変更となる可能性がございます。
・ 本資料の使用によって生じたいかなる損害についても当社は責任を負いません。


本記事やご相談に関するご照会は以下までお願い致します。
yuto.yabumoto@oneasia.legal(藪本 雄登)

2021年08月16日(月)11:27 AM

タイにおける債権回収と倒産の対応の実務(第9回)について報告いたします。

債権回収と倒産対応の実務(第9回)について

 

タイにおける債権回収と倒産対応の実務 第9回

2021年8月16日

One Asia Lawyersタイ事務所

9回 タイの倒産手続  その1

日本では、倒産手続きとして、破産手続、民事再生手続、会社更生手続があるが、タイでは、破産手続と会社更生手続の2種類の手続がある。

今回は破産手続の概要と債権者の対応について説明する。

1 破産手続

 破産手続とは、日本の破産手続と同様、債務超過にある債務者の財産を換価し、これを適正かつ公平に債権者に配当する手続をいう。管財人が選任され、財産を換価し、届出した債権者に配当するという点では共通するが、日本の破産手続との大きな違いは、自己破産が認められていないという点である。以下、タイの破産手続の流れについて説明する。

2 破産手続の流れ

(1) 債権者による裁判所への破産申立

 日本の破産手続と異なり、破産法上、債権者申立てによる破産のみが認められており(破産法第9条)、自己破産は認められていない。法人破産の場合、単独又は複数の申立人による債務額の合計が200万バーツ以上存在することが申立ての要件となっている(破産法第9条)。裁判所は申立てを受理した場合、審理期日を定め、債務者を召喚し、破産申立原因があるかを審理する(破産法第14条)。

(2) 財産保全命令

 裁判所は破産申立原因が認められれば、債務者の財産を保全するために財産保全命令を下す(破産法第14条)。この命令により債務者の財産の管理権は裁判所が選任した管財人に移行し、債務者はその財産の管理処分権を失う。また、債務者の財産に対する差押えにかかる裁判所の命令や強制執行は執行することはできなくなる(破産法第110条)。ただし、財産保全命令がなされても、抵当権などの担保権者はその担保を実行することができる(破産法第95条)。

(3) 債権の届出

 債権者は、財産保全命令の官報公告から2ヵ月以内に管財人に対して、債権を届出なければならない。但し、外国の債権者については、管財人は2ヵ月を超えない範囲で 届出期間を延長することができる(破産法第91条)。

(4) 債権者集会

 管財人は債務者からの和議の申立て、または裁判所への破産宣告の申立て及び以後の債務者の財産の管理方法を協議するために、できるだけ速やかに債権者集会を召集する(破産法第31条)。

(5) 和議

 債務者が破産宣告を避けるためにその債務の一部を支払うことなどを求める和議の申立てについて、債権者集会の特別決議(投票をした債権者の過半数かつ全債権者の債権額の4分の3以上の賛成)で受け容れられ、裁判所がこれを承認したときは、この和議の内容は債権者を拘束する(破産法第56条)。なお、債務者が和議で合意した債務の支払いを怠った等の場合、裁判所は和議を廃止し、債務者に破産宣告を行う。なお、和議の廃止は、和議に基づきなされた債務の支払いの効力に影響しない(破産法第60条)

(6) 破産宣告

債権者集会において、債務者からの和議の申立てについて承認されなかった場合、または、債務者の破産宣告を求める決議をした場合、裁判所は債務者の破産を宣告する。破産宣告がなされた場合、管財人は債権者に配当するために破産者の財産を換価処分する(破産法第61条)。

(7) 財産の配当

管財人は債務者の財産を換価して債権者に配当する。なお、配当は、原則として、破産宣告から6ヵ月以内に実施すると規定されているが、裁判所は相当の理由があれば延期を許可することができる(破産法第124条)。

(8) 破産手続終結(破産法第133条)

管財人が債務者の財産を配当した場合、または債務者が和議における合意に基づく債務を支払った場合、もしくは債務者の配当する財産がなくなった場合、管財人は破産手続における事業報告書及び収支計算書を作成し、裁判所に提出するとともに、裁判所に破産手続の終結命令を出すよう上申する。裁判所は管財人の報告書及び収支計算書、並びに債権者もしくは利害関係者の反対を審理した後、裁判所は破産手続が終結したこと、または終結しないことを命じる。

3 債権者の対応

(1) 財産保全命令前

財産保全命令前は、債務者の財産処分権について制限がなされていないので、債権者は債務者から未払いの売掛金等の債権を回収することができる。したがって、債権者としては、債務者の信用不安情報などに接した場合は、債権の一部でもいいので早急な回収を試みるべきである。

なお、上述のとおり、債務者との裁判で判決を取得したとしても、財産保全命令が下されると債務者の財産に強制執行できなくなるので、判決を取得した場合、任意での支払いがなければ、早急に債務者の財産に強制執行を行うべきである。

(2) 財産保全命令後

財産保全命令後であっても、抵当権などの担保を有する債権者はその担保を実行することができる。

これに対し、担保を有しない債権者については、財産保全命令後は破産手続外で債務者の財産から債権を回収することはできない。したがって、担保を有しない債権者は、破産手続の配当手続か、債権者集会の特別決議で承認され裁判所が承認した和議に基づく債務者からの支払いにより債権を回収することになる。

まず、債権者は、財産保全命令の官報公告から2ヵ月以内に管財人に対して、債権を届出なければならない。但し、外国の債権者については、管財人は2ヵ月を超えない範囲で 届出期間を延長することができ(破産法第91条)、一般的にはこの2ヵ月の延長は認められている。

もっとも、日本の破産手続のように裁判所から債権者に対して個別に破産に関する通知が送付されてこず、官報で公告されるのみであるので、債権者が知らないうちに債権届出期間が経過してしまうことが生じうる。したがって、債権者としては、債務者に対する未払債権があり、債務者に請求しても返事がない、連絡がとれなくなったというような事情が生じれば、官報や関連取引先や同業者に確認するなどして債務者に財産保全命令が下されていないかについての情報を収集すべきである。

また、債権届出にあたっては、債権届出書を提出するだけでなく、この債権を疎明する資料も提出する必要がある。債権届出期間が官報公告から2ヵ月と短く、かつ、このような官報が公告されたことをすぐに知ることができない場合が少なくないため、実際には1ヵ月程度もしくはそれよりも短い期間しか債権届出までに時間がない場合もある。届出する債権が少なく、それを疎明する資料(契約書、受注書、納品書など)が少ない場合はその準備にそれほど時間を要しないのでそれほど問題はない。しかしながら、未払いの債権が多く、それを裏付ける契約書や受注書、納品書などの資料が多い場合は、債権届出までの短い期間で資料を準備する必要がある。さらに、疎明資料はすべてタイ語に翻訳する必要があり、英語で取引をしている場合この翻訳時間も考慮する必要がある。加えて、日本企業などタイ国外企業の場合、その債権届出をタイ国内の法律事務所に代理を依頼することが多いかと思われるが、債権届出の提出にあたり、委任状や会社登記簿などの公証手続きが必要となり、このために要する時間も考慮する必要がある。

なお、疎明資料については、債権届出期間後に追完が認められることが多いが、必ず認められるわけではないのでできるだけ届出期間までに提出する努力をすべきである。仮に、債権届け出期間までに疎明資料の準備が間に合わない場合は、その時点で準備できるものだけでも提出すべきである。

なお、債権届出をしたとしても、管財人や他の債権者から届出をした債権に異議が出される可能性もある。その場合は、届出債権が有効であることを更に疎明する必要がある。また、債権届出をしたとしても、債務者の財産がほとんどない場合は、配当を受けることができないか、僅かながらの配当を受けることができるに過ぎない場合もある。

したがって、債権者は、このような手間とコストと債権回収できる可能性を衡量し、債権届出をするのか、するとしてどこまでの疎明資料を提出するのかを検討し、その対応を決定すべきことになる。

 

以 上

 

〈注記〉
本資料に関し、以下の点ご了解ください。
・ 今後の政府発表や解釈の明確化にともない、本資料は変更となる可能性がございます。
・ 本資料の使用によって生じたいかなる損害についても当社は責任を負いません。


本記事やご相談に関するご照会は以下までお願い致します。

masaki.fujiwara@oneasia.legal(藤原 正樹)
yuto.yabumoto@oneasia.legal(藪本 雄登)


2021年08月05日(木)10:12 AM

タイ個人情報保護法の概要と企業のとるべき対応について報告いたします。

タイ個人情報保護法の概要について

 

 

 

タイ個人情報保護法の概要と企業のとるべき対応について


                                    2021年8月5日
                              One Asia Lawyersタイ事務所

1.タイ個人情報保護法の概要

(1) 成立の背景
 2019年2月28日、タイ王国初となる個人情報保護の基本法「2019年個人情報保護法」が国会で承認され、成立した。5月24日には国王の承認を受け、27日に官報に掲載、翌28日に施行された。事業者に課される規制の多くは、公布の日から適用開始まで1年間の猶予期間が設けられており、タイ王国にて個人データを取り扱う事業者は、2020年5月27日までに、対応を完了させる必要があった。
 しかし、新型コロナウイルス感染症の流行と政府機関及び民間企業に十分な準備期間を与えるため、2020年5月19日において、タイ政府はPDPAの延期に関する勅令を閣議決定し、施行の延長期間は2020年5月27日から2021年5月31日までとされた。本勅令によれば、施行を延期する条文は、個人情報保護に関する第2章、個人情報の使用開示に関する第3章、異議申し立てに関する第5章、民事賠償責任に関する第6章、罰則に関する第7章、法律施行以前に収集した個人情報の取り扱いに関する第95条となっており、重要な条項については大方延長となることとなった。また、本勅令において、PDPAの施行を1年間延長することを明示しており、
そして、さらに、2020年5月5日、タイ政府は同様の理由から、施行を2022年5月31日まで再度一年間延期する勅令を閣議決定した。そのため、実質的なPDPAの施行は2022年5月31日以降となった。

(2) 個人データとは
 規制の対象となる「個人データ」は、「個人に関する情報で、直接または間接を問わず、当該個人を特定することのできる情報をいい、死者の情報は含まない」と定義されている。具体的にどのような情報がこれに該当するかは、現在明確に規定されておらず、解釈によることになるが、タイ個人情報保護法のベースになっていると見られる欧州一般データ保護規則(GDPR)の定め等を考慮すると、以下のようなものが個人データに該当する可能性が高い。
・氏名
・住所
・生年月日
・国民ID番号
・位置データ
・オンライン識別子(Cookieデータ等)
・顔画像
・指紋
したがって、名刺、パスポートのコピー、タイ人のIDカードのコピー、メールのシグニチャー、求職者の履歴書等にも基本的に個人データが含まれ、タイ個人情報保護法の規制対象となる。
また、人種、民族、犯罪履歴、健康、組合加入、遺伝データ、生体データ等の特定の個人データは、いわゆる「センシティヴデータ」として、ほかの個人データに比べてより強い規制が適用される。

(3) 適用対象
同法の適用を受ける者は、個人データの収集、利用、または開示の決定権限を有する「管理者」と、管理者から委託を受けて個人データの収集等を行う「処理者」に分類され、それぞれ異なる規制が課せられるものとされている。
地理的な面では、原則としてタイ国内に所在する「管理者」または「処理者」の個人データの取扱において適用されるものとされているが、①国内に所在する者に対して、商品・役務の提供(有償または無償を問わず)を行う場合や、②タイ国内に所在する者の行動を監視する場合には、タイ国外に所在する事業者に対しても同法が域外適用されるものとされているので、タイ国内に関連会社や拠点を有さない場合でも、注意が必要である。

(4) 管理者の義務
個人データの管理者に該当する者には、個人データ取得の際の情報提供義務および同意の取得、その他適法性確保義務、取得した個人データの安全管理、記録保持義務、データ漏えい等発生時の当局への通知義務、個人データの国外移転に関する規制等多岐にわたる規制が適用される。
また、タイ国外に所在する管理者がタイ国内居住者の個人データを取り扱う場合、原則として、タイ国内に拠点を有する代理人を選任する義務を負う。
さらに、一定規模以上の個人データを取り扱うこと等の特定の条件をみたす管理者は、当局との連携や社内管理体制の監督の責任を負う、データ保護責任者(Data Protection Officer、DPO)を選任する義務を負う。

(5) 国外移転規制
同法においては、個人データをタイ国内から国外に移転することを原則として禁止する「国外移転規制」が定められている。したがって、タイ子会社が取得した個人データを日本本社のデータベースにて管理する場合等は、データ主体から同意を取得する等、法律に規定された一定の条件をみたす必要がある。

(6) 漏えい時対応
管理者が管理する個人データが漏えいする等の事故が発生した場合、当該管理者は、個人情報保護委員会事務局に対し、遅滞なく通知しなければならない。この通知は、可能であれば事故を認識してから72時間以内に行うべきものとされ、非常に厳しい時間制限が設けられている。そのため、対象事業者は、事前に十分な準備をしておき、事故発生時に迅速な対応を取ることができる体制を構築しておく必要がある。

(7) 罰則
同法に違反した事業者には、最大で500万タイバーツ以下の課徴金が課せられる。
さらに、刑事罰として、最大で1年以下の禁固もしくは100万タイバーツ以下の罰金またはその両方が科せられるものとされている。企業の違反の場合は、責任を負う取締役も処罰の対象となるため、注意が必要である。
その他、同法違反によって第三者に損害が生じた場合は、民事損害賠償の対象となるが、現実に発生した損害に加え、損害額の2倍以内の範囲で懲罰的賠償が課される可能性がある。

2. 企業のとるべき対応

(1) 要対応事項概要
同法の適用を受ける企業は、個人データの取扱にあたり、上述のような規制にしたがう必要があるが、そのために必要な対応は画一的なものではなく、事業者ごとに、事業内容、取り扱うデータの種類やリスクの大小、センシティヴデータの取扱の有無、データを取り扱う立場(管理者 or 処理者)、個人データ収集時の情報提供・同意取得状況、収集したデータの社内管理の状況、社内規程等の体制整備の状況、システムセキュリティ水準、個人データの国外移転の有無、委託先等の第三者に対する提供の有無等、諸般の事情によって異なる。
企業において同法遵守のための対応を進めるにあたっては、上述の各事情について、現在自社がどのような状況にあるのかを正確に把握した上で、必要な対応事項を洗い出し、リスクアセスメントの結果および法施行のタイムラインを考慮して優先順位をつけ、確実にタスクを完了させていくことが求められる。
これまで個人データ保護規制が存在しなかったタイにおいては、ほとんどの企業が膨大な項目の対応を求められることとなり、相当程度の時間、コストおよび人的リソースをかけて段階的に対応していく必要がある。また、法規制への対応といえば、通常総務・法務部門の管掌業務とされるが、同法対応においては、情報管理に関するシステム対応のために情報システム部門が関与したり、従業員の個人データの取扱に関して人事部門が関与したりする等、部門横断的な協力体制が求められる。したがって、一部門にとどまらず、全社的な対応プロジェクトを組成し、執行役員以上のレベルの責任者のトップダウンにより、漏れなく着実に対応を進めていくことが望ましいといえる。

(2) データマッピング
すべての対応の出発点として、現在自社において、いかなる個人データが収集され、どのように取り扱われているのか、現状を把握し、法令上要求されている事項とのギャップを確認して必要な対応項目を洗い出す(タスク化する)作業が必要になる。このような作業は一般に「データマッピング」と呼ばれている。
具体的な作業としては、社内各部署に対し、個人データの収集・管理の状況等に関する質問事項を記載したヒアリングシートを送付して回答を求め、収集したデータに基づいて法規制とのギャップ分析およびリスクアセスメントを実施する。この際注意すべき点として、各部門の従業員は必ずしも法規制の内容を把握しておらず、回答のための適切な判断を行えない場合がある。そもそも同法においては、あるデータが「個人データ」に該当するかどうかという根本的な点においても法的判断が必要になる場合があり、ヒアリングシートのやり取りにとどまらず、必要に応じて法務部員または弁護士等の外部専門家の関与の下、各部門に対して法令に関する情報提供や対面での聞き取り調査を実施する等、必要な情報を漏れなく収集できるようにすることが重要となる。

(3) タイ国内代理人・DPOの選任
上述の通り、特定の条件をみたす場合、企業においてタイ国内代理人・DPOの選任が必要になる場合がある。データマッピングの結果、これらのポジションの選任が必要と判断した場合、法の定めにしたがい、速やかに選任手続を行う必要がある。

(4) 情報提供・同意取得対応
個人データの収集に際し、管理者は、個人データの取扱に関する特定の情報をデータ主体に提供しなければならず、法の定める例外事由に該当しない限り、同意を得る必要がある。
収集に先立ちデータ主体に提供すべきとされる情報は、以下の通りである。
· 収集目的
· 法的義務の遵守のため、または契約の締結・履行のために収集提供が必要な場合、その事実
· 収集対象データ・保有期間
· 第三者開示を行う場合、開示先の第三者のカテゴリー
· 管理者に関する情報、住所、連絡先等の詳細(タイ国内代理人・DPOを選任している場合はその情報)
· データ主体の権利
法規制適用開始前段階での対応としては、データマッピングによって収集する個人データを特定の上、上述の事項を含むプライバシー通知(プライバシー・ノーティス)を作成し、通知の方法を検討・決定しておく必要がある。
また、同意の取得については、管理者からデータ主体に対する同意のリクエスト方法について、以下のような要件が定められている。
· 明瞭に範囲を認識できること
· 容易にアクセスでき、わかりやすい同意フォームを用いること
· 明快で平易な言語を用いること
· データ主体を騙したり誤解を生じさせないこと
企業は、収集するデータについて、同意取得の要否を検討の上、必要な場面で行うリクエストの内容および同意フォームを、法令にしたがって策定する必要がある。なお、同意は強制されず自由になされたものでなくてはならず、いつでも撤回可能でなければならないとされているので、注意が必要である。

(5) 処理記録体制整備
管理者は、取り扱う個人データの処理を記録しなければならない。したがって、記録のフォーマットを事前に定めておくとともに、収集・利用・開示等すべての処理が適切に記録され、かつ、当該記録が適切に保存されるよう、社内管理体制を整備しておく必要がある。

(6) 社内規程の整備
管理者が法令上の義務を十全に遵守するためには、個人データの取扱に関与するすべての役職員が法令上の義務を理解し、遵守しなければならない。このため、管理者においては、「個人データ取扱規程」等の名称で、社内における個人データの管理に関する社内規程を策定し、各部門または担当役職員の義務および責任を明確にする必要がある。また、規程を策定するのみでなく、その内容を役職員に理解、遵守させるため、社内セミナー等による周知やトレーニングについても計画的に実施すべきである。

(7) セキュリティ水準の確認・整備
管理者は、個人データを保護するための適切なセキュリティ対策を講じなければならないものとされている。したがって、場合によってはITシステムの開発・改修等の作業を含め、法令の定める水準をみたすようなセキュリティ体制を構築・整備する必要がある。なお、同法においては、「適切なセキュリティ対策」の内容は具体的に明示されておらず、詳細は今後の細則、ガイドライン等によって定められることが予定されている。

(8) 契約の見直し
個人データの処理を第三者に委託している場合、当該委託に関する契約において、個人データが適切に取り扱われるよう十分な条件が規定されているかを確認する必要がある。すでに締結された契約の条件が不十分であれば、必要に応じて条件の修正や追加を行う等の対応が求められる。

(9) 国外移転対応
個人データのタイ国外への移転は、法の定める例外事由に該当する場合を除き、原則として禁止される。例外事由は、以下の通りである。
· 移転先国が適切なデータ保護基準を有し、個人情報保護委員会が定める規則にしたがって移転する場合
· 法令遵守のため
· データ主体の同意がある場合
· データ主体が締結した契約の履行のため
· データ主体の利益のために管理者が締結した契約にしたがうため
· データ主体の生命、身体または健康への危険を防ぐため
· 公共の重大な利益のため
· 企業・事業グループ内で国外移転についての個人情報保護委員会による審査及び認証を受けた個人データ保護方針に基づき移転する場合
· 個人情報保護委員会が定めたルールおよび方法に従いデータ主体の権利行使を可能とする適切な保護措置を提供する場合
事前の対応としては、タイ国内で収集するデータを国外に移転する場合をデータマッピングで洗い出しておき、ケースごとにいずれの例外事由に該当し得るかを検討することになる。一般的にはデータ主体から同意を取得する方法を選択することが多いと思われるので、この場合、同意取得の方法を検討し、同意フォームを事前に定めておく必要がある。
なお、国外移転については、電子メールにファイルを添付して国外のサーバに直接送付するようなケースのみでなく、タイ国内のサーバに国外からアクセスできる状態に置いたことをもって国外移転と判断されるおそれがあると考えられるので、注意が必要である。

10) 開示・消去の対応体制整備
データ主体は管理者に自己に関する個人データの開示およびコピーの提供を求めることができ、管理者は、法定の拒否事由に該当しない限り、原則として30日以内にこれに対応する義務を負う。また、特定の場合、消去や別の事業者への移転を求めることができる。これらのデータ主体からの要求に対応するため、対応フローをあらかじめ整備しておく必要がある。

11) 漏洩時対応整備
個人データの漏洩があった場合、管理者は、個人データ保護委員会事務局に対し、可能であれば認識してから72時間以内に通知しなければならない。また、データ主体の権利に対する影響が大きい場合、データ主体に対し、侵害を通知しなければならない。当局への通知に関する法定の通知期限は72時間以内という非常にタイトなものであるので、漏洩が発覚してから対応方法を検討していてはとても間に合わない。事前に漏洩時の対応フローおよびチーム体制を明確に定めておき、問題発生時には速やかに必要な事実を確認して通知を行うことができるように備えて置く必要がある。

3. まとめ
同法は未だ細則等の制定がなされておらず、本稿を執筆している2021年7月時点では具体的な内容については不明確なところも多いが、規制を受ける事業者としては、期限までに必要な対応を完了させる必要がある。必要な時間は組織の規模等によっても異なるが、すべての対応を完了させるまでには、半年から1年程度の時間を要することも見込まれる。常に細則等の制定状況には目を配りつつ、データマッピング等、長期の対応時間を要するタスクのうち現時点で実施できるものについて、早期に着手し、計画的に対応を進めることが重要である。

 

以上 

〈注記〉
本資料に関し、以下の点ご了解ください。
・ 今後の政府発表や解釈の明確化にともない、本資料は変更となる可能性がございます。
・ 本資料の使用によって生じたいかなる損害についても当社は責任を負いません。


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masaki.fujiwara@oneasia.legal (藤原 正樹)
yuto.yabumoto@oneasia.legal(藪本 雄登)

2021年06月15日(火)12:10 PM

タイにおける暗号資産取引所によるNFT等の取り扱いに関する新たな規制内容について報告いたします。

暗号資産取引所によるNFT等の取り扱いに関する新たな規制内容について

 

 

タイにおける暗号資産取引所によるNFT等の取り扱いに関する新たな規制内容

2021年6月15日

One Asia Lawyers

 暗号通貨・STOプラクティスチーム/タイ事務所

2021年6月9日、タイ証券取引委員会(SEC)は、既存の「Re: 暗号資産事業を行うための規則、条件、手続き」通達を改正する新たな通達SEC No.Kor Thor.18/2564(以下「第11号通達」)を承認し、同通達は同月11日に施行されています。なお、この通達は施行日以前には遡って適用されません。

今回の改正の主な内容は、同通達で追加された第39/1条(以下「通達1項」)および第39/2条(以下「通達第2項」)です。以下、その内容を解説します。

まず、通達第1項では、以下の性質を持つユーティリティトークン(証券性を有さない暗号資産のうち暗号通貨以外の暗号資産)または暗号通貨(支払手段性を有する暗号資産)の取引については、暗号資産交換事業者はそのサービス提供が禁止されます。

(1) ミームトークン:

一定の目的や実体、裏付けを持たず、ソーシャルメディアの動向によって価格が変動する暗号資産

(2) ファントークン:

インフルエンサーやスポーツチームなどのファン向けに発行される暗号資産

(3) ノンファンジブル・トークン(NFT):

対象物または特定の権利の所有権または権利の付与を宣言するためのデジタルクリエイションとして発行されるトークンで、唯一無二なものであり、同一カテゴリー、同一タイプの暗号資産と同額で交換できないもの

(4) ブロックチェーン取引に利用される暗号資産で、暗号資産交換事業者またはその以下の関係者が発行するもの 

  1. 取締役、執行役員および支配人
  2. aの配偶者または同居人
  3. aにより支配されている法人
  4. SECの通達「グループビジネスの特性の規定」に基づく親会社、子会社、関連会社

次に、通達第2項は、暗号資産交換事業者に対して、暗号資産の発行体がホワイトペーパー等に従わない場合には、当該暗号資産交換事業者は当該暗号資産を暗号資産取引所から上場廃止にすることを規定する上場規則を定めることを要求しています。

また、暗号資産交換事業者は、第11号通達の施行日、つまり6月11日から30日以内に、通達第1項および通達第2項に対応する必要があります。

今回の改正で重要な点は、規制対象はあくまでタイ国内でライセンスを受けている暗号資産交換業者のみが規制対象ということであり、例えば、海外エンティティによるNFTプラットフォーム等は今回の規制では対象に含まれていませんし、個人間のNFT取引も規制されていません。

今回の改正の趣旨は、価格変動が大きく相対的にハイリスクとされるものや、インサイダーのリスクが相対的に高い類型の暗号資産等をタイ国内の暗号資産取引所に上場させないことによって投資家保護を図る点にあると思われますが、価値の源泉の観点から相対的に安全視されているNFTを規制対象にする点は、世界でも稀な例であり、今後の運用に注目が集まっています。

参考:

Notification of SEC No. KorThor. 18/2564 Re: Rules, Conditions and Procedures for Undertaking Digital Asset Businesses (No. 11)

http://www.ratchakitcha.soc.go.th/DATA/PDF/2564/E/126/T_0009.PDF

SEC News : https://www.sec.or.th/EN/Pages/News_Detail.aspx?SECID=8994

 

 

以上 

〈注記〉
本資料に関し、以下の点ご了解ください。
・ 今後の政府発表や解釈の明確化にともない、本資料は変更となる可能性がございます。
・ 本資料の使用によって生じたいかなる損害についても当社は責任を負いません。


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2021年05月30日(日)9:26 PM

タイにおける電子署名について報告いたします。

電子署名について

 

タイにおける電子署名について

2021年5月28日

One Asia Lawyersタイ事務所

  • 1.はじめに
  • 新型コロナウイルスの流行に伴い電子取引が進む中で、電子署名についてのお問合せを非常に多く受けています。タイにおける電子署名の要件及び留意点を以下の通り解説致します。
  • 2.タイ法上求められる要件
  • タイでは、2001年電子取引法[1]第26条1項で定める「信頼できる電子署名」の要件を満たした電子署名であれば、タイ法上有効であると解されています。
  • 同法第26条1項
  • (1) 作成された署名データが、使用される文脈の中で、署名者と紐づけられていること。

(2) 作成された署名データが、電子署名の作成時に、署名者の管理下にあったこと。

(3) 電子署名の作成後に行われた変更が検出可能であること。

(4) 情報の完全性を保証することが電子署名に求められる法的要件である場合、署名時以降にその情報に加えられた変更が検出可能であること。

上記の要件をどのように充足すれば良いのかは同法上、明文化されていませんが、電子取引開発機構(Electronic Transactions Development Agency, 以下「ETDA」)は別途ガイドライン23-2563号4.2.1条[2]において、電子署名を利用する場合の本人確認には、AAL2レベルを要するとされ、AAL2レベルについては、ガイドライン20-2561号2.2条[3]で以下の通り規定されています。

(1)Multi-factor authenticatorを利用する方法

例:銀行から配布されるOTP (ワンタイムパスワード) デバイスのようなものを利用し、適宜認証コードをデバイスから取得し、それをシステム内に入力する方法

(2)Single-factor authenticatorを利用する方法(2段階認証を要する)

例:ログイン画面でパスワードを入力し、さらに携帯電話に送信されたOTPを入力する方法

また、電子取引法では明文化されていませんが、ガイドライン23-2563号4.2.2条では「署名者が自身の署名行為について明確に意思を表示していることを認めるプロセスまたはその証拠を有していること」または「署名者自身が意思を表明した内容に対して電子署名を付すこと」と記されており、利用する電子署名がこれを満たす機能を有しているかについてご確認頂く必要があると考えます。

3.利用上の留意点

 電子署名を用いた電子契約を利用するにあたっては、以下について留意頂く必要があります。

(1)共同署名の可否

タイの会社の場合、複数の署名権限取締役の共同署名が必要であると登記されている場合には、複数の署名権限取締役による電子署名が必要となります。利用する電子署名サービスがこのような場合に対応できるかを確認頂く必要があります。

(2)会社印(カンパニーシール)の押印

タイでは、会社登記上、署名権限を有する取締役の署名だけでなく会社印も必要であると定められているケースが多く、その場合には、電子署名に加え会社印の押印も必要となります。

電子取引法上、会社印にも9条1項の規定が準用されるとの規定(9条3項)が存在するため、電子的な会社印の押印も有効となり得ると考えます。具体的には、会社印の印影データを電子文書に貼り付けることといった方法が考えられますが、利用する電子契約サービスがこのような場合に対応できるかを確認頂く必要があります。

(3)電子署名の信頼性と契約書の真正性

万が一電子契約の真正が争われた場合(例えば、売買契約の相手方企業がそのような契約をしてないと争ってきた場合)、契約が有効であると主張する者(つまり、御社)が、その契約書に付された双方当事者の電子署名が電子取引法26条に基づく「信頼できる電子署名」であることを立証できれば、 契約書に付された双方当事者の電子署名が有効であるものと推認され、その契約書が真正なものであることを強く裏付けることができます。 この場合、電子署名の真正についての立証責任が転換され、電子署名が無効であることを主張する相手方企業がその立証をすることとなります。

タイの裁判所で電子契約書の署名の真正について争いになった場合、裁判所に対し、利用した電子署名について技術的に説明を行う必要がありますが、電子署名の利用が進んでいないタイの現状に於いて、裁判所にその説明を行うことは骨が折れる作業になることが想定されます。

  • 4.電子署名を利用できないケース
  • 以下のケースにおいては、書面上に手書きの署名が求められており、電子署名の利用は認められていませんのでご留意下さい。
  • 不動産売買契約(民商法第456条)
  • 3年を超える不動産の賃貸借契約(民商法第538条)
  • 抵当権設定契約(民商法第714条)
  • 家族及び相続に関する取引(2006年電子取引法が適用されない民事および商取引の種類を定めた勅令)
  • 5.さいごに
  • 結論として、電子取引法第26条1項で定める要件を全て満たした電子署名はタイ法上真正なものと推認されますが、これらの要件のいずれかを満たせない場合でも、直ちに署名が無効と判断されるわけではありません。
  • しかしながら、タイ企業と電子署名サービスを利用して電子署名を用いた電子契約を利用するにあたっては日本国内で日本企業同士で行う場合よりもハードルが高いため、非常に重要な契約であり無効となるリスクも負いたくないと考える場合は、これまでどおり通常の書面での契約の締結を推奨致します。

[1] http://web.krisdika.go.th/data/outsitedata/outsite21/file/ELECTRONIC_TRANSACTIONS_ACT,B.E._2544.pdf

[2] ETDA Recommendation on ICT standard for Electronic Transactions:https://standard.etda.or.th/wp-content/uploads/2020/06/20200529-ER-E-Signature-Guideline-V08-36F.pdf

[3] https://standard.etda.or.th/wp-content/uploads/2019/02/20171204-ER-DigitalID-Authentication-V08-21F.pdf

 

以上 

〈注記〉
本資料に関し、以下の点ご了解ください。
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2021年05月10日(月)3:30 PM

タイ国 個人情報保護法(PDPA)の施行延期を定める勅令について報告いたします。

PDPAの施行延期を定める勅令について

 

タイ国 個人情報保護法(PDPA)の施行延期を定める勅令について

2021年5月10日

One Asia Lawyersタイ事務所

 

2021年6⽉1⽇に予定されていたタイ国個⼈情報保護法(PDPA)の施⾏を2022年5⽉ 31⽇まで再度1年間延期する旨の勅令が発⾏されました。
施⾏の再度の延⻑の理由としては、
1)PDPA が定める規則、⽅法、条件に従った運⽤が複雑で詳細であること、
2)同法が意図する通りに効果的に個⼈情報を保護するためには⾼度な技術の使⽤が求められること、
3)コロナウィルスが未だ収束せず、経済・社会に⼤きな影響を与えており、タイ全⼟、官⺠問わず、その運⽤準備が整っていないことなどがその理由として挙げられています。
この再度の延⻑期間中に、同意書のフォーマットや個⼈データの国外移転の適法化⽅法、その他の下位規則、ガイドラインが定められることが想定されます。
今後はこれらの情報を収集しつつ、これまで準備してきた PDPA 対応体制をアップデートし、来年の PDPA 施⾏に向けた準備を進めていく必要がございます。
当事務所も、PDPA に関連する情報を収集し随時発信して参ります。
なお、末尾にタイ語原⽂を添付しておりますので、ご参考までに参照下さい。。

 

以 上

 

〈注記〉
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2021年05月06日(木)9:35 PM

タイにおける債権回収と倒産の対応の実務(第8回)について報告いたします。

債権回収と倒産対応の実務(第8回)について

 

タイにおける債権回収と倒産対応の実務 第8回

2021年5月6日

One Asia Lawyersタイ事務所

第8回 タイの仲裁機構での仲裁手続について  その1

前回までは、タイにおける裁判制度や債権回収のポイント、保全手続、判決に基づく強制執行手続きについて紹介してきた。今回は裁判以外での紛争解決手続きである仲裁機構による仲裁手続について紹介する。

1 仲裁について

 仲裁とは、当事者間の紛争について、当事者により選任された第三者(仲裁人)の判断に従うことを合意する紛争解決制度をいう。仲裁には、合意した仲裁機関において行う仲裁である機関仲裁と仲裁機関を選択せず当事者で合意した仲裁規則にしたがって行うアドホック仲裁があるが、アドホック仲裁は、手続き進め方や仲裁人の選任を当事者のみで決めることになるので、仲裁人の選任や仲裁手続の管理に困難が生じることが少なくないので、一般的には機関仲裁による仲裁が選択される。

 裁判と異なる点は、裁判は裁判所が公開の法廷で審理を行い訴状の請求を認めるか否かを判断し判決は公開されるのに対し、仲裁手続は、仲裁機関が非公開の場で申立書の請求内容について判断され、その仲裁判断は原則として公開されない点である。また、裁判を行うには、当事者間の同意は不要だが、仲裁手続を利用する為には紛争当事者の同意が必要となる。さらに、裁判所での手続費用は請求額が大きくないかぎり高額となることは少ないが、仲裁手続では私人である仲裁機関が行うため仲裁人の費用が発生し、裁判所での手続費用に比べ高額になるのが一般的である。

 加えて、実務上、最も重要な相違点は、タイの裁判所で判決を取得したとしても、タイはハーグ条約を批准しておらず、かつ、外国判決の承認に関する規定もないので、タイ国外でこの判決にもとづきタイ国内にある財産に強制執行することができないのに対し、仲裁については、タイは外国仲裁判断の承認及び執行に関するニューヨーク条約を批准しているので、日本や中国、シンガポールなどのニューヨーク条約を批准している国で、その仲裁判断にもとづき強制執行することができる点である。

 なお、国外の仲裁機関において下された仲裁判断にもとづき、国内の財産に強制執行するためにはその財産がある国の裁判所において承認を受けた上で執行を申し立てる必要がある。

2 タイの仲裁機関

  タイでは、1985年国際商事仲裁に関する国連国際商取引委員会(UNCITRAL)モデル法に準拠したタイ仲裁法により規律されている。タイにおける主な仲裁機関は、Thai Arbitration Institute (TAI)、Thailand Arbitration Center (THAC)の2つの機関である。

 TAIは、1990年に設立されたタイの司法省(Office of the Judiciary)の監督下にある仲裁機関であり、仲裁手続の取扱いがもっとも多い。

 また、THACは、2007年に設立された比較的新しい仲裁機関であり、タイにおける国際仲裁の促進を目的として設立された仲裁機関であり、Singapore International Arbitration Center(SIAC)の仲裁規則をモデルとした独自の仲裁規則を持っている。

 TAI、THACともに、仲裁の対象となる係争の経済的価値に応じた仲裁人報酬が発生するが、THAIでは、経済的価値に応じた仲裁管理費用が別途必要となる。

 なお、Thai Commercial Arbitration Committee of the Board of Trade of Thailand(TCAC)は、タイ国がニューヨーク条約を批准するにあたり設置された最初の仲裁機関であるが、現在はあまり利用されていない。

TAI

THAC

司法省が監督

1990年の設⽴から30年の実績

⾮政府組織

2007年設⽴、⽐較的、新しい仲裁機関

外国⼈仲裁⼈はある程度充実

外国⼈仲裁⼈はある程度充実

仲裁人の70%以上は裁判所OBといわれている

仲裁人は弁護⼠事務所で勤務する等の実務者が⽐較的多い

裁判所での⼿続を踏襲

⽐較的に柔軟な設計(SIAC、HKIACを参考)

仲裁管理費用なし

仲裁管理費用あり

THACと⽐較すると、費⽤は低廉

TAIと⽐較すると、費⽤は⾼額

取扱件数はTHACよりも多い

取扱件数はTHACより少ない

3 仲裁手続にかかる費用

 仲裁手続費用と主要な費用である仲裁人費用の概要は以下のとおりである。実際の手続きでは、仲裁人費用以外にも申立時の費用やTHACについては仲裁管理費用などその他の費用が発生する。

(1) TAIの仲裁人費用

 TAIのWEBサイト(https://tai.coj.go.th/th/content/article/detail/id/46/iid/70)によれば、仲裁人1名の場合の大凡の仲裁人費用は、紛争額が200万バーツの場合3万バーツ、紛争額が500万バーツの場合6万バーツ、1000万バーツの場合10万バーツ、2000万バーツの場合16万バーツ、5000万バーツの場合25万バーツとされているが、事案に応じて仲裁人費用が増額される場合がある。

(2) THACの仲裁人費用

 THACの仲裁費用算定サイト(https://thac.or.th/fee-calculator/)によれば、仲裁人1名の仲裁人費用は、紛争額が200万バーツの場合15万バーツ、500万バーツの場合は28万7500バーツ、1000万バーツの場合は56万2500バーツ、2,000万バーツの場合は100万バーツとされている。なお、これらはあくまで推定額であり、実際の仲裁手続の長短などにより実際にかかる費用は異なってくることに注意されたい。

 

以 上

 

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2021年04月22日(木)9:59 AM

タイ民商法改正の勅令について-利息等について-について報告いたします。

タイ民商法改正の勅令について

 

タイ民商法改正の勅令について-利息等について-

2021年4月21日

One Asia Lawyersタイ事務所

「2564年民商法典の改正を定める勅令」が2021年4月9日に発布され、翌日10日に官報に掲載、4月11日より施行開始となっています。改正に至った背景として、新型コロナウイルスの感染拡大によって、国民の多くが困窮している状況を踏まえ、債務者が必要以上に高額の金利や利息に苦しまないよう、経済状況に応じた利率の早急な改定が必要であると判断されたためであると説明されています。

改正点は、主に以下の3点となります。

  • 1. 民商法第7条(利息)

これまで利息が発生する場合で、契約や法律により明確にその利率が定められていない場合は、年利7.5%が適用されていましたが、本勅令により、年利3%に変更となっています。改正後の利率は本勅令の施行開始日以降に支払期日が到来する場合の利息を算出する際に適用されますが、本勅令施行前の期間中の利息を算出する際には適用されません。つまり、4月10日までに支払い期日が到来した場合の利息には年利7.5%が適用され、4月11日以降に支払期日が到来する場合の利息には年利3%が適用されます。なお、今後も3年毎に財務省により見直しが行われることが明示されています。

  • 2.民商法第224条(遅延利息)

これまで遅延利息は年利7.5%と定められていましたが、本勅令により、同法第7条に基づき定められた利率+年利2%に変更となりました(ただし、契約や法律に基づきこれ以上の利息を請求できる場合は、それに従うと規定されています)。改正後の利率は本勅令の施行開始日以降に支払期日が到来する場合の遅延利息を算出する際に適用されますが、本勅令施行前の期間中の遅延利息を算出する際には適用されません。つまり、4月10日までに支払い期日が到来した場合の遅延利息には年利7.5%が適用され、4月11日以降に支払期日が到来する場合の遅延利息には同法第7条に基づき定められた利率+年利2%が適用されます。

  • 3.民商法第224/1条(遅延利息の算出方法)

同条は、今回の改正により新たに加えられ、本勅令の施行開始日以降に支払期日が到来する場合の遅延利息を算出する際に適用されます。これまで支払を遅延した際、支払いを遅延した分割支払金だけでなく、今後支払いが予定されている分割支払金の合計を元本として遅延利息を算出すると定めた契約が多く見受けられましたが、4月11日以降は支払いを遅延した分割支払金の元本に対してのみ遅延利息の請求が認められるため注意が必要です。

<民商法第224/1条 参考日本語訳>

分割払いで債務返済を行う債務者が、ある分割支払金の支払を遅延した場合、債権者は、当該分割支払金の元本に対してのみ、支払遅延期間の利息を請求することができる。前項と矛盾する合意は、無効とする。

 

以 上

〈注記〉
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・ 本資料の使用によって生じたいかなる損害についても当社は責任を負いません。

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